魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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これまではゲームのシナリオ的な内容でしたが、これは『マテリアルズが主役の映画』というコンセプト。
映画の二作目であるA'sリメイクの続き。主にゲーム二作目の『GOD』の設定を反映させています。


劇場版編
魔法少女リリカルマテリアルズ ~暁の紫天~


 

――闇の書と呼ばれた、一冊の魔導書があった。

 

それは強大な力を以って周囲に破壊を振り撒き、主となった者には破滅を齎す存在。

幾度も転生と再生を繰り返し、悠久の時の中で絶望と悲しみを振り撒き続ける呪われた古代遺産(ロストロギア)。

 

だが、それももう終わった。

暴走する防衛プログラムを切り離した事で、闇の書は本来の『夜天の書』の姿を取り戻し、書の守護騎士達も戦いに明け暮れるだけの日々から解き放たれた。

勇気と優しさを持つ少女達の想いが、永遠とも思えた呪いを断ち切ったのだ。

 

ただ、唯一『闇の書の意思』とも呼ばれた書の管制融合騎は、防衛プログラムとの繋がりを完全に断つ事は不可能であったため、救う事は叶わなかった。

夜天の書の最後の主となった少女からリインフォースという名を貰った彼女は、それでも自分は救われたのだと笑顔で自身の消滅を受け入れていた。

 

その結果に誰もが納得出来たわけではない。だが、もう闇の書は存在しない事も間違いの無い事。

完全なハッピーエンドにはなれなかったが、確かにここで永い負の連鎖に終止符が打たれたのだった……。

 

──ドクン

 

だが、ひとつの物語の終わりは、新たなる物語の始まりを告げる。

 

「……してシュテルよ。首尾の方はどうなっている」

「進捗率はおよそ40%……。当初の予定より若干遅れている部分もありますが、概ね順調と言えるでしょう」

「ならば良い。このまま推し進めよ」

「ぶーぶー。退屈だよー王様~。早くこんな狭いところから出て、もっと広いところで思いっ切り大暴れしようよ~っ」

「ふん、慌てるでないわレヴィよ。物事には機宜という物がある。その時が来た暁には存分に力を振るうがよい」

 

深淵の如き闇による陰影によって彩られた世界において、佇む人影はみっつ。

うっすらと浮かび上がるシルエットや声の高さから、雰囲気こそそれぞれに違うものの三者とも少女であろう事は予想が出来る。

ただ、物の姿形を浮かび上がらせる光の力の弱いがために、その顔を窺い知る事は難しく、結局は何者かである事は分からないだろう。

 

そんな中、王と呼ばれた尊大な態度を示す少女は前へ進み出ると、闇を圧縮して出来たかのような黒い球体を仰ぎ見ると共に口の端を釣り上げるように不敵に笑う。

 

「ふふ、長らく不遇の時の中にあった我らだったが、それももう終わりよ。この無限にして最強の力を得しその時こそ、我らの名を世に知らしめる時!

そう、ここより我が覇道は始まる。そして真なる闇を統べる王に、我はなる!!」

「おおーっ、王様なんかカッコイイ!!」

「ふふんっ、当たり前の事を今更言われてもどうという事はないが、良い。もっと我を褒めたたえるがよい!!」

「……今の発言を穿った聞き方をすると、貴女が王を名乗っているのは現状ではただの自称に過ぎないとも取れますね」

「そしてシュテルは何故余計なひと言ばかり付け加えるのだーッ!?」

 

──ドクン

 

シリアスなようで、案外和気藹々とした雰囲気の少女達の頭上に浮かぶ黒球は黙して何も語らない。

だが、闇の胎動は確かに刻まれていた。静かに脈打つ鼓動に三人の少女達は気付かない。ただ、事態は未来へ向けて着実に時の歩みを進めるのみ。

 

新たな物語の歯車は今、確かに動き始めていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

聖祥小学校に通う小学三年生である高町なのはは、魔法と出会ってからの日々を思い返しながら、親友であるフェイト・テスタロッサと平凡な日常を過ごしていた。

最初の切っ掛けは、自分の対する助けを呼ぶ声が聞こえた事。そしてそれから始まる出会いと別れ。

悲しい事も辛い事もあった。それでも、今もこうやって隣を一緒に歩く友達が出来た事を始めとしたかけがえの無い大切な物も沢山得た。

高町なのははこの出会いを契機に、あやふやだった自分の進みたい未来が形になっていくのを感じながら平穏な時を過ごしていた。

 

