魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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バトル2

 

──闇の欠片同士は、互いに強く惹かれあう。

 

それは砕けた闇の書の闇の持つ再生プログラムが元の形に戻ろうとするためであり、たとえ記憶を再生されて意識を持っていたとしても、その根本に変わりは無い。

出会った欠片は、その変わらぬ根本を成すために互いに統合されて行く。

彼女の場合はそんな本能染みたモノに因るのではなく、自分自身の明確な意志の下に欠片を回収していっているのだが、彼女の下に欠片が集まるのはそういった事情だ。

 

そして、闇の欠片は何もない所から勝手に湧き上がってくる存在では無い。欠片達は防衛プログラムの構成体(マテリアル)によって生み出されている。

マテリアルとは砕けた防衛プログラムの中でも大きな断片であり、闇の欠片と比べて持つ力の量と質はまるで違う。

そのために多くの記憶と意識を内包しているが故に、独自の自我を芽生えさせていた存在だ。

 

だが、逆を言えばマテリアルと闇の欠片との間にある差は保有する力の量と質の差だけであり、どちらも砕かれた防衛プログラムの一部という意味では全くの同じ存在。

闇の欠片が惹かれあうという事は、その欠片の発生する原因であるマテリアル同士もまた、互いに惹かれあうという事。

 

故に、彼女達が出逢ったのもまた当然のなりゆきだった。

 

 

 

 

「……不思議なものですね。元は同じ存在であるというのに、こうして全く違う自我を持って顔を合わせるというのも」

 

最初に口火を切ったのは、黒いバリアジャケットに身を包んだ、栗色の髪をショートカットにしている少女。

高町なのはという少女のデータを基に構築された少女はあまり感情の感じられない声色で淡々と、だが何処か感慨深そうに言葉を紡ぐ。

マテリアルの中で『理』を司る存在である少女は、その自身の在り方に則って冷静に筋道を立てて現状を捉え、思うところがあったのだろう。

 

「ふんっ、それがどうした。僕は君の話に長々と付き合う気は無い!」

 

次に口を開いたのは、フェイト・テスタロッサという少女の姿と魔法をコピーした『力』を司る少女。

大人しい性格のオリジナルとは違い、自身の感情を飾らずに表に出すタイプらしく、その言葉には少女の苛立ちが容易に見て取れる。

この青髪の少女が望むのはかつて自分が居た闇へ帰る事であり、それ故に帰る場所である闇を打ち砕いた者達に憎しみを抱いている。

その憎しみが怒りと苛立ちとなって、いかにも不機嫌という様相でそこに立っていた。

 

「王である我を前にして些か礼に欠けた態度ではあるが、今の我は機嫌が良い。今回に限り、特に許そうではないか」

 

そして最後に、マテリアルの中でもその中枢を担う存在である『王』である彼女が尊大な態度を形にしたような笑みを浮かべていた。

闇の書の主であった八神はやてと姿を同じくし、だが、禍々しい魔力を溢れ出させ、他者を見下すような嗤いを浮かべる姿は八神はやてとはまるで違う。

目の前にいるふたりによってより自身が完全な状態に近づけると悦ぶその姿は、闇を統べる者である自負を持つが故に自信に溢れていた。

 

彼女達はそれぞれが闇の書が得た蒐集データを素に姿形と魔導をコピーし、だが、オリジナルとなった少女達とは全く違う自我に目覚めていた。

多少の差異はあるが、三者が求めるのは闇の書の復活。その過程で誰かが意図したなどは無く、極自然に彼女たちは出逢っていた。

だが、目的は同じであっても相容れる事はないとでもいうように、互いを監視し合えるかのような距離感が三人の間にはあった。

 

「我が断片であるうぬらならば、己の成すべき事は分かっているだろう?」

 

