魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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STAGE2

 

闇の欠片によって再現されたひとりの少女。

過去のない、今だけの存在である彼女は特に目的を持っていない。だからこそ何処にでも行ける。好きなまま、思うように。

 

だが、少女は気付いていないだけ。

 

闇の欠片が再現するのは強い後悔や思念。その想いの強さによって闇の欠片は発生するのだ。

ならば当然、何も知らない少女にも強い想いがある。自覚はなくともそれは大切な事。忘れられてなお、無意識に働きかけて少女の行動の指針を決める。

 

ただなんとなく決めたと思った事でも、それは偶然ではない。

少女は無自覚であっても、その心にある強い想いによって惹かれたものを追っていく……。

 

 

 

 

「ふわ~っ、とっても気持ちいいです……っ!!」

 

防護服の一種であり、魔力で編まれた裾や袖口などが末広がりになっている袴着を思わせる少女の纏う衣服は、防御の出力が圧倒的に高い分、機動は重くなっている。

そのおかげで『魄翼』を飛行の補助にリソースの大半を費やしてなお機敏な動きは難しく、小回りは利かず大きな曲線を描くような軌道で飛んでいる。

それでも少女にとっては自分の意志で、自分の行きたい方向に好きなように舵をとれる事がたまらなく楽しいらしい。

 

満天の星々の浮かぶ空の彼方へと飛び込むように高度を上げたかと思えば、一気に海面目前ギリギリまで下降。

体を反転させて羽ばたく闇の翼を海面に触れさせる事で水飛沫を巻き上げ、自身が濡れる事など顧みずその中を翔け抜ける。

 

夜の闇の中で大気の流れと水の煌きを全身で感じて、少女は心を嬉しさと楽しさに震わせ自然と顔を綻ばせる。

誰に憚る事無く心の赴くままに飛翔する姿は見る者を魅了する程に楽しさが伝わってくるようだった。

今この時は重力の枷ですら少女を繋ぎとめる事は叶わない。湧き上がる高揚に身を委ね、空を舞台に、闇をパートナーに、水の粒子と戯れながら空を舞う。

 

先ほどの戦いから離脱した少女は、最初こそ何処へ行くかを悩んだりもしたが、自身が闇の欠片であり、そもそも行く当てのなかった事を知り、逆に吹っ切れた。

過去の再現体であるという自身のアイディンティティが崩れるかもしれない事実を、少女は些末事と早々に受け入れた。

自分が闇の欠片である事などどうでもいい、“そんな事”よりも今はただこの自由を心行くまで満喫したい。

 

闇の翼を夜の空にはためかせて。

柔らかに波打つ金色の髪を風に靡かせて。

こうして自由に飛んでいられるのなら、自分は何者でも構わないと心から思うから。

 

後ろに流れゆく周囲の景色を眺めながら、何時までもずっとこうしていたいと少女は思う。

だが、少女の思惑がどんなものであったとしても、その存在が闇の欠片である事には違いは無い。

 

「……見つけた。お前がクロノ執務官から逃げおおせたという闇の欠片だな」

 

闇の欠片は放っておくと闇の書を復活させてしまう。再現された人格がどのように思い行動したとしてもその事実は変わらない。

今もまた、少女の行く手を阻む様にひとつの人影が音も無く静かに舞い降りる。

 

「君は……」

 

進行の途上を遮るように現れた人に対して、少女は翼を広げるようにして制動をかけて立ち止まり、目の前に現れた女性と真正面から向かい合う。

少女の目の前にいるのは銀髪紅眼の、背に黒い二対四枚の翼を持つ女性の姿。無為自然な佇まいながらも、油断も隙もなく立ち塞がる。

 

その女性を見つめる少女の瞳には、自由に飛び回る事を邪魔された憤りは、ない。

確かにいいところに割って入られて不機嫌な想いはある。ただ、それ以上に目の前に現れた女性が何者であるのかが不思議と気になる。

その女性に対するものと、そう感じている自分自身に対する驚きと疑問の色が少女の瞳に宿っていた。

 

「私は夜天の書の管制人格。主より賜りし名は祝福の風『リインフォース』だ」

 

少女と相対した女性、リインフォースは自分に向けられた疑問の眼差しに対し、名乗る事で応えてみせる。

リインフォースとしても、敬愛する主たる少女から貰った名を誇りこそすれ恥ずべきものだと事はない。堂々と名前を告げる。

 

