魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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STAGE3

 

──結界により世界とは隔絶された空間の中、闇色と金色の煌きが激突する。

 

 翼、巨腕、槍、剣、風、炎……。

 

 全てを飲み込み灰塵と還す闇色は変幻自在と形を変えて、平等にこの世に在るモノに破壊の爪痕を齎す。

 そこに正義も悪も関係ない。元より力そのものに善悪などない。振るわれたならその結果をただ忠実に現実に反映するのみ。

 今もまた少女の前に立ち塞がる障害に対して破壊という結果を与えるべく、一欠片の慈悲も無く凶爪は振り下ろされる。

 

 「君のその力が凄いという事は素直に認めよう。だがしかーしッ、当たらなければ何の意味は無いのだーッ!!」

 

 だが、そんな闇を以ってしても奔る雷光の如き金色の輝きは奪えない。

 闇の力は絶大だ。唯の一撃でも受ければそれだけで決着がつくだろう。しかし、その『一撃』が尽く当たらない。

 宙に縦横無尽に軌跡を描く金色の輝きは、迫る破壊の権化たる闇色に対して臆する事無く、むしろ喜色さえ浮かべて躱わしてみせる。

 更に翻る金色の圧縮魔力刃の煌きが翻るなら、一閃の下に切り伏せると闇の翼を纏う相手へと襲い掛かる。

 

 「うぁっ!?」

 

 一瞬にして入れ替わる攻守に、闇色はほんの僅かに遅れをみせる。

 咄嗟に刃の辿る軌道に翼を割り込ませる事はで来た。だが、剃刀の如き鋭い斬撃は守りの上からであっても確実に相手の魔力を削り、ダメージを与えていた。

 金色の攻撃は闇色と比べればそれほどの威力は無い。それでも、一気果敢に繰り出される連撃という数の暴力で一挙に魔力を奪い去っていく。

 

 闇色と金色の煌きは激突する。

 

 だがそれは互角の様相を描き出してはいない。ひたすらに攻め立てる金色の前に闇色は翻弄され、守りの障壁を徐々に削られていく光景であった。

 その中で、闇の翼を纏う少女は顔をしかめながら思う。──どうしてこんな事になっているのだろうと。

 

 

 

 

 闇の欠片が再生した記憶として、少女は目覚めた。

 状況を理解して、ひとまずはこの偶然手に入れた自由な時間を満喫しようと、負の感情に突き動かされる他の闇の欠片とは違い、ただ気ままに空を飛んでいただけだった。

 ここまでは──闇の欠片を倒そうという魔導師との戦闘もあったりもしたが──少女としては概ね何の問題もなかった。

 だが、状況が変わったのは夜天の書の官制人格、リインフォースとの邂逅を経てからだった。

 

 少女はリインフォースの事を知っているような気がして。

 リインフォースは少女の纏う魔力の気配に覚えがあって。

 

 感じた疑問と困惑の正体を確かめるべく、少女とリインフォースは互いに拳と拳(?)を交える事で相手の事を推し量ろうとした。

 その過程で、ひとつの切っ掛けが生まれた。

 

 ──“砕け得ぬ闇”

 

 リインフォースとの会話の中で、少女も自覚しない内に極自然に口から零れ落ちたその言葉。

 自分という存在の根幹に関わるモノである事は、思い出せるものが何も無い少女でもはっきりと理解する事が出来た。

 おそらくはこの“砕け得ぬ闇”がなんであるかの記憶を取り戻すことが出来たなら、自分が何者であるかを知る事が出来るだろう。

 故に少女は自分自身が何者であるかを自問するべく“砕け得ぬ闇”が何たるかを思い出そうとする。

 

 だが同時に、“砕け得ぬ闇”に関する記憶を思い出そうとする事がたまらなく、……怖い。

 

 何故そんな風に思っているのかが分からない。

 だが、“砕け得ぬ闇”が良くない事だけは分かる。記憶は無くとも、少女という意思を構成する想いが“砕け得ぬ闇”に対して拒否反応を示している。

 思い出したくない。それ以上に関わりたくない。関わったら最後、もう逃れる事など出来はしないから。

 根拠など今の少女には殆どないも同然なのに、まるで強迫観念のように忘れたままで居たいと思ってしまう。

 