この場に不穏な空気が流れている事は彼女とて気付いている。だが、『王』である自分が他者の顔色を窺う必要など無いし、君臨するからこその『王』である。

故に彼女は、ピリピリとした空気など気にも留めない。むしろ心地良いといわんばかりにふたりを見下すように尊大な態度で笑みを浮かべる。

 

「さあ、その力を我へと献上し、闇の書の新たなる飛躍のための礎となるが良い!」

 

この世は、全てが『王』のために動いている。

中枢である自身が『王』としての自覚を持つのも、ここに至る経緯と事柄も、全ては闇に君臨し、全てを統べるべき存在である自分を生み出すため。

 

そして彼女の前に居るふたりの少女は、中枢である自分から分離した断片が独自の自我に目覚めたものであり、その役割は王に仕える事。

故に『王』である自分が完全な存在になる事を望むのであれば、その力を在るべき場所に還す事は当然の義務であると、彼女はふたりへと告げる。

 

「ふざけるなッ。王になるのはこの僕だッ!」

 

だが、それは彼女の中の事実でしかない。

そのあまりに高慢に過ぎる彼女の言葉を、青髪の少女は即座に拒絶する。

『力』を司る少女には闇に帰るという目的がある。そして『力』を司る者として強くなって頂点を目指したい、王になりたいという想いがある。

深く考えるまでも無く、少女は『王』である彼女の言葉を受け入れるなど到底出来るはずも無いと、想いのままに力強く睨みつける。

 

「……そうですね。『力』の雷剣士が王になれるかは疑問ですが、私にも私なりの考えというものがあります。

私の持つ力を貴女へと捧げるつもりは、毛頭ありません」

 

そして『力』を司る少女に続くように、『理』を司る少女のほうもまた、『王』である彼女の言葉を拒絶してみせた。

隣から「僕が王になれないとでも言うつもりかーッ」などと憤慨する声が上がるも、その辺りはさらりと聞き流しながら、『王』である彼女と真正面から向かい合う。

 

「私達が目指すのは闇の書の復活と更なる飛躍。それを達成するには、私達の持つ力を中枢である貴女へと還元する事が一番の近道である事は明白です。

ですが、私の心が叫ぶのです。もっと魔導の力を揮いたい、自身の手で闇と破壊の混沌を呼び覚ませと。

故に、貴女には従いません。もし私を従えたいというのであれば、それこそ力ずくでどうぞ」

 

『理』を司るモノとして、自分達にとって何が最善かと言う事は理解出来る。

だが、自分の中の何かがその最善を認める事が出来ないと訴えているとこの少女は感じていた。

その「何か」がどういうものなのかは分からない。だが、分からないからこそその答えを知りたい、追い求めたいという想いが湧き上がってくる。

もしこの気持ちの正体を知る事が出来たなら、自分はもっと高く飛べるような気がする。

故に、たとえ自分達の中枢である『王』と敵対する事になっても構わないと、冷淡な態度の奥に情念を燃やす瞳で真っ直ぐに前を見据える。

 

「ほほう、我より零れ落ちた断片に過ぎぬうぬらが揃いも揃って我に刃向かう、とな?」

 

そんな『王』である自身と決別を選ぶというふたりの強い意志の篭る視線を一身に受けて、彼女は浮かべる笑みをいっそう深くする。

だが、それと同時に彼女の身体から溢れ出させる魔力の気配が密度を上げる。

濃密な魔力のそれは闇の欠片を構成する負の感情も相まって、もはや怨念の類と呼べるほどの禍々しさとなって彼女の周囲を取り巻く。

浮かべる表情は確かに笑っている。だが、その姿は見る者に畏怖の念を覚えさせるほどの深い闇を纏う。

明らかに彼女は反旗の意志をみせたふたりに深い憤りを覚えていた。

 

「いうならば私達は蠱毒の壷。互いにその存在を喰らい合い、侵し合う事で抱く闇をより濃く強いものと成す。

そして最後まで生き残った者こそが、決して“砕けぬ闇”になりえるというものです」

 