「リインフォース……?」

「なんだ、私の名前がどうかしたのか?」

 

ただ、呟くように名を繰り返す少女の態度に、困惑しているらしい雰囲気を感じ取って、リインフォースは訊ねる。

 

「いえ、なんだか君とは以前にも会った事があるような気がしたんですけど……」

 

だが、その間違いなくある既視感の割に名前には全くの聞き覚えが無いのだと少女は首を傾げる。

リインフォースからしてみれば、この少女に対しては完全に初対面だと思っている。どれだけ記憶を思い返してみても、この少女の姿など何処にもありはしない。

むしろ、相対しているだけで他を圧するような闇の翼などというインパクトのある物を忘れるはずが無いと思う。

 

「……そうだな。こうして対峙してみると私にも少し気になる事がある。お前の望むべきではないかもしれないが、確かめさせてもらう」

 

だが同時に、確かに少女とは初対面であるとはっきり言えるが、どうしても見過ごす事の出来ない違和感が少女には在った。

闇の欠片を倒すという目的もあるが、それ以上にこの少女が何者であるかを確かめなければならない。

その想いを込めて拳を握りしめつつも、自然体に構えるリインフォース。

 

先に戦ったクロノからの情報によれば、少女の記憶には欠落が多いらしい。そんな状態で何者であるかを訊ねたところで自分の求める答えが返ってくるとは思えない。

ならば、拳を交えるのが一番手っ取り早いと、自分の感じた物が単なる杞憂で在って欲しいと思いながら戦いの意志を示す。

 

「拳で、ですか。……そうですね。それならきっと私の疑問の答えも見つかるような気もします」

 

少女としても、喉に小骨が刺さっているような気分では折角の自由も満喫出来ないと、闇の翼より異形の腕を形成してリインフォースに応えてみせる。

ただ、少女のそれは拳としてカウントして良いのかどうかは疑問であるのだが、そこを指摘する者は誰も居ない。

 

「……」

「……」

 

もはやこれ以上言葉で語る必要はないと互いに臨戦態勢に入る両者は、じりじりとその間合いを詰めていく。

一歩、また一歩と両者の間にある空間が狭められるのに伴って、チリチリと灼けるように緊迫感が高まっていく。

まるで周囲の音はこの場の空気に追いやられたかのように、張りつめられた静寂が二人の間に横たわる。

 

「ふ──っ」

 

何時までも続きそうな無音の世界はしかし、少女の漏らした小さな呼気によって破られる。

もとより、少女の『魄翼』より伸びる異形の腕のリーチは、徒手空拳であるリインフォースのそれより圧倒的に長い。

拳を交えると互いに意思表明をし合ったが、別段少女にリインフォースの間合いまで近づかなければいけないという義理もない。

リインフォースの間合いに入るのに先んじて、少女は自身の攻撃が十全に発揮される間合いにおいて異形の腕を振り抜くべく身構え“ようとする”。

 

「はぁぁぁぁッ!!」

 

その刹那。リインフォースは強く拳を握りしめると共に前に倒れるように前傾姿勢を取っての鋭い踏み込みにより、一挙に二人の間にあった距離を踏破する。

少女が攻撃の予備動作として腕を振り上げているという僅かな時の間に、既にリインフォースは自身の間合いを得ていた。

そこは少女が攻撃を繰り出すには近過ぎるという距離感で、このまま異形の腕を振り抜いたところで最大の威力を発揮する事は出来ない。

それでも既に動き出した体は止められない。最初からフェイトのつもりで動いていたならともかく、今無理矢理に止めようとしたところで体が流れて決定的な隙を晒してしまう。

 

「やぁぁっ!」

 

少女は止まれない。だからこそ止まらない。

間合いを踏み込まれ、それでもやる事は変わらないと闇の翼より伸びる異形の腕は、相対する女性を叩き潰すように振り下ろされる。

 

眼前に迫るその脅威に、リインフォースは怯む事無く、むしろより一層の気を張り巡らせて自身の拳を以って全力で打ち抜くべく振るわれる。

迎撃する拳は少女のそれより速く、最大の力を発揮するだろう振り抜かれる状態になるの先んじて叩き込む事によってその威力を大幅に削いでみせる。

 

「う、くぅ……っ!?」

 

