魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド= 作:のぶな
フリーのデバイスマスターという仕事はあまり安定しているとは言いがたいが、義父の遺してくれた伝手とコネのおかげでそれなりの仕事をさせてもらっている。
ただ、最近は義父ではなく、俺の作を評価して店に来てくれる人もぽつぽつ出てきた事が嬉しく思う。
まだまだ義父の背は遠い。それでもいずれは義父に並び、超えて行く事が目標であり今の俺が出来る孝行だと思う。
右も左も分からず途方に暮れる中で出会った憧れと、遺してくれた物に報いるために、俺はデバイスマスターの仕事に誇りを持って取り組んでいるのだ。
……改めて言おう。俺の職業はデバイスマスターだ。技術屋であり、断じて戦闘魔導師ではない。
「『魄翼』の展開に不備なし。──私はもういつでもいけますよー!」
場所は住み慣れた街から離れた、鉛色に煌く海を眼下にする空中。
白兵戦プログラムによって生み出された闇の翼を羽ばたかせ、何が楽しいのか、ユーリは妙に張り切って準備万端を告げてくる。
その姿に思う。どうしてこうなった。
事の始まりは、仕事の依頼もひと段落し、予定を見れば次の仕事も入っておらず丸々フリーの日が出来そうだと思った時の事だ。
せっかくだから何時も家の事をやってくれているユーリの事を労う意味も込めて、ふたりでちょっと出かけがてらに何かしないかと言ってみたのだった。
俺としては異世界への渡航許可をとって、自然豊かな無人世界にちょっとしたピクニックにでも行けたらいいなと思っての発言だった。
草原や湖畔といったスタンダートは勿論、大パノラマで見る大瀑布や自然の神秘が煌く水晶洞窟の探検。
いきなりの思いつきだったり色々と問題もあったりしたが、それでもユーリと一緒ならそれなりに楽しめそうだと内心で思い馳せていたのだ。
だが、何をどうなったのかは分からないが、何故か俺はユーリと模擬戦をする事になったのだった。
……いや、本当に過程がすっ飛ばされているが、俺にも過程がよく分からないのだからしょうがない。
ただ、ユーリに「すみません、やっぱりダメですよね……」としょんぼりしながら言われて、思わずそんな事は無いと言ってしまったのが決定的だったのは分かるのだが。
とりあえずは今更覆す事を言うつもりは無いのだが、それでも正直な所を言えばユーリには悪いが俺はあまり乗り気では無い。
重要な事だから何度でも言うが、俺はデバイスマスターだ。教わった魔導師としてのスタイルにしても後衛・支援型であり、そもそもとして戦闘は本分ではない。
対するユーリは、元が闇の書の残滓などという第一級のロストロギアの断片であり、おかげさまでデバイスを使わなくても強力な魔法を行使できるという仕様。
現在は大幅に弱体化しているが、それを差し引いても戦闘能力はとんでもないレベルにある。
うん、勝てるわけねーだろこれ。
スペックだけ考えてみれば結果は火を見るよりも明らかというこの状況で、逆境にこそ燃え上がると戦いに臨めるほど俺は熱血では無い。
「……ふう、まったく世の中ままならないな」
遣る瀬無さは一入だ。だが、それでもやるというのであれば全力を尽くすのみ。
ひとつ大きく息を吐き出して、ここまで延々と巡っていた余計な思考をクリアにするようにして集中力を高める。
まあ、俺は確かに熱血ではないが、それと同時に負けず嫌いという自覚もある。やるならやる以上、ひと泡ぐらいはふかせてやろうじゃないか。
「デバイス『R2-B』並びに『CLD』、起動」
俺の使うデバイスはふたつ。
ひとつは右手に装着するように身につけている小型のクロスボウ型のストレージデバイス。
もうひとつは甲の部分に蒼いデバイスコアをあしらった、左手に嵌めているグローブ型のブーストデバイス。