そんな彼女の物理的な圧迫感もあるのではと感じさせる魔力に晒されてなお、『理』のマテリアルである少女は静かに、

 

「小難しい事は良く分からないけど、要は君達を倒せば僕が王になれるって事だろ!」

 

そして『力』のマテリアルである少女は揚々と、それぞれのデバイスを構える。

この場に居る少女達の想いは交わらない。決着は闘争にのみ委ねられる。

自らの想いを突き通すべくお互いを否定しあう事を態度で示す。

 

「……くっくっくっ。いいだろう。あくまで従わぬというのであれば──」

 

そんなふたりの姿に、『王』のマテリアルである彼女は心底愉快であるかというように莞爾と笑う。

だが、笑みは不意にその顔から表情が抜け落ちるかのように消え、そして、

 

「──無知な貴様らに見せてやろうっ、闇の、その真髄をッ!!」

 

その魔力を解き放った。

 

「ッ!?」

 

負の感情と記憶を糧として膨れ上がったそれは、荒れ狂う奔流となって世界を侵し、塗り替えてゆく。

空に輝く星々は翳り、風という名の大気の流動を押し止められる。

目に映る光景は異質な物へと姿を変え、全ては闇へと染まりゆく。

 

激しくも何処か懐かしい想いを抱かせる世界の流転の様。

その情景を前にして、対峙していたふたりの少女はそれぞれが驚きに目を見開く。

 

「我が領域へようこそ。歓迎しようではないか」

 

そして現れるのは、彼女が創り出した精神世界。

 

それは『理』の少女が呼び覚まそうと心を滾らせる闇と破壊の混沌であり、『力』の少女が帰る事を願う血と怨嗟に彩られた闇。

もし深遠の淵に落ちたなら、二度と這い上がる事はかなわないであろうと根拠もなく確信させるような、そんな場所。

結界によって括られた範囲ではあるが、彼女は此処に闇の書の闇が抱く、「闇」そのモノを具現化して見せていたのだ。

 

捕らえた相手を逃さないように強固な境界線を張り巡らせた封鎖結界や、周辺の空域を付近の空間から切り抜き、相互干渉を出来ないようにする広域結界とも違う。

闇の書の闇の心象風景の具現化という、ひとつの新たな世界の創造に近いそれはまさに規格外の魔法。

そんな代物を発動させてなお、彼女はなんら揺らぐ事なく余裕を浮かべながら泰然と嗤う。

 

「さあ、うぬらのその愚かさ、身を以って存分に知るが良い!」

 

戦いの幕は上がった。遠慮は要らない、存分に戦おうではないかと彼女は告げる。

その自身に漲る姿は、間違いなくこの世界の中心に君臨する『王』のそれであった。

 

「……」

 

それを目の当たりにして、『理』の少女は動かない。

別に彼女の姿に気圧されたわけではない。確かに驚きはしたが、『王』である彼女の持つ力が強大だという事は最初からわかっていた。わざわざ怯む必要も無い。

ただ勝利を掴むそのために、自身の司る在り方の通り、冷静に、筋道をたてて思考を巡らせる。

 

確かに中枢である『王』の持つ力は自分の力を大きく上回っているだろう事は実感した。一対一であったならば勝率はかなり低い物だろう。

だが、この戦いは自分と彼女だけの戦いではない。『理』の自分と『力』の雷剣士、そして中枢たる『王』の三基によるバトルロワイヤル。

この場にいる者は全て敵であり、味方は存在しない。あって利用するかされるかの間柄。上手く立ち回れれば、個人の力の差を覆す事は十分に可能。

 

ただ、バトルロワイヤルとはいっても、この場に居るのは僅か三名。

下手に動いたなら、自分が攻撃されると思った他のふたりから同時に敵と認識される恐れがある。そうなってしまえば一気に不利になってしまう。

今はお互いに牽制し合うために一種の膠着状態である三すくみの関係になっている。そしてこのにらみ合いに痺れを切らして誰かが動いた時が本当の勝負。

故に動かない、動けない。お互いにそれが分かっているから誰も最初の一歩が踏み出せない。そう現状を分析する。

 

