魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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閑話休題、書き捨て御免の一発ネタです。


一発ネタ編
ある意味TSしたマテリアルズ


 

僅か一週間前、闇の書と呼ばれたロストロギアが最期を迎えた。

それにより、永きにわたる負の連鎖もようやく終わりを迎える事が出来たかに思えた。

 

だが、ひとつの終わりは新たなる始まりを告げる鐘の音となっていたのだった。

 

闇の書を巡る決戦の舞台となった海鳴市で、正体不明の魔力反応がいくつも発生をしていた。

それは打ち砕かれたはずの闇の書を闇の書たらしめていた存在である無限再生プログラム、通称『闇の書の闇』が自らを再構築しようとしていたのだった。

砕けた闇の書の闇の断片は『闇の欠片』となって、闇の書に関わった人の記憶を再現する事で実体を得ていた。

 

このまま放っておけば、断ち切られたはずの負の連鎖が再び始まってしまう。

そんな事をさせるわけにはいかないと、現地在住の魔導師の協力も得た時空管理局は事態の解決に向けて動き出す。

 

次々と発生する闇の欠片をその都度倒すより、大元である発生源をなんとかしなければこの事件の解決をすることは難しい。

そこで闇の欠片の発生の分布や状況から推測して発生源がいるであろう地点を割り出し、強襲をかける作戦が立てられる。

 

陣頭指揮を執るのは弱冠14歳にして執務官の役職を担う少年、時空管理局L級艦アースラ所属のクロノ・ハラオウン。

さらに現地協力者である高町なのは、フェイト・テスタロッサの両名を加えた一行は、闇の欠片の発生源がいるであろう結界へと突入する。

 

そして3人は出会う。闇の欠片の発生源であり、独自の自我を目覚めさせた防衛プログラムの断片である構成体(マテリアル)達と。

 

「ふはははは~っ。良く来たな少年少女達よ! 歓迎のデモンストレーションだっ。このっ、逞しき筋肉の躍動を心行くまで見るが良い!!」

 

「え?」

「え?」

「え?」

 

最大級の警戒と共に突入した結界の先で3人を出迎えたのは、上半身裸の男が自らの肉体を誇示するべく次々にポージングを決めていく姿だった。

煌めく白い歯を湛えた満面の笑顔には善も悪も関係ない。ただ自らの存在を証明するかのように筋肉の素晴らしさをこれでもかと見せつける。

そのあまりに予想外過ぎる相手の行動だけでも困惑を覚えるには十分であったが、更にそれを成しているのが自分達の知っている人の顔だというのが余計に拍車をかける。

 

「グレアム、提督……?」

 

そう、今もなお胸の筋肉をピクピクと動かしご満悦な表情を浮かべているのは、時空管理局の提督であるギル・グレアム氏と同じ顔だった。

かの人物は初老に入ろうかという年の頃であり、その年齢に見合うだけの落ち着きと思慮深さを持っている。

だが、目の前で日に焼けたかのような浅黒い肌を惜しげも無く晒してポージングを決める人物の姿はグレアム提督とのギャップが有り過ぎた。

 

特にグレアム提督を人生の師として尊敬していたクロノにとっては衝撃に過ぎた。

というか、むしろドン引きしていた。心情的には何してんだよアンタといったところだ。

心の中での呟きとはいえ、普段のクロノであったなら使わないような口ぶりになってしまうぐらい、絶賛混乱中だった。

それはなのはとフェイトも同様であり、なんだかもう、このまま帰っていいですかと言いたげな雰囲気を醸し出し始めていた。

 

「ご、ごめんなさいっ、彼にはみなさんを混乱させるつもりはないんですっ。本人的には最大級の歓迎なんですっ。気持ちは分かりますがあまり引いて上げないで下さいっ」

 

そんな突入メンバーの機微を感じ取ったのか、なおも空気を読まずポージングを続ける男性とは別に現れた小柄な少年が必死になってフォローしようとしていた。

生来の気質からあまり気の強くない方なのだろう、どこかの民族衣装のような防護服の少年はおどおどとした態度ながらも、懸命に言葉を紡ぐ。

どこか小動物さを思わせるような健気に頑張ろうとする姿は、その気が無くとも庇護欲をかきたてられるようであった。

 

「おい、貴様もオレの配下であるなら気安く頭を下げるな。オレの品位まで下がるだろうが」

「は、ぅ……。ご、ごめんなさい……」

 

