魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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ステージ4

 

結界を抜け、次なる獲物を求めて空を翔けるひとつの影。

 

闇の書の闇。その構成体(マテリアル)が一基、『理』を司る彼女の姿がそこにあった。

 

彼女は既にデータとしてではない、実体のある生命体である魔導師を取り込んでいる。そのため、特定の結界の中でしか実体を保てないという事もない。

故に、結界の中で自身に引き寄せられる闇の欠片達や、不穏を察知した魔導師や騎士が飛び込んでくるのを待つ必要もない。

 

能動的に動ける彼女は自ら空を舞い移動し、目標を捕捉したのち、逃げられないように結界を展開して事に及んでいた。

その工程を繰り返し、最初のひとりに加えて魔導師二名や、いくつかの欠片の回収をしていた。

 

だが、今回は少し毛色が違った。

 

「ここは……」

 

常のように移動していた最中、突如として自身を取り巻く周囲の光景が変わる。

それを目の当たりにした彼女は足を止め、ゆっくりと周囲を見渡す。

 

そこには空が無かった。大地が無かった。風が無かった。

 

空間としてここは存在しているが、触れて確かめられるものは何も無い。

ただ陽炎のように揺らめく闇が陰影を生み出し、彼我の差を作り出す。

それが無ければ、自分を認識出来ずにこの空間に呑まれてしまいそうな、そんな場所。

 

ここは、破壊と混沌の衝動を描き出す心象風景。

闇の書の闇が抱える元始の風景であり、彼女も求める懐かしくも心地よい闇。

どうやら自分を取り込むように結界を展開されたらしいと彼女は知る。そして、この光景を作り出した主には心当たりがある。

 

「よく来たな、下郎」

 

故に、彼女は突然掛けられた声に驚いたりはしない。隠そうともしない蔑み見下す声に気を悪くもしない。

ただ、推測通りだと納得するだけ。

 

「やはり貴女でしたか、『王』」

 

ゆっくりと振り返ったその先には、この結界を張った張本人が不遜な眼差しで彼女をみていた。

 

その姿は、現在の夜天の書、彼女達の流儀に則って言えば闇の書の主である八神はやてのそれだ。

だが、禍々しいと思わせる闇の魔力を内包し、溢れださせるその姿は八神はやてとは違う。

 

彼女こそが『理』の自分と、『力』の雷剣士と同じく闇の書の闇の構成体(マテリアル)でありながらも、特に重要な中枢の役割を持つ『王』たる三基目。闇統べる王だった。

 

「ふむ、中々に働いていたようだな。特別に褒めてつかわそう」

 

目を細めて、彼女の取り込んで来た力の総量を見届けた王は労いの言葉を掛ける。

だが、愉悦に染まる王の心には、本気で彼女の働きを称賛する思いはない。

自分の手駒が想像以上に働いたために、自身へ還る力が増す事を悦んでいるだけ。

 

この世全ては自分のものという考え。必要なのは自分の都合だけ。

どこまでも自分本位に考える。だが、だからこそ『王』として君臨していると示す姿がそこにはあった。

 

「さあ、その集めた力を我に献上せよ。そして決して砕けぬ闇の贄となるがよい!」

 

王である彼女は演説するかのように両腕を広げ、宣告する。

 

彼女達は闇の書の闇の復活。そして更なる力を得る事を目的として行動してきた。

その結果を得るために、中枢たる王に力を渡すのは当然の流れ。

王である彼女にとってそれは考えるまでもない事実。故に、この行動にも何の疑問もない。

 

「……どうにも、貴女は何か勘違いをしているようですね」

 

だが、『理』の構成体(マテリアル)である彼女にとっては違う。

差し出された手に応える事無く、代わりに無表情ながらも何処か呆れているような声色の言葉を返す。

 

「勘違い、だと……?」

 

その返事に、王の嗤いが固まる。そして形を変え憤慨の表情へと変わっていく。

 

王は自分が間違っているなどとは思っていない。

それ以前に、自分が行動するからこそ、その行動が正しいと証明されると考えている。

全ては王にひれ伏せていれば良い。全ては王を肯定していれば良い。それが王の行動理念。

 

