魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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ステージ3

 

対峙するふたりの魔導師は、空中で幾度となく交錯を繰り返す。

 

一方は鮮烈な金色の魔力の光を軌跡として残し、戦場を翔け抜ける。

 

もう一方の魔導師もまた、その動きと対立するように戦場を翔ける。

そして、その魔力の光もまた金色。

 

「僕がぁ……勝ァつっ!」

「わたしだって、負けないっ!」

 

互いに必勝を謳い、もう何度目かも分からない衝突を繰り広げる。

その衝撃が、周囲を爆発するような眩い閃光で染め上げる。

 

交錯は一瞬。閃光が晴れる次の瞬間にはすでに両者は離れ、互いの全容を睥睨出来る距離にある。

 

「プラズマランサー!」

「電刃衝!」

 

牽制に直射型の魔力弾を放つ。その光景はまさに鏡映し。

互いに放ったタイミングは完全に同時。両者の挟む完全な中央で、寸分の狂いもなく真正面からぶつかり合い、相殺する。

 

「たりゃぁぁぁっ!!」

「はぁぁぁぁっ!」

 

魔力弾のぶつかり合いにより発生した爆煙を突き抜け、両者は再びぶつかり合い、弾かれ合うように間合いが離れる。

そして、足を止める事無く、高い機動性を生かして両者は空を舞う。

 

そのふたりの戦いは、常人には眼で追えず、閃光がぶつかり合うだけで何が起こっているのか把握が出来ないと思わせるほどの高速魔法戦。

いや、実力のある魔導師や騎士でさえ、そのふたりの間に割って入る事は出来ない領域で、ふたりは互いの持てる力をぶつけあっている。

 

この戦いはふたりだけのもの。余人に介入する余地はない。

ふたり以外の存在は観客に徹するしかない。そんな戦い。

 

(この子、やっぱり強い……)

(僕のスピードについてこれるヤツが居るなんて……)

 

その中でふたりは、口には出さないが相手の実力が自分と拮抗している事を認める。

他の誰でもない、戦っている当人同士なのだから、それがより明確に分かる。

 

(それでも僕が……)

(それでもわたしが……)

 

だが、両者の心中には実力が拮抗している事は関係ない。

求める結果はただひとつ。

 

「「勝つんだ!!」」

 

自らの想いを言霊に変えて、相棒であるデバイスに乗せて渾身の一撃を放つ。

相手を打倒し、その手に勝利を掴むために。

 

今まででさえ、誰にも追い着けないようなぶつかり合いだったが、その一撃はそれらをさらに超える速さと鋭さ。

既に音はついて来れていない。速さのカテゴリーの中で最速を誇る光だけが、その光景を映し出す。証明する。

 

一際眩い閃光に後れ、衝撃と音が交錯の一点から解放され、その周囲を薙ぎ払う。

元々軽いウェイトと薄い装甲であるふたりは、自分達が生み出した衝撃にその場に踏み止まる事が出来ずに吹き飛ばされる。

 

だが、類い稀なボディバランスで即座に体勢を整え、前を見据える。

その行為もまた同時。必然として視線がぶつかり合う。

 

「「──っ!」」

 

言葉は無い。今のやり取りで互いに被ダメージがあったが、戦いを続行出来る事はその瞳が語っている。

 

申し合わせたように高機動魔法を発動させる。

間を置く事なく、戦場には金色の閃光による二条の軌跡が描き出される。

 

時にぶつかり合い、時に弾かれ合う。

絡み合うように、ほどけるように。

 

ふたりの戦いは更なる高みへと昇りつめる。

 

両者の実力は……互角!

 

 

 

 

時は少しさかのぼる。

 

身につけるのは黒のボディースーツに真紅のベルト。漆黒のマントとツインテールに纏めている金色の髪は風にはためく。

 

そこに居たのは、時空管理局嘱託魔導師であるフェイト・テスタロッサという名の少女。

 

彼女は、闇の書の残滓が魔導師や騎士達の記憶をもとに復活しようとしているのを阻止するべく戦っている一人。

愛機である「閃光の斧」の二つ名を持つデバイス、『バルディッシュ』と共に、結界を発生させている闇の欠片を倒して回っていた。

 

闇の欠片達は自分も良く知る人物の姿と能力をしており、一筋縄ではいかない戦いの連続。

それでもフェイトは自身の実力を遺憾なく発揮し、それらすべてを打ち倒してここにいた。

 

最後の夜天の主である八神はやてとその守護騎士達も、順調に欠片達を倒していっていると連絡があった。

この調子でいけば、想定していた闇の書事件の余波よりも被害は小さくて済む。油断するつもりはなかったが、概ねそうなるだろうと考えがあった。

 

ただ、フェイトには不安があった。

 

それは、この事態を自分と同じように解決しようと参加しているはずの親友、高町なのはと連絡が未だついていない事だった。

 

――もしかしたら、なのはの身に何かあったのでは?