意味不明と気弱のダブルパンチに、クロノ達は気を張っていたのが馬鹿らしく感じてしまうところだった。

だが、暗がりの奥から響く底冷えするような冷徹さを孕む声は、それだけで場の雰囲気を一変させるかのようだった。

気弱な少年もその声に反抗の素振りの一切もみせる事無く、恐怖に身をすくませるように体を委縮させながら、声の主が現れるための道を譲るように立ち位置を引く。

そして暗がりの向こうから、先のふたりとはまた一線を画すような魔力の気配を纏う人影が進み出てくる。

 

「わざわざ出迎え御苦労、といったところか。もっとも、貴様らのような三下がいくつ雁首を揃えたところで価値など高が知れているだろうがな」

 

現れたのは怨念の如き禍々しいまでの魔力をその身から溢れさせる、闇色の防護服に身を包んだ黒髪の少年。

その姿は、突入メンバーのクロノとまるで鏡合わせのように瓜二つではあるが、浮かべる氷のように鋭く冷たい嗤いはまるで別人であると告げている。

 

「そして、貴様もいい加減に鬱陶しいからその暑苦しいのを止めろ」

「ごふっ!?」

 

クロノ達は緊迫感を覚える中、彼は不機嫌そうに顔を歪めるとおもむろに手にした杖で杖を軽く振って見せる。

同時に出現した氷の塊は重力に引かれるように落下したなら、場の空気が変わっていたというのに未だに我関せずとポージングを決めていた男性の頭を直撃する。

 

「何をするかリーダーッ、冷たいではないか!?」

「煩い黙れ。次は氷漬けにするぞ」

「むぐ……、そこまで言うのであれば仕方がない」

 

突然の事に男性は当然のように喰ってかかるが、彼は取り合うような事をせず、凄むように一瞥するだけで男性の言い分を封殺してみせた。

体格としてはそれほど優れているわけでもない。だが、他の二人を問答無用で従え、絶対の自信を窺わせる瞳は強者であると知らしめるには十分。

間違いなく彼こそがリーダー格であり、今回の事件の中枢に居る人物であるのは明らかだった。

 

というか、氷塊の直撃に人体からしてはいけないような音をさせていたのに、痛いよりも冷たいの方に文句を言うのはどうなのだろう?

 

「……さて、オレは貴様らの名を知っているが、貴様らがオレ達の名を知らないというのも憐れだからな。まずは名乗りをあげようか。

オレは『王』を司るマテリアル。名は“氷酷の断罪者”(ルーエ・ザ・トライアル)だ。冥途の土産に覚えておくといい」

「あ、あの、ボクは“幽玄の風”(リヒト・ザ・ブリーズ)です。司るのは『理』です。よ、よろしくです」

「そして我は『力』のマテリアルにして筋肉の伝道師ッ。名は“怒号の破砕者”(シュライ・ザ・クラッシャー)ッ。うぬらもこの筋肉の素晴らしさを知るがいい!!」

「……ひとり無駄に煩いヤツがいるが居るが、まあいい。オレ達が、砕け得ぬ闇の復活と共に闇の頂点に新たに立つ存在だ」

 

リーダーである彼、──ルーエが名乗るのに倣うように、民族衣装の気弱な少年はリヒト、無駄に暑苦しい男性はシュライと名乗る。

 

「さあ、貴様らにはオレ達の試運転ついでに少し遊んでもらおうか」

 

既に確定事項を告げるかのようなルーエの言葉に、態度こそ真逆だが付き従うリヒトとシュライからも剣呑な気配が湧きあがる。

こうして、時空管理局組と、マテリアル達との戦いが始まった。

 

 

 

 

「舞え、断罪の刃ッ!」

 

ルーエがデバイスを持つ手とは逆の左手を振るうと共に、研ぎ澄まされた氷刃が無造作にばらまかれる。

それらは方位磁石の針のようにクルクルと回っていたが、やがて狙いを定めたかのように一点に向けて固定される。

鋭利な切っ先が指し示す先にあるのは、油断なく身構えているクロノの姿。

 

ルーエが展開した魔法は、凍結の魔力変換資質により氷塊という物理的な側面も持っているが、基本は直射型の魔力弾の一種。

誘導性も無いシンプルな魔力弾ではあるが、シンプルであるからこそ一発当たりの魔法行使の際のデータ処理量や魔力消費が少なくて済む。

その利点を生かして相手の動きを制限して追い込んでいくべく、ルーエは次々と生成した魔力弾を、時間差もつけて複数同時に順次撃ちだしていく。

 