それでもなお少女の一撃の重さを打ち消すには至らない。威力の大半は相殺しても、その大半以外である余波に押されてリインフォースは後退を余儀なくされる。

二人の距離が僅かに開く。それは今度こそ少女の間合い。

 

「スピアー!」

 

少女の呼びかけに呼応して、闇の翼は異形の腕から更に形状を変化させる。

それは凶爪の先端のような鋭い切っ先を持つ小型の槍を形取り、幾数本が少女に付き従うように浮かび上がる。

狙う先は決まっている。少女の指先が対象を示したならば勢いよく飛び出してリインフォースへと襲い掛かっていく。

 

迫りくる槍は小型とはいえ、込められた魔力量は一個を受けただけでも相当なダメージを負うだろう事は明白。

 

それを見て取ったリインフォースは即座に自身の眼前に防御魔法を展開する。

リインフォースが選んだのは、堅固さを持つ魔法陣の盾ではなく、自身を覆うように展開される半球状に広がるバリアタイプの防御魔法。

 

確かに打ち出された小型の槍達の威力は高い。だが、狙いの精度は甘い。その隙にある僅かな安全地帯を見出して体を潜り込ませる。

それでも回避出来ない部分は防御膜の表面を滑らせるようにして受け流す。放たれた小型の槍は、ひとつたりともリインフォースに当たる事無く背後へと飛び去って行く

 

そして切り抜けた先にあったのは、まさか防ぎ切られるとは思ってもみなかったと驚きに目を見開く少女の姿。

この好機に今度はこちらの番とリインフォースは掌を少女へ打ち抜くように差し向ける。離れた間合いに置いて当然その掌が届くはずが無い。

 

「ダークウィーブ!」

 

届いたのは、黒味を帯びた紫色の煌めきを放つ魔力によって生じた衝撃波。

それは不可視のままに掌から奔り抜け、少女に届くと共に弾けるようにして急激に加えられた圧力変化が小さな体に突き当たって激しく打ち据えるべく牙を剥く。

 

「うぁぁっ!?」

 

咄嗟に反応したのは闇の翼。驚きから固まってしまっていた少女の身を守るべく包みこむようにして覆いかぶさる。

だが、音より早く突き抜けた衝撃に自動防御はその全てを遮る事は出来なかった。闇の翼の守りを潜り抜けた衝撃が少女の体を打ち据える。

大半は防がれたためにそれほどの威力にはならなくとも、ダメージを受けた事には変わらないと悲鳴を上げた少女は、そのまま地に蹲るように膝を屈する。

 

その姿に一気にたたみ掛ける好機と見たリインフォースは、ここで決めるのだと再度の踏み込みを試みる。

だが直後、言い知れぬ悪寒がリインフォースの背中を駆けあがる。

 

しゃがみ込んで地に触れるようにしていた少女の手の平より、ほんの僅かではあるが波紋が広がるような魔力の波動をリインフォースは感じていた。

それはまるで、何かが空間を潜行するかのような……。

 

「ヴァイパーッ!!」

 

そしてその予感は正しかった。蹲っているように見えた少女はしかし、一気にその身の内より魔力を練り上げると共にキッと力強くリインフォースの姿を視界に捕らえる。

何かが来る。そう思ったリインフォースの足元から、先ほど少女が打ち出した小型の槍と同種の鋭い切っ先が突き出してくる。

 

この場は空中であり、上下左右、全方位に空間の存在するという空戦を行う魔導師や騎士としては、地上では殆どない下方向から来る攻撃にも警戒をする必要はある。

だが、地に足をつけての普段の生活という固定観念から、足元から来る攻撃にはどんなに意識を割こうとしても、どうしても意識の死角になりやすい。

 

「ちぃ……っ」

 

この場合のリインフォースもその例に漏れる事無く、運よく少女の魔力の発露という先触れに気付いたものの、だからといって即座に対処する事は出来なかった。

次々と空間を潜行して突き出してくる槍に舌打ちをしながらも、後ろに飛びのくようにして全力での回避をせざるを得ない。

 

「エターナル──」

 

望んでもいない回避を強いられるリインフォースに対し、しゃがんでいた態勢から既に屹立していた少女は静かに指先を差し向ける。

その少女の静謐な動作に反比例するように、少女の小さな体からは猛るように強大な魔力が溢れだす。

 