 思い出したい自分と、思い出したくない自分。

 

 矛盾するふたつの思いによる板ばさみに酷い頭痛を覚える少女はふらふらとひとり、空を彷徨う。

 いつの間にか目の前にリインフォースが居ない事も気付かない。堂々巡りの思考に囚われたまま抜け出せないでいる少女は、周りに気を配る余裕も無い。

 ただ、夢遊病に魘されるような頼りない足取りは、何処かを目指すかのようだった。

 

 「む、なんだ君はっ。いつの間に僕の結界に入って来たんだ!?」

 「え……?」

 

 そして気がつけば、少女は何処かの結界のただ中に立っていた。

 掛けられた声にハッとして俯いていた顔を上げたなら、目の前に居たのは青い髪をツインテールに纏めた、蒼いマントを風になびかせる女の子の姿。

 色彩や雰囲気の差異はあるが、見た者の多くはそんな彼女の姿に時空管理局嘱託魔導師であるフェイト・テスタロッサという名前を思い浮かべるだろう。

 

 「君は……っ」

 

 だが、少女は違った。

 闇の書の蒐集データから得た外観ではない、青髪の彼女の本質とも言える何かに心が激しく揺さぶられる。

 リインフォースにも既視感を覚えたが、その時以上の衝撃に少女の思考は真っ白に染まり、ただ目の前の彼女に対して驚き戸惑う。

 

 そう、少女は既視感というあやふやなものではなく、彼女の事を間違いなく『知っている』と確信していた。

 まるで積年の疑問に対し、過程や道筋などといった途上を飛ばして提示された答えそのモノであるかのような彼女の存在。

 だが、知っていると確信して親近感が湧く相手ではあっても、同時に彼女が何者かが全く分からず、掛ける言葉は口より先に出る事無い。少女はただ驚き戸惑うばかりだった。

 

 そんな少女の姿に青髪の彼女は自分に慄いているのだと勘違いし、なんとなく良くなった気分のまま口上を述べる。

 砕かれた防衛プログラムは再構築を果すために闇の欠片を生み出した。そしてその中枢を担う三基の構成体(マテリアル)。

 防衛プログラムを打ち砕いた魔導師や騎士達を打ち倒し、“砕け得ぬ闇”を手中に収め破壊と混沌渦巻く艶やかな闇に還元するべく力を振るう最強の存在。

 

「そうっ、何を隠そうこの僕こそが強くてスゴクてカッコイイ『力』のマテリアルッ。僕らの目的を阻む者は、この極光の刃で斬り伏せる!!」

 

 特に訊ねたわけでもないのに嬉々と情報を明かし、(当人的には)カッコイイ決めポーズを決めた余韻に浸る。

 言いたい事をすべて言い切ったという彼女のそのどや顔は、実に清々しかった。

 

 (闇の書、防衛プログラム、闇の欠片、マテリアル、──“砕け得ぬ闇”……)

 

 対して少女は未だ呆然としたまま、彼女の言葉の内容を心の内で反芻する。

 青髪の彼女が齎した言葉は、まるでパズルのピースが嵌ったかのように少女の中でストンと収まっていく。

 だが、まだ全容の完成には至らない。少女の記憶を形成するにはまだ断片が足りていない。それでも、この調子ならいずれすぐにでも完成は日を見る事になる。

 

 「……嫌。私、は……っ」

 

 だが、少女は記憶を取り戻せる足がかりを目の前にして、拒絶するように頭を振って後ずさる。

 確かに少女は自分が何者かを思い出したいとは思った。だが、その内情は思い出す事への忌諱感の方が勝っている状態だった。

 だというのに、本人が望んでも居ないのに記憶を思い返させるキーワードを強制で次々と与えられるという事に恐怖を覚えた。

 その感情が目の前の彼女という存在に対しての怯えとなって少女の瞳に宿る。

 

 「ふふん、いいねその表情。僕の強さと偉大さが分かってるみたいじゃないか。

 でも、見逃してなんてあげないよっ。君が誰かは知らないけど、僕達の目的のための糧になってもらおうかッ!!」

 