特に意識をせずとも魔力を何らかの属性に変換する才能を魔力変換資質と呼び、変換には『炎熱』と『電気』、そして『凍結』の3つがあると言われている。

変換資質を持つのが比較的多い炎熱と電気は単純に魔法の威力が底上げされる事が多いが、

持つのが稀とされる凍結はその性質上、魔法の威力の向上に直結しにくい。

その分、接触した対象に凍り付くなどと言った他とは違う付加価値があるため、凍結の魔力変換資質による攻撃は、通常の魔力弾と同じ対処法では防ぎ切るのは難しい。

 

「スティンガー!」

 

それを煌めく水色の閃光が尽くを撃ち落としていく。

クロノが放つのも直射型であり、誘導操作性は低い。だというのにまるで予定調和かのようにルーエの氷の刃を撃ち漏らすことは無い。

これだけで射線を読み切って高速で飛翔する魔力弾に合わせて見せるという、クロノの技量の高さがうかがえるという物だ。

 

「はぁぁぁぁぁッ!!」

「せやぁッ!!」

 

お互いに動きを読んで迫りくる魔力弾を掻い潜って自分の有効打を狙うものの、その結果に予定調和のように互いの魔力弾を撃ち落とし合うという状況となっていた。

このままでは先日手であり、埒が明かない。ならば自らの手でもってこの状況を打破してみせよう。

そんな事を言うかのように、ルーエとクロノは自らの撃ちだした魔力弾を追い抜くような勢いで高機動魔法を発動、一気に相手の元へと肉薄する。

 

「せいっ!!」

 

申し合わせたかのような機動を取った二人ではあるが、凍結という魔力変換資質を持つ分、ほんの僅かにではあるがルーエの方が機動が重い。

その一瞬ではあっても確実に存在していた差によって、クロノがルーエに先んじる。

ストレージデバイスである杖『S2U』を持つ手を支点に反転、跳ねあげるように振り抜く柄でもって殴打する。

 

「ふ……ッ!」

 

ただ、ルーエとて黙ってその一撃を受けてやる道理など何処にもない。クロノの攻撃と自分の間に割り込ませるようにして杖を構える。

そして打ち合うというその刹那。ルーエは一歩分だけ半身をずらしてみせる。

たったそれだけの動きで、クロノの殴打の威力は完全に受け流される。まるで流れるような自然さでクロノの攻撃は本来の狙いを外れて空を打ち抜いた。

空振りという隙を晒した、いや、ルーエによって隙を作り出されてしまったクロノに対し、お返しとばかりに今度はルーエの殴打が繰り出される。

 

だが、その時には既にクロノは次の行動をとっていた。

防がれる事は予想していた。ならばそれも最初から想定の内に収めて攻撃を組み立てていればいい。

言葉にはしない。ただ行動で示すのみと繰り出されたクロノの二撃目は、ルーエの繰り出す殴打と真正面からぶつかり合う。

互いに引く気は無いと、それぞれの魔力光を火花と散らすように鍔迫り合いをするようにしながらルーエとクロノは至近距離で睨みあう。

 

「君は闇の書の闇が齎す物が何なのか知っているのだろうっ。なら、何故終わった物を再び引っ張りだそうとするんだ!?

悲しみも、憎しみも……、未来に引き継がせるわけにはいかないんだ!!」

「ふんっ、下らない問答だなっ。アレは元々オレの物だ。それを取り戻そうとして何が悪いッ!?

そもそも、防衛プログラムは『防衛』の役割を果たしていただけ。それを悪と呼ぶのは、貴様ら人間が勝手に己が欲望を押し付けて来ていたからだろう!!」

 

お互いに信念がある。故に、相手の言い分に理解出来る部分が有ると分かってなお、一歩たりとも引かない。自分の正しさを押し通すべく力を込める。

だが、拮抗する二人は交わる事は無い。踏み止まる限界を迎えた二人は発生する斥力に弾かれるようにして間合いを取る。

 

「……貴様らがオレ達の事を悪と嘯こうとも、闇の主たるべきオレがその道理に従う必要は何処にもない。

むしろ、オレが砕け得ぬ闇を手にした暁には、全てを闇の名の下に支配という安寧をくれてやろうッ!」

 