──この戦いは、最初の一手が戦況の流れを大きく左右する。

 

そう考えたからこそ、『理』の少女は冷静に、その瞬間を逃さないように心を研ぎ澄ます……。

 

「よーし行くぞッ。君を斃して、僕が真の『王』になるんだッ!!」

「はっ、ほざけ塵芥ァ!!」

 

まあ、他のふたりはそんな少女の考えなどお構いなしに戦いを始めていたのだが。

 

『力』の少女は戦いを前にして名乗りを上げるように宣告すると、自身の持ち味である速度を以って、闇に彩られた世界を飛翔する。

迎え撃つ側である『王』は、自身が王となると嘯く少女の言を鼻で笑い、真っ向から否定するかのように保有する魔力量にものを言わせた弾幕を張ってみせる。

 

「くっ、こなくそーッ!」

「はっはっはーっ、踊れ踊れぇ!!」

 

突然現れた行く手を阻む弾幕を前にして、一気に潜り抜けるには割が合わないと判断したらしい少女は即座に反転、回避行動に移る。

その様子を見て、『王』である彼女は愉悦に口の端を持ち上げるように嗤いながら、更に少女を追い立てるべく次々と魔力弾を放っていく。

 

その戦いは完全に王の優勢で事は進んでいる。だが、少女のほうもまた諦める事無く、必勝の機会を窺いながら空を翔る。

戦いはまだ始まったばかり。ふたりはそれぞれ自身の勝利をその心に思い描いて、この場に臨む。

 

「……」

 

そしてそんなふたりの姿を見て、なんとなく戦いに乗り遅れた気がしてちょっと寂しい気持ちになった『理』の少女がそこに居たのだった。

 

とはいえ、しょんぼりもしていられない。

もとよりふたりが戦い、自身はそこから一歩引いた立ち位置にいるというこの状況は、『理』の少女にしても望んでいた物。

ならばこの後はどう立ち回るべきかについて考えるべきだと思考を巡らせる。

 

『理』の少女にとってベストなのは、ふたりが勝手に潰し合った結果に相打ちになる事だが、これはふたりの地力の差を考慮すれば、あまり期待は持てない。

 

やはり両者がある程度弱ったところで一方を潰し、残った方を一騎打ちで打倒するのがベターな展開だろう。

そして一対一で戦う場合はどちらの方が御しやすいだろうかと考えれば、やはり先に『王』を倒し、『力』の雷剣士を残したいところ。

基本的に考えなしである少女と連携を組む事は些か難しい部分もあるが、最終的に『王』である彼女を倒せるのなら『力』の雷剣士が幾らダメージを負っても問題は無い。

むしろ、後の事を考えれば『王』を倒した時点で『力』の雷剣士もまたある程度ダメージがあった方が都合は良いのだから、あまり連携に拘る必要もない。

 

形としては、まずは『力』の雷剣士が戦っているところへ自分が援護して『王』を打倒し、そしてその後で『力』の雷剣士を倒す。

出来るのならふたり纏めて砲撃魔法で吹き飛ばすというのが理想。

 

作戦は決まった。ならば後は自身の手で勝利を引き寄せるために全力を尽くすのみ。

『理』の少女は自身の持つ紫の宝珠を先端に頂く魔導師の杖を振るい、『王』である彼女へと立ち向かう。

 

……と、そんな考えを想い描いていた時期も、『理』の少女にもあった。

 

「どうしたっ、ふたりがかりでその様か!?