足元には三角形を基調とする魔法陣。それに伴い、無為な広がりをしようとする闇色の魔力は制御され、少女の手へと集束されて行く。

既に一撃必倒の威力を生み出せるだけの魔力は集まっている。少女とリインフォースの間は伸ばされた腕を乗せるように一直線に結ばれている。

 

「──セイバーッ!!」

 

ならば放たれぬ云われはないと、裂帛の叫びが上がると共に、少女の手を門とするように溜めこまれた膨大な魔力が解放され一直線に突き抜ける。

迫りくる砲撃魔法にリインフォースは咄嗟に魔法陣の盾を展開するも、予想以上の魔力の集束率に、防御したところで貫通されてしまうだろうと、受け切る事は不可能と知る。

だが、意識の死角より放たれた槍に対する回避のために後ろに引いていたため、ここから横移動に入っても攻撃範囲外へと逃れる事も難しい。

 

不可能と困難。眼前に迫る脅威に対して浮かび上がった二つの選択肢に、可能性がゼロのものよりも、僅かでも希望があるならばとリインフォースは迷うことなく困難を選ぶ。

ほんの僅かでも射線上から軸をずらすべく移動しながら、展開した魔法陣の盾を来たる砲撃魔法に対して斜めに構える。

直後、リインフォースに到達した奔流が構えた盾の端に接触する。直進を阻む壁を破壊しようとする前の押し込もうとする力の流れ。

 

一瞬よりも短い刹那のその時、リインフォースは突き抜ける流れに道を譲るように体をひねる。

そして刹那が過ぎ去った一瞬の後には、リインフォースの体は錐揉み状態になりながら吹き飛ばされていた。

傍から見れば、回避を失敗したようにも見えるが、それは失敗ではなかった。現にリインフォースは吹き飛ばされる中でも再び態勢を整える。

 

今のリインフォースがやった事は、防ごうとしても貫かれるだけなのだから、自分から弾き飛ばされるという物。

通常の砲撃魔法に同じ事をやろうとしたところで、効果範囲より逃れるより早く魔力の奔流に呑まれて終わるはずだ。

だが、少女の放ったそれは拡散度合いが極端に低かったからこそ出来た離れ業。

 

もう一度同じ事をやれと言われても、出来ないだろうとリインフォースは思う。

それぐらいの曲芸染みた回避を取らなければそれだけで終わっていたのだ。代償に少なくない魔力を削られたが、直撃に比べれば安い物と言える。

そう考え、少女が放った砲撃魔法の余韻を視界に収めようとする。

 

「なに……っ!?」

 

だが、リインフォースが見た者は、自身の予想していたものとは全く違う光景。

回避しせしめた事で何の障害にぶつかる事も無かった少女の魔法は、すぐ脇を突き抜けたまま砲撃魔法の特性として魔力が減衰から拡散をしていなかったのだ。

何処までも軌跡を描きながら何処までも伸びていくようにしていた少女の魔力は、消える事無くそこに留まり続ける。

その様に、リインフォースは驚愕に目を見開く。

 

「まさか、砲撃魔法ではなく圧縮魔力刃、だと……!?」

 

瞬間的に魔力刃を伸ばすのであるならばとにかく、それを維持するなど燃費が悪いにも程がある。

そもそも、圧縮魔力刃もまた魔力で編まれたものではあるが、質量を伴う事で重量も発生している。少女の細腕で扱える代物ではない。

燃費と取り回しの悪さから、そんな事はないはずとリインフォースは無意識に思っていたために、少女の魔力の猛りから砲撃魔法だと判断したのだ。

 

「たぁーッ!!」

「くっ!?」

 

だというのに、少女はお構いなしと伸ばした長過ぎる闇の剣を、刃を返すようにして軽々と振るう。

普通なら不可能。少女の武装たる『魄翼』はそんな道理をひっくり返す。まるで重さなどないように振るわれる刃に追い込まれる。

 

「もう一個ッ、──セイバーッ!!」

「何っ!?」

 

更に、事もあろうか少女は魔力刃をもう一本伸ばしていた。

左右に雄々しく翼を広げるように構えられた二振りの剣が交錯するように振るわれる。

逃げ道を囲うように繰り出された剣戟に、今度こそ逃れる道はない。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

 