だが、そんな平和な一時を破るかのように、正体不明の結界が張られているという通信が入る。

 

普段は普通の小学生ではあるが、同時に時空管理局嘱託魔導師の肩書を持ち、何より正義感からなのはとフェイトはその通信を聞いて黙っている事など出来るはずもない。

当然の事のように頷き合うとデバイスを起動。魔力によって編まれた防護服であるバリアジャケットを身に纏い、正体不明の結界の正体を確認するべく飛び出してゆく。

そして赴いた結界の中心には、先の事件では敵対し、今では友誼を結べたはずなのに自分達の事を知らないと言う守護騎士の姿だった……。

 

訳も分からない内に戦闘に突入し、なんとか勝利を収める事が出来たなのはとフェイト。

だが、戦いが終わると共に、守護騎士はまるで最初から幻であったかのようにその身が露と消えた事に困惑してしまう。

 

ひとまず結界の消失した事を時空管理局所属L級艦・アースラの通信士へと報告すると、どうやら各地でも似たような現象が起こっているという情報が齎された。

そしてその原因が、砕け散ったはずの『闇の書の闇』と言われた防衛プログラムが再生しようとしている事にあると推測がされる。

 

防衛プログラムの断片は地に沈む魔導師や騎士の悲しみや嘆きといった負の感情を利用して寄り集まり、闇の欠片となって形を成す。

それが先ほどなのは達が戦った守護騎士の姿をした者の正体。過去の記憶の再生だったから現在の自分達の事を知らないと言い、倒されて消えたのだと知る。

 

さらに集めた情報から、これだけの物が何の発生源も無く起こるわけがない。闇の欠片の発生の中心にはきっと発生源たる存在が居るはずという見解が示される。

と、そこに夜天の主たる少女、八神はやてから申し入れがあった。これは闇の書が原因。なら夜天の主である自分が何とかするべきだと思う。

だから、闇の欠片の発生源には自分と守護騎士達を行かせて欲しいと。

 

当然、事態の責任者の立場にある時空管理局執務官であるクロノ・ハラオウンはいい顔はしなかった。

だが、当人の強い気持ち。そして現在の戦力で最大であろう守護騎士に発生源を抑えて貰えれば自分達も動きやすくなるという打算から了承する運びとなった。

 

はやてと守護騎士達は闇の欠片の発生と分布から割り出した、発生源のいるであろう結界の内部へと突入する。

この先にて相対するであろう相手の姿に、確信めいた予感を抱きながら……。

 

そして結界の中心に居たのは、闇の書の意思の記憶を再現し嘆きと悲しみを瞳に宿した、黒き翼をはためかせて宙に佇む銀髪の女性の姿だった。

彼女は言う。闇の書の呪いは何処まで行っても追いかけてくる。決して逃れる事は出来ない。破壊された今も再構築した上で、再び破滅を齎す存在に返り咲いてしまうのだと。

 

その言葉に対し、はやてはそんな事はないと言う。

自分と守護騎士は他の誰でも無いリインフォースが助けてくれた。リインフォースが居てくれたから、自分は新しい未来を知る事が出来たのだと。

これはただの悪い夢。それでもリインフォースが苦しんでいるというのであれば、今度は自分達が助ける番。リインフォースが守ってくれた物を見せてみると。

 

そして、夜天の主とその守護騎士達と、闇の書の意思と呼ばれた存在の記憶を再現した者との戦いが始まる。

 

 

 

 

……時同じくして、なのはとフェイトは夜の空を飛んでいた。

闇の欠片は集まれば集まっただけ力を増す。だがそれは、逆を言えば集まる前であれば対処は容易という事にも通じる。

管理局側の立てた作戦は、はやて達が中枢を抑えている間に闇の欠片を各個撃破するといったものだった。

はやて達が中枢を倒せるならそれでよし。無理だったとしても、他が闇の欠片の集束の阻害をしていけば事件の解決も見えてくるだろうからその分の時間稼ぎになる。

 