 相変わらず少女の心情を微妙に勘違いしたまま、彼女は手にしたデバイスの斧状となっている刃の角度を変えると、そこから金色の魔力が溢れて光の刃を形成する。

 死神の鎌を彷彿させる圧縮魔力刃を構えるその姿は、逃げ腰になっている少女に対する遠慮など微塵も無い。

 

 「僕の強さに君は泣く! ──さあ、戦いの準備は万端かい?」

 「わ、私は……」

 「残念。答えは聞いてない!!」

 

 言うが早いか、彼女は高機動魔法を起動させて一瞬の内に少女へと肉薄すると、金色の刃が最短距離を辿って軌跡を描いて振り下ろされる。

 唐突に繰り出された雷刃の襲撃に、少女は驚き目を見開く。

 

 「う、ぁ……っ!?」

 

 咄嗟に反応した闇の翼による自動防御が盾となって辛くも刃の少女への到達を阻む。しかし、自分に斬りかかろうとする刃を間近にして、少女の金色の瞳は恐怖に揺れる。

 そこに戦う意志など無い。すぐにでもこの場を放り出して逃げ出してしまいたいという思いがありありと映し出されていた。

 

 「いくよ、いくよッ、いっくよ~ッ。もう、誰にも僕は止められないんだぞ!!」

 

 だが、様々な感情が少女の中で錯綜し、纏まらない思考は混乱となって少女の体を縛っている。

 そんな状態で高速戦闘魔導師である彼女から逃れる事が叶うわけも無い。嬉々と声を上げながら飛び回る彼女に、少女は否応にもその場に縫い付けられる。

 

 

 そうして、少女からすれば理不尽で一方的に戦端は開かれたのだった。

 

 

 戦況は最初から変わらない。速さと鋭さに優れる彼女に、少女は全く追いつけず、受けるばかりの中で少女の表情に苦悶が浮かぶ。

 今のところは少女に戦闘の意志は無くとも白兵戦プログラムに組み込まれた自動防御が働いているため、少女はまだ立っていられた。

 だが、殺しきれなかった刃の勢いが衝撃となって防御を貫けてくる。

 威力の殆どを守りに削がれていたため微風程度のものではあったが、戦意も無く既に及び腰になっている少女からすればその程度のものでも苦痛と認識してしまう。

 先に戦ったクロノやリインフォースと違って、はっきりとした殺意の篭った刃が迫ってくるのを間近に見る恐怖も相まって魔力だけでなく心も削られてしまう。

 

 しかも、少女にとって彼女と戦うという事はそれだけでは無い。

 

 「う、また……!」

 

 元は魔法を研究するための巨大なストレージであった夜天の書は、歴代の所有者によるたび重なる改造により、呪われた魔導書である『闇の書』と呼ばれるようになった。

 書のページを埋めるためにリンカーコアを蒐集する過程で多くの魔導師や騎士が犠牲になった。

 書の蒐集行使を止めさせるために挑んできた者たちを逆に打ち倒した事で多くの返り血を浴びてきた。

 書のページが埋まったなら、臨界を越える暴走に世界規模での破滅を齎してきた。

 

 痛み、嘆き、悲しみ、慟哭。

 

 書としてはただ『書を保持する』というただ一点を実行し続けていただけに過ぎない。

 だが、夜天の書が闇の書として辿ってきた軌跡には多くの怨嗟の声に溢れ、負の感情が渦巻いていた。

 そのどれもが書を……、少女に対して向けられている。何も知らないなどとは怨み辛みを持つ者には通じない。あらゆる負の感情が少女を責め立てる。

 

 少女と彼女。二人の間にある『共通点』を通じて少女は自分も『知っている』記憶を次々と見せられていく。

 それにより、思い出す心構えも出来ていないのに、記憶が強制的に思い起こされていく。

 

 対峙している彼女の抱く、闇を打ち砕く者への憎しみと闇への回帰への想いが流れ込んで来て、闇の欠片を構成する負の感情から来る衝動がこみ上げてくる。

 自身の戦いたくないという想いが塗りつぶされて、自分の意思なのに別な意思に書き換えられていくようで薄ら寒いものを感じる。

 

 痛いのも嫌だし、怖いのも嫌だった。だがそれ以上に、黒い翼と金色の刃が火花を散らす度に少女の中に記憶が流れ込んでくるのが辛かった。

 