話しながら、ルーエは無数の氷の刃を周囲に展開するとともに杖に纏わりつく凍気による霜を外骨格として大型剣を形成する。

ロングレンジ攻撃である氷の刃とクロスレンジ攻撃である氷の剣による同時攻撃。それは相対者に終焉を与える必殺の一手。

 

「仮にもオレのオリジナルというのであれば、この程度ぐらい凌いで見せろ!」

 

ルーエが繰り出すのは、生半可な対応で防ぎ切れるものではないと肌で感じていた。

だがクロノは、刃と大型剣の波状攻撃を前にしてもなお怯む事無く、むしろ前を睨みつけるように毅然と立ち向かう!

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、まずはちゃんとお話しよう。今はどうすればいいかなんて分からないけど、お互いに分かり合えれば、戦わなくてもいい方法も見つかると思うんだ」

 

天使を連想させるような白い衣装を纏う栗色の髪をツインテールに纏めた少女、高町なのはもまた、マテリアルのひとりと相対していた。

自分達は闇の書の闇の復活を阻止するべくこの場に来ていた。だが、それでも問答無用で相手を打ち倒すのは何かが違うと感じていた。

故になのはは、戦うより先に親しみを込めるようにしながら語りかけていた。

 

「……ボクの駆動体の元となった人の記憶とかもちょっとだけど引き継いでいるから、ボクもキミ……、なのはさんの気持ちは分かるつもりです」

 

そんななのはと向かい合っていたリヒトは、真っ直ぐに向けられたなのはの言葉を否定しようとは思えなかった。

むしろ、その真摯な気持ちをぶつけられて、それもまたひとつの選択肢なのだろうと肯定する思いを抱いていた。

 

「なら……!」

「でも、ダメなんです。確かにボクはなのはさんに応えたいと思っています。けど、それ以上にボクはルーエやシュライの事が大切なんです。

そしてルーエがやると決めた事を全力で手伝いたい。それがボクの一番の想い。だから……ご、ごめんなさい!」

 

だが、自分達のリーダーもまた間違った事をしていないと信じている。そして『王』たるリーダーの理想を実現するために『理』の自分は存在している。

確かにリヒトは気が弱くて人の目を気にするようにおどおどしている。それでも自分の存在意義を果たす事に迷いは無い。

故に、誠心誠意を込めて断りを入れる事が、真摯な態度で自分に臨んだなのはに対して出来る精いっぱい。

 

「ボクは……、なのはさん、キミを倒しますっ」

 

そして、これ以上なのはもまた迷わないように、はっきりと敵対関係で示す事がリヒトなりの優しさ。

リヒトは下げていた頭を上げると共に、そのそれぞれの手の平に自身の魔力の光を灯らせる。

相変わらず気弱さはある。だがそれ以上に、幾ら言葉を重ねられても変わらないぐらいに確固たる意志を以って自身は此処に立っているのだとなのは向かい合う。

 

「……そっか。うん、わかったよ。それがリヒト君の本当の気持ちなんだね。なら、私も余計な事はもう言わないよ」

 

なのはもまた、そんなリヒトの姿に説得は無理であると感じた。むしろ、これ以上言葉を重ねるのはあの少年の意志を蔑ろにするようなもの。

話し合いで解決出来ないのは残念だった。だが、それでも相手が本気の想いをぶつけてこようというのなら、自分もまた本気の想いで応えたい。

故に、自分もまた戦闘態勢と整えたリヒトと対等に向かい合うために、手にするデバイスであるレイジングハートを構える。

 

「……でも、最後にひとつだけ。リヒト君は私達が分かり合うのは無理だって言ったけど、私はそれでも諦めない。

探せばきっと何か手はあるはず。それを探すためにも、私は此処で負けるわけにはいかないよ!!」

 

あとはもう戦うのみ。だが、なのははその前にどうしても伝えたかった言葉を告げる。

これは余計なんかじゃない。とても大切な事だと伝わるように、しっかりと真っ直ぐに相手の瞳を見つめながら。

 

「……うん、ボクもルーエの理想を実現させるためにも、キミには負けられないんだっ」

 

相手の想いを汲んで、その上で決して諦めないなのはの想いに、リヒトは敵であると分かっていても憧憬の念を覚えずには居られなかった。

だが、嫉妬はしない。自分もまたあんな風に強くなりたいと願い、その実現のための第一歩として、全力を以ってなのはと倒すと決意を言霊に変えて声に乗せる。

 

