魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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空想編3

 

現在同居している少女であるユーリは、かなり小さい。

 

一口に小さいとは言っても、成長具合が残念だとか人としての器や度量が狭いという意味では無く、単純に小柄である、というだけの話だ。

人とは違う在り方をしている彼女は、小学生の低学年ぐらいの体格から成長をする事は原則としてない。

これから先も、ずっとこのまま小さいままである事は仕方のない事だ。

まあ、当人ののほほんとしている性格と見た目は合っているのだし、特に違和感があるわけでもないのだから何の問題はない。

 

「……だが、いくらなんでもこれは小さすぎるだろう?」

 

とはいえ、だ。テーブルの上にちょこんと座っている今のユーリは、その限度を超えているだろう。

普通なら俺の腰ほどぐらいには身長はあったはずだ。だが今はどうだ。ただでさえ小さかった背丈は成長どころかさらに縮んで、むしろ手の平に乗れるサイズに。

ここまで来ると幼い少女というレベルを通り越して、むしろ女の子が遊びに使われる側である人形といった風体だ。

もっとも、ユーリの持つ柔らかさと温かみの雰囲気を、無機質な人形などと同列に見るなどと出来ようはずもないのだが。

 

しかし少し外出ついでにお土産を買って帰って来てみれば既にこの状態。玄関を開けたら小さな妖精さんがふわふわと浮いて出迎えるなんてどんなメルヘンだよ。

俺も驚きというよりもはや呆れの思いしか出てこないというところだ。

 

「はい、これには私もびっくりなんです」

 

ただ、どうやら当の本人もこの状態は予想外だったらしい。

イスの上では体が小さ過ぎて腰掛ける意味がないという事でテーブルの上に乗ってもらっていたユーリは、そこで自身もまた驚きの最中にあると主張をしてくる。

だが、そんなにのほほんとした態度で困ったねーとか言われても、あまり危機感は伝わってこない。

 

「……まあいい、とりあえず説明を要求しよう」

 

とはいえ、保護者を自負している俺としては被保護者に問題が発生した事を知らないで済ませるわけにはいかない。

切羽詰まっている様子はないのだから、この状態だからといって特に危険ではないらしい事は分かるが明らかに異常事態だろう。

おそらくは現状を正確に把握しているからユーリも落ちついていられるのだろうと思うし、ここは本人に聞くのが一番手っ取り早いはずというわけの問いだ。

 

「えと、実は自己メンテナンスをしようとしてシステムのリソースを振り分けてみたんですけど、ちょっと割合を間違っちゃったみたいで……」

「で、うっかり駆動体の維持分もそっちに回してしまったと、そういうわけか?」

 

なるほど、大体分かったような気がする。

要は駆動体……、今こうして行動している体を維持している分のシステムと魔力量が足りなくなったから、足りている分で間に合うサイズになったと、そういうわけか。

たとえて言うなら、大型の狼サイズの使い魔が省エネモードとして子犬フォームに。あるいは極度の消耗した魔導師が変身魔法で小動物の姿になって回復リソースを増やそうという話か。

 

ただ、分かったとはいってもそういう事はせめて俺の目が届くところでやって欲しかったというのが本音だ。

元々ユーリは抱えるシステムがややこしくて、常時俺の魔力を渡す補助をしてこうして日常を送っているのだ。

今回は許容範囲内で十分収まっていたから良かったものの、駆動体維持プログラムの一部変更で予期せぬ負荷がかかったりしていたら面倒になっていたかもしない。

ユーリだって馬鹿じゃない。この程度の懸念は分かった上での行動だったのだとは思うが、それでもという思いがつい視線に籠ってしまう。

 

「うぅ、勝手な事をして済みませんでした……」

 

どうやらユーリも俺の懸念に思い至ったのか、話している内に悪い事をしていた事を自覚したかのように尻すぼみに声が小さくなっていく。

そして最後はしょんぼりとした様子で、こちらに対して深く頭を下げるようにして反省の意を示していた。

 

いや、俺も無言のままに責めているわけじゃないぞ、ユーリ。

こうして何を言う前に反省して落ち込んでいる姿を見ると、なんだか俺がいじめているような気がしてきて、ありもしない罪悪感が沸々と湧いてくるのだが……。

……俺、悪い事してないよな?

