魔法少女リリカルなのはPSP =マテリアルサイド=   作:のぶな

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ステージ5

 

リインフォースは違和感を覚えていた。

 

自分と一緒に行動している主である八神はやて。そして騎士達もまた闇の欠片達を倒して回っていており、欠片達は徐々にだがその数を減らしていっていた。

事件の指揮を担う管理局所属の時空航行艦『アースラ』の方からも順調だといわれていたのに、どうしてもいやな予感が拭えない。

具体的に何が、とはいえないのだが、重大な何かを見逃している。そんな気がしていた。

 

そして、それは気のせいでは無かった。

 

『大変っ、闇の欠片達が凄い勢いで一カ所に集まってるよ!?』

 

突然入った通信の先で慌てた様子でアースラの通信士であるエイミィが声を荒げている。

モニター越しではあったが、そのただならぬ雰囲気を察する事は容易だった。

 

その事実を前に、リインフォースはひとつの事実にようやく気付く事が出来た。

確かに自分達は闇の欠片達を倒して回っていた。だが、誰からも凝縮存在である構成体(マテリアル)を倒したという連絡は入っていない。

順調に見えたのは上辺だけで、その本質は何の進展も無かったのだ。

 

『気をつけてっ。ひとつに集まった闇の欠片が凄い勢いでリインフォースとはやてちゃんのところに向かっているよ!』

 

続けられたエイミィの言葉にリインフォースは焦燥を抱く。

闇の欠片は元々闇の書、夜天の書の一部だったものだ。故に、管制融合騎である自分や、主であるはやてに引き寄せられるのは道理にかなっている。

だが、ここで問題なのは、相手が闇の欠片の全てが凝縮された存在であるという事。

一体どれだけの力を持っているのかが予測が出来ない。

 

「我が主、ここは危険です。早急に退避してください」

 

今までは主であるはやての意向を汲んで、闇の欠片への対処ははやてが行い、体調の万全ではないリインフォースは後方に控える形を取っていた。

だが、既に状況が変わっており、そんな事も言っていられない。今は何よりも主の安全の確保が大事だとはやてに逃げる事を促す。

 

「それはあかん。私が居なくなったらリインフォースはひとりで無茶する気やろ」

「ですが……」

「でももへちまもあらへん。夜天の主と祝福の風は常に一緒や。せやからわたしは逃げへん。――一緒に戦お?」

「我が主……」

 

真っ直ぐな瞳を向けられ二の句が告げられなくなる。

リインフォースとしては主を危険な目に合わせたくないと思うのだが、これで中々に頑固な主は聞き入れてはくれない事は分かっている。

このまま一緒に戦うか、それとも力づくでも逃がすか。どうするべきかを思案を巡らせる。

 

だが、時間は待ってはくれない。

 

自分達の周囲に結界が展開される。

中に捕らえた対象を逃さぬように張られた結界の強度は簡単に見ただけでも相当な強固そうだ。

普通なら複数人で協力してこの強度を持たせられるだろうに、それをひとりで行ったというだけでその技量の高さが窺える。

 

結界を展開したのは、ひとりの女性。

 

闇のような黒を基調としたバリアジャケットに身を包み、腰元まで伸びる栗色の髪を夜風に靡かせる。

手には紫の宝石を頂に据えた杖型のデバイスを持ち、靴には飛行魔法によって発生する桜色の翼を煌々と輝かせ、彼女はそこにいた。

 

「闇の書の主と管制融合騎……。捕らえました」

 

抑揚の少ない静かな語り口で、自身の行為を告げる。

はやてとリインフォースのふたりは、そんな彼女の姿に困惑する。

 

闇の欠片はこの地に散った記憶と力を再生させたものであり、その姿は闇の書事件に関わった魔導師や騎士達を象っていた。

だが、目の前にいる女性は違う。こんな女性は闇の書事件には関わっていないとはっきり言える知らない人物。

 