「いくよっ、──アクセルシューター!!」

 

話す事はこれでひとまず終わり。これ以上続けたいのなら戦いに勝ってから。

なのはにも戦う事に迷いは無い。自身の想いの先を現実のものとするべく、先手必勝と誘導操作弾を展開、射出する。その数は十二発。

一つひとつが思念操作により自在に操られているそれらは、リヒトの機動を阻害して追い込むべく縦横無尽に空を翔けていく。

これで出来た隙を突いて一撃必倒の砲で撃ち抜くのがなのはの必勝のスタイル。

 

「ラウンドソーサーッ!」

 

そんな桜色の魔力弾が自身を囲うようにして展開されているのを目の当たりにしたリヒトは、自分の機動力では回避するのは難しいと判断。

避けられないならば防げば良いと、左右に広げた両の掌から円形の魔法陣をそれぞれ展開する。

それは一見すると魔法陣の盾であるラウンドシールドの魔法に見える。実際、高密度に魔力を圧縮されたそれは堅固で性質は同一である。

だが、違う点はひとつ。その魔法陣は最初はゆっくりと、次第に加速するようにしながら回転していたのだった。

 

「やぁっ!!」

 

そのままリヒトは体をひねるようにしながら、自身にせまるなのはの誘導操作弾を両手に展開した魔法陣で叩き伏せる。

魔法陣の盾としての堅固さと回転による遠心力の働きによって桜色の輝きを弾き飛ばし、掻き消して見せる。

その様子に、なのははこのまま攻めようとしても無駄になる公算が高そうだと感じ、時間差を置いていたために掻き消されなかった分をひとまず自分の元に引き寄せる。

 

……と、その時、不意になのはとリヒトは目が会った。

 

真っ向から向かい合っているのだ。普通に考えればその程度の事になんら不思議は無いはず。

だが、なのはは感じた。その場でコマのように回転しながらも、リヒトは全く自分から目を離していないという状況に対する違和感を。

リヒトは何かを狙っている。一体何を……?

 

「せい……やぁっ!!」

 

答えを求めてなのはが考えを巡らせようとするより先に、リヒトはその解を体現していた。自身の回転の勢いを殺す事無く、むしろ勢いに乗せて魔法陣を投げ放っていたのだ。

その高速回転しながら飛来する魔法陣を見て、なのはは不意に自身の友達であるフェイトの使う魔法であるハーケンセイバーを連想していた。

 

そう、リヒトの展開していた魔法陣は盾ではない。圧縮魔力による刃だったのだ。

 

その事を理解して、なのはの行動は早かった。

圧縮魔力刃に対して誘導操作弾だけでの撃墜は難しく、また、防御したとしてもその上からこちらの魔力が一気に削られてしまう。

しかも、おそらく丸鋸のようにして飛翔するあの魔法は誘導性も持っているだろうから下手に避けるのは下策にしかなり得ない。

 

「ディバインバスター!」

 

ならばこの状況で取るべきは迎撃。隙を見つけたらすぐに撃てるように常にリソースの一部を割いて準備していた。

即座にレイジングハートの先端を通常状態から音叉状の砲撃形態に移行、そのまま自身の主砲たる桜色の奔流を一気に解き放つ。

莫大な魔力をシンプルに叩きつけるというその魔法は、その威力を遺憾なく発揮して二つあった圧縮魔力の刃を同時に撃ち落とし、大爆発を引き起こす。

二つの魔力のぶつかり合いにより、爆煙として広がる魔力の霧がふたりの間に立ちこめていく。

 

「ガスティサークルッ!」

 

その向こうから、リヒトがなんらかの魔法を行使したのをなのはは感じた。

だが、爆煙の影響で魔力の発露と声によって魔法の発動こそ理解はできても、どんな魔法を使ったのかを即座に把握が出来ない。

そのため、なのはは何が来ても大丈夫なように身構える。

 

《Master!》

 

その時、レイジングハートが注意喚起するべく電子音の声を鳴らしてなのはに呼びかけていた。

全幅の信頼を預けるその声を疑うような真似を、なのははしない。即座にその場から離れるべく一気に移動する。

直後、自分の立っていた地点から、突如として竜巻状の魔力が空間から噴き出すようにして現れていた。

 