 

そんな考えが頭を過ぎる。でもと、そのたびにそれは無いと否定する。

自分の知っているなのははとても強い子だ。

どんな時でも一度決めたら迷わず真っ直ぐに、不屈の心で前を見つめ続ける。

 

初めて出会ったときからなのははそうだった。だから、連絡はつかなくても今もどこかで戦っている。そう信じられる。

 

なら、自分に出来る事は一刻も早く事態を収束させる事。

そうすれば、お互いご苦労様と笑って、また逢える。

 

そんな親友との光景を思うと、胸が温かくなる。頑張ろうというやる気が湧いてくる。

フェイトは知らず笑みを浮かべながら、もっと頑張ろうと改めて思い、まだ夜の明けない空を飛んでいた。

 

「……見つけたっ」

 

そしてフェイトの目には、闇の欠片が展開させている結界が映る。

想いは胸に、意識を戦闘のそれへと切り替えて躊躇う事無く結界へと突入をする。

事態を解決するそのために。

そして、フェイトは結界の中心にその発生源である存在を確認した。

 

「君は……わたしじゃない、よね?」

 

そこに居たのは、青い髪をした自分と瓜二つの姿。

フェイトは全体的に黒い色彩のバリアジャケットを身につけているのに対して、目の前に居る少女は青色をメインにした色調のバリアジャケット。

その姿を見て、フェイトは自分のデータをもとにした存在である事は分かった。

だが、自分の記憶を再現している割には、雰囲気が自分とは違うともはっきりと感じていた。

 

「姿形は、まあ借りものさ。僕が何者かが気になるかい?」

 

青い髪の少女は、自分がフェイトの蒐集データをもとにしている事を肯定し、その上で違うとも明言する。

明らかに今まで戦ってきた闇の欠片とは違う。その事を理解し、フェイトは警戒を強める。

 

少女はそんなフェイトの様子に、何処となく満足気にしながら、意気揚々と宣言する。

 

「そうっ、僕こそが『力』の構成体(マテリアル)。君達が勝手に『悪』だと決めつけて破壊した闇の書の防衛プログラムの一部なのさ!」

 

少女は何故かポージングを決めながら名乗りを上げていた。

本人はカッコつけようとの行動だったが、対峙していたフェイトは自分と同じ顔の少女がそんな真似をしている事に、ただ面を食らっていた。

 

「ふふんっ、驚いて声も出ないか。そうだろう、そうだろう。うんうん。

君は闇の欠片達を倒して回っていたようだけど、アレは僕のような構成体(マテリアル)が居る限り何度でも発生するんだ。

はっきり言って無駄な努力でしかなかったんだよ!」

 

フェイトは確かに驚いていたが、それが自分の思っている驚きの種類とは微妙にずれている事に気付かず、少女は更に言葉を続ける。

 

「そして、僕は負けないっ。『力』の構成体(マテリアル)である僕はうんと強いんだ!

闇の書の闇を撃ち抜いた魔導師や騎士達は僕がみんなやっつけてやる!」

 

喋りながら、熱が籠もってきた少女は更に身振り手振りを加えて自己アピールを続ける。

本人は、さながら舞台に立つ主役のような心持ちだ。

 

「力を取り戻して、もっと強い『王』に、僕はなる!