逃れられないというのならと、リインフォースは拳を強く握りしめると共に、二振りある内の一方の圧縮魔力刃に狙いを定める。

正面切ったところで負けるのは明白。ならばと黒味を帯びる紫の輝きを宿す拳を全力を迫り来る刃、その横っ腹に下から上にアッパーのように打ち込む。

更に拳を後押しするように高機動魔法で体全体を使って無理矢理に刃を押し上げる事により、二つの振るわれる圧縮魔力刃の間に狭間を作り上げる。

 

「はぁ、はぁ……」

「凄いです、今のを耐え切るとは思っても居ませんでした」

 

軌道をずらした事で生じた隙間に体を潜り込ませ、更に全力で距離を取る事で少女の剣の射程の外まで逃れるリインフォース。

対する少女も、エターナルセイバーの魔法は足を止めて振るう事は出来ても、機動と共に振るえる物ではなく、射程外に逃れられた今は無用の長物と手の内より消していた。

 

最初に向かい合ってから一分も満たない間に目まぐるしく繰り広げられた攻防。

負ったダメージの割合はリインフォースの方が大きいが、まだ戦闘を続行するには問題はない。

だが、ふたりとも相手を打倒するために戦っていた訳ではない。互いに距離を取った事で一区切りついたと言わんばかりに静かに佇む。

そして油断なく構えながら、リインフォースは実際に少女と拳と魔導を交えた事で、自分の中にあった疑惑は確信に近づいていたのを感じていた。

 

「……この魔力の気配。やはり間違いない。闇の書の魔力そのものだ」

 

初めて相対した時に魔力を感じた時も思ったが、少女のそれは闇の書の魔力に近い、というよりもほぼそのままの反応を放っている。

他の誰かであったら勘違いかもと思うかもしれないが、永らく管制人格として一番に書の近くに居たリインフォースがこの魔力を間違えるわけが無い。

 

さらに言えば、少女の魔力パターンは純正の古代ベルカの術式そのものである。

魔法の中には近代ベルカ式というものもあるが、これは古代ベルカ式魔法をミッドチルダ式魔法を用いて再現したという色合いが強い。

そのため、古代ベルカ式と近代ベルカ式は『似た別物』であると言えるところであり、古代ベルカ式の魔法の保持者はそれだけでレアスキル保持者と言われる。

 

もし少女の魔力パターンが近代ベルカ式であったなら、何らかの偶然で闇の書の魔力反応を持ってしまった闇の欠片と考える事が出来る。

だが、少女が古代、しかも純正のベルカ式の使い手であるならば、現在ではなく戦乱のベルカという過去に関わりがあったという可能性も出てくる。

 

(……しかし、ならばこの少女は本当に誰なのだ?)

 

ただ、少女の持つ力が闇の書の力と同種と確信を持って言えるというのに、肝心の少女自身について思い当たる事が全くないというのがおかしいとリインフォースは思う。

リインフォースは元々魔法を研究用に蒐集・保存するためのストレージである『夜天の書』を管理するための人格として存在していた。

そのため、人とは違い記憶を『記録』として保持している。自分の中で検索をかければ、管制人格としての権限で全ての記録の閲覧をする事は可能だ。

 

そんなリインフォースをして、柔らかに波打つ金髪をもつ幼い少女。そしてその武装である『魄翼』にも該当データが見つからない。

もしかしたら故意に少女に関する記録を抹消されているから、そのデータを見つけ出す事が出来ないという可能も思いついたが、それは無いと心の中でかぶりを振る。

管制人格であった自分を差し置いてそんな真似を出来る人など、それこそ居ないはずであると考えて。

 

「う~ん、君の事は知っている気がするんですけど、リインフォースという名前にはやっぱり何の引っ掛かりも無いから、やっぱり気のせいだったんでしょうか……?

まあ、きっとこのまま思い出そうとしても何も出てきそうにありませんし、私としてはそろそろお開きにして欲しいんですけど」

 

リインフォースが内心で考察を重ねている間に、少女の方も自身の中の疑問が解消される事は無かったようだった。

だが、少女の中では分からない物は分からないと折り合いがついようで、これ以上リインフォースの疑問解消に付き合う気はないらしい。

考える間に休めるように収めていた闇の翼を再び広げ、今にも飛び去ろうとする。

 

「お前のその魔力はやはり闇の書のそれだ。何故お前がそんな力を持っているかは私にも分からないが、すまないが放っておくわけには行かない。

心優しい我が主をあの永遠の地獄に巻き込みたくない。闇の書の闇である防衛プログラムの再構築は……私が阻む」

 