……いや、ひとりだけ心当たりはあった。髪の毛の色や、色彩こそ真逆に位置するがバリアジャケットや手にしたデバイスの形状には見覚えがある。

そしてその魔力の光。桜色の魔力光は、ふたりの良く知る人物がもつものだった。

 

だが、ふたりが頭に思い浮かべた人物、高町なのはは小学3年生だ。目の前に居る彼女の外見は二十歳前後であり、その姿がかみ合っていない。

 

「……お前は、誰だ?」

 

疑問を口にしたのはリインフォース。主であるはやてを守るように自ら前に進み出て口を開く。

 

「つれない言葉ですね。僅か数週間前までは常に共に在ったというのに」

 

彼女は残念と口にするが、その淡々とした口ぶりと感情の見えない表情をみると、本当に残念と思っているのかが分からない。

 

「お前が何者であるかは分かっている。だが、私の聞きたい事はそれではない……!」

 

そんな彼女に対して、リインフォースは僅かに語気を強めながら更に問い詰める。

目の前に居るのは闇の欠片の凝縮存在であるという事は、他の誰でも無い、管制融合騎として存在していたリインフォースには肌で感じて分かっている。

だが、どうしてそんな姿をしているのかが分からない。どうして高町なのはが成長したような姿をしているのかが分からないのだとリインフォースは言う。

 

「……では、改めて名乗りましょう。

私は高町なのはの蒐集した際のデータをもとにした構成体(マテリアル)をベースとして再構築を果した闇の書の防衛プログラムです。

この身体は、幼体では情報の保持が出来なかったために作り変えた結果です」

 

リインフォースは挑みかかるように睨み付けていたが、その視線を気にした風も無く彼女はすらすらと答える。

 

「再構築を“果した”、だと……?」

 

彼女からすれば隠すような事は何も無いと普通に答えたが、聞いた側であるリインフォースとはやて、特にリインフォースにとってその答えは衝撃だった。

 

防衛プログラムは闇の書の闇。手にした者を、周囲にいるものも巻き込んで死に至らしめる呪い。

 

最後の夜天の主であるはやてと心優しい魔導師達の尽力によって切り離され、打ち砕かれたはずのそれがまたこうして目の前に現れた。

闇の書の呪いからは逃れる事は出来ないのかという想いが心の内に湧く。

 

「はい。ですが、現状は最低限のみによる仮の起動といった段階です。完成のためにはどうしても必要なものがあります」

 

彼女は話をしていたリインフォースから視線を外し、その後にいるはやてに眼を向ける。

 

「闇の書の主、八神はやてが持つ蒐集行使の能力を還して貰いましょう」

 

そして、この場に訪れた理由を口にする。

その瞳は相変わらずの無感動だが、その奥にははやての持つ力を渇望する色が見える。

それを向けられたはやては僅かに怯む。

 

「……なあ、復活してどうするつもりなんや?」

 

だが、はやては踏み止まる。それどころか逆に質問をしていた。

 

「どうという事はありません。世に破壊を齎し、怨嗟の声を響かせる。それだけです」

「何で……、何でそんな悲しい事を……?」

 

はやては、誰かにひどい事をするのが当然と答える彼女を悲しいと思った。

防衛プログラムも、そもそもはそんな意図はなく、ただ魔導の記録を失わず未来へ伝えるために組み込まれたものだった。

それが長い間にあった改竄の影響でこんな風になってしまっている。

 

それさえなければ、彼女もこんな風な事を言わなくても良い未来があったはずなのにと、哀れみや同情を向けるのではなく、ただ、悲しい事だとはやては思った。

 

「私と貴女では価値観が違うだけです。

貴女が醜いと思うものを美しいと思い、悪と呼ばれると思うものを尊いと思う。

それはプログラムに刻まれているからではなく、私自身で認識し、思考し、決めた事。

世の秩序とは反しますが、私はこの想いや考えが間違っているとは思いません」

 