仮にも我が隷属を名乗るのであるならば、もっと持ちこたえてみせよ!」

「くぅ……っ」

 

自身の成すべき事を見定めた『理』の少女は、その作戦を実行するべく行動を開始した。

『力』の雷剣士は接近戦が得意、というより大好きでとにかく突っ込んでいく。それを援護するように、砲撃魔法を打ち込んでいく。そのはずであった。

 

だがその作戦は、『王』である彼女を前にしてまるで無意味だった。

 

まず、彼女は広域型という魔力資質を持つため、その攻撃可能範囲は圧倒的なまでに広い上、魔力チャージの短くて済む魔力弾を保有魔力量にあかせて際限なく撃ってくる。

それは前衛の接近を拒むだけに飽き足らず、後衛の魔力チャージまでも妨害するほどの範囲で行なわれていたのだ。

その空間飽和攻撃とでもいうような魔力弾の嵐の前に、前衛である『力』の少女は自分の得意な間合いに踏み込むことが出来ず。

そして『理』の少女もまた魔力弾に晒されては碌に魔力チャージも出来ずにいたのだった。

 

『王』である彼女の攻撃は無軌道であり、見当違いの方向へ飛んでいく魔力弾の数も非常に多く、それはそのまま魔力の無駄遣いになっている。

普通ならそこに目をつけて相手の魔力切れを狙っての持久戦を望むところだ。

だが、彼女は保有する魔力総量と消費した魔力の回復力がずば抜けている。息つく暇も無く手当たり次第に弾幕を繰り出しておきながら、魔力切れを起こす様子は一切ない。

むしろ、ギアをあげてゆくかのように時間が過ぎるにつれて魔力弾の数を際限なく増やしていくかのよう。

 

結果、ふたりの少女は防御と回避ばかりで攻め込む事が出来ないでいる。

今はまだ戦えているが、守っているだけでは勝つ事は叶わない。いずれ自分達の敗北という形でこの戦いが終結するのが目に見えていた。

 

『理』の少女の考えた作戦は決して悪いモノではなかった。だが、『王』である彼女はそれを真正面から圧倒してみせる。

ふたりの少女の持つ力も、個人として見れば十分以上に一般レベルを凌駕している。

だが、所詮は個の力がいかに優れていようとも軍という数の暴力の前にはいずれ屈してしまう。

単独でさながら戦争染みた物量と火力を繰り出す彼女と比べたなら、ふたりだけでは圧倒的に手数が足りていなかった。

 

このままでは不味いと、『理』の少女は弾幕の中で耐えながらどうすればこの局面を切り抜けられるかを必死に考える。

そこには普段の冷淡な表情は無い。焦燥に駆られるように冷や汗を流しながら自分に出来る事を模索する。

 

「……このままでは敗北は必須です。些か不本意ですが、ここは協力をしましょう」

 

そして浮かんだのは単純な物。個人では太刀打ちできない。ならば個人では無い力で対抗すればいい。

その考えを、もうひとりの少女へと提案する。

 

「……今回だけだからな!」

 

そして『力』の少女も、かなり不本意そうではあるが了承した。

お互いに敵同士という事は変わらない。それでも今だけは、その垣根を越えて力を合わせる以外に道は無い。むしろ、やり遂げなければ自分達が負けるだけ。

 

『理』の少女は一度決めた事に筋を通す。約束を違えるなどという無粋な真似はしない。

『力』の少女はもっと単純。もっと速く、もっと高く飛ぶ以外に面倒な事はそもそも考えにすら上らない。

 

「さあ、僕のスピードについて来れるかい?」

「愚問ですね。むしろ貴女が私に付いて来れるかの方が気掛かりです」

 

ふたりは一瞬だけ目を合わせると互いに不敵な笑みを浮かべ、すぐさま再び斃すべき共通の敵である彼女を視界に捕らえる。

そこには今まで以上の自信に溢れる姿があった。

 

やるべき事は変わらない。違うのは、自分の背中を預ける誰かがそこに居るだけ。

そんなちょっとした意識の変化だけだというのに、何故か負ける気がしないのは何故だろうという疑問が浮かんでくる。

だが、今はそんな事を悠長に考えている時ではない。

 