この二面作戦ではやて達への援護にもなると、なのはとフェイトは闇の欠片を倒して回るべく飛んでいたのだが、ふと闇の欠片とは違う、妙な魔力の気配を感じていた。

他の人に聞いても特に何も感じないと言われたが、確かにその魔力の気配はあると何故か確信していた。

故にふたりはその魔力の気配を辿っていったのだが、その先で高度に隠ぺいされた、闇の欠片の発生させた結界とは明らかに違う結界へと行きついていた。

調べようと近づくなのはとフェイト。その時、結界がふたりを取り込むような動きをした。咄嗟に反応出来ず結界の内部に入ってしまう。

 

結界の内部は空も大地も存在しない。ただ闇の陰影だけが彼我の差を表すかのような深い闇によって彩られた精神世界。

そしてそこに居たのは自分達とそっくりで、だけど全く違う3人の少女達の姿だった。

 

自らを『マテリアル』と称する彼女達は、防衛プログラムたる闇の書の闇、その更に奥深くに封じられていた“砕け得ぬ闇”を復活させるためにここに居る。

そのために幾重にも隠ぺいの結界を展開し、さらにここから目を逸らすために闇の欠片という陽動を仕掛けていた。

 

本来なら誰にもこの場を悟られないはずだったが、この身と魔導は元を辿れば闇の書に蒐集されたデータであり、マテリアルの二人のデータのオリジナルはなのはとフェイト。

その関係で、この場を形成する僅かに漏れた魔力を感じ取れたのかもしれない。

……あるいは、オリジナルであるなのはとフェイトと戦ってみたいという望みから、ふたりを無意識の内に招き入れていたのかもしれないとマテリアルの少女は言う。

 

話を聞き、なのはとフェイトは新たなキーワードである“砕け得ぬ闇”について考える。

全容は全くわからない。ただ、言葉の雰囲気から、何よりマテリアル達の頭上に浮かぶ黒い球体が発する存在感から良くないモノであろう事だけは感じ取っていた。

だからマテリアルたる少女達が復活を望む“砕け得ぬ闇”とは一体どのような存在であるのかという疑問を投げかける。

 

「それはっ……、その、あー、えー……、そうっ、無限にして最強の力っ、まさに王たる我が手中に収めるに相応しい、とにかく凄い力なのだ!!」

「要は、王も実は良く分かっていないという事です」

「だから何故そう余計な事を言うのだシュテルーっ!? 貴様はアレだっ、本当に我を尊敬しておるのかっ!?」

「ハイハ~イッ、ボクは“砕け得ぬ闇”ってこんな感じだと思うな!」

 

 

 

 

「システムオールグリーン。何時でもいけます」

「ふっ、ならば行くぞっ。──暗・黒・合・体!!」

「イエ~イッ、ラジカセスイッチオ~ンっ。ぽちっとな」

 

説明しよう!

闇統べる王の号令の下、無駄に気合の入った作画とBGMと共に三機のマテリアル☆マシンが合体する時、無限にして無敵。最強の王が誕生するのだ!

 

「ふはははは~っ。みなぎるぞパワーッ、あふれるぞ魔力ッ、ふるえるほど暗黒ゥゥゥゥッ!! 満を持して、我、降・臨!!

さあ行くのだ夜天ロボ! この世の遍く全てに我らの存在を知らしめるのだッ!!」

 

『がお~、夜天ロボだぞ~。おまえの事も食べちゃうぞ~』(CV.ア○ミス)

 

 

 

 

「ど、どうしようなのはっ。すごくかっこいいよ夜天ロボ……!」

「フェイトちゃんのまさかのリアクションに私がどうしようだよ!?」

 

 

……そんなやり取りもあったが、どちらにしろこちらの邪魔はさせるわけにはいかないし、何よりもこうして相対した以上、あるのは戦いのみ。

そう言って儀式の続行をリーダーの『王』を司るマテリアルである“闇統べる王”(ロード・ディアーチェ)に任せ、3人の内のふたりが前に進み出る。

なのはの前に立つのは、『理』を司るマテリアルである“星光の殲滅者”(シュテル・ザ・デストラクター)。

フェイトの前に立つのは、『力』を司るマテリアルである“雷刃の襲撃者”(レヴィ・ザ・スラッシャー)。

 

鏡合わせのように似通った外見で、しかし鏡合わせであるが故に像が反転しているかのように考え方も性格もまるで正反対の相手となのはとフェイトはそれぞれ戦い始める。

能力的にはそれほど互いに差は無い。だが、どうしてもなのはとフェイトは攻めきれず、逆に押され気味に戦いは進む。

 