 それら諸々が少女の心を苛み苦しめる。それでもなお、少女は誰かを傷つけたくないと抵抗しようとする。

 今も攻撃を加えられて反射的にやり返してしまいそうになるのを抑えようとしているくらいだった。

 そんな少女の攻撃が、どれほどの脅威となろうか。

 

 対する彼女は敵を倒すという一点に意識を集中していて太刀筋に迷いは全く無い。速さのギアをどんどん上げてゆき、最短、最速にて迅雷の如き刃を振り抜く。

 徐々にではあるが刃は闇の翼の守りを掻い潜るように少女の体へと近づいてきている。

 

 今でこそ少女の方も何とか防げているといった様相であり、このまま行けばあと数合の内に少女は彼女に斬られる。

 コレはもはや予測の域を超え、確定しているといえる未来であると両者とも理解していた。

 

 「砕け散れぇぇッッ!!」

 「うあぁぁぁっ!?」

 

 そしてついに、金色の刃が闇の翼の守りを抜けて少女に届く。バリアジャケット越しに体に刃が走る感触を味わう中で、一挙に記憶が刺激される。

 記憶に掛かっていた霞の全てが晴れる。その先に在ったのは。

 

「え……?」

 

 何も無い。ただ真っ黒なだけの、夜よりも暗い『闇』だった。

 斬られた事による痛みはあった。だが、それ以上についに『思い出してしまった』自分の記憶を見て、少女は驚きに目を見開く。

 そこには何も無い。あるのは書との繋がりの全てを断って、闇の書の防衛プログラムの更に奥へと封じ込められていた自分だけ。

 周りには誰もいない。温もりなど存在しないただ黒色だけの世界で味わうのは、どうしようもないくらいの圧倒的な孤独。

 

 ……嫌だった。

 

 誰も傷つけたくないと望んだのは自分で、そのために周りとの繋がりを断ち切ったのも自分だった。

 それでも、あんな孤独の中に居る自分を客観的に見るのは恐怖しか湧きあがってこなかった。

 あんな風に闇の中で孤独に縛られているなんて嫌だった。あんな寂しすぎる世界から抜け出してしまいたい。

 

 「あ、あ、あ……、あぁぁぁあぁぁぁ──!?」

 

 傷は浅い。だが、斬られた痛み以上に自分の過去に覚えた恐怖に少女は悲鳴をあげる。

 感情のタガがはずれ、何も考えられない。ただ恐怖を打ち払おうとするように闇雲に異形の腕を全力で振り回す。

 

 「って、うわっ!?」

 

 垂れ流される膨大な魔力を霧として纏う腕が振るわれる度に破壊の風が吹き荒れ、空間が軋む。

 今まで調子よく攻めていた彼女にしてもさすがにコレを相手取って近くに留まれる気はしなかった。

 脳裏に鳴らされた警鐘に従い、全力で後退して少女との距離を置く。

 

 「え、何あれ……」

 

 そして彼女が見たのは、少女の暴走する感情に呼応するように、少女の姿を覆い尽くすほどに吹き荒れる闇。

 黒い影に遮られて、彼女の方からは殆ど少女の姿は見えない。だが一瞬だけその隙間から見えたような気がした。

 元は白かった纏う衣服が血と闇に彩られたように染まり、その身を縛るような紋様が体に浮かび上がっているという姿を。

 

 彼女にとって、目の前の光景は理解の範疇を超えていた。指向性もなくただ放出されるだけの魔力の重圧を総身に感じながら、呆然と吹き荒れる闇を見つめていた。

 

 ……やがて、少女から放たれていた重圧は消え、場に静寂が下りる。

 同時に少女の周囲に渦巻いていた闇も晴れて、先ほどは色彩が変わって見えたのは幻だったかように、最初に見た時と同じ姿で佇む少女の姿がそこにはあった。

 

 「……そっか。今の『私』は、あの闇の中で此処から抜け出したいと思った私が見ている夢、なんですね……」

 

 そして少女はぽつりと呟く。それは、闇の欠片としての自分を構成する記憶が何なのかを理解したという事だった。

 

──無限連関機構、システム『アンブレイカブル・ダーク』

 

