魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド= 作:のぶな
まあ細けーことは気にすんな! という事でお願いします。
トースターにセットされた食パンから漂う香ばしい匂いを嗅ぎながら、フライパンで焼かれている目玉焼きをひっくり返す。
個人的な事を言えば目玉焼きは半熟な片面焼きが好みなのだが、いざ自分で作ろうと思うとどうにも蒸し焼きやら待ち時間やらが面倒じゃね?
そんな理由からさっさと火を通そうという結果から両面焼きとなった目玉焼き。俺が作ると余計に不格好な出来になるが、ま、味が変わるわけでも無し、どうでもいい。
既に両面とも焼け目がついている。これ以上火を通すと黄身が固まってしまうので、先に用意しておいた皿へと手早く移す。
「あふぅ~……」
と、目玉焼きをフライパンから皿に移していると、後ろからあくびを堪え損ねたかのようなのんびりとした呼気が耳に届く。
こっちは調理中ではあるが、さすがに相手の顔も見ずにいるのは失礼にあたるということで、作業の手を止めて振り返る。
「おはよう」
「ふぁい、おはようございます……」
そして俺の視界に映るのは、ふわふわと柔らかなウェーブを描く金髪の少女が、お気に入りらしいクッションを抱きながら眠たげに目を擦っているという姿。
なんというか、全体的にゆらゆらと揺れている。一応は朝の挨拶に返事はしているが、何処からどうみてもまだ夢の中に片足を突っ込んでいるご様子だった。
この子も基本は割かししっかり者を自負しているようなのだが、相変わらずどうにも朝だけは弱いらしい。いつもの事ながらかなり気が抜けている。
だが、初めて出会った時を思えば、こんな無防備な姿を見せてくれるのはそれだけお互いの距離が近づいた証のように思えるのだ。
こちらが起こしに行く手間がかからない事を思えば、朝に寝ぼけている程度は許容範囲。わざわざ咎めるような事など何もない。
「とりあえず、顔でも洗ってちゃんと目を覚まして来いや」
「ふぁ~い……」
とはいえ、いつまでもこうしていても始まらない。
今朝もこの少女の愛らしい姿を心のフォルダにしっかりと保存してから声をかけたなら、間延びした声を残しながらゆっくりとした足音が遠ざかっていくのだった。
どうやら言われた通りに洗面所の方へ向かったらしい事を確認しつつ、朝食作りを再開する。
今朝のメニューは、トーストをメインに、付け合わせに目玉焼きとサラダ。あとはインスタントのポタージュスープを添えた、(きっと)洋風スタイル。
まあ、トーストと目玉焼きは単に焼いただけであるし、サラダもキャベツときゅうりをそれっぽく切った物の上に缶詰のコーンと、ミニトマトを乗せただけ。
今ではすっかり手慣れたノリで食卓に出来あがった物を並べていくのだが……、自分で言うのもなんだが相当な手抜き料理だな。
一応というか、一人で暮らしていた時は菓子パンを牛乳で流し込んで終了だった事を思えばかなりちゃんとした朝食メニューだと思う。
それでも女の子に食べさせる内容にふさわしいかどうかと問われれば首を傾げたくもなる内容のような気もする。
ま、それを考えるのは今更か。ぶっちゃけ、ちゃんと作ろうとすれば作れるのだが、面倒だからこれ以上の事はやる気は全くないのだし。
「もう、朝食の準備は終わっちゃいましたか?」
目玉焼きを作り終え、トースターでこんがり焼け目の出来たトーストを皿に乗せてテーブルに移していると、顔を洗ってすっかり目の覚めたらしい彼女が再び顔を出す。
どうやら手伝いをしたかったらしいが、そもそもが手抜きだったのだから手間も少ない。殆ど準備は終了しているのを見て、僅かに残念そうな表情を浮かべていた。
まあ、人を気遣ってあまり我が侭を言おうとしない彼女の事を思えば、表に出た感情は『僅か』でも内心ではきっとかなりしょんぼりしているのだろうと思う。
「ああ、いいところに来た。戸棚からインスタントのスープとカップを出して準備しておいてくれ」
きっと本人にその事を直接訊ねたとしても、そんな事はないと返すだろう事は容易に想像がつく。
だから俺も特に追求することなく、『たまたま』残っていた朝食の準備を彼女に対して振り分ける。
「あ……、はいっ」
課せられた内容は至極簡単なモノ。だが、彼女は不満など言う事もなく即座に行動に移す。