だというのに、欠片風情、しかも自分の下僕に反論されたとあっては面白くない以上に怒りが湧く。

 

「貴女は確かに私達の中枢となるべく発生しました。

ですが、あくまでシステムの中枢です。システムの頂点として存在しているわけではありません」

 

だが、彼女はそんな王の憤りを気にもせず答える。

確かに闇の書の闇の復活には必要な存在だという部分は認める。だが、だからと言って支配する権限を併せ持っているわけではないと。

 

「そもそも、『王』として生まれた事の上に胡坐をかき、怠惰を貪るだけの貴女が砕け得ぬ闇になれるとは思えません」

 

そしてさらに続けたのは、彼女の視点からすれば、王など何の役にも立っていないという事。

ただ玉座の上で集まってきた欠片達を手にして喜んでいるだけでは意味が無い。そんなものは、与えられた箱庭の中で遊んでいるだけの子供と大して変わりはない。

 

「おのれっ、下僕の分際で王に意見する気かっ!?」

「私と貴女は、役割は違いますが上下の関係にはありません。

『王』とは貴女の役割に対する呼称であり、格としては同列に位置します」

 

故に、礼は示すが頭を垂れる理由も必要もないと彼女は答える。

 

「元より、言葉による議論は必要ありません。

貴女が自身を王と証明したいのなら、その力で私の力を奪えば良いでしょう」

 

そしてデバイスを構える。

 

そもそも、最初から議論の余地は無かったのだ。

自分達構成体(マテリアル)は闇の書の闇の復活を望むが、皆個人の思惑で動いている。

渡せと言われて素直に渡す道理の方が、余程ない。

 

また、自分達の求めるものも、力づくで得なければ意味もない。

永遠の血と怨嗟は戦いによって齎される。故に、自分達もその衝動に従い、戦い奪い合う。それが本能。

お互いを喰らい合い、蠱毒の果てにに生き残った者こそ砕け得ぬ闇たりえる。

 

自分達の求めるものは、そういうモノのはず。

 

「さあ、互いの存在を奪い合う殺し合いを始めましょう」

 

謳うように戦いの時を告げる。

今から始まるのは、共食いにして自分達を更なる存在へと高める儀式。

そのための戦いを始まった。

 

 

 

 

 

「塵芥も同然のただの一欠片風情が、生意気をほざくなぁ!」

 

王である彼女は苛立っていた。

闇を統べる存在である自分に対し、その極々一部でしかない欠片に反旗を翻されるのは業腹ものだ。

 

素直に従えば、慈悲を掛けて苦しまないよう一瞬で終わらせてやっても良かったとも思うが、今となってはそんな生ぬるい程度では済まさない。

自分の気分を害した事を後悔させて後悔させて後悔させて。

そして許しを請うてきた所を切り捨て、更なる絶望を与え、じっくりといたぶった後で力を取り込んでやろうと考えていた。

 

事実、それを実現できるだけの力は『王』である彼女には在った。

 

彼女の魔力資質は、データの基礎とした八神はやてと同様、広域型。

圧倒的な火力と攻撃範囲で一方的に殲滅するのが彼女のスタイル。

 

さらに、他の構成体(マテリアル)と比べ、『王』である彼女は発生した闇の欠片を引き寄せる力が特出している。

その結果、現在のその魔力貯蔵可能量も群を抜いている。

 

実際には無尽蔵とは違うのだが、たとえ湯水のように好き放題に魔力を使ったとしても消費し切るには到底届かない。現実的には無尽蔵と称しても差し支えない量の魔力。

そして、広域型であるために一度に放出を可能とする魔力量も桁が違う。

 

細かい制御は苦手だが、そんなものは物量と火力でねじ伏せる。

敵対者が攻撃魔法を使ってこようと、自分はそれを上回る火力で圧倒してやれば良い。

 

それはまさに、財を持つ王であるからこそ出来る戦術。

 