マテリアル達は確かに闇の欠片を生み出した張本人。だが、闇の欠片は結界から出る事は無く、こちらから干渉しなければ誰にも迷惑をかけていない。

むしろ、残滓として散っていたモノを完全に消滅させる事に一役買っていたと考えると、マイナスというよりむしろプラスの事のようにも思える。

そしてそれ以上に、マテリアル達は言動こそ物騒なものの、その本質はただ『自由』を求めているだけにしかなのはもフェイトも思えなかった。

 

そんな、まだ悪い事をしていると言い難い相手を、悪になる“かもしれない”というだけで倒すべき敵と断じられるほど、なのはもフェイトも割り切れない。

逆にマテリアル達はゆるぎない信念の下に行動しており、そこに迷いや戸惑いが入り込む余地はない。

 

その差が戦況の天秤を傾ける要因。それでもなのはもフェイトは負けずに踏み止まる。

だが、そうこうしている内にディアーチェの哄笑が結界の内に響き渡る。なのはとフェイトが足止めをされている間に、儀式は完了したのだ。

ついに望みが叶うと喜びを顕わにするマテリアルの見つめる先で、宙に浮かぶ黒球の殻を破るようにして“砕け得ぬ闇”が目覚めの時を迎える。

 

「……システム『アンブレイカブル・ダーク』の起動を確認」

 

そして現れたのは、腰元まで伸びる緩やかなウェーブを描く金髪の、儚い雰囲気の幼い少女の姿だった。

 

“砕け得ぬ闇”が人型だった事はマテリアル達にとっても予想外であった様子だが、それでもこの少女がこれまで探し求めて来たモノである事には間違いない。

その目覚めを三者三様の喜びを以って迎え入れようとする。

 

だが、アンブレイカブル・ダーク……、『U-D』たる少女は言う。自分は目覚めるべきでは無かったと。

そしてその言葉の真意を訊ねられるより先に、その背後に闇の翼のようなモノが展開される。

 

「ッ、危なーいっ!!」

「な、ぐあぁぁっ!?」

「なのはっ!?」

「王様っ!? く、こんのぉーっ!?」

「これは……」

 

U-Dの白兵戦プログラム『魄翼』より伸びる異形の巨腕が、単に『最も近くに居た』という理由だけで、味方であるはずのディアーチェに牙をむく。

咄嗟になのはが飛び出してディアーチェを庇おうとするが、U-Dの一撃は防御力に定評のあるなのはの防御魔法を易々と砕き、王もろとも叩き墜としていた。

突然の事態に混乱する暇も与えられず、U-Dは更に敵味方関係なく無差別に猛威を振るい始めたのだ。

マテリアル達は目覚めさせたばかりのU-Dを傷つけたくないと回避に専念するが、徐々に追い詰められてゆく。

 

明らかな異常事態。このままではただ全滅するばかり。そう見たフェイトはここに至ってなおU-Dを守ろうとするマテリアル達に対して一言「ごめん」とだけ告げる。

そして暴れるU-Dを力づくで大人しくさせるべく、瞬きの間に背後に回り込む。振り掲げられるデバイスから金色の刃が鎌のように展開されている。

手加減は無い。迅速かつ確実に相手を行動不能に追い込むべく、渾身の一撃をその小さな体へ向けて振り下ろす!

 

「な……っ」

 

だが、その一撃の前にU-Dは微動だにしない。単純に障壁の防御力だけでフェイトの一撃はいとも容易くブロックされてしまったのだ。

驚愕に目を見開かせるフェイト。その姿を障壁越しに見るU-Dは悲しげに眼を伏せ、そして次の瞬間、精神世界に『魄翼』より湧き上がった闇の奔流が吹き荒れる。

許容量をオーバーする黒き風に、結界は内側より機能を完全に『破壊』されたのだった。

 

……見上げる先には星空。見降ろす先には地に倒れ伏す魔導師とマテリアル達の姿。

そして空と地の狭間の宙には、U-Dが静かに佇んでいた。

なのは達もマテリアル達も、その実力は折り紙付き。だが、目覚めたばかりでまだ不安定だろうはずなのに、U-Dは一線を画するほど圧倒的であった。

 

「……どうやらここまでのようですね」

 