そして帰るんだ。あの鮮やかで心地良い闇に……」

 

少女は一通り語ったところで「フン」と鼻を鳴らす。

どうやら、言いたい事を全部言えたので満足したらしい。

 

「えと、色々と情報を教えてくれてありがとう?」

 

そしてフェイトは、目の前で行なわれた自分のそっくりさんによる独演会を律儀に聞いてから、そんな答えを返す。

ただ、この場で礼を言うのが正しいのかどうかに自信が無くて、小首をかしげながらになっていたが。

 

「なぁっ、何なんだよそのリアクションはっ。君は僕の事をバカにしてるのか!?」

 

少女の方は、もっとこう「恐れおののく」とか「強敵だと認める」というリアクションを期待していたのに、逆に礼を言われてしまった事に憤慨する。

 

「……はっ。まさかこの僕から情報を聞き出そうとしていたのか!?」

 

そして、どうやら彼女は良いように情報を喋らされたと考え至ったらしい。

 

というか、勝手に喋った彼女がうっかりなのだが。

まあ、『力』の構成体(マテリアル)である彼女は考えるのが苦手なので、仕方が無いといえば仕方が無い。

 

「うぅ~、僕は強くて凄くてカッコイイ『王』になるんだよぉ!」

 

彼女は空中で地団太を踏むという、傍目には不可思議な行為をする。

本人は大真面目に情報を喋ってしまった事を悔しがっているのだが、その姿は何処からどう見ても子供の癇癪にしか見えなかった。

 

「あ、えと、……きっとそのうち良い事もあると思うよ?」

 

フェイトは自分を置いて考えがどんどん先に行っている目の前の少女に困惑していたが、とりあえず励ます事にしたらしい。

ただ、倒したら消える相手に、どんないい事があるのかはフェイトにも分からない。

 

「バカにするなぁーーッ!!」

 

そして彼女の方は、フェイトの励ましを侮辱と取ったらしい。

両手を突き上げるようにしながらフェイトの言葉を突っぱねる。

 

「えと、バカにするとか、そういう事じゃなくて……」

 

突っぱねられた側のフェイトは、どうして自分が怒られているのかが分からなくてオロオロする。

 

……どうにも、ふたりの会話はかみ合っていないようだった。

 

「もういいっ。考えるのは終わりだっ。

君のデータと力を手に入れて、僕は飛ぶ。そして最強の『王』になるんだっ!!」

 

彼女は一通り喚いて、何かを諦めたらしい。

そして浮かぶのは戦闘者としての顔。迷わず敵対者を屠ろうという気概に満ち、明確な殺気を纏う。

 

それは紛れもない一級の戦士。戦う事が自身の存在意義と言葉にせずとも姿で語る。

 

「行くぞォ! 我が太刀に、一片の迷いなーーーしッ!!」

 

それだけなら本人の言うとおり『カッコイイ』立ち姿なのだが、今までのやり取りを考えると、どう見てもやぶれかぶれだった。

 

「あの、君のデバイスって斧型だから、太刀とは違うんじゃないかな?」

「うるさーいッ。太刀って言った方がカッコイイじゃないか!?」

 

……結局、最初から最後まで会話のかみ合わないふたりだった。

 

 

 

 

 

そんなふたりのファーストコンタクトだったが、実際に戦闘が始まれば、両者共に一歩も引かない激しい魔法戦を繰り広げていた。

しかしそれは、互いの攻撃が全て防御を捨てた特攻とも思える攻撃の応酬。

 

見た目は派手で目を引く魔法戦ではあるが、攻守のバランスが極端に崩れているため、戦技教導の手本とは程遠い代物だった。

フェイトは元々、戦闘では「攻撃に傾倒し過ぎ」とよく注意を受けていたため、こうも攻撃一辺倒な戦い方をしようとは思っていなかった。

 

だが、敵対している自分とそっくりな少女は、そんな自分の「攻撃に傾倒し過ぎ」以上に「防御は無く攻撃のみ」だった。

 

速さと鋭さを極限まで研ぎ澄まし、相手が攻撃してくるよりも速く攻め立て、反撃の暇も与えず倒し切る。

相手に攻撃をさせないのだから、防御はなくても平気。そういうスタイル。

 

普通なら気がふれていると思えるそれを、目の前の少女は実行していた。

流石は『力』の名を冠しているだけはあるという、勇猛で無謀な戦い方。

 

断じて、頭の悪そうな戦術などと言ってはいけない。

 

フェイトの方も、スピードで相手を翻弄し、隙をついて一撃離脱というのがスタイル。

並の相手なら、その速さだけで十分以上に戦う事が出来る。

 

だが、今フェイトが戦っている相手は基本スペックがほぼ同等なのだが、そのリソースの殆どを攻撃と速さに費やしている。

結果、その速度は通常のフェイトの出せるスピードを大きく上回っていた。

 

仮に一度でも守勢に回ったら、元々防御を苦手分野としているフェイトは反撃の暇も与えて貰えなくなる。

なのはやシグナム達なら防御に回っても反撃に転じる事も可能かもしれないが、戦いの手札が同じフェイトでは押し切られる。そう考えた。

 