基本は規格品を組み上げたものであるため、オンリーワンを求めて作りだされた最高品質のデバイスと比べたら性能的にはだいぶ見劣りする。
だが、俺が初めて自分で作り上げてから何度も改修を重ねてきた物であり、長い付き合いもある。俺が最も信頼を預けられるデバイスだ。
「……あの、こういう事を言ってはなんなんですけど、あなたのデバイスの名前ってだいぶ味気ないですよね」
「そこは放っておけ」
俺にネーミングセンスを求めるな。
……そんな風に最初こそ普段の延長のようになんて事は無い与太話をしていたが、既に互いに戦闘準備を整えて向かい合っている。
後は会戦の合図を待つばかりという状況にあって、二人とも徐々に意識が戦いのそれに切り替わっていくように言葉数は少なくなっていく。
「……」
そして、ふいに話が途切れた。それが合図となったかのように空気が張り詰めていくのを感じる。
俺からは何も言う事は無く、ユーリもここに至って、ただの会話を続ける気は無いようだ。
ならば、後のお膳立ては必要ない。お互いの魔導を競い合うだけだ。
「さあ行きますよ……!」
ここにいるのは俺達二人のみ。故に、会戦の合図を上げるのも俺達のどちらかしかありえない。
先に動いたのはユーリ。背後に控えさせていた武装を変化させ、今まさに飛びたとうとするかのように闇の翼を大きく広げられる。
ユーリの武装である『魄翼』は白兵戦プログラムの名が示す通り、白兵戦において力を発揮する。
その力を十全に発揮できる接近戦を望むべく、この見合っていた遠距離戦には近く、近距離戦には遠い中間距離を踏破しようというのだろう。
「悪いがそれには応えられないな」
だが、逆に後衛・支援型である俺にとって、接近戦に付き合うつもりは毛頭無い。
足元に魔法陣を展開すると共にストレージデバイス『R2-B』を装着した右手でユーリの姿を指差すようにしてターゲットを取る。
ストレージデバイスは自律思考能力を備えたインテリジェントデバイスのように、状況に応じて機能をオート発動する事は無く、全ては術者自身の判断で行う必要がある。
また、ベルカ式に代表されるアームドデバイスのようにカードリッジシステムによる瞬間的な魔力ブースト機能も無く、武器としての耐久性も劣っている。
だが、それらの機能を補って情報処理能力の高さに優れているのがストレージデバイスの強みだ。今も、高速処理によって俺の望む魔法の術式を瞬時に組み上げてみせる。
「──ブラックヘイズッ」
まさにユーリが一歩踏み出そうとした瞬間、その鼻先に遠隔発動による簡易魔力爆発を引き起こす。
爆発とは言うが込めた魔力量も少ないそれでは、威力は低いどころか無いに等しいレベル。防御の出力の高いユーリにはまず間違いなくノーダメージだ。
「これは……煙幕!?」
だが、俺もダメージを与えるつもりは最初から無い。
爆発によって発生した、俺の魔力光であるダークグリーンの入り混じった魔力の霧が俺達の間に立ち込め、互いの姿を覆い隠す。
簡単ではあるがこの霧にはジャミングの効果も付加してある。さすがのユーリにしても視界が働かず相手の位置も感知出来ない状況で突撃する気は無いらしい。
俺の方からもユーリの姿も位置も確認出来ないが、唯一伝わってきた相手の反応である声によって出鼻を挫かれて足が止まっている事を悟る。
その間に、此方の位置情報を悟らせないように静かに、しかし全力でユーリとの距離をとるべく後方へ飛ぶ。
そして煙幕が晴れて互いの姿が見えるようになったそこにあるのは、射撃系の魔法の独壇場とも言える、俺が唯一ユーリに対抗できる可能性のある距離だった。
「アローセット。──ショット!」