状況は圧倒的に不利。もはやU-Dに勝つ事や止めるはおろか、逃げる事もままならない。

その事実を冷静に分析して悟り、シュテルは痛む体に鞭を打つように立ち上がりながら、自らがこの場で成すべき事を見定める。

 

敵対していたはずのなのは達に自分達の王であるディアーチェの事を頼むと、シュテルはひとりU-Dに向かい合う。

何のつもりだと背後より問いを投げかけられ、U-Dから視線を逸らさないままこの場を抑えるのだと淡々と返していた。

告げられた言葉に、少女達はひとりで無理なのは一目瞭然。もしならば一緒に戦うべきだと声を上げようとする。

だが、その言葉が最後まで言い切られるよりも先に、なのは、フェイト、ディアーチェの体は拘束魔法によって縛られてしまう。

ただ、3人を拘束する魔力光は、シュテルの紅蓮の赤ではなく、青く煌めくマリンブルーの輝き。

 

王達の進む道を誰よりも先駆けて切り開くのは自分の役目、シュテルだけには良い格好はさせないと、レヴィもその肩に並び立っていた。

そんなレヴィにシュテルは何か言おうとして、だが意志の籠った瞳に説得は無理と判断。もとより、今ここにレヴィの役目が確かにあるのだと認める。

故にシュテルはレヴィに頷くだけで応え、既に拘束されている3人に念押しとさらにバインドをかけて、たったふたりで勝機のない戦いに臨む。

 

「スプライト、ゴーッ!! はっ、たぁっ、やぁッ。いっけぇぇッ!!」

 

レヴィは元々軽装甲だったモノを更に薄くし、運動性、機動性、攻撃力を底上げするスプライトフォームに換装して突撃を仕掛ける。

殆ど防御力を棄てたこのフォームはかすり傷でも致命傷になり兼ねないというのに、そんな事気にはしないと圧倒的なまでの速度で縦横無尽に宙を掛け、至近距離から剣戟を幾度と繰り広げる。

 

「ブラストファイアーッ。ブラストォォファイアァーッ!! ディザスタァー……、ヒィィートッ!!」

 

シュテルはU-Dに対して誘導弾はおろか、生半可な砲撃でも牽制にすらならない事を見て取り、完全に足を止め、一撃一撃に全力を込めて砲撃を繰り返す。

炎熱の魔力変換資質により熱量という破壊力を伴う紅蓮の魔力光の奔流が、彼女が咆哮の如き叫びを上げると共に空を裂いて突き抜けてゆく。

 

マテリアル二人による、コンビネーションというには圧倒的なまでの力技による怒涛にして苛烈なまでの攻めの前に、U-Dはほんの僅かにたたらを踏む。

 

「今だッ。――雷刃滅殺ッ、極光斬ーッ!!」

 

それはほんの一瞬の隙だったが、この場において最速で翔けるレヴィにとってはその刹那でも十分。

青い稲妻を迸らせ、魔力を高圧縮させることによって形成される大型剣を全力を以ってU-Dめがけて振り下ろす!

 

だというのに、U-Dはその渾身の一撃を魂翼より伸びる異形の腕の掌でいとも容易く受け止め、その上強固な圧縮魔力刃であるはずのそれを簡単に握りつぶしていた。

さらにダメ押しと、青い光が破片と散る中で一撃を真正面から受け止められて硬直してしまったレヴィの体を、もう一方の腕で鷲掴みにして捕らえていた。

高機動力によるスピードが唯一にして最大のアドバンテージだったレヴィにとって、速さを殺されたこの状態は絶体絶命の危機。

大型剣を成していた圧縮魔力刃を砕いたようにもう少しでも力を加えられれば、その時点でレヴィの命は尽き果てるだろう事は確実だった。

 

……だが、レヴィの口元に浮かぶのは笑み。そこに絶望の色など一切ない。

何故、と疑問を抱くU-Dの前でレヴィが叫ぶと共に、砕けたはずの刀身がそれぞれに寄り集まり6つの刃を形成、U-Dの魄翼を宙に縫いつける!