実際、中遠距離エキスパートの砲撃魔導師というスタイルの『理』の構成体(マテリアル)である彼女の誘導弾や砲撃でさえ、圧倒出来る。

 

確かに彼女も、今まで魔導師や闇の欠片を取り込んで魔力量は増大している。

だが、内にある魔力を放出する彼女は変わっていない。

幾ら水の貯蔵があっても、蛇口が同じなら一度に使える水の量は変わらないのだ。

 

力比べにおいて、彼女が王に勝てる道理は無い。

勝っている部分と言えば防御の出力ぐらいなものだが、そんなモノは「王」の火力の前には敗北を僅かに遅らせる程度のファクターにしかなりえない。

 

故に、王はこの戦いをただの戯れであり、自身の勝利は揺ぎ無いと思っていた。

 

「ブラストファイアーッ!」

「くぬぅっ!?」

 

だが、実際に蓋を開けてみたらどうだ。

彼女の放った砲撃魔法が自身を掠めるように虚空を撃ち抜く。その余波でバリアジャケットの一部が削り取られる。

 

王による一方的な蹂躙劇となるはずのこの場は、互いに一進一退の様相を示している。

王の力を前にしても、彼女は一歩も引かず攻撃を放ってくる。

 

……おかしい。こんなはずではないはず。そんな思いが王の頭に過る。

 

実際にはどちらが優勢に攻めているかといえば、王である彼女の方が優位に事を進めている事に間違いは無い。

 

王のバリアジャケットは、細かく削られているが、その程度は膨大な魔力による力技のリカバリーでダメージにもなっていない。

先程の砲撃では少なくない量を削られたが、それも回復の許容範囲に収まって有り余る。

 

対して彼女のバリアジャケットは数多くの損傷が見られる。致命傷は無いものの、確実にダメージを蓄積している事は傍目に見ただけでも簡単に分かる。

 

攻撃の頻度にしても、常に弾幕を張って攻撃をし続ける王。

それに比べれば、彼女の攻撃は思いだしたころにようやく放っている程度。

 

自分の方が相手にダメージを与えている。自分の方がダメージを受けていない。

戦況を見れば、このまま攻め続ければ勝てるはず。現在進行形で勝っているはず。

 

それが分かっているというのに、そんなものはどうという事は無いと言わんばかりに反撃をしてくる彼女を見ていると、勝っているという気が湧いてこない。

どうして自分の弾幕を受けても平然としていられるのかが分からない。

 

それが、苛立ちとなって王をさいなむ。

 

「はぁ、はぁ……っ」

 

そんな王に対している彼女の方は、現状の見たままの通り、然程も余裕は無い。

今も確実に魔力を削られて行っている。

 

誘導弾のような小技で制空権を奪おうにも、王はそれを上回る火力と攻撃範囲でねじ伏せてくる。

砲撃をメインに攻めようとも、絶え間なく放たれる弾幕の前にはチャージの時間を得る事も難しい。

王は接近戦を不得手としているが、それは自分も同じ事。

 

普段の攻める手立ての、その尽くが通用しない。

 

だが、それでも勝つ気に満ちていた。

 

自分ではまともに王と戦っても勝ち目は薄い事は分かっている。

故に、彼女はまともではない手段で戦っていた。

 

彼女のとった手段は単純明快。ダメージを受けても、最終的にはそれ以上のダメージを与えてやれば良いという選択。

 

攻撃を無理に避けたり防いだりしたところで、かの弾幕の前にはたかが知れている。

なら、最初から受けて逸らす。あるいは真正面から受け切れば良い。

細かく移動しようとしなければ、攻撃と防御に意識を集中できる。それなら弾幕の中においても魔力チャージぐらい不可能ではない。

 

たとえ十発受けようとも、それを耐えきって一発撃ち抜いて見せる。

被弾は上等。ただし受けたダメージは熨斗を付けて返すという、普通なら割に合わない戦術。

だが、彼女の魔力資質からくる防御力と一撃必殺の砲撃がそれを実現可能としていた。

 