「これは……フィールド型の魔法!?」

 

もしあのままで居たら、確実に少なくないダメージを受けていただろう事に背筋に薄ら寒い物が流れるのを感じながら、この魔法が何なのかに当たりをつける。

おそらくは一定の領域内に、遠隔操作で攻性のある魔力流を発生させるタイプの魔法だと、それほど多くない魔法の知識を総動員して予測を立てる。

 

「っ、また……!?」

 

そしてその推測は、再び自分の足元から同様に竜巻が発生した事を確認して、ほぼ間違いないであろうと確信する。

ただ、なのはにはこれが遠隔発動のフィールド魔法だと分かっても、それがどのくらいの範囲で設定されているのかが分からない。

得意距離が中~遠距離の砲撃魔導師であるなのはにとって、砲を撃つための魔力チャージに足を止めた瞬間を狙い撃ちにされてしまう状況はよろしくない。

 

「なら……、いくよ、レイジングハート! ──ACS・ドライブ!!」

 

だが、だからと言ってなのははこのまま手をこまねいているなんて選択肢は最初から存在しない。

この魔法が遠隔発動であるならば、相手も足を止めているはず。なのははレイジングハートを槍のように構えたなら、自身の周囲を魔力で囲んでそのまま一直線に駆け抜ける。

なのはは接近戦は得手とは言えないタイプだが、目の前にあった爆煙をも一気に突き抜けて視認したリヒトもまた遠距離型。接近戦は苦手のはず。

ならばあえてこのまま接近戦に持ち込んでしまえと、なのはは更に加速していく。

 

「う、うわぁっ!?」

 

そしてやはり接近戦は苦手なのだろう、一気に突っ込んでくるなのはに対して慌てふためいて見せるリヒト。

それでもただ黙ってやられてくれる相手ではない。なのはの進行を阻むように掌を前に掲げるようにしながら魔法陣を展開する。

おそらく防御の魔法だろうと当たりをつけたなのはだが、このままぶつかってしまえと止まらずに勢いのままに体当たりを慣行する。

 

「……え?」

 

だが、次の瞬間、なのはは現状に理解が追い付かず思わず呆けた声を上げてしまう。

 

確かにリヒトに直撃一歩手前まで行っていたはず。そして魔法陣に接触したと思ったのだが、なのはの手には一切の手ごたえがなかった。

その事に疑問を挟む間もなく、気がつけばなのはは誰も居ない空だけが視界いっぱいに広がっていた事が余計に困惑に拍車をかける。

 

「──門よ開け。此方より彼方への道を繋げ。我が招くは流星が素!」

 

いったいリヒトは何処へ行ってしまったか。そんな疑問で頭がいっぱいになりそうななのはの耳に、朗々と紡がれる言葉が届いた。

何処からこの声が聞こえてくるのだと周囲を見渡してみると、それなりの距離を置いた場所に自分が見失った少年の姿を発見した。

 

いつのまにあんなところまで行っていたのだろうかと思ったが、優れた空間把握能力を持つなのははすぐに気がついた。リヒトの居る場所は、さっき見た時の座標と変わっていないと。

ならリヒトではなくなのは自身が移動している事になるが、なのはにはこの距離を移動した覚えは……、

 

(そっかっ、リヒト君がさっき展開していたのは転送の魔法陣だったんだ!!)

 

……あった。一瞬前に自分が突撃した盾と思った魔法陣が、転送の魔法陣だったのだと気がついた。

リヒトはあの一瞬でなのはの突撃を防御するのではなく転送魔法によってなのはの事を飛ばす事によって防ぐと判断していたのだと理解した。

だが、この現状を理解するまでにかかった時間は、なのはにとって致命的だった事を直後に知った。

 

「現れよ巨石、そして潰せッ。──メテオインパクトッ!」

 

 

リヒトは頭上に展開された巨大な魔法陣の内へ幾重のも鎖を伸ばす。引きずり出されたそれは、重厚な音を響かせるようにしながら全容を現わし行く。

パラパラと破片を落としながらも、その程度では全体からすれば気にするまでも無い程に微々たるもの。

それほどの巨大な岩塊を、リヒトは転送魔法により何処から召喚していたのだった。

 

「えぇぇぇぇぇ~ッ!?」

 