 想像を絶するほどの絶大な力を持つ反面、誰もその力を制御する事は出来ない。真正古代ベルカの戦乱と狂気が生み出した破滅の遺産。

 ひとたび目覚めたなら、過ぎた力に自壊してしまうまで周囲を破壊し続けてしまうだけの存在。

 

 それが“砕け得ぬ闇”の正体であり、少女が自身の中核に持っているシステムだった。

 

 かつての少女は、誰かを傷つける事なんて絶対にしたくなかった。

 だが、真正古代ベルカをして破滅の遺産と称されたシステムの前には少女の意思など介入する余地などなく、望みもしないのに破壊のみを繰り返してしまう。

 

 どんなに頑張って止めようとしても止まらなかった。故に少女は最後の手段として、当時の夜天の書のシステムの奥深くに自らを封じ込め、別なシステムを上書きしたのだった。

 そうして管制人格の権限を以ってしても気付けない程に書の奥深くで眠りに就く事で、少女は“砕け得ぬ闇”を封じる事が出来た。

 

 少女は自分ひとりが犠牲になれば、他の誰も傷つかずに済むのであれば安いものだと思い、自分ごと封じられた事に後悔なんてしなかった。

 だが、それでも冷たいだけの世界にひとりだけでいて寂しいと思う事は止められなかった。

 

 故に、闇の深遠の底で眠りにつく少女は夢を見たのだ。

 広い空を何者にも縛られずに自由に飛ぶ自分の姿を。

 

 それは決して叶うはずのない『夢』だった。

 だが、先の事件で防衛プログラムの内、破壊を免れた闇の残滓が偶然にもその少女の夢を拾い上げ、再現した。

 そうして生まれた闇の欠片こそが今の『私』であると少女は知ったのだった。

 

 「そう、だから私は自由が欲しい。ただ空を飛んでいるだけじゃ足りない。もっと、根本的な事が必要なんです」

 

 俯き加減で少女の表情は彼女の方から窺い知る事は出来ない。ただ淡々と呟く姿に、青い髪の彼女は何か背筋が凍るような想いを感じた。

 

 「だから、そのためには君の力も必要なんです」

 

 そしてゆっくりと上げられた顔には、もう迷いや戸惑いはなかった。淡々と。静かにだがはっきりとした意志がそこにはあった。

 そんな少女の視線に晒されて、彼女は知らずの内に後ずさる。

 

 少女は何もしていない。ただそこに立って彼女の事を見ているだけだ。だというのに、その姿がどうしようもなく怖かった。

 そして彼女は気付く。今の自分の姿はまるでさっきまで怯えていた少女とまるで変わらないという事に。

 

 「……違う違う違うッ。僕は『力』のマテリアルで、うんと強いんだッ!!

 あんなヤツに気圧されるなんて、そんなの……、そんなのあるわけがないんだッッ!!」

 

 だが、怯えから逃げ腰になっていた少女とは違い、彼女は自分が『力』のマテリアルであるという自負から引くという事はしなかった。

 震えているデバイスを持つ手を叱咤するように力いっぱい握りしめて震えを力ずくで押さえつけると、歯を食いしばりながら少女の事を全力で睨みつける。

 

 「僕は強いッ。さっきまでやられっぱなしだった相手に負けて堪るかーッ!! ──バルニフィカスッ、モード大型剣(スラッシャー)ッ!!」

 

 彼女は持ちうる限りの全力でこの敵を殲滅すると決めた。そのためにデバイスをフルドライブモードである大型剣形態へと変形させる。

 足元には金色の魔力光によって描かれる円を基調とした魔法陣を展開し、鎌形態よりも大きく、硬く鋭い圧縮魔力刃による大剣を肩で担ぐように構え、僅か身を屈める。

 

 彼女の魔導師としての持ち味は『速さ』だ。魔力を硬く鋭く圧縮するのを得意とし、『力』のマテリアルとして魔力の出力も相当に高い。

 だが半面、魔導師としての技量ではなく、単純な身体能力としての腕力は大した事は無い。

 そんな彼女が最大の威力を叩きだすにはどうすればいいのか?

 

 「でりゃぁぁぁぁッッ!!」

 

 答えは単純。全力で突っ込むのみ!