 

「まあ、問題はなかったからお咎め無し、という結果論もどうかと思うが、今更俺から言う事も無いようだしな。次からは前もって相談してくれればそれでいい」

 

実際のところ、下手を打っていたら相当ヤバイ事になっていた可能性もあると考えると、ユーリの取った行動は軽はずみなものだったと言えない事もない。

これでもし何の反省もされなかったら切々と危険性について説いていただろうが、既に反省の態度は十分見えている。ならこれ以上言う事もないだろう。

 

我ながら随分と甘い裁定だとは思うが、むしろこれ以上責めるのは逆に俺が申し訳なささを感じて精神安定が崩れそうな気がする。

まったくもって、可愛いというのはそれだけ強力で特別な“魔法”だとつくづく感じる。

 

「あの、それでいいんですか?」

「ああ、構わない。しかしお前も何時までも小さいわけじゃないんだろ。その自己メンテナンスってのはあとどのくらいで終わる予定なんだ?」

 

ユーリはてっきり怒られるとでも思っていたのか、想定以上に軽い判断にむしろ困惑気味に聞き返して来ていたが、良いと判断しての発言なのだから撤回するつもりも無い。

それよりも今のユーリのサイズだと、飛行魔法が使えるから移動には困らないだろうが、物を運んだりするのは大変そうだと思う。

自分の体と同程度の大きさの本を両手で抱えてふわふわと飛んでいる姿は想像してみるとそれはそれでアリのような気もするが、さすがにずっとこのままという事はダメだろう。

あまり長引くようならこっちとしても色々と考えないといけないという事で、その辺りも踏まえて訊ねてみる。

 

「最初は日常生活の傍らに少しずつ進める予定だったし、安全面も考慮してだいたい丸々一日くらいの目安でシステムを組みましたから……」

 

どうやら半日かそこらで元通り、というわけにはいかないわけらしく、その間はずっとこのままでいるしかないようだ。

しかしそうなってくると、出来ない事も多々出てくるだろうわけで……。

 

「なるほどな。ま、色々と問題はあるだろうが、さしあたって元に戻るまで家事は俺がやるしかないようだな」

 

今のユーリではたとえ簡単な料理をしようにも、そもそもフライパンですら持ち上げる事は出来ないだろう。むしろ、うっかり焼かれる側になりかねない。

基本的には家事を分担してもらっていたが、まあこの場合は仕方が無いだろう。独り暮らしの間は毎日自分でやっていた事だ。一日ぐらいは面倒という事でも無い。

ちっちゃい妖精さんがキッチンを飛び回って食事の準備をしている光景を見てみたいという想いは多少あるが、その辺りは諦めよう。

 

「大丈夫です。その点についてはぬかりありませんっ」

 

ただ、なにやら当の本人は何やら考えがあるらしい。俺の手を煩わせるまでも無いとアピールしてくる。

随分と大層な自信だなと思っていると、ユーリはおもむろに飛行魔法を起動させてふわりと浮かびあがると、中空で静止した状態からゆっくりと瞳を閉じる。

 

「白兵戦プログラムをロード。『魄翼』を展開、巨腕を形成」

 

言って、ユーリの背後に闇のような色合いの靄のような物が浮かび上がる。それが翼のように広がったかと思えば、禍々しさを覚えさせるような巨大な腕の形を取る。

まあ、巨大な腕とは言ってもそれは今のユーリの体と比べてであって、実際のそのサイズは丁度俺の手と同程度といった具合。

なるほど、確かにそのサイズなら、日常生活に使うのには丁度いいのかもしれない。

 

「どうですか。駆動体は小さくなってしまいましたけど、こっちなら普段のままに扱えるんです。

これを使えば、ちゃんと家事も出来るんですっ」

 

どうやらメンテナンスに駆動体の維持分は回しても、白兵戦プログラムの方は回さなかったらしい。

小さな胸を精いっぱい張って誇ってくるが……、あえて言うなら、自己メンテナンスに回すリソース配分を間違っているだろ、お前。

一体何故日常では全く役に立たない白兵戦プログラム分のリソースを残し、駆動体維持分のリソースを使ってしまったのかが分からない。

 

「なるほどな。だが、やっぱり今日の家事は俺がやるからお前は大人しくしていろ」

 

まあ、やる気がある事は買ってもいいが、やはりここはユーリに大人しくしてもらっているべきだろうという考えは変わらない。

 

「どうしてですか、何か問題があるんですか?」

「問題というか、お前のソレだと力加減を誤って鍋やらなんやらを絶対握りつぶすだろ」

「何を言っているんですか。いくら戦闘では力加減の下手な私でも、そんな事をするわけが、するわけ…………、え~と……」

 

自信満々に否定しようとするも、俺と同じ未来(オチ)が見えたのか、目が泳いでいた。

そもそもとして、ただでさえユーリの『魄翼』は模擬戦をやろうとするとうっかりでクレーターをぽこぽこ作ってしまうような代物なのだ。

いくら小さくなっていたとしても効果自体は変わらないのだから、思いっ切り戦闘用の魔法をアレンジを加える事無くそのまま使って日常生活が出来るわけがないだろう?