その少女の姿に、もう考えている時間はないのだとリインフォースは知る。

現在も進行中の脅威である闇の書の防衛プログラムの復活阻止が最優先にしなければならない事。

確かに少女が何者であるかを知りたいところではあったが、私事とも言えるそれにかまけて闇の欠片たる少女を見逃すという選択肢は出来ない。

リインフォースはこの場より逃すつもりはないと改めて少女に向き合うと共に魔法を構築する魔法陣を準備する。

 

「え? 防衛プログラムは闇の書の抱える本当の闇じゃないですよ」

「……何?」

 

だが、当人からすれば何気なく返しただけであろうその一言に、リインフォースは準備仕様としていた魔法陣を霧散させてしまう程の衝撃を受けていた。

 

そもそも闇の書が危険指定ロストロギアと呼ばれるようになったのは、本来はデータ保持のための防衛プログラムが暴走により過剰に働き過ぎていたため。

故に、闇の書の暴走の要因である防衛プログラムを指して「闇の書の闇」と呼んでいた。これは時空管理局はもちろん、管制人格であるリインフォースも認めるところだ。

 

「闇の書の防衛プログラムのその奥に封じ込められた『それ』こそが、闇の書を暴走させた要因です。

根本的な要因である『それ』が無ければ防衛プログラムも暴走する事はなかったんですから、防衛プログラムが闇の書の闇と呼ばれるのはおかしいでしょう?」

 

だが、少女はさも当然のように、その認識は間違っていると言っている。

誰よりも書の事を知っているはずのリインフォースさえ知り得ない事を、この少女は知っている。間違いない。

 

「……お前は、何を知っている。お前は……何者だ?」

 

嘘だと切り捨てる事は簡単だ。だが、少女の言葉は真実だとリインフォースは確信してしまった。

 

「私ですか? 私は……。あれ、私は、誰……?」

 

これまでのように、少女はごく自然に応えようとして口を開く。だが、何の言葉も出てこなかった。

自分の名前が出てこなかった事に、そして自分が何者か以前に、名前すら思い出せない事に今まで思い至っていなかった事に驚きと困惑を浮かべる。

 

自分は自分なのだから、『今』という瞬間を自意識を持って行動していられるのだから過去や目的が無くとも特に問題はないと思っていた。

だが、その『自分』が存在していないとしたら、何を基準に自分自身を認識すれば良いのだろうかと考えると、足元が崩れさるような音が聞こえたような気がした。

揺らぐ自分自身が怖くて、何でもいいからよりどころになる何かを思い出そうと今までやろうとしなかったくらい必死に考えを巡らせる。

 

「うっ、く、頭が、痛い……!」

 

だが、思い出そうとしたところで電撃でも奔ったかのように痛みを感じて顔をしかめる。

いったいどういう事なのか。分からない。それでも知りたいと思って、拒絶するような痛みに耐えようとする。

 

「私、夜天……、戦乱のベルカ時代で……。私は、砕け得ぬ……、闇?」

「おい、大丈夫か……っ!?」

 

尋常ではない様子に、リインフォースは戦っている場合ではないと少女に手を伸ばそうとする。

 

「う、うあぁぁぁっ!?」

「く……っ!?」

 

だが、次の瞬間に少女を中心とした魔力の奔流が吹き荒れる。誰も近づけさせないと防御プログラムが黒き風となって吹き荒れて周りを薙ぎ払う。

その勢いに臨戦態勢を解いていたリインフォースは近づけない。むしろ勢いを増す風が起こす衝撃にその身を吹き飛ばされてしまう。

 

「く、しまったっ、転移されたか……!」

 

そして次に目前をみた時には、そこには誰も居なかった。

僅かに見逃した隙に転移魔法を使われたのだろうと魔力の残滓から悟るも、既に反応を完全にロストしてしまったため追跡は出来ないだろう。

重要な事を知るであろう少女を逃してしまった事も悔しいが、同時に目の前で苦しんでいる少女に手を差し伸べられなかった自分が歯がゆかった。

 

「あの者は、一体何者なのだ」

 

ただ、ぽつりと漏らしたそのリインフォースの呟きは、誰に届く事も無く夜の風に消えたのだった……。

 

 

 




□→△ボタンによるコンボは普通に連続ヒットしなくて、ブロックの割り込みからの反撃確定なのはヒドイと思うの。
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