そんなフェイトにとって、勝利を掴むには一度たりとも守勢に回ってはいけない。

常に攻め続ける事でしか相手を打倒する可能性を手繰り寄せる事が出来ない。

 

そういった理由で、やむを得ず、フェイトもまた彼女の流儀に則るかのように攻撃を攻撃で打倒するような戦い方を繰り広げていた。

 

バトルマニアの気のあるフェイトは、この戦いを嬉々として望んでいるようにも見えるが、この戦い方は本意ではないので気のせいだ。

……たぶん、おそらく。

 

それはさておき、そういった事情の結果、ふたりは今の戦い方を続けている。

 

一歩でも引いたら。一度でも失敗したら。それが即敗北に繋がるギリギリの綱渡り。

そんな、互角の裏でいつ決着がついてもおかしくない戦いをふたりはしていた。

 

だが、どうにも決着がつかない。

手札は同じで、カードの切り方も同じなのだから、当たり前と言えば当たり前。

そして、終わりの見えない持久戦はそれだけで精神を削る。

 

精神の摩耗は判断力と体力を奪い、奪われた判断力と体力が精神の摩耗を助長する。

 

戦うふたりは、既にその悪循環の中に居る。

現に、今も誰も追い付けないような高速魔法戦を繰り広げているが、使う技、魔法がどんどんシンプルなそれへとなってきている。

 

精神、判断力、体力が低下している上、速さに使えるリソースの大半を費やしているため、複雑なモノを使う余裕が無くなっている証拠だ。

 

「はぁぁぁっ!」

「やぁぁぁっ!」

 

それでも一歩も引かないのだから、このふたりの負けず嫌いは筋金入りだとしか言えない。

 

ただ、精神力までもが拮抗しているというのならそれこそ千日手であり、これから先、どれほど時間を費やしても決着はつかない。

 

もし決着がつくとしたら、何かきっかけが必要だった。

 

『援護します』

 

そして、そのきっかけがこの場に齎された。

 

(なのは!?)

 

聞こえたのはたった一言。だが、フェイトにとってそれは重要なモノだった。

返事をする余裕はないが、念話によって齎されたその声が親友のそれだとすぐに分かった。

そして、視界の端に一瞬だけだが桜色の光点が見えた事で、なのはがこの場に来ていると確信する。

 

一瞬見えたそれは本当に点でしか見えず、彼女もこの場に居るとはいえその距離は遠い。

だが、フェイトは知っている。なのはにとって、この距離は十分射程圏内である事を。

 

(ならわたしは……)

 

彼女は援護すると言ったけど、流石に今の自分達の速度に対して狙撃をする事は無理。

だから、ほんの一瞬でもいいから目の前の相手の動きを止める必要がある。

そして、それが自分の役割とフェイトは判断する。

 

「余計な真似、するなぁぁっ!」

 

そう考えた直後、今まで高い機動力で動き回っていた少女は、フェイトに向かって何の策も無く一直線に突っ込んで来た。

 

これまでは一撃でも貰えばそれで終わりだったが、状況が変わった。

自分が被弾しても、相手の動きを止める事が出来れば自分達が勝つ。

 

目の前の少女の言葉の意味は分からないが、これはチャンスと捉える。

フェイトはあえて足を止めて、それを迎え撃つ。

 

「うおぉぉっ!」

「くぅっ!?」

 

そして激突。一方は突き進もうと、もう一方は真正面から受け止めようとする。

 

ふたりは今まで何度もぶつかり合ってはいたが、それはすれ違いざまの攻防であり、ここまで体当たりのような衝突は無かった。

 

「くぁっ!?」

「あぅっ!?」

 

その衝撃は疲労し切った身体には堪えるもので、両者は互いに弾かれ合う。

それと同時に一瞬だが身体の自由が利かなくなる。

 

ふたりだけなら、それはただの相討ち。身体の自由を取り戻せばまた仕切り直しだ。

だが、ここには第三者が存在する。

 

その動けなくなった一瞬を的確に見抜いた、桜色の魔力光の超遠距離砲が炸裂する。

フェイトはその光を見て、自分が役割を果たす事が出来た事を知り、勝利を確信して、

 

「……え?」

 

その砲撃に呑まれた。

 

フェイトの敗因は、極度の疲労により、聞こえた声は確かに高町なのはのモノと同一でも、そこに在った違和感に気付けなかった事だった。

 