 

「で、大人しくしているか?」

「…………はい」

 

念押しと改めて確認すると、ユーリはがっくりと気落ちしたようにしながら魄翼を仕舞ってテーブルの上に着地する。

うむ、素直でよろしい。……とはいえ、こうしてまた落ち込ませたままというのも気分が悪いな。

 

「ほら、お土産に買ってきたドーナッツだ。食べるだろ」

 

食べ物で釣るというのもどうだろうとは思うが、タイミングよく手元にある中でユーリの気を引けそうなのはこれぐらいだったのだから仕方が無い。

本当は食後のデザートにでもと思っていたのだが、これでユーリの気分が盛り上がるのなら別に構いはしない。

 

「え、ドーナッツですかっ。もちろんですっ」

 

テーブルの上にドーナッツの入った箱を置いて蓋を開けると、ユーリはトコトコと近づいてくると、淵に手をかけて中を覗きこんで瞳を輝かせていた。

嬉しそうに選んでいる姿を見ていると、やっぱり女の子は甘い物に目が無いんだなと良く分かる図だ。

 

「ほら、これでいいか?」

 

幾つか種類のある中で行ったり来たりしているユーリの視線を追うと、ストロベリー味のチョコのかかったドーナッツで視線が止まっていた。

どうやらこれがお眼鏡にかなったらしい事を把握したなら、早速それを選んで渡す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

ユーリはまた行動を読まれた事に気恥かしさを覚えているようだったが、目の前のお菓子の魅力の前には敵わず、素直に受け取っていた。

 

「見て下さいっ。ドーナッツがすごく大きいですよ!」

「いや、それはお前が小さくなっているだけだろ」

 

ユーリはドーナッツを受け取ると、自分の体が隠れてしまいそうになるそれを掲げてみせて興奮を俺に伝えようとしてくるが、そんな感想を漏らす事に苦笑してしまう。

まあ、俺も甘い物は嫌いじゃないのだからその気持ちは分からなくはない。

 

「はっ、そうだ。この体の大きさなら、もしかしたらお菓子の家に住む事という夢も実現出来るのかも……」

「そして砂糖まみれになった全身をアリに集られて真っ黒な姿になるんだな」

「幸せな夢のビジョンが一瞬で悪夢になりました!?」

 

何やら重大な事に気付いたという風にしていたが、すぐに意気消沈していた。

まあ、お菓子の家なんて実用性皆無な上、実際に住もうものなら自身の体温で溶けだした砂糖分に体中がべたべたいなるだけだろうだからな。

まったくもって、現実は無常である。

 

「はむ、もくもく……。凄いです。口いっぱいに頬張ってもまだまだ沢山ありますっ。これは凄い幸せの発見かもしれません!」

 

まあ、ショックを受けたとはいっても、目の前にあるドーナッツを放っておくという選択肢は無いらしい。

ユーリは早速ドーナッツを食べ始めると、さっきまでの不機嫌さは何処へやら。何とも形容しがたい感動を見つけたと顔を綻ばせる。

そのまま小さい口をせいいっぱいに広げるようにしてドーナッツを勢いよく食べ始める。

そして、

 

「うぷ、もう食べられません……」

 

半分どころか、未だ余裕でドーナッツの原型を残してギブアップをしているのだった。

あの体のサイズにドーナッツ一個は収まりきるわけが無いのだから、ある意味当然だ。

 

「ま、これはまた明日にでも食べるんだな」

 

食べ過ぎで動けないらしいユーリからドーナッツを取って箱に戻す。

ドーナッツも一応生菓子だが、冷蔵庫に入れておけば明日ぐらいまでなら賞味期限も許容範囲だろう。

 

「はぅ~、私のドーナッツがぁ~……」

 

いや、そんな切なそうに見送られても食べられないだろ、お前。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで時間も経過し、今日も後は寝て終わりという時間帯。

何をするではないが、何となく手持無沙汰になっている時間を過ごしているところだ。

 

「うんしょ、うんしょ……」

 