このまま主導権は渡さない。グローブを嵌めた左手で右手のボウガン部分をなぞるようにして弓に魔力によって作られた矢を番える。
狙うのはようやく俺の姿を確認できたらしいユーリの姿。何か行動をさせるのに先んじて即座に矢を放つ。
デバイスの補助もあって、狙いは瞬時の内につけられている。高速直射型の魔力弾である魔力の矢はそのまま一直線にユーリへと迫ってゆく。
「これくらい、避けるのはわけないですよっ」
ただ、遠距離からの見合った状態から放たれた魔力弾は、いくら高速飛翔しようとも軌道が一直線だけであるのなら対処も容易い。
複数同時ならまだしも俺が放ったのは単発。これなら魔力を少なからず消費する防御より回避の方がいいと、ユーリは余裕を持って矢を避けるために大きく回避運動を取る。
その判断は、直射型の射撃魔法に対するセオリー通りなのだから間違っていない。
だが、だからこそそれが俺の狙い目となるのだ。
「──“スナイプ”ッ」
ユーリが回避を終えて視線を矢から逸らして俺を見た瞬間、左手のブーストデバイスである『CLD』から矢へとコマンドが送られる。
その命令に従って『直射型の射撃魔法』という外装が剥がれ、内に封じていた『誘導操作弾』が機能を取り戻す。
暗い緑の閃光は鋭角の軌跡を描いて、回避したと一瞬の油断をしたユーリを背後から急襲する。
「痛ッ!?」
意識の外からの攻撃に咄嗟に反応はできなかったようだ。背後からの不意打ちという形になったそれは防御の比較的薄い箇所を的確に打ち抜いた。
まさか避けたはずの攻撃に撃たれた事に驚いて、ユーリはそのまま背後に意識をむけようとする。
だが、突然のアクシデントに相対している俺から意識を離すというのは悪手に他ならないぞ、ユーリ?
「アローセット。──ショット!」
無論、その隙は付け込ませてもらう。動揺から足の止まっているユーリに追撃を仕掛けるべく、再び左手で魔力の矢を弓に番え、撃つ。
高速直射の矢がターゲットに向けて一直線に飛翔する光景は、先ほどの射撃の焼き回しのようにユーリを狙い撃つ。
「むぅ……、えいやっ!」
さっきの攻撃のからくりを見破れておらず、さらに考える間も与えられずに迫る次なる攻撃に、ユーリは状況の悪さに眉根を寄せる。
だが、それでもさっきはこの矢を避けた事が要因にあると思ったか、今度は避けるまでもなく矢を叩き潰そうと、闇の翼を異形の腕へと変化させて振り下ろす。
ああ、全くの俺の狙い通りのリアクションだな、ユーリ……!
「──“プロテクション”ッ」
振り下ろされた凶爪は矢には届かない。俺が、届かせない。
発動させたのは、防御膜によって全方位からの攻撃に対して効果の高い防御魔法の一種。
それがブーストデバイスである左手のグローブが指し示す先、今なおユーリを貫こうと行く矢より溢れ出すように出現、包み込むようにして展開される。
ただ、一定方向に出力を絞った故の堅固さを持つ魔法陣の盾とは違い、受け止めて逸らす事を主眼とされている防御膜による防御魔法は、正直に言えば防御力はだいぶ低い。
対するユーリの『魄翼』による破壊力の方が圧倒的に上。俺の展開した防御魔法は薄いガラスが砕け散るようにいとも容易く破られ、ほんの一瞬しか阻む事ができなかった。
「あうっ!?」
だが、高速飛翔する矢にすればそのほんの一瞬で十分。まさに異形の腕を掻い潜るような形で、今度は真正面からクリーンヒット。
たまらずユーリは僅かにたたらを踏むが、そのほんの僅かな時であってもストレージデバイスの高速処理能力にすれば魔法のチャージを完了させるには十分だ。
「アローセット。──ショット!」
次いで放つ三発目の矢。最初は避けた際の隙を狙い打たれ、二発目は迎撃に振るった一撃を掻い潜られた。
未だ正体の知れない魔力の矢に、回避も迎撃も通用しなかった。ならば次の矢にとるべき対処は?