そのあまりの無茶っぷりに、なのはは思わず驚きに声を上げてしまっていた。

なのはにとって魔法戦とは魔力ダメージによるノックアウトが基本だが、あんなものに魔力ダメージの設定など出来ようはずも無い。

そもそも、あんな質量を個人の魔導師で受け止めきれるわけがない。故のなのはの悲鳴だった。

 

「はぁ、はぁ……。いくよなのはさん。これがボクに出来る最高の攻撃ですっ」

 

リヒトにしても、これだけの質量は転送するのが手いっぱいらしく肩で息をしている。コレでは操作など出来ようはずも無い。

だが、これほどの自重を持つ物ならば、放っておいても勝手に落ちてくる。既に動き始めているこれは、もうリヒトにも止められない。

 

この絶体絶命の危機に、なのははそれでも諦めない!

 

 

 

 

 

 

 

「筋肉、筋肉が唸るッ、唸りを上げるッ!

見よッ、この上腕二頭筋の力強き叫び声をッ。それとも……むんッ、この大胸筋の躍動の方が良いか!?」

「え、え~と……」

 

時空管理局嘱託魔導師であるフェイト・テスタロッサは現在、ほとほとに困り果てていた。

『力』もマテリアルであるシュライは、さっきからずっとこんな調子で筋肉の素晴らしさを説いて来ていたのだが、あいにくとフェイトには興味の惹かれない内容だった。

それでもフェイトは性来の生真面目さから理解しようと頑張っていたのだが、つい先ほど、その心も折れてしまった。

 

もはや自分は何故この男性と同じ空間に居るのかも理解出来ない。もう早く帰って全てを見なかった事にして寝てしまいたかった。

さっきから次々とポージングを披露しているシュライではあるが、何処からどう見ても隙だらけである。如何様にもする事は出来そうだった。

普段のフェイトであれば、相手が話しているのを遮って攻撃を加えるような真似はしないだろうが、この時のフェイトはあいにくと普通の精神状態ではなかった。

 

(ねぇバルディッシュ。ライトニングバインドの魔法、使っちゃっていいかな?)

《Yes sir》

 

それでも一方的に攻撃を加える事は良心の呵責が訴えるモノがあったらしく、まずは拘束魔法を使おうかと愛機のバルディッシュに相談してみる。

そしてバルディッシュもまた機械ではあってもこの状況には辟易とする物があったのか、即答でフェイトの発言を肯定、更に魔法の構築を開始していた。

その構築速度は凄まじく早く、普段の展開速度の1.3倍速というぐらいなのだから、どれだけこの状況が嫌だったんだというところだ。

 

まあなんにせよ、こうして魔法発動のスタンバイは完了していた。

フェイトは、内心で謝りながらもなおもポージングを続けるシュライに対してライトニングバインドの魔法を仕掛けた。

シュライの周囲に金色の魔力光が展開されたかと思えば、その手足を宙に縫いつけるかのように光のリングが浮かび上がって拘束──

 

「むんッ!!」

 

──するはずだったのだが、シュライはまるで意に介さないようにポージングを続け、そしていとも容易く拘束を引きちぎっていた。

 

「へ……?」

 

この、何気に念入りに構築した拘束魔法がなんら効果を示す事無く破られた事に、フェイトは思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。

バインドブレイクのような魔法を使った様子も無い。一体何が起こったのだと茫然とシュライの事を見つめてしまう。

 

「ふははははッ、何を驚いているッ。筋肉を繋ぎとめる事など何物にも不可能!!

どうだッ、筋肉さえあればこのように拘束魔法を力づくで引き千切るのも簡単というものよッ!!」

「まさか、単純に腕力だけで拘束魔法を破ったの……?」

「そのとーりッ!!」

「えぇ……」

 

至極あっさりと種証しをするシュライだったが、その内容はフェイトにとって理解の範疇の外にあった。

大型の魔法生物のような相手ならともかく、いったい何処にしっかりと構築した拘束魔法を腕力だけで破る人がいるのだという話だ。

もっとも、そんな事をシュライに言ったとしても、きっと「此処に居るではないか!」とさらっと言うだけなのだが。

 

「ふ~む、どうやらうぬはまだまだ筋肉の素晴らしさに対する理解が足りないようだな。

……よしっ、ならば直接手取り足とり筋肉の素晴らしさを直接その体に教え込んでやろう!!」

「え゛……?」

 