自分にとって、これが最も勝率の高い戦術だと腹を括っているのだ。今更ダメージがあったとしても、わざわざ怯む必要は無い。

在るのは一撃必殺の心構えのみ。

 

攻めているのに、倒し切れない事実に困惑する王。

攻められているが、打倒の機会を虎視眈々と狙う彼女。

 

ふたり精神状態は、戦況とは比例していなかった。

 

「ブラストファイアーッ!」

 

そして、一瞬の隙を突くように放たれた彼女の砲撃が、弾幕を突き破るように放たれる。

それを王は、驚愕に目を見開いて見やる。

苛立ちから、さっさと終わらせてやろうと攻撃に意識を割き過ぎていた王には回避も防御も間に合わない。

 

「ぐがぁっ!?」

 

直撃。

 

これ以上ない形で桜色の奔流は王を呑みこんだ。衝撃が爆発となって視界を覆う。

 

一撃。

 

たったの一撃で彼女はこれまでのダメージ差を覆して見せた瞬間だった。

 

次いで、王の放つ弾幕も止まる。彼女の砲撃は一撃で戦闘を終わらせる、まさに必殺の一撃だったのだ。これで、この戦いは終わりだ。

 

「……要らぬ」

 

ただし、相手が“普通”の範疇にある存在であったら、の話だ。

 

「要らぬ要らぬ要らぬっ、もう要らぬ!!」

 

爆煙の向こうには、足元にはミッドチルダ式の円形の魔法陣、そして眼前にはベルカ式特有の三角形を基本とした魔法陣を白の魔力光で空中に描き出す王の姿。

バリアジャケットの損傷は激しい。確かなダメージを受けていたが、そのダメージを憤怒に変えて王はそこに在った。

 

「そこまで王に逆らうというのなら、跡形もなく消し去ってやろうぞ!」

 

そして、王の目前に広がるは、保有する中でも最大の砲撃魔法を繰り出すための魔法陣。

相手を取り込むには、倒してもその原型を残す必要がある故に設定しておいた非殺傷設定など切っている。加減など欠片もない。

 

防御なぞ意味の無い火力。逃げ場など最初から存在しない攻撃範囲。

言葉の通り、データの残滓、その一欠片も残すつもりは王には既にない。

彼女が集めていた力の量は惜しくはあるが、自分さえいればどうとでもなる。

もたらすのは覆す事の叶わない絶望のみ。後悔の暇も与えない。

 

「死ね。エクス……カリバーァァッ!!」

 

手にしたデバイスを振ると同時にトリガーワードを告げ、魔法を完成させる。

 

三角形を描く魔法陣、その三つの頂点から彼女の放った砲撃を超える威力の魔力が同時に放たれる。

しかもそれだけでは終わらない。各個だけでも必殺のそれは寄り合い交わり合う。

そして、極大の砲撃となって阻む物全てを無へと還しながら直進する。

 

その射線上に居る彼女に回避するすべは無い。迎撃にも意味は無い。

それでも敗北する気は無いと、持てる魔力のその全てを注ぎ込むつもりでシールドを展開する。

 

だが、そんな抵抗を嘲笑うかのように白の極光は彼女を呑みこんだ。

 

「ふははははっ。馬鹿め、全ては王たる我にひれ伏しておけば良いのだ!」

 

それを見届け、王は哄笑を上げる。

最大の砲撃を全力で放ち、先程まで抱いていた怒りや不機嫌も晴れた。

手こずらされたが、所詮は欠片。王たるこの身が本気を出せば、あの程度の雑兵など屠るのは容易いと高らかに嗤う。

あの一撃を受けて、生きているはずもないと確信していた。

 

「……集え、明星(あかぼし)」

 

故に、耳に届いた言葉は最初、単なる幻聴だと思った。

 

「な……っ!?」

 

だが違った。次いで、キン、と澄んだ音を響かせて王の手足が拘束された。

そして、その手足を縛る魔力の光は桜色。

 