「トライシールド!」
ユーリの示した解答は防御。目の前にベルカ式特有の三角形を基調とした魔法陣による盾が形成される。
確かに俺程度の攻撃力ではあの盾を突破する事は叶わないな。
「──“ロック”ッ!」
だが、その対処もまた“ハズレ”だ。コマンドを受けた矢は“矢”という構成を瓦解させ、代わりに伸びるのはダークグリーンに煌く一条の鎖。
それは意識を持つ生きもののように展開した盾の脇をすり抜けて、ユーリの体に絡み付いてその自由を奪い去る。
拘束魔法によって宙に縛り付けられたユーリは絶対的な隙を晒した。
「行くぞッ──スパイラルショット!」
足元に補助の魔法陣をセットしつつ、射撃の傍らにリソースを割いて待機状態にさせておいた魔法を起動させる。
それは高速で処理される術式によって、ボウガンに魔力が一気に収束させてゆく。
魔力量のそう多くない俺には、単純に大魔力を叩きつけて大ダメージを与えるという砲撃魔法は不得手な側にある。だが、相手に大打撃を与えるのはそれだけでは無い。
番えられた魔力が螺旋を描くように高速回転する。硬さと鋭さによって貫通力を増した一撃で一気に撃ち抜く……!
「う……、やぁぁぁぁッ!!」
貫通力によって下手な砲撃を上回る威力を得た直射弾。ユーリに直撃しようとしたまさにそのとき、ユーリは力ずくで身を縛る鎖を引きちぎった。
そして回避も迎撃も間に合わないと見るや、闇の翼に体を包み込むようにして防御体制を整えて見せたのだった。
直後、螺旋を描き突き進もうとする矢が、闇色の守りに激突する。高速回転する鏃は己の役割を果たそうと激しく火花を散らす。
「はぁっ!!」
威力を一点に収束させた俺の一撃はユーリの堅固な守りを穿つように先端が闇の翼による障壁に押し込まれる。
だが、あと少しというところで閉じていた闇の翼が勢いよく雄雄しく広げられる。その衝撃によって俺の矢を弾き飛ばしていたのだった。
さっきの拘束魔法を破った時も思ったが、なんとも清々しいまでの力技だった。俺との間にあるスペック差を見せ付けられるようで嫌になるというものだ。
「今のは、一体……」
ただ、それでもさすがにノーダメージというわけには行かなかったようだ。螺旋の矢によって削り取られた魔力の余韻に痺れているようにユーリはその場を動かない。
変わりにその表情に浮かんだのは疑問。ダメージを与えた矢もそうだが、それ以上にその前に放たれた三本の矢が一体なんだったのだろうと思っているようだった。
まあ、直射型魔法だと思っていたものが、途中で性質を全く別な物に変えたというのは驚くのは当たり前といえば当たり前か。
それでこそ小細工を弄した甲斐もあると、内心で悪戯が成功した事にほくそ笑むような思いを抱きながら、俺はユーリの疑問に応えるように種明かしをする。
「俺の得意とする魔力資質は『圧縮』だ。それぞれ誘導弾、防御魔法、拘束魔法の術式を圧縮、矢の魔力弾に追加装填してクロスボウのストレージデバイスで放った。
そしてブーストデバイスの『魔力射出及び射出魔力制御の補助』という特性によって、遠隔操作から圧縮を解凍したというわけだ」
俺が義父から教えてもらった魔法は、誰かを倒す魔法でも誰かを守る魔法でも無い。『誰かを支える』魔法だ。
戦場のどんなに遠くにいても、その人に立つ意思があるのならそれを手助けする。そのための力を自分が何処にいようとも届かせる。そんな魔法だ。
本来ならブーストアップ系の能力向上の魔法や回復魔法を圧縮、矢にして後方から最前線の味方に援護魔法を届かせるというスタイルだ。
それを今回は誘導弾や防御魔法、拘束魔法を応用したというわけだ。
「ストレージとブーストのデバイスを二つ使っている理由がそれ、というわけですか。勉強になります。……ただ、そんな大事な事を今教えてくれてよかったんですか?」
すらすらと提示された疑問に対する答えに、ユーリは心底感服したと尊敬の眼差しでオレの事を評価してくる。
だが、この模擬戦後の反省会で明かされるならともかく、未だ戦闘中という状況で手の内を明かしては相手に対処されるだけなのではと気にかけてくる。
まったく、何も言わずにしておけばいいものの、律儀に訊ねてくる辺りはいかにも真面目なユーリらしく思うものだ。