なおも困惑の最中にあったフェイトだったが、ふと名案でも思い浮かんだとぽんと手を打ってみせるシュライに、猛烈に嫌な予感が走った。

シュライが何をする気なのかは良く分からなかったが、フェイトは気圧されるように思わず後ずさる。

 

「さあさ行くぞ。目くるめく筋肉の世界へ!」

 

だが、その後ずさった分だけシュライが一歩踏み出してくる。

 

「あの、いえ……、出来れば遠慮したいんですけど……」

「何、筋肉を布教するのが我が務めッ。うぬは何の心配をする必要も無い!」

 

そして更にフェイトは下がるのだが、シュライもまた更に踏み込んでくる。

この時点でフェイトの表情には怯えが浮かんでおり、シュライはそんなフェイトに嬉々とした表情でにじり寄っている。

傍目に見れば、何処からどう見ても幼い少女に言いよっている上半身裸の変態という構図。完全に事案である。

 

「う、うぅ~……。ご、ごめんなさいっ。──プラズマランサーッ、ファイアッ!!」

 

そして、そんな状況に置かれてしまったフェイトのSAN値はついに限界を迎えてしまった。

もはや目の前の筋肉は妖怪か何かの類いにしか感じられない。自身へ襲いかかろうとしてくる恐怖に、自制心が働くわけも無い。

フェイトは目の前の脅威をとにかく何とかしたいという一心から、そしてそんなフェイトの危機を救うべくバルディッシュもまた全力で魔法を展開する。

 

放たれるのは直射型の魔力弾をとにかく全力で高速飛翔させてなおも近づこうとしてくる筋肉妖怪に幾つも打ち込んでいく

硬く鋭く研ぎ澄まされた魔力弾は飛翔速度も相まって、その貫通力は他の同質の魔力弾と比べても群を抜いている事だろう。

 

「筋肉!!」

 

だが、そんな攻撃でも筋肉は無情にも弾き返してしまっていた。

自慢の筋肉性能にご満悦の笑みを浮かべるシュライだが、フェイトからすればその笑みもまた空恐ろしいものでしか無い。

幾ら打ち込んでも堪えた様子も無く前進してくるのだから余計に怖い。

 

「──ハーケンセイバーッッ!!」

 

ランサーではどうにもならない。もっと威力のある攻撃を。

そう思ったフェイトは、今度は圧縮魔力刃をブーメランのように飛ばす。いくらランサーが効かないといってもこれならと一縷の望みをかける。

 

「筋肉ッ!!」

 

だが、無造作に振るわれた拳と激突による爆発で引き起こされた爆煙の中から、なおも平然と進み出てくる筋肉妖怪……。

 

「サンダースマッシャーァァァァッッ!!」

 

そんな物がいるわけがないと存在を否定するように、さらに手加減なんてさらさらない全力の砲撃魔法が打ち込まれる。

これもまた確実に直撃していた。ここまでの攻撃を受けて無事でいるわけがない。そう思う事でようやく安堵の想いを抱こうとするフェイト。

 

「筋肉ゥッ!!」

 

だがその直後、迸る熱気を孕む衝撃に、フェイトの前にあった金色の魔力光の入り混じる爆煙が吹き飛ばされる。

そして発生した衝撃の中心に居たのは、白い歯を煌めかせて無駄に爽やかに笑いながらポージングをしているシュライの姿。

 

「見よッ、筋肉があればこの通り全くの無傷。故に筋肉は最強であり、筋肉は無敵なのだ!!

さあッ、次はこちらから行くぞ!」

「い……、イヤァッッ。この人と戦いたくないッ、もう帰るぅーッ!!」

 

フェイトの災難は、まだまだ始まったばかりであった。

 

 

 

 

 

 

闇の書の闇が打ち砕かれた事によって始まった物語。時空管理局とマテリアル達との戦い。

両者の主張は交わる事は無く、故に戦いの勝敗に結果は委ねられる。

……そのはずだった。

 

「は~い、こんばんは~。ちょ~っとお話させてもらっていいかしら?」

 

だが、花飾りのついたヘアバンドをしたピンク髪の女性の介入により、物語は新たな局面を迎える。

 

 

 




続かない。
『力』担当は最初ザフィーラにして貰おうかと思ったけど、守護騎士のマテリアル化に違和感しか無かったので、他の男性キャラというだけでグレアム提督が筋肉だるまに。
一応、このオリジナルマテリアルズのゲーム風の魔法説明もあるけど、まあいいかなと省略です。
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