「いくぞッ!!」

 

最初に動いたのは『力』の少女。今までは『王』の繰り出す弾幕の前に回避で手いっぱいだった。

だというのに回り道などせず、彼女へ向けて最速で最短距離を詰めるべくただ真っ直ぐに飛翔する。

弾幕に真正面から飛びこむのだ。当然の事として目の前には数多の魔力弾が迫ってくる。

 

だが、『力』の少女は怯まない。

 

「パイロシューター!」

 

真っ直ぐに飛翔する『力』の少女の事を、桜色の魔力光の誘導操作弾が追い抜いていき、少女への直撃コースを辿っていた王の魔力弾と相殺する。

その魔力弾同士がぶつかり合って発生する魔力の残滓による煙と共に、王の弾幕の中に隙間が出来る。

その中で『力』の少女は急停止。その反動をも利用するかのように身体を大きく捻るようにしながらデバイスを振りかぶる。

同時にそのデバイスは通常の斧形態から鎌形態へと移行、金色の魔力光によって編まれる圧縮魔力刃が展開される。

 

「光翼斬ッ!!」

 

そして身体の捻りと共に蓄えられた力を解放するように、デバイスを全力で振り抜く。解き放たれる圧縮魔力刃がブーメランのように回転しながら飛翔する。

それを盾とするように、少女は再び前進を図る。

 

圧縮魔力刃はその名の通り、多くの魔力を押し固める事によって形成されており、込められた魔力の密度は非常に高い。

『王』の魔力弾の一つひとつなど問題ではないと、張られた弾幕を切り裂きながら突き進んでいく。

だが、それでもまだ『王』の弾幕の方が厚い。切り裂き進む圧縮魔力刃の進行速度が数に押されて徐々に鈍っていく。

『力』の少女だけでは『王』へと届かない。その事実がそこにはあった。

 

そんな中、それまで『王』へ向かって真っ直ぐ飛んでいた少女は不意に垂直方向へと方向転換をして見せる。

そしてそれまで突き進んで来た道のその奥に、『力』の少女が切り裂いて作った隙をついて魔力チャージを完了させたもうひとりの少女の姿があった。

それは今まで碌に砲撃魔法を使う事が出来なかった鬱憤の全てを込められているかのように、魔力が今にも暴発しそうな程に溜めこまれていた。

 

「ブラスト……──」

 

足元に広がる桜色の魔法陣の放つ光に照らされながら、その静かながらも苛烈な意志の籠る瞳は、弾幕の向こうにある『王』である彼女の姿を確かに捉える。

既に『力』の少女は退避した。ならば躊躇う事は無いと、砲撃形態となったデバイスを取り巻く円環状の魔法陣の輝きが一層強くなる。

 

「──ファイアーッッ!!」

 

そして一気に膨れ上がった魔力が解き放たれる。

十分に魔力を溜めこまれた桜色の魔力の奔流は、『力』の少女が切り裂いた分薄くなっていた弾幕を逆に呑みこんで、一直線に突き抜ける!

 

「ちぃ……ッ」

 

さすがにこれを受けるわけにはいかないと、舌打ちをひとつ残しながらも回避行動を取っていたため、その砲撃魔法は『王』である彼女を捉える事は無かった。

だが、今はそれで十分。何故なら、桜色の奔流が突き抜けた跡には確かに王へと至る道が切り開かれていたのだから。

 

「はぁぁぁッ!!」

 

行く手を阻む物は、もう何もない。ならば最速を誇る『力』の少女にとってはこの程度の距離など無きに等しい。

『王』が気付いた時には既に、圧縮魔力刃を展開した鎌形態のデバイスを振りかぶる『力』の少女が、今まさにその刃を振りおろそうとしている所。

元々苦手な回避行動を取った直後に、この攻撃を避ける事など出来ないしない。彼女は咄嗟に防御の魔法を眼前に展開する。

 