横目にみると、ユーリは料理の本を読んで、というより眺めて時間を潰しているようで、おりしもページをめくるべくえっちらおっちらと頑張っているところだった。

テーブルに本を広げ、ページの端を手にして本の端から端まで移動するようにしてページをめくっているのだが、その姿は中々に大変そうではある。

 

俺の方と言えば、ちょっとした工作の真っ最中だ。

ユーリは少なくとも今晩中はずっとあの姿のままであるらしいが、さすがに普段使っている布団で寝起きするのは難しそうだ。

なので、俺が今のユーリの体格に合わせたベッドを作っているところだ。

 

とはいっても、そう手の込んだ物を作る気はない。

手近にて発見した程よい大きさの段ボールにふわふわ素材を敷き詰めて、そこに大きさを合わせて裁断したシーツで覆って基礎を作る。

後は枕と毛布代わりになる物を揃えて完成という、見栄えを度外視した即興ベッド。むき出しの段ボールが何とも貧乏臭さを感じさせる一品だ。

本当なら裁縫やら塗装やらと手間を込めるべきだろうとは思うが、就寝時間まであまり猶予も無く、おそらく今回しか使わないだろうしなというわけでかなり手を抜いている。

そして、人はそれを単にめんどくさがっただけとも言う。

 

「おーい、ちょっとこっちに来てくれ」

「あ、は~い」

 

早速出来あがりの具合をみて貰うべくユーリを呼ぶと、料理本をひとまず閉じ、緩やかに空を飛んでこっちまでやってくる。

さて、今回の工作の出来は中々だと自分では思っているわけだが、さて、ユーリはどんな反応をしてくれるか。

 

「一応、今のお前に合わせてベッドのようなものを作ってみた。もしおかしな部分があったりしたら手直しするから、ちょっと試してみてくれないか」

「えっ、わざわざ作ってくれたんですかっ?」

「ま、見た目は相当悪いが、その辺りは大目に見て貰えるとありがたい」

「そんなっ、こうして私のために作って貰えただなんて、お手数をかけたとむしろ申し訳ないくらいですっ」

 

どうやら嬉しいとか迷惑とかいう感情よりも恐縮という想いの方が強いらしい。ユーリは手をパタパタと振って見た目の悪さなんて気にしないと言ってくる。

しかしこの様子だと、変に遠慮して使わなさそうな気もするな。……よし。

 

「何だっていいさ。作った物は使ってくれてナンボだし、その方が俺としては作った甲斐があると嬉しいわけだ。

というわけで、遠慮しないで使ってみろ」

 

こういう風に逃げ道を塞ぐように言えば、人の好意を蔑ろに出来ない優しいユーリも使わざるを得ないだろう。

 

「……わかりました。それじゃあ使わせてもらいますね」

 

そしてユーリは遠慮がちにしながらも、ベッド(仮)を使ってくれる事を了承してくれて、早速布団のようなものの上に降り立っていた。

ま、ユーリも俺の思惑に気付いているのだろうが、そこはお互いに言わないでおくのが思いやりというものだろう。

 

「うわー、なんか普段使っているお布団よりふかふかします~」

 

そりゃあそうだろう。今使っているふわふわ素材は、人ひとり分を用意するのはアレでも今のユーリが使う分ぐらいなら平気だ。

余程柔らかいのか、さっきは申し訳なさそうな事を言っておきながら、ベッドの中に身を沈めてごろごろして堪能している。

 

「で、具合の方はいかほどだ?」

「はい、これならぐっすり眠れそうです」

 

寝転がっていたところから上体を起こして段ボールのふちに手をかけて見上げてくるようにしながら、ユーリは何の問題も無いと告げて来ていた。

まあ、上機嫌な様子でニコニコと笑顔を浮かべている姿を見ていれば聞くまでも無かったような気もするが。

 

ただ、今のユーリの姿を見ていると何やら胸の奥から沸々と湧きあがってくるものを感じる。

 

「……なあ、試しににゃーって言ってみてくれないか?」

「えっと……、にゃぁ?」

 

唐突な申し入れに何の事だか分からないときょとんと疑問符を浮かべて小首を傾げているが、それでも律義に要望に応えてくれたユーリ。

その姿を見て、内より湧きあがった物が何だったのかを、俺は知った。

 

「なるほど、捨てられたという自覚のない捨て猫の図だな」

 