 速さは重さ。細かい理屈は知らないが、たとえ重量としては軽くとも圧倒的な加速から放たれた一撃が重いと彼女は考えた。

 故に防御に回す魔力をかなぐり捨て、瞬間的な加速に残りの魔力の全てを費やすつもりで高機動魔法を使用。

 さらにその勢いを殺す事なく剣に乗せて、全力で少女へ向けて振り下ろす。タイミングは完璧。何であっても一刀両断に斬って伏せる事が出来ると彼女は確信した。

 

 「――障壁を展開」

 

 だが、その全力一撃は少女が涼しい顔で展開した障壁に阻まれ、まるで届かなかった。

 それだけではない。障壁に食い込んだ刃が抜けない。攻めたはずが逆に捕らえられていたのだ。

 

 「な……。う、嘘だ嘘だ嘘だーッ。こんなの僕は知らない、聞いていないッ!!」

 

 自分の最大攻撃が全く通用しない事に、喚くように声を上げる彼女。

 既に半泣きになりながら叫ぶ彼女は、見た目相応の小さな子供のようだった。

 

だが、少女のほうはまるで気にも留めないようにゆっくりと障壁を挟んだ彼女に向けて手の平を向ける。

 

 「――ナパームプレス」

 「!?」

 

 それでも、少女の攻撃を避ける事が出来たのは、彼女の直観だった。

 考えるよりも圧縮魔力刃に費やした魔力を放棄する事で圧縮魔力刃の構成を自ら瓦解させた。

 少女の障壁に捕らえられていたのは刃の部分だったため、それによって逃れる事が出来た彼女はそのまま一足飛びに距離をとる。

 

 直後、さっきまで自分がいた場所に黒い球体が空間を押しつぶすように圧し掛かっていた。

 そのまま膨大な魔力が込められていたそれは爆発を引き起こして、闇色の衝撃が巻き起こる。

 もし僅かでも逃げ遅れてあの爆発に巻き込まれていたらと思うと背中に冷や汗が滝のように流れる想いだった。

 

 だが、それに気を取られているのが不味かった。闇色の衝撃に隠れていた少女が、異形の腕を彼女に向けて振り下ろしていた。

 何とかそれを避ける事はで来たが、続けざまに伸ばされた左腕は無理だった。彼女の眼前を覆い尽くすように広げられた掌が逃げ場を囲い込むように握りしめられる。

 抵抗しようとするも退路は既に無く、圧縮魔力刃を自身で瓦解させた状態で在っては反撃もままならない。まさに成すすべも無く彼女の体は異形の腕に鷲掴みにされてしまう。

 

 「どんなに素早くても、こうなってしまえばもう終わりですよね」

 「あっ、が……っ!?」

 

 握る圧力を総身に感じて苦痛に顔を歪めながらも、彼女は何とか逃げ出そうと必死にもがくが、異形の腕と彼女の細腕では力比べに分が悪すぎる。

 少女に捕まった時点で、彼女がどれだけ全力を尽くそうとも徒労にしかならない。

 

それでもなお死の物狂いで抗おうとする彼女を憐れんだのか、少女は早くその恐怖を終わらせようとするように空いているもう一方の爪の先を彼女に向ける。

 

 「ちょ、待って待って待ってッ。君だって僕の力が必要だって言っていたじゃないかっ。ならまずはここは話し合おうよ!!」

 

 目の前に迫る凶悪なまでの存在感を示す存在に、彼女はそんな太いモノが自分を貫いているという光景を想像して抵抗にもがくのも忘れ顔を青くする。

 もはや恥も何もあったものではない。そんな真似はやめて欲しいと彼女は少女に懇願する。

 

 「おやすみなさい……レヴィ」

 

 だが、少女にその言葉を聞き入れる理由など何もなかった。

 僅かに寂しそうに俯いて、それでも止める事無く突き付けていたそれで、彼女の体を貫いた。

 

 「あ……、アッーー!?」

 

 彼女の断末魔の悲鳴が、結界に隔てられた世界に響き渡った。

 やがてその声が途絶えた時、少女が見つめる先にある未来は、少女だけしか知らなかった。

 

 

 




この子のブロックからのカウンター攻撃は、相手によってスカりまくりなのはどうなんだろう?
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