「別に構わないさ。むしろ、これをお前が知った今からこそが本領を発揮できるというものだぞ?」
とはいえ、その辺りを考慮した上で教えているのだ。ユーリの心配は無用の長物でしかない。
意図が全くわからないと困惑を浮かべているユーリに対し、あくまで不敵に笑ってみせながら言葉を続ける。
「確かに俺の矢に相応する対処をすれば、残念ながらそんなに威力も無い魔法だ。お前ならどうとでもなるだろうさ。
だが、俺が追加魔法を発現させるまでの『矢』を見て、そこに圧縮して込められた魔法がなんであるかをお前に見極められるか?」
誘導操作弾を矢としていたなら、回避行動をされたならその瞬間を狙い撃つが、防御されたら簡単に防がれる。
防御魔法を矢にとしていたなら、迎撃行動をされたならそれを防ぎつつ矢を届かせるが、避けられたらそれで終わり。
拘束魔法を矢としていたなら、防御をされてもその上から丸ごと捕らえるが、先に砕かれれば捕らえる事は出来ない。
対処さえ間違えなければ何の問題も無いが、逆に対処を間違えれば痛い目に遭う。それはすでにユーリが自身で実体験済みだ。
だが、圧縮した魔法は直射弾の性質に隠れるため“矢”の時点では殆ど違いは無い。故に込められた魔法が何なのかを知るには、俺の思考を読まなければならない。
「さあ、楽しいクイズの時間だ。次に俺が撃つ魔法はどれだと思う?」
言って、再び魔法を矢として弓に番える。ストレートに行くか、裏をかくか。あるいは裏の裏を想定した魔法を込めているかもしれない。
俺の考えを読み切る事が出来ればユーリが一気に有利になるが、間違えれば再び痛い目に逢って貰う。
さあ悩め。最善手が何なのかを模索して思考を巡らせろ!
……と、ここまで言えば、あまり人の事を疑うような事をしないユーリの事だ。馬鹿正直に矢に偽装された魔法がなんであるかを考えを巡らせるだろう。
だが、一見両者に平等に見えるジャンケンを模したようなこの戦略は、実は最初から俺の優位な関係にある。
例えば、俺が拘束魔法を矢に乗せて放ったとする。それをユーリは迎撃をすれば有利になり、逆に防御をすれば俺の有利になる。
だが、回避行動を取った場合、既に矢を放って自由な行動を取れる俺に対し、ユーリは回避行動に割いた時の分だけ次の行動に遅れが出る。
つまり、俺からすればユーリが当たりを引かない限り、こっちが有利、あるいはやや有利な状況になるという実に不平等な選択なのだ。
絶望的とも言える能力差がある以上、正攻法では俺はユーリに勝てない。なら正攻法ではない手段を取ればいい。
こうやって話術も交えてユーリの思考を誘導し、読みあい勝負に見せかけた不平等な土俵に引っ張り上げて活路を見出す。これが、俺の戦い方だ。
込めた魔法は一巡した。故にこの四発目からが本当の勝負。
一応は三択の内、二択が俺の有利ではある。だが、もし最後の一択をユーリに選ばれてしまえばその時点で流れは向こうのものになってしまう。
そうはさせないためにマルチタクスを駆使してユーリの次の行動を予測するべく思考をフル回転させて矢に込める魔法を選択する。
ユーリは防御の出力が高い分、機動性が劣っている部分がある。この状況であえて回避行動をとるような意表を突く真似はしないだろう。
ならば俺が選択するのは防御にしろ迎撃にしろ、こちらの有利になる選択肢。
「アローセット。──ショット!」
番えた矢に防御魔法の術式を圧縮して追加、そのまま直射型魔力弾として放つ。それは何時も通りに追加された術式が何であるか見て取る事は不可能だ。
さあどうすると奔る閃光の向かう先を認めると、そこに居たのは片手を大きく振りかぶるユーリの姿。
どうやら迎撃を取るようだが、それならば俺の勝ちだと思いながら防御魔法を発動させるべく遠隔操作によるコマンドを矢へと送る──
「セイバーッ!!」
「な……」
──確かに俺は防御魔法を起動させた。ダークグリーンの輝きは来るべき衝撃から矢を守るように展開されていた。
だが、ユーリの放った長大なリーチを誇る圧縮魔力刃『エターナルセイバー』は、その防御などまるで意に介さないように丸ごと矢を叩き落としていた。
驚き目を見開く俺に対し、余韻に浸るようにユーリは燃える闇の炎を形にしたような魔力刃を振り抜いた態勢のまま、言葉を紡ぐ。