在りえないと王は思う。確かに彼女は砲撃に呑まれていたのだ。無事で済むはずがない。

非殺傷設定も切っていたのだから、それはなおの事。

目の前に起こった事が信じられないまま、徐々に晴れ行く爆煙を見ていた。

 

「全てを焼き消す焔となれ……っ」

 

そこに彼女は居た。

 

バリアジャケットは見るも無残なまでにボロボロで、辛うじて原形が分かる程度。

体中の至る所に傷を負っているのか、流す血が全身を赤く染め上げる。

特に損傷が酷いのはシールドを支えていた右腕。血と損傷によって赤黒く在るそれは、肩からぶら下がるだけの無用の長物となり果てていた。

防御にその殆どをつぎ込んだおかげで、残存魔力もゼロに近い。

 

満身創痍。まさにその言葉を体現する彼女がそこに居た。

だが、驚くべくはその姿ではない。彼女は既に足元に魔法陣を展開し、魔力チャージを完了しよう所だったという事。

 

彼女は実行していたのだ。自分は王の攻撃を耐え切り、必殺の一撃を繰り出す事を。

 

普通なら、アレを耐え切っただけでも称賛に値するし、既に魔力もほぼ底をついているため、碌な攻撃魔法を使う事も不可能。逆転の手札は無い。

 

だが、彼女の最大にして最強の切り札は、自身の魔力に依存するものではない。

 

周囲に散った魔力を小さな空間ごとに圧縮し、収集する。そしてその再利用した魔力を以って放つ魔法。

魔力は殆ど残っていなくとも、周囲に散っていた魔力の残滓があれば、敵が使った魔力をも巻き込んで、自身の限界を超えた最大の砲撃を繰り出す事が出来る。

 

集束砲。それが彼女の切り札だ。

 

既に暴発直前まで溜め込まれた魔力の塊。それは彼女の魔力光である桜色の中には、王の白い魔力光も少なからず混ざっている。

先ほど放った王の魔力は自分の物と比べて扱いにくいが、それをも彼女は制御して砲撃の糧としていた。

そうして溜め込まれた魔力量は、既に先ほど王の放った最大魔法を超えている。まさに倍返し。

 

「……ルベライト」

 

既に彼女の目前には巨大な桜色の光球が形成されている。それを解き放つ前に彼女が使ったのは拘束魔法。

 

右手が使えない以上、左手のみで砲撃を支えるのだが、通常の砲撃魔法でも反動が大きいといいうのに、これは集束砲。片手では足りない。

それを補うべく、拘束魔法を使って自身の身体を固定する。

固定された状態では反動を逃す事が出来ず、ダイレクトに衝撃が身体に伝わってしまうが、勝利を得るためには必要な事と割り切る。

 

「ば、馬鹿なッ。そんな状態で撃てるわけが……!?」

 

王は焦燥に戸惑いながら、出来るわけが無いと思う。出来たとしても反動だけで自滅するのがオチだと叫び声を上げる。

無駄に命を散らす前に、諦めろとその行為を否定する。

 

「――私は私の道を征きます。貴女はここで消えて下さい」

 

だが、彼女から返ってきたのはその言葉を聞き入れる気は無いという事。

そして、自身が勝者となるという宣告。

 

その瞳に揺らぎは無い。流れる血の赤にその表情は彩られているが、いつものように事実を事実として淡々と口にする。

故に分かる。彼女は……本気だ。

 

それを知る王は、悟り、青ざめる。今、王の心を占めるのは紛れも無い恐怖。

このままでは殺されると逃れようともがく。だが、硬い拘束魔法はそれを許さない。

 

「ルシフェリオン――」

 

そんな王の抵抗を、彼女は無様と嘲笑ったりしない。

もとより、この瞬間に王の存在などどうでも良かった。

 

過去も未来も関係ない。今この場にいる自分を証明するために全力を尽くす。

それ以外に意味も必要も無い……!