こう、現状を理解出来ていないけど、自分に興味を持って見ている人に逆に興味を抱いてこっちの事を見つめてくる仔猫とうっかり目があったような気分だ。

その無垢な瞳の前に心優しい小学生はノックアウトされて家に連れて帰るんだけど、親に見つかって元の場所に戻して来いとかって怒られるわけだ。

実際に段ボールに入った捨て猫を見た事があるわけじゃないが、俺の中にあったイメージと今のユーリがぴったり重なる。

なるほど、こんな風に見つめられたら連れて帰らざるを得ない気持ちがよく分かる。

 

「え、私捨てられるん、ですか……?」

 

と、俺の発言に不穏な物を感じたのか、今度は不安に瞳を揺らしながら見上げてくるユーリ。

なんかこう、家で飼えなくなったからと段ボールに入れて置いて去ろうとしたら、凄い切なげに鳴きながらこっちの事をウルウルした瞳で見つめてくる仔犬みたいだ。

本当はすぐにでも追いかけたいけど、待てと言われた事を律義に果たして段ボールの中から出てこないでいる辺りなんて、本当にそれっぽい。

……さっきは仔猫だったが、今度は仔犬属性を発揮するとは、凄いポテンシャルの持ち主だな。

 

「まったく、何を馬鹿な事を言っているんだ。そんな訳があるわけないだろ」

 

とまあ、考えが変な方向に行ってしまっていたりしたが、俺の不用意な発言で不安にさせてしまった事は否定しないといけない。

ペットは責任を持って最後まで飼うのは当たり前。飼えなくなるというなら最初から飼おうとするな。捨てるなんて言語道断だ。

いや、ユーリはペットじゃないんだが、なんにせよ捨てるなんて選択肢は俺の中に最初からありはしない。

 

「本当、ですよね?」

「家族が一緒に居るというのは当たり前の事だろ」

 

言葉で伝えて、それでもなお不安がるユーリに安心して欲しくて、指の先ででそっとユーリの頭を撫でる。

普段なら手の平を使うところだが、サイズの都合でいつもと勝手が違うので上手く撫でれているかは疑問だが、ユーリはゆっくりと瞳を閉じて受け入れていた。

その顔からは不安に強張っていた色が抜けていくように見えて、なんだか俺の方も安らかな気分になってくるから不思議だ。

 

「そう、ですね。……ふぅ、安心したらなんだか気が抜けちゃいました」

「なら俺もそろそろ寝ようと思うし、このまま寝るか」

 

時計を見れば、ぼちぼち良い時間。別に起きていようと思えばまだまだ余裕ではあるが、別段、ユーリと話しをするのは今しか出来ないというわけじゃない。

明日も、それ以降もずっと続いていくのだ。なら、今はもう休んでも構わないだろう。

 

「はい、そうします。……あの、寝る時に段ボールの蓋を閉めないで下さいね」

「いや、何でだ」

 

そしてユーリの方も賛同してくれたわけだったが、最後にひとつお願いをされてしまった。

ただ、その意図が分からなくて、ユーリの頭を撫でていた手を止めて、真っ直ぐに向かい合うようにしながらその真意を訊ねる。

 

「だって、そんな事は無いって分かっていても、寝ている間に蓋が閉められて、開けてみたら知らないところに捨てられていたらって思うと不安、だから……」

「ああ、分かったよ」

 

どうやら、俺は知らない内によほどユーリの事を不安がらせてしまっていたらしい。

全く手痛い失敗をしてしまったと思いつつ、拒否する意味も意義も無いのだから即断に了承する。

 

「ホントですよ。蓋は閉めないで下さいよ。閉めたら絶対いやですよっ。絶対の絶対に閉めないで下さいねっ」

「そんなに何度も念押しされなくても、言いたい事は分かったよ」

 

まったくそんなに言われたら嫌でも分かるじゃないか。

 

「それじゃあ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 

 

何だかんだといい合って、ユーリは段ボール箱の中に横になって身を沈めてゆっくりと瞳を閉じていた。

その姿をなんとなしに見て居たら口元に笑みが浮かんでしまい、そしてそんな自分に改めて苦笑しつつ、俺はそっとその段ボールの蓋を閉めるのだった……。

 

「……ってっ、何で閉めているんですか!?」

「え、前フリじゃなかったのか?」

「前フリってなんですかぁ!?」

 

 

 




~路上にて~

お腹を空かせたミニゆーりが、仲間にして欲しそうに段ボール箱の中からこちらを見上げてきている!
どうしますか?

→仲間にする
 お持ち帰りする
 闇統べる王を殴りに行く
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