戸棚から取り出すのは、大きめサイズとちょっと小さめサイズのマグカップの二つ。それを食卓の所定の場所に置いたなら、その中にインスタントのスープの粉を入れていた。
「お、流石に手早い。ありがとな」
「いえ、この程度はなんて事はないですよ」
本当に些細な内容であっても、手伝って貰った事には変わりはない。カップに沸騰したてのお湯を注ぎながら、テキパキとした動きを褒めて感謝の言葉で彼女の事を労う。
彼女の方はこんな事は誰でも出来ると謙遜して見せるが、何処となく胸を張って誇らしげに見える。
その姿は自分が役に立てる事が嬉しいとった様子で、もし彼女に犬の尻尾なんかが生えていたりしたならぱたぱたと振っていそうな雰囲気だ。
なんともまあ頭を撫でたい衝動に駆られる眼差しで俺の事を見上げてくるのだが、なんとかその衝動を抑えて自分の席に着く。
それに倣うように、彼女の方もまた食卓を挟んだ対面にある自分の席に着く。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
ふたり揃って、これで本当に準備は完了。遠い異世界の良き伝統らしい、手を合わせて目の前の食事に感謝の言葉を告げて朝食を食べ始める。
まずはトーストにマーガリンを塗って、その上にサラダを乗せて、目玉焼きを乗せて、さらにマヨネーズをかけてからもうひとつのトーストを乗せてかじりつく。
キャベツとキュウリの歯ごたえの中に、目玉焼きからとろけ出す黄身が絡まって、コーンの甘みがアクセントとなって中々に美味い。
こうすれば手早く食べられるというのもポイントが高いと内心で思いつつ、一口、二口と口に放り込んでいく。
いや、一纏めにするなら最初からサンドイッチにして出せよなどとは言ってはいけない。
「はむ、もくもく……。うん、このジャムもとっても美味しいです」
雑に食べる俺に対し、彼女の方は極々普通にトーストにジャムを塗って食べている。
最近はいろんなジャムを食べ比べるのがマイブームらしい彼女の今回のトーストには、何やらにオレンジっぽい色彩が塗られている。
一体何のジャムなのかは知らないが、どうやらお気に召した様子でほんわかした笑みを浮かべながら食べ進んでいく。
小柄な体格の通りに口のサイズも小さい彼女がマイペースにトーストにかじりついているその姿は、何となく小動物を連想されるので見ていると和む光景だった。
「そういえば、今日のお仕事は早めに切り上げる予定なんですよね?」
「ああ、納期が差し迫っていたのは昨日の内に粗方終わったし、新規に入って来なければ急ぐ必要はないからな」
「じゃあ、今日の夕飯は一緒ですね」
俺も彼女もそこまでおしゃべりではないが、食べる合間にたわいもない雑談に花を咲かせる。
人によっては食事時に話をするものではないと言うかもしれないが、俺はその辺りは気にしないし、楽しく食べられる方がきっと良い。
「そうだな。じゃあ、晩飯に期待しているぞ」
「はいっ。今回は新しい料理にチャレンジするつもりだから、楽しみにしていて下さいね?」
何より、一人での食事時では考えられなかった、この穏やかな時間がとても大切なモノと感じられるのだ。
だから、いつまでもこんな日々が続くように、何気ない当たり前を今日もこれからも続けていくのだ。
「勿論そうさせてもらう。……それにしても、お前も随分料理は上達したよな。最初のころの何を料理しても真っ黒焦げしか出てこなかった事が何とも懐かしい」
「ぅぅっ……、一体いつの話を持ち出してくるんですかぁっ」
雑談の中でふと思い出した事が口から漏れてしまっていたが、彼女は今では忘れてしまいたい失敗談を思い出させられた事に、非難がましい視線を送ってくる。
そう、今でこそ彼女の料理の腕は俺より確実に上だが、最初のころは本当にひどかった。
何時も世話になっているから何かしらの恩返しをしようという事で、俺が仕事で部屋を空けている間に料理を作ってもてなそうとした始まりだったらしい。
だが、料理の『り』の字も知らなかった当時の彼女からすれば、何の予備知識も監修も無しに料理をしようとしても失敗するのは自明の理。
塩と砂糖を間違えるという基本的な間違いはもちろん、目玉焼きを作ろうとすれば焼き過ぎて真っ黒にし、何故かサラダも火を通そうとして黒焦げの何かを作り出していたのだ。