「……余計な事をするなって言ったのに、何をするんだよ!」

 

フェイトと刃を交えていた少女は自身の不機嫌さを隠そうともせず、憮然とした面持ちで自身の戦いに介入された事に憤る。

そこには勝利に対する歓喜はなく、ただ横やりを入れられた事に対して怒りをあらわにするものだった。

 

その少女の隣に、ふわりと影が舞い降りる。

 

「あのままでは何時までも決着はつかないと見ました。故に効率を優先したまでです」

 

桜色の光の翼を足もとに輝かせて中空に立つその人物は、少女の苛立ちにも特に何の感慨も見せず、介入の理由を答える。

 

「うるさいなッ。あそこから僕のカッコイイ必殺技で一気に決着をつけていたんだよ!」

「そうですか」

「~~ッ。なんだよその澄ました態度はッ。君はやっぱり僕をバカにしているんだろ!」

「私には貴女を侮辱する意味も理由を在りません」

「その態度がバカにしてるっていうんだよ!」

 

そんなふたりのやり取りを、フェイトはダメージの影響で擦れるような意識の中で聞く。

直撃した砲撃は非殺傷設定であったために命を刈り取られる事は無かったのだが、その砲撃の威力は凶悪に過ぎた。

 

フェイトの魔力は「削る」どころか「抉る」勢いで根こそぎ奪われてしまっていた。

すでに飛行魔法の発動はおろか、原形を留めないほど破壊されたバリアジャケットを再構成する余裕もなく、桜色の拘束魔法で落下を免れているだけ。

意識を保っていられただけでも奇跡と言えるような有様だった。

 

だが、フェイトにとって、自身の現状よりも意識を割かれるものがあった。

 

「なのはじゃ、ない……?」

 

目の前で自分が戦っていた少女が喚くように言う文句を、右から左へと聞き流しているようで、実は律儀に答えている少女の事だ。

 

見覚えはある。親友なのだからそれは当然。

だが、魔力光や姿が同じなのに、親友の姿と目の前の彼女の姿がどうしても重ならない。

 

フェイトの知っているなのはは、もっと強くて優しい瞳をしている。

あんな、何の感情も籠らない無機質なガラス細工のような瞳はしていない。

 

「お初にお目にかかります。私は闇の書の『理』の構成体(マテリアル)です」

 

そんなフェイトの視線に気付いたのか、彼女は騒ぐ少女の事を脇において名乗りを上げる。

それは、フェイトの呟きを肯定するものであり、先程の『援護する』という声は、自分にではなく対戦相手に向けられたものだったのだとフェイトは知る。

 

彼女は名乗り終え、フェイトには話す言葉が浮かんでこない。それで会話は終わっていた。

 

「……?」

 

だが、なのはとそっくりな彼女は、フェイトから視線を外さなかった。

ただじっと見つめるその瞳は相変わらず無機質のそれのようだった。

だが、その奥には何かフェイトに興味を引かれるものがあるらしい事は感じられる。

 

目の前の彼女が、どうしてそんな風に自分の事を見ているのだろうと、フェイトは内心小首をかしげる。

 

「だぁーっ。僕の事を無視するなぁッ!」

 

そんな見詰め合う二人だけの世界に割って入る存在がいた。

最初は効率を優先すると言っていたくせに、放っておけば何時までもフェイトの顔を見ていそうな彼女に対し、青い髪の少女が癇癪を起こしたのだ。

 

今まで自分が戦っていたというのに美味しいところを持っていかれた挙げ句、自分の存在をないものと扱われるのは非常に面白く無いモノだった。

目立ちたがりのきらいのある彼女は、強引にふたりの視線を自分に向けさせたくて声を荒げる。

 

「無視ではありません。単に眼中に無かっただけです」

「それは無視よりタチが悪いじゃないか!?」

 

彼女は事実を述べただけだが、時として真実は嘘よりも相手を傷つけるものであった。

 

「もういいっ。僕は彼女を取り込むから、君はさっさと次の獲物でも探せばいいさ!」

 

そう言って、少女は彼女を押しのけてフェイトの真正面に立つ。

今度は自分が舞台の上に立ち、彼女をただの観客以下の存在とするように。

 

少女は、彼女が理屈や理論とか、効率というモノが大好きだという事を知っている。

だから、彼女ならこの場を自分に任せて早々に次へ向かうものだと考えていた。

 