 

「雷刃封殺爆滅剣ッ! ──今だよシュテるん!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

レヴィの声に応えるようにシュテルは手にしたデバイスを槍のように構え、砲撃のために取っておいた距離を助走として一直線に空を駆ける。

加速を威力として、さながらその身を弾丸のようにしての突撃はU-Dの展開している障壁に阻まれて火花を散らす。

 

「轟熱滅砕ッ! ──撃ち抜いて見せます。たとえこの身が燃え尽きようとも……!」

 

阻まれ、それでもシュテルは止まらない。気を抜けば反作用に弾かれるところを踏み止まり、逆に障壁を穿つべく更に力づくで押し込んでいく。

そしてついにデバイスの先端がU-Dの障壁を突き抜ける。シュテルはデバイスからカートリッジを排出されると共に魔力が一挙に高まり、高密度の魔力球を作り出す!

 

「集え明星(あかぼし)。全てを焼き消す焔となれ! ──ルシフェリオン・ブレイカーァァッ!!」

 

そして、全ては紅蓮の閃光に包まれる。

 

膨大に過ぎる魔力に加え、その魔力の全てに魔力変換資質による熱量が付加されている。

距離による減衰の一切ない距離から受けては、防ぐことはおろか原型を保っている事すら不可能。

そんな一撃をシュテルは自身の事も省みず放っていた。あれでは撃った側のシュテルも決死で足止めをしていたレヴィも無事ではない事は明白。

バインドに囚われ何も出来なかったなのは達三人はその事実がもたらす結果を悟り彼女たちの名を叫びながら、晴れ行く余韻を見上げていた。

 

「……捨て身の特攻からの零距離集束砲。……うん、今のは流石に驚いた。けど──」

 

──それでも私には届かない。

 

だが、紅蓮の閃光が晴れた先に在ったのは、異形の腕より伸びる凶爪で肢体を貫かれたシュテルとレヴィのふたりを背後に浮かべ、無傷で佇むU-Dの姿だった。

 

どれ程頑張ろうとも、全てを無へ還す自分には何もかもが無意味。

U-Dは誰をも否定してしまう自分自身に悲しげに目を伏せながら、レヴィとシュテルの行為には何の意味も無かったと告げていた。

それはまさに、絶望の体現者以外の何物でもない姿だった。

 

──ドクン

 

「!?」

 

だが、次の瞬間。U-Dの表情が驚愕に染まり、そして苦悶が浮かぶ。

突然の事に困惑するU-Dに解を示したのは、かろうじて意識をつなぎ止めていたシュテル。

シュテルはこの短期間の間にU-Dの制御プログラムを組み立て、先ほどの集束砲と共にU-Dに対して撃ち込んでいたのだ。

 

そう、シュテルの一撃は確かに届いていた。シュテルとレヴィの戦いは、決して無意味では無かったのだ。

 

元々が目覚めたばかりで不安定なところに撃ち込まれた制御プログラムに苦しむU-Dは、全てを放りだしてこの場から離脱した。

残されたのは、ダメージと魔力消費から駆動体の維持もままならない程消耗したシュテルとレヴィ。

ようやく拘束を破ったディアーチェがすぐに倒れ行くふたりを抱きかかえるようにして受け止めると、消耗したふたりに自分の魔力を分け与えようとする。

 

だが、シュテルとレヴィは首を振ってそれを拒み、逆に自分達に残された魔力の全てをディアーチェに渡し始めたのだった。

布石は打った。自分達の役割はここまで。だから後の事は王であるディアーチェに任せる。自分達の力と想いを託すのだと。

 

封じられていたのは闇の書の奥深く過ぎて全容が把握できなかったが、U-Dが起動している今なら『王』のアクセス権限で書の初期の頃の記録まで遡って閲覧できるはず。

砕け得ぬ闇の記憶の中に、あの悲しそうな瞳の幼い少女を救うためのヒントがあるはず。

 

そしてそれが出来るのが『王』のマテリアルであるディアーチェなのだと。

 

最後に、独りで苦しみ悲しんでいるU-Dの事を救って欲しいという言葉を残してマテリアルの3人の内、2人が消えていったのだった。

この場に残ったのは、消えた温もりを抱きしめるようにしてうずくまるディアーチェ。

そんな背中にかけるべき言葉を見つけだせないでいるなのはとフェイト。

闇の欠片の掃討を終え、新たに出現した魔力反応に急行してきたはやて達。

 

ここに物語を進めるための役者は揃った。それぞれが自分の想い胸に秘めて、今再び、立ち上がる。

 

 




後半へ続く。
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