魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド= 作:のぶな
プロローグ
破滅的な力を持つロストロギア『闇の書』と呼ばれた一冊の魔導書。
幾度と主を変え、その度に破滅を齎す。暴走するシステムによって引き起こされる永きにわたる負の連鎖は時代や時を超えてなお止まる事は無かった。
ランダムに主を選ぶ闇の書が引き起こすであろう悲劇は、海鳴市に住まう少女が主となった今回も変わらず起こる。……そのはずだった。
これは偶然だったのか、必然だったのか。あるいは奇跡だったのか。
それは解釈する人によって答えは変わってくるだろう。だが、闇の書が齎す悲劇はもう起きない。
たまたま適合した魔力資質を持っていただけで闇の書の主となった少女、八神はやて。
同じ海鳴市に住まう、『魔法』という技術の存在しない世界で、極めて低い確率で魔力資質を持って生まれた少女、高町なのは。
闇の書が事件を引き起こす以前に、別のロストロギアを巡ってこの地に降り立ったミットチルダという世界出身の少女、フェイト・テスタロッサ。
少女達は『魔法』や闇の書に関係なく出会い、友達となった。
闇の書の辿ってきた歴史からみれば些細な物に過ぎ無いはずのこの出会いはしかし、大きな転換点となった。
蒐集行使によりページを埋め終えて暴走を始めた闇の書とその意志と呼ばれた者に対し、なのは達はもはや手遅れと諦める事無く抗った。
その稼がれた時間の間に、はやてと『リインフォース』の名を与えられた管制融合騎はシステムの内側より、暴走の原因となっていた防衛プログラムを切り離した。
そして最後に、その切り離された“闇の書の闇”を、全員の総力を結集して破壊する事が出来たのだった。
心優しい少女達の決意と想い。それが破壊不可能とされていた闇の書を巡る負の連鎖を断ち切ったのだ。
……だが、『闇の書』にまつわる事件は、これで全てが終わったわけでは無かった。
これまで闇の書が破壊不可能と言われていた要因のひとつに、防衛プログラムの中でも転生プログラムによる再生能力の高さがある。
それが、魔導師達の尽力によって打ち砕かれたはずの身を再構築させるべく動き出していたのだ。
元来、闇の書は多くの悲劇の中心に在った存在であり、悲しみや嘆きといった感情との親和性が高い。
故に粉々に散った闇の書のその残滓は、この地に眠る書にまつわる負の記憶や想いを元に寄り集まって形を成す。
そうして生まれた『闇の欠片』は魔導師や騎士達の姿を模して実体を得て、さらに本来の防衛プログラムという形を取り戻そうとする。
その果てに防衛プログラムは再構築を果たし、再び悠久の破滅を齎す存在に返り咲く事だろう。
別段、闇の書の内に在った防衛プログラムは負の感情に引っ張られている部分もあるが、根本としては世界に破壊を齎そうとしているわけではない。
ただ、『防衛』という自らに課せられた使命を果たす、ただその為に自らを再生させようとしているのだった。
「すぅ、すぅ……、ん」
……そんな中、数ある闇の欠片達のひとつもまた、とある記憶を再生させて活動体を得ていた。
模った姿は、腰元まで伸びる緩やかな波を描く金色の髪をした幼い少女というもの。膝を抱えるように身体を丸めて、まどろみの中を漂っているように静かに瞳を閉じていた。
何処か穏やかな空気を醸し出しながら眠っていた少女だったが、目覚めの時は訪れたとうっすらと瞳が開かれる。
「ん、んん~っ」
少女は未だ余韻を残す眠気を振り払うように丸めていた体を解いて大きく伸びをする。
次いで、脱力の中で新鮮な空気を肺へと取り込むように大きなあくびをひとつばかり。おかげで目尻に浮かぶ涙を手で擦ってぬぐいとる。
「ふわぁ……。ふう、なんだか良く寝た気分です。でも何でしょうか、頭が少しぼんやりします」
これでもうすっかり目は覚めたと少女は言いたいところだったが、どうにもまだ思考に霞がかかったようにはっきりしない部分があった。
体調が悪いわけでもないし、自分の意識もはっきりしている。だというのに何か大切な事を忘れている気がして、それが何なのかをまるで思いだせる気がしない。
自分の事ながら良く分からないが、もしかしたらまだ寝ぼけているのかもしれないと思いながらゆっくりと周囲を見渡してみる。
「……えっと、ここは何処なんでしょうか?」
そして自分が居る場所に見覚えが全くない事に、はてと小首を傾げてみせる。
今の少女はごく自然に飛行魔法を行使して中空に立っていたが、いくら寝ぼけていたとしても、空を飛んだまま眠っていたと言うのはおかしいと思う。
周囲には人影もないし、一体どういう事何だろうかと考えながら、そもそも自分はどうしてこんな場所に居るのだろうかと眠る前の記憶を掘り返そうとする。
「あれ、どうして此処に居るのかを思いだせない……?」
だが、いくら記憶に手を伸ばそうとしても、そこには霞しかないというように何も掴む事が出来ない。
思い返そうと考えを何度巡らせてもそれは同じで、少女はこの場に居るのかという問いに対する答えが出てくる事はない。
「う~ん、これは困りました。……えぇと、すみませーんっ、誰かいませんかーっ?」
現状が分からないと今後の方針を決める事もままならないと、そこにはほとほと途方に暮れる少女の姿があった。
それでも自分で考えても分からないのなら誰かに聞けばいいのではと考えて、声を上げて周囲に対して呼びかけてみる。
だが、少女の呼びかけにこだますら返って来なかった。それが一層少女にむなしさを覚えさせるのだった。
「……本当に誰も居ないみたいです。いえでも、なんだか雰囲気的に無人世界じゃないはずですっ。きっと探せば誰か見つかるはずなんです!
よーし、そうと決まればまず人を探しましょう。がんばろーっ、えいえいおーっ」
ひとりしか居ない事がなんだか寂しく感じられて、でも此処でへこたれていても何の事態の進展もないと少女は自身を奮い立たせる。
掛け声と共に拳を突き上げて、ひとまずの行動方針に対して気合を入れる。
目覚めた少女は、自分がどういった存在であるかの自覚を持っていない。だが、知らないからこそ知ろうとする意思がそこに在った。
現状は分からない。それでも立ち竦む事無く、意気揚々と一歩を踏み出す──
「というか、どっちに行けばいいんでしょう?」
──事が出来なかった。
方針として誰かに訊ねるべく人を探そうとは思ったが、そもそもの少女の現在地は海上であり、周囲の何処を見ても海しかない。
ついでに言えば、見上げた先にある星空にしても少女が知る星の配置では無く、自分の住んでいた次元世界でも無いように思える。
これでは星の位置から方角や現在位置を知る事は出来ないし、ましてや周りも海しか見当たらなくて目安になる物も無いのだから本当にどうしようもない。
折角気合を入れようと突き上げた拳も、こうなってしまっては物哀しさしかないという物だ。
「……もしかして私、迷子なんですか?」
誰に言うでもなく口をついて出た言葉に、少女は認めたくは無いのに認めるしかない現実という無常な事実にショックを受けていた。
恥ずかしがり屋な割に露出の多めの服を着ているのはなんなんでしょうね?(かわいい)
そんな子のシナリオ、はじまります。