「……待ちなさい」

 

だが、その予想に反して、彼女は自分の行動に制止の声を掛けてきた。

それは少女にとって癇に障った。

珍しく頭で考えて先を予想したというのに、それが外れて余計に面白くない。

 

「うるさいなっ。この子は元々僕の獲物だったんだから、君なんかの出る幕は何処にも無いんだよ!」

 

少女は、彼女の事を無視する事にした。

もとより、彼女のいう事を聞く必要もない。先に行動してしまえば、彼女も諦めるだろうと思った。

そうして、フェイトに向かって一歩を踏み出そうとした。

 

「私は待つように言いました」

 

だが、彼女は更に予想を裏切る。

いや、それだけではない。少女の背中に自身のデバイスを突きつけていたのだ。

しかもそれは砲撃形態の上、砲撃を補助するための円環状魔法陣も展開済み。

 

「ちょ、待……ッ!?」

 

背中に感じた悪寒に僅かにふり返り彼女を見る。

彼女は常と変わらず、無表情に自分を見ていた。そして、そのまま口を動かす。

 

「ブラストファイアー」

 

そして圧倒的なまでの桜色の奔流が咆哮を上げる。

それは少女の発しようとした言葉を全て飲み込んで押し流し、吹き飛ばす。

 

ゼロ距離から、しかも背中へのそれに、抗う術は存在しなかった。

 

「な、んで……」

 

砲撃が過ぎ去った跡にいたのは、すでに自身の構成の維持も出来ずに形を崩してゆくだけの姿だった。

それでも、自身に起こった事が理解できず、疑問の言葉を搾り出す。

 

「待つように言った私の警告を聞かなかったのは貴女です」

 

その疑問に、常のように淡々と答える声があった。

彼女は消え行く少女を冷たく見下ろしていた。無感情ではなく、ただ冷たく。

 

そして、データに還った少女の残骸を自身に取り込む。

生物を取り込むわけでもない。もとより同じデータから生まれた存在であるのだから、その行為は数瞬で終わっていた。

ただ、破損が大きすぎたために、もう構成体(マテリアル)として復活させる事は出来無そうだと、彼女は考えていた。

 

「……あなた達は、仲間じゃなかったんですか?」

 

その光景を、一番の特等席であろう、真正面で見ていたフェイトは思わず呟く。

共に戦う間柄にある相手を、背中から撃ち抜くなんて信じられなかったのだ。

 

「私と彼女は同志ですが、仲間では有りません」

 

フェイトに向かってゆっくりとふり返りながら彼女は質問に答える。

自分達は闇の書の復活という同じ志を持つとは認めるが、だからと言って共闘しているわけではないと、彼女は答える。

 

「でも、それでもどうしてあの子を撃つような真似を……!?」

 

だが、フェイトは彼女の答えに納得が出来ない。

同志と仲間の違いが分からない。それ以上に、消えてしまった彼女をフェイトは想う。

 

お互い相容れない間柄ではあったが、実際に刃を交えてその人となりを感じていたフェイトにとって、少女は敵ではなく好敵手と認識していた。

そんな少女が、目の前で一方的にやられるのをそんな理由で納得したくなかった。

 

「それは……」

 

彼女は、いつものように聞かれたから答えようとした。

だが、想いは言葉にならず、彼女は初めて口ごもる。そんな自分自身に僅かに困惑する。

 

「……分かりません。どうして私は彼女を撃ったのでしょう?」

 

思考は答えを導き出せず、逆に疑問が口を突いて出る。

質問をしてから、逆に疑問を提示されるとは思っていなかったフェイトは答えられない。

 

だが、彼女自身、別にフェイトに対して言ったわけではない。考えを纏める上で、思いという不明瞭なものを言葉という明確な形に置き換ているだけだ。

 

「効率を考えれば、彼女を取り込むのは『力』の雷剣士でも問題はありません。

でも、私はそれを良しとしないと明確に感じていました。

……“感じていた”? 私は思考ではなく感情で行動をしたというのでしょうか?