「確かに私ではあなたの考えを読みきる事はできません。だから……、全部問答無用で叩き潰します!」
……理不尽だ。凄い理不尽なヤツがここにいた。
なんだよその、ジャンケンにおいて相手を全力の右ストレートでぶっ飛ばして、こっちがパーを出したとしても無理矢理に勝ちをむしりとろうというノリは。
……いや、三択勝負をせざる得ないと思考を誘導しようとしたところを、新たな選択肢を自分で生み出したユーリの柔軟な思考を褒めるべきか。
まあ、どちらかといえば考えても分からないからとりあえずやっちまえ的な感の割合も多そうなんだが。
「ちっ。……アローセット。ショット!」
だが、なんにせよユーリの取った手段は俺の目論見を真っ向から打ち破る考え得る限りで最善手である事には違いない。
舌打ちをしつつも、まずこの間合いなら白兵戦プログラムを纏うユーリに取れる手段は少ない。今更どの程度の効果が出るかは分からないが、それでも再び矢を放つ。
「もうその手は通用しないですよ!」
そしてユーリはやはりというか、俺の矢に込められた物が何であっても関係ないとエターナルセイバーの魔法で全てを丸ごと薙ぎ払う。
未だ距離があるため、いくら長大とはいえ俺のところまでは届かない。それでもその一撃は確実に俺の放った矢を掻き消してしまう。
そして彼我の間にあった障害物は全て無くなったと、ユーリは一気に間合いを詰めるべく高機動魔法で高速で突っ込んでくる。
この勢いであれば、たとえ最初のように目くらましの煙幕を張ったとしても問答無用で突き抜けてくるだろう。
そうなってしまえば見える結果は分かり切っている。俺は焦燥に駆られ苦虫をかみつぶしたような想いが湧きあがってくる。
それが顔に出ていたの見たのか、ユーリは此処が勝負どころであるとしたかのようにさらに意気を上げて速度を上げてくる。
「……なんてな」
だが残念。実はここまで織り込み済みだ。
確かにエターナルセイバーを使われた時は驚いたが、本気で勝とうとしたら俺の火力の低さとユーリの防御力では千日手染みた長期戦になる事は予想出来る。。
そんな中でユーリが対処法を見出すのは時間の問題だ。予想よりだいぶそれが早かったがそれだけだ。
そして手段は何であれ遠距離戦での対処が出来たなら、後はユーリの得意な距離である接近戦を望んでくるだろう事は分かっていた。
まあ、ここまで想定通りになれば我慢できずに思わず笑ってしまうところなわけなんだが、それはさておき隠し持っていた手札をオープンにする。
「ショットガン・ボルト!」
圧縮して隠し持っていた魔力弾を前方に向けて扇状に無数ばらまく。既に好機とみて加速してきたユーリは止まれない。
一発一発は大した事は無くとも数が揃えば脅威になる。望む望まないに限らずその渦中に飛び込んでしまったユーリにタイミングを合わせて一気に圧縮を解凍する。
「うあぁぁっ!?」
結果は大爆発。それぞれが連鎖反応するように炸裂する魔力弾によって生み出される衝撃の嵐にユーリは成すすべも無く飲み込まれて行く。
「フルドライブ、発動!」
繰り出すのは必倒の一撃。此処で決めるとデバイスのリミッターを一時解除、限界出力で魔力を行使する。
それに伴いR2-Bの機構を変換。デバイス内に格納されていたパーツで強化装着する事によってフルドライブモードである大型のクロスボウ型となる。
「悠久の円環よ、我が手に宿れっ。其は輝きを謳う輪舞の旋法!」
収束、硬化、加速、貫通、螺旋……。円を描くように配置された各種ブーストアップの魔法が、相互に干渉する事でエネルギーを増幅し合う。
今にも俺の制御を離れて暴発しようとする力を圧縮、矢の形状に押し込めて『R2-B』に番える。
腕全体をカタパルトのように打ちだすべく肩から手の先までをユーリまで一直線に結ばれるように伸ばす。
さらに発生する衝撃を逃がすためのラインとして肩の後ろからダークグリーンに煌めくフィンが展開される。
片翼を背負い、真っ直ぐにユーリを見据えながら魔力チャージの全てを終える。この時点でストレージデバイスとしての演算能力の全てを費やして制御している。
故に、最後のトリガーはブーストデバイスである『CLD』で引くべく、真っ直ぐに伸ばした腕を支えるように左手を添える。
さあ行くぞ、これが俺の繰り出せる最大にして最高の一撃だ!