 

そして、彼女の愛機であるルシフェリオンが振り下ろされる。

 

「ブレイカーァァッ!!」

 

轟音と共に、白色の混ざった桜色の輝きが巨大な柱となって王を襲った。

それは、闇と破壊の混沌の衝動を描く世界を貫く眩い閃光。

 

彼女と違い、耐えようという気概の無い王に耐えられるはずもなかった。

 

「……心滾る、良き戦いでした」

 

誰からの賞賛も無かったが、確かに彼女は王に打ち勝っていた。

 

 

 

 

「お、おの、れ……」

 

集束砲の直撃を受けて墜ちた王は仰向けに倒れ伏していた。

その姿は見るも無惨。目の焦点も合っておらず視力も機能していない様子。

辛うじて呻き声を上げるだけのその姿は、君臨する王の威厳は打ち砕かれていた。

 

「流石は『王』。まだ意識がありましたか」

 

そんな王の隣に立つ彼女の姿もまたひどい。

闇色のバリアジャケットは破損により殆ど原型を留めておらず、辛うじて残っている部位は焼け焦げている上に流した血に赤く染まっている。

魔力にも余裕が無いのだろう、普段は力強い桜色の輝きを見せる飛行魔法により出力される靴の翼も弱々しく明滅するばかり。

役に立たない右腕を抱えるように抑えながら立つ姿は、少し突けばそのまま倒れ伏してしまうことだろうと思わせる。

 

「もっとも、敗者である貴女が意識を持っていたとしても然程も意味はありませんが」

 

だが、彼女は自身の足で揺らぐ事無く立っている。

王を見据えるその表情には相変わらず感情らしい感情は浮かんではいないが、その瞳には強敵を打ち破り勝者となった者だけが持ちえる力強さがあった。

 

確かに満身創痍であるが、風が吹けば飛ばされてしまうような弱さはない、強者の貫禄を持って、彼女はそこにいた。

その威厳の前には、損傷やボロボロの衣服でさえ強者を彩るファクターとして周囲に認知させる。それだけのものを持っていた。

 

「わ、我こそが、闇を……、全てを統べる、王、なのだ……っ」

 

だが、目の見えていない王には、そんな彼女の姿など分からない。

自らの存在意義である王の尊厳にすがり付いて、魔力を集めてダメージを修復しようとする。

 

「貴女も王と名乗るのなら、あまり無様は晒さないで下さい」

「ぐふっ!?」

 

そんな王の行為を、彼女は無造作に足で踏みつけて阻害する。

普段なら魔法を使うなり何なりするところだが、彼女も今は立つそれだけで精一杯。

右腕は動かず、左腕はその右腕を押さえているために使えない。

 

故に、一番手っ取り早くて楽な手段を選んだのだが、効果の程はそれだけで十分だったようだ。

王が集めようとしていた闇の欠片の魔力は霧散して、王の傷は癒されない。

 

「敗北を素直に認められないようでは、器の矮小さを露見させるだけですよ」

「ぐ、が、ぁ……っ!?」

 

彼女はそのまま、足の裏をねじ込むようにしながら、踏みつけた腹部に力を加えてゆく。

固い靴の裏が腹部にめり込む感覚のたびに、王の口からは苦悶の声が漏れる。

 

とはいえ、最終的には王は取り込むのだ。死なれてしまっても困る。

生かさぬよう、殺さぬようダメージを断続的に与えていく。

彼女の体躯で踏みつける程度ではダメージ自体は極小レベルだが、王の回復を阻害するには十分。

 

彼女の方も時間経過と、王が引き寄せていた闇の欠片を少しずつだが取り込んでいたおかげで、だいぶ魔力が回復していた。

彼女が王を取り込む準備は全て整っていた。

 

「ルシフェリオン」

 

呼びかけると、その意図を酌んだデバイスが魔法陣を展開する。

それと同時に、倒れ伏している王の身体が崩れてゆく。身体という形を維持していた要因を弱められたために闇の書の闇で在った頃のデータへと還っていくためだ。

 

「ぐがぁぁ!? や、やめ……」

 

王は王としての尊厳などよりも自身の生存を望むというように哀願して見せるが、その言葉も彼女は最後まで発せられる事は無く、王はデータへと還った。

展開された魔法陣はそれを無為に散らす事はさせず、粒子として中空に維持する。

そして、彼女は王を構成していたデータと力をその身に取り込んだ。

 