いえ、感情とて思考に置き換えて認識しています。ならその時の私の思考は……」

 

そのまま彼女は思考の海へ没頭する。

口から零れる言葉の羅列は、誰かに語るものではないため、それを聞いてもフェイトにはどういう事かがよく分からない。

情報を取捨選択して整理し、自分の中にある答えの形を明確としてゆく作業。

 

そして、ある程度考えが纏まったらしいところで、不意に彼女はフェイトを見る。

急に視線を向けられたフェイトは驚くが、自分を捉える真っ直ぐなその瞳から不思議と目が離せない。

 

「……そう、私はフェイト・テスタロッサが自分以外の誰かに傷つけられる事を容認できなかった、という事です」

 

そして彼女は彼女なりの答えを出した。それは、彼女にとってこれ以上無いほど納得出来る答えだと思った。

 

だが、同時に理解出来ないものでもあった。

 

彼女の中に在るのは闇の書の闇の根源的なものである破壊と混沌の衝動。

それは、『理』の構成体(マテリアル)であっても変わらない。

特定の誰かを特別に想うなどという「感情」は存在しないハズだった。

 

それでも、確かに自分の中にフェイトに対する特別な想いがあった。

ならば自分の中に、そこに結び着く理由が存在するはずだと考え、そして、

 

「……ああ、なるほど。つまり貴女は、私が取り込んだ魔導師達に特別に想われていたのですね?」

 

理由はあった。彼女の中に存在する、破壊と混沌以外のモノ。

 

彼女の取り込んだ「クロノ・ハラオウン」は同じ家に住み、家族のように思っている。

そして「高町なのは」は戦いを経て、深く心を結び合わせた親友。

ふたりともフェイトと親しい間柄にあった。その影響を自分が受けているのだと、そう理解した。

 

彼女は、フェイトの頬にそっと手を添える。

 

「不思議です。貴女を見ていると無いはずの感情が湧きあがってくるのを感じます」

 

理解し、納得し、そして認識した。自分がフェイトに対して特別な感情を抱いていると。

 

不鮮明だったそれが明確な形となったのだから、あとは悩む事はない。

本能には従うべきと、彼女の中にある衝動が告げている。自分はそれに従えば良い。

 

彼女がフェイトに対して抱いている感情は『親愛』であり、愛おしいと思っている。

だから、『力』の雷剣士がフェイトを取り込もうとする行為が認められなかった。

 

自分以外がフェイトを傷つけるのは許せない。フェイトを傷つけても良いのは自分だけ。

他人に取られるなら、自分の物にしたい。自分だけで独占したい。

 

そのためにはどうすれば良いか?

答えは単純にして基本。自分の中に取り込んでしまえばよい。そうすれば自分以外にフェイトは触れられなくなる。

元々の目的とも合致する。何の不自然も無い。

 

そうして彼女の、自分の行為を容認する理論武装は完了した。

 

それは、クロノの家族としての、なのはの友達としての親愛とはすでに形を変えていた。

彼女の中にある闇の書の闇が抱える衝動と入り混じった、彼女自身が抱く、彼女だけの親愛の感情となっていた。

きっかけはふたりの魔導師のソレでも、今は彼女自身の意思でフェイトに好意を持っている。

 

そして、フェイトと自分の唇を重ね合わせる。

この自身の行為は、それを証明するものだと、ただ静かに口づけを交わす。

 

「んん~っ!?」

 

ただし、彼女の行動はフェイトの同意は得ていない。

フェイトは突然自分に向けられた好意に驚き戸惑いながらも抵抗しようとしている。

 

だが、彼女はそんなフェイトの抵抗を気に止めないかのように行為を続ける。

 

長い、長い一方的なキスが繰り広げられる。

それに伴い、次第にフェイトの抵抗が弱くなっていく。

 

「んぁ、はぁ、はぁ……」

 

そして彼女は一通り満足してフェイトとのキスを終わらせる。

されていた側であるフェイトは息も絶え絶えに、足りなくなった酸素を欲する。

 

「……私は貴女の事を愛しています。

他の誰にも渡さない。さあ、もう一度私の中へ……」

 

そして再び唇を重ねる。同時に彼女から闇が溢れだし、彼女とフェイトの姿を包み込む。

他の誰にも邪魔はされない、ふたりだけの空間を作り出したかのように。

 

そして、少しの時間を経て、闇が晴れたそこには彼女の影がひとつあるだけ。

 

「……これでフェイトは私だけの物。

安らかな永遠を。今度こそ過たず、貴女へ送ります」

 

彼女は自身の胸に手を当てながらそっと囁く。

フェイトは既にこの声が届かないほど深い眠りの中に居ると分かっていてもなんとなく呟いていた。

その表情は常の無表情ではなく、満足げに薄く微笑んでいた。

 

 

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