「砕け散れぇッ!!」

 

直後、ぶつかり合う刃と盾が甲高い音を響かせる。鬩ぎ合う攻めと守りは火花のような魔力を散らしながら、互いを削り合う。

一進一退の攻防はしかし、渾身の力を乗せて放った少女と咄嗟の反応から身を守った彼女とでは互角にはならなかった。

力比べの天秤はあっさり『力』の少女へと傾く。金色の刃は『王』の防御を切り裂き、彼女のその身を大きく吹き飛ばす。

 

「くのぉ……。おのれ塵芥ァ!」

 

吹き飛ばされ、彼女はそれを成した少女へと鋭く睨みつける。王である自分にこのような無様を良くも晒させたなと怒りをあらわにする。

それと同時に、吹き飛ばされる中でも自身の前に短剣の形状をした魔力弾が設置されて行く。その数は5つ。

 

確かに少女の成した事は業腹モノではあるが、その怒りにかまけて行動を遅らせれば即座に追撃にさらに踏み込んで切る事は容易に察する事が出来る。

故に、これ以上の接近はさせまいと、牽制の意味も込めてドゥームブリンガーという魔法を放つ。

それは放射状に放たれて彼我の間を埋めて見せる。そして更に、彼女は同じ手順を繰り返すように再び短剣の形状の魔力弾を設置、発射していく。

それは功を奏したらしく、『力』の少女は踏み込む事が叶わず、魔力弾へと対処へと回らせていた。

 

「私の事も忘れないで下さい」

 

だが、今の戦いは二対一だ。

彼女が吹き飛ばされる先では既に、待ちうけるかのように高機動魔法によって先回りをしていた『理』の少女の姿があった。

中距離戦闘のエキスパートである砲撃魔導師というスタイルを持つ少女は、それほど接近戦を得意としているわけではない。

だが、ここはあえてその苦手分野で勝負をするべきと、加速をした勢いのままにデバイスを振りかぶっていた!

 

「ちぃッ!」

 

ここまで来て、『王』である彼女には最初の頃にあった余裕など無かった。

ただ必死の形相を浮かべながら、次から次へと繰り出されるふたりの少女の攻撃の対応に追われるばかりだった。

 

二人の少女は、元は同じ存在から別れたのだが、実際に今の『自分』として顔を合わせたのはこれが初めて。

お互いは敵同士だと言う事は変わらない。戦い方にしても、相手に対して自分の行動を指し示す事も無く、いうなれば自分勝手な戦いを繰り広げていた。

コンビとしても即席。だというのに、不思議と息が合っていた。

 

相手は強敵であり、元々取れる選択肢は少ない。その中で何を選ぶかがは必然的に決まってくる。

それを『力』の少女は勘任せに、『理』の少女は理論を重ねて導き出す。

ふたりを結ぶのは、共通の敵を倒すという一点のみ。ただそれだけで『王』に迫っていく。

 

桜色の魔力弾が、金色の魔力刃が『王』の弾幕を打ち抜き、切り裂いていく。

そして開けるのは『王』へと至る道。絶好の機会を前にして、ふたりの少女は肩を並べる。

 

「ブラスト──」

「電刃──」

 

ふたりは極自然に同種の魔法を選ぶ。

それはまるで共鳴するかのように魔力が高まり、それぞれの魔力光を煌々と輝かせる。

 

「──ファイアーッ!!」

「──爆光破ッ!!」

 

そして放たれたのは、桜色と金色という二条の砲撃魔法。

それが阻む物に意味は無いと、一直線に彼女へ向けて突き進む!