「う、くっ……」

 

必要分は体力と魔力は回復したとはいえ、重体であった彼女にとって王の所持していた情報量はきついものがあった。

そのために発生した苦痛に顔を歪めるが、それを堪えてその全てを呑みこむ。

そして、

 

「……力が漲る。魔導が滾る。これが、私の求めていた力……?」

 

奥から溢れだすような魔力の衝動に驚き、自身の手を見ながらぽつりと呟く。

そう言えば右手も動くと今更ながらに気付く。

 

闇の書の闇が最悪のロストロギアと称されていた無限再生プログラムが不完全ながらも機能を取り戻したために、彼女の右腕は修復されていた。

いや、右腕だけでなくバリアジャケット、そして身体の至る所に在った傷も目に見えて修復されていく。

 

さらに、三基の構成体(マテリアル)の力がひとつに揃っているおかげで、闇の欠片の集束力が高まり、次々と自分の下に集まってくる。

 

その全てが彼女の力となり、戦闘で消耗した魔力を潤して、満たしてゆく。

 

「くぅっ……!?」

 

だが、あまりに膨大に過ぎるそれは、彼女の許容量を超えていた。入り切らない魔力が内側から彼女を食い破って溢れだそうとする。

 

闇の欠片だけならば、あるいは耐えられたかもしれない。だが、彼女は既に実存する魔導師三名を身体ごと取り込んでいる。

しかもその魔導師は三名ともAAAランクを超える能力を持っている。

既に許容量一杯に近づいていたのに、そこに更に構成体(マテリアル)三基分の闇の欠片を注ぎ込まれ続ければ遠からず自滅してしまう。

 

「ルシフェリオン……ッ」

 

この幼い身体では耐えられない。耐えられる身体に作り替えら無ければならない。

それを悟り、歯を食いしばり、脂汗を浮かせながら耐えつつも手にしたデバイスに新たな魔法陣を展開させる。

 

同時に、魔法陣が放つ桜色の光の中で彼女のシルエットに変化が訪れる。

 

9歳児相当だったその幼い身体は急激な成長を見せる。

体格的に二次成長期を超え、肉体のポテンシャルとしてはピークに位置する二十歳前後のそれとなる。

ショートカットであった髪は腰ほどまで伸び、風になびく。

体格の変化に伴い、バリアジャケットもその形状を変える。

 

やがて変化は終わり、桜色の魔法陣も集束する。

その場には、静かに瞳を閉じ佇む、ひとりの女性の姿。

 

「これが、復活して更なる力を得た闇の書の闇……」

 

閉じていた瞳をゆっくりと開きながら、自分が何者なのかを誰に聞かせるでもなく宣告する。

彼女こそが、『理』の構成体(マテリアル)をベースとして新たに誕生した存在。永遠の怨嗟と破壊を齎す闇の具現。

 

“砕け得ぬ闇”

 

「……足りません」

 

彼女は力を取り戻し、新たな存在として自身を確立した。

だが、現状は必要最低限の身を取り揃えただけの、仮の起動。まだ完成ではない。

そして、完成のためにはどうしても必要なものが足りていない。

 

今の彼女は闇の書とは違い、確固した自我を持ち、主を必要とせずとも自立して行動が出来るようになった。

 

だが、現状では自身で魔力を生み出す事が出来ない。それは他者から奪うしかない。

今でも相手を身体ごと取り込む事で魔力の奪取は可能だが、それでは時間がかかる上に単純に効率が悪い。

 

やはり、自身が個として在り続けるには、無限再生プログラムと並んで闇の書が第一級ロストロギアと恐れられる要因である物が必要だと考える。

 

「……蒐集行使の力。返して貰いましょう」

 

狙うのは、闇の書の闇として自分を切り捨てたかつての主。

 

八神はやて。

 

 

 




ここまでくるともうオリキャラなのでは? なんて考えも含め、自分は彼女の事は「星光さん」と呼んでます。 
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