「乾坤一擲ッ。──サウザントブレイバーッッ!!」
反動の衝撃が右腕を突き抜けて走り、展開したフィンから圧縮魔力の残滓が廃棄されるのを感じながら、俺はただ前だけを見つめる。
持てる魔力を極限まで一点集中させて空を奔る一条の閃光は、掛け値なしの会心の一撃。音速を超えるとも思える弾速に人の反応速度に逃れるすべは無い。
撃ったその直後には既にターゲットに到達したそれは、ユーリの堅固な守りすらも撃ち貫くべくひた走り、そして魔力同士の衝突による反応爆発を引き起こす。
「はぁ、はぁ……。やったか?」
その光景を、急速な魔力喪失から来る疲労感に肩で息をしながら見て、これ以上無い手ごたえを感じる。
最初の煙幕からの一連の流れは、全て想定していた通りに運び、最後の掛け値なしの全力の一撃が直撃をしたのを目にしたのだ。
やり切ったという達成感も相まって、不覚にも笑みがこぼれてしまう。
「うぅ、痛いですよ~……」
「な、に……っ?」
だが、そんな余裕も聞こえて来た声に凍りつく。
まさかという想いが胸中に湧きあがる感覚に狼狽を覚えながら、ゆっくりと晴れ行く爆煙の先を見やる。
そしてそこに居たのは、防護服の端々が多少煤汚れているが、ちゃんとその場に直立しているユーリの姿。
というかちょっと待て。なんでお前その程度のダメージなんだよ。今のは俺に繰り出せる最大攻撃だったんだぞ。
それがその程度で済むだなんて、どんだけ廃スペックなんだ。
「……ったく、勝てるわけ無いだろ。俺の負けだ」
ああもう、ユーリの五体満足な様子に、心の片隅で勝って家主の威厳を見せてやろうと密かに息まいていた自分自身に馬鹿らしくなった。
既にやる気も完全に霧散した。これ以上続ける気は無いと両手を上げて降参のポーズを取る。
「えぇ~っ、ここからが本番じゃないですかーっ」
「馬鹿言うな。今ので俺の魔力もすっからかんだ。これ以上は無理だ」
俺の態度に不満そうなユーリではあるが、そこは諦めて貰おうという事で、魔力の消耗という半分真実の理由をでっちあげて断りを入れる。
というか久しぶりの全力戦闘で本気で疲れた。もう帰って寝たい。
「……うぅ、勝ち逃げなんてずるいですよ」
それでもまだ納得は出来ないらしいユーリは、拗ねたような声色で抗議してくる。
まあ、ひと泡吹かせるという目的を達成した俺に対し、いいところが全くなかったユーリは不完全燃焼な事も分からなくは無い。
「ま、今回はお前の課題も見えたって事で、もう少し力任せ以外にも考えるんだな」
だが、ここで取り合ったら文字通り倒れるまで模擬戦を続ける事になってしまう事は目に見えている。
だから此処はあえて心を鬼にして、ユーリには諦めて貰おう。
「……わかりました。じゃあ次こそは負けませんよ!」
……あれ、何で再戦する事になっているんだ?
にっこりと無邪気な笑みを浮かべるユーリに、未来の自分に黙とうをささげたい気分になるのだった。
実は俺くんの最強攻撃はレイジングハートクラスのデバイスを射出、着弾時に内蔵したカートリッジシステムをオーバーロードさせて大爆発を引き起こすというもの。
ただ、これを使う=高級品デバイスの使い捨てで財布も死ぬので基本使用不可という裏設定もあったり。
そして今回でユーリ編も終わりとなります。次回はネタです。