 

「くぬぅ……!?」

 

そして、彼女が展開したベルカ式の三角形を基調とした魔法陣の盾に遮られる。

彼女の防御の出力はそこまで高くは無いのだが、そこは随時盾に魔力供給をするという力技でふたりの砲を耐えてみせる。

 

「「せーのっ!!」」

 

ふたりのオリジナルとなった少女達は、お互いを信じあう事で絶妙なコンビネーションを発揮する。

だが、この場に居るふたりの少女は全く別の存在。同じ事が出来るはずもない。自分のベストを尽くし合う事、それ自体の結果としてコンビネーションを発揮する。

ふたりの声が重なる。それと同時に砲撃魔法の光が膨れ上がる。『王』の盾に遮られたそれは、威力となって彼女を圧倒せんと襲い掛かる。

 

そしてそれは、完全に彼女の盾の防御を上回った。

それまで遮っていた盾は砕かれ、その砲撃魔法か彼女のその身体を捕らえ、その威力のままに爆音が轟き、全ては爆煙に包まれる。

 

この上無い形での直撃。だがこれが決着だとはふたりとも思っていない。

油断する事無く、徐々に晴れ行く爆煙を見やる。

 

「――まさかこれほどとはな。正直驚いた、褒めてつかわそう」

 

そしてその向うから、彼女の姿が顕わとなる。

やはり命中していたらしく、そのバリアジャケットは大きく損傷しており、見るも痛々しい程だ。

だが、不敵に嗤うその表情からはダメージを負っているようには見えない。むしろ自分を傷つけて見せたふたりに対する称賛の言葉に、逆に嫌な予感を覚えさせる。

 

そして、その予感は外れでは無かった。

彼女の足元に白い光によって描かれる魔法陣が展開される。それと共に纏うバリアジャケットが、まるでビデオの逆回しのように、損傷が塞がれて行く。

それは回復魔法と、膨大な魔力の力技によるリカバリー。ふたりの見ている前で、今まで積み重ねて来たものが覆されて行く。

 

そして光が弾けた時には既に傷はひとつもない、万全の状態まで戻っていた。

 

彼女はここまで自分を追い詰めたふたりに対して、自分に仕えるのならばこれぐらいは出来なければという思いもある。

だが、それ以上に刃向った事が許せるものではない。王に逆らうという罪を犯したのならば、それ相応の罰を与えねばならない。

ならば罰とはどのような形で下されるべきか?

 

「な……!?」

 

最初に『理』の少女も言っていた事。従えたければ力づくでと。

それを体現するかのように、彼女の周囲には魔力弾の発射体が幾つも設置されて行く。だが、数が違う。

今までも十分過ぎる程だったが、視界全てを覆い尽くす程の量がそこにはあった。

それを目の当たりにして驚きの言葉を漏らしたのは、果たして誰だったのか。

 

「さあ、仮にであっても王である我に傷を負わせたのだ。その責と報い、存分に味わえ」

 

そして改めて戦いが再開される。

 

 

 

 

 

 

あれから、しばらくの時間が経過した。

あらゆる物が無く、ただ闇の陰影にのみ空間の存在が認知出来るこの場所では、その間にどれほどの戦いが繰り広げられたのかという痕跡は一切残っていない。

あるのはひとつ。結果のみだ。

 

「さて、余興もここまでよ。

……闇の欠片よ、我が下に集うが良い!!」

 

この世界にただひとり残った『王』である彼女は、ほんの気まぐれにより、自らの手で闇の欠片を集めていた。

だが、砕けた断片の多くとさらに二基のマテリアルをも取り込んだ今となっては、もはや戯れに興じている理由もない。

その足元に魔法陣が展開されると共に、次々とこれまで以上の早さで闇の欠片が彼女の下へ集ってゆく。それらの全てを彼女は取り込み自らの糧としてゆく。

かつての力が戻ってくる事を実感して、禍々しいまでの魔力を纏う彼女の表情は愉悦に染まる。

 

「くくく、力が漲る。魔導が滾る……!

我こそが闇を、全てを統べる王となるのだ。ふはははは、はーっはっはっは!!」

 

その哄笑は、闇の深淵の何処までも響いてゆく……。

 

 

 

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