仕事上がりで帰って来た時には台所は煙が充満していて、その中で食卓の上に並んだ真っ黒焦げな何か達を前に、申し訳なさそうにしている彼女がとても印象的だった。
ついでに言うと、真っ黒なそれらは見た目通りじゃりじゃりとした食感とビターな味わいだった事は、忘れようにも中々忘れられないような代物だった。
「うぅ~、今思うと本当に無茶をしたような気がします……」
どうやら彼女の方も同じ情景を思い出していたらしい。非難がましかった視線は下を向いて、今度は過去の自分の行いを恥じている様子。
意気込んで良かれと思った事が全部裏目に出て、恩返しのはずが余計に迷惑をかけたとなれば、非常にいたたまれないという気持ちはよく分かる。
まあ、封印したかった彼女の黒歴史を掘り起こした俺が言えた義理じゃないが。
「ただ、失敗作だから食べないでって言ったのに、それでも全部食べてから『ごちそうさま』と言って貰えたのは、ちょっとうれしかったです……」
「む……」
だから、今度こそちゃんと美味しい物を食べて喜んでもらいたいと思ったんですと言ってはにかむような笑みを浮かべる彼女に、今度は俺が恥ずかしさを覚える。
確かに彼女の作った物は不味くて、お世辞でも美味しいなんて言える出来じゃなかった。
だが、俺のために一生懸命に作ったという想いは十分に感じられた。ならば俺も出された物は全部食べようという男気を出したのだ。
それを面と向かって言われると、随分とカッコつけたものだと感じて、誤魔化せなんてしないのに痒くもない頬を掻いてしまう。
お互いに何気なく思った事を口に出しただけだったが、それを切っ掛けに想起させられた過去。
恥ずかしくはあるが、それ以上に忘れたくない大切な思い出でもあるのだから、どう扱えば良いのかが上手くまとまらず、穏やかだった食卓に何とも形容しがたい沈黙が降りる。
「……なんだか変な空気になっちゃいましたね」
そんな空気を払拭して仕切り直しだというように、彼女は困ったような笑みを浮かべながらスープの入ったカップに口をつける。
「あちゅっ!?」
そしてスープの熱さに吃驚して、ついでに舌を噛んでいた。結果、何とも可愛らしい悲鳴(?)が上がる。
スープの熱さと噛んだ痛さのダブルパンチに、彼女は小さな舌をちろりと出して目じりには涙が浮かべてうろたえていた。
どうやら普段なら何度も息を吹きかけて冷ますところを何もしないままだったから、まだ十分以上に熱さを保っていたらしい。
中々にうっかりさんである。
「ほら、水だ」
「はぅ、ありがとうございます……」
まあ落ちつけやと用意しておいた水を手渡すと、彼女はコップを両手で包むようにして受け取り、ゆっくりとした動作でそれを口に含む。
それで治るわけはないだろうが、一心地はついたらしい。安堵に大きく息を吐き出していた。
もっとも、先に水をコップに用意しておくくらいなら最初から沸騰したてのお湯で淹れるなと気付いている俺は、既に大概なのだけどな。
ちなみに、沸騰したてのお湯を使うのは彼女が気付くまでは続けようと思っているのは内緒の話だ。
で、そんな彼女の真ん前に居る俺はその一部始終はばっちり見させてもらっていたわけで、ひりひりしているらしい小さな舌をちろりと出していた彼女とふと目があった。
俺としては特に何もしていないのだが、その拍子に彼女はぴたりとその動きを止める。
「……見ましたか?」
「可愛かったと思うぞ。あちゅ?」
聞かれたからと素直に答えたのだが、その瞬間、一気に瞬間湯沸かし器よろしく彼女の顔に熱が集る。
まるで『ポンッ』という音が聞こえて頭から湯気が立ち上る姿が幻視出来るほどの見事な恥ずかしがり方だった。
驚いたりうろたえたり恥ずかしがったりと、何とも忙しい様子である。
そんな彼女のおかげで、妙な空気は既に無い。俺は苦笑を浮かべながら、彼女が再起動するのをゆっくりとスープを飲みながら待つ。
今日も俺達は平常運転だ。
元気でかわいい妹(妹?)ももちろん好きだけど、こういう大人しい感じのCVが控えめに言って大好きです。
そんなわけだけで書いた話なので、深い内容は特にないです。
あと、あくまで主役はユーリであって、それを他の人視点で書いているので俺君はいわゆるオリ主ではありません。