だが彼女は、そんなはやての思う心は見当違いであると口にする。

誰かに言われたからではなく、自身の意思でこの在り方を貫くと決めたのだ。

認められないと否定されるのは分かるが、悲しまれるのは単なる侮辱でしかない。

 

「故に、貴女が私を憐れんだり悲しんだりするいわれはありません。

そもそも、貴女からの謝罪の言葉はあの時に既に貰っています。今更言われるのもまた筋違いです」

「あの時……?」

 

はやては彼女の『あの時』という言葉に思い当たる情景がひとつあった。

それは、闇の書の闇である防衛プログラムを切り離した時の事。

切り離された闇の書の闇を破壊するために取った作戦は、防御壁と外装を破壊して露出させたコアを軌道衛星上に転移させて、アルカンシェルで蒸発させるというものだった。

 

そのコアを露出させるための最後のひと押しとして高町なのは、フェイト・テスタロッサと共に砲撃魔法を放つ際、はやては一言『ごめん』と口にしていた。

元々は書を守るための存在だったのに、今は自分達の都合だけで一方的に切り離して、殲滅しようとしている事実。

夜天の書の一部なのだから、守護騎士達と同様、自分の家族のような存在であっても良いはずなのに、切り捨てるしかないという現実の前に謝る事しか出来なかった。

 

「……わたしの言葉、届いていたん?」

 

だから口にした言葉だったのだが、正直、届いているなんて思っていなかった。

自己満足でしか無かったはずの言葉が、そうでは無かった事にはやては驚いていた。

 

「……私の中には、私を『悪』と定めて一方的に切り捨てられたという事実と、それを実行した魔導師や騎士に対する憎しみがあります。

闇の書の齎した破壊と混沌という結果に対する自負と矜持もあります」

 

彼女にしては珍しい事に、素直にはやての言葉に対して応えるのではなく、自身の胸の内を明らかにするように淡々と言葉を紡ぐ。

 

前者は『力』の雷剣士、後者は中枢たる『王』がその感情を強く受け継いでいた。

 

『力』の雷剣士は、自分は悪くないはずなのに全ての悪を押し付けられて切り捨てられた事を憤っていた。そして、その怒りの裏で、捨てられたという事実を悲しく思っていた。

故にあの青い髪の少女は、元いた場所に帰る事と、自らが『王』となる事で捨てられる側では無くなりたいと願っていたのではないかと彼女は思う。

 

中枢たる『王』は、闇の書として齎した多くの悲劇を背負い、そして永劫の闇に生きる事を望んでいた。

『王』であった彼女は、『王』で在るからこそ孤独で、その責を捨てる事はせずに背負い続けるべく、守り続けるべく行動していたのだろうとも思う。

 

「ですが、『私』個人としては、それは仕方が無かったという理解しています。

あれは、貴女方の力が私の力を上回り、勝利を収めたのです。あの戦いにおける敗者である私はその事を蒸し返すつもりはありません。

ただ私は、貴女方に対する想いではなく、自身の裡から湧きあがるこの破壊と混沌の衝動に従うと決めたのです」

 

だが、それらの想いは確かに彼女の中にも存在するものだったが、彼女自身が強く影響を受けていた感情とは違う。

彼女の感情の向く先は、自身の中や、過去にではない。

それは即ち、この世全てに対する破壊と混沌の衝動。そこに回帰の想いなどは無く、ただ自身の想いを貫き通そうという意志があるだけ。

過去も未来も関係ない。現在を続ける事にこそ意味があると考える。

 

「故に、謝罪など意味を成しません。そもそも貴女に罪など無いのですから。

私は『私』で在り続ける限り戦いを続けます。そして、戦い続けるために闇の書のスキルと名を返して貰います」

 

話はこれで終わりだというように、彼女の足元に桜色の魔法陣が展開される。

戦闘準備をするその姿にリインフォースが色めき立つ。即座にはやてを守れるように後ろにかばおうとする。

 

「……そか。ただひとつ言わせて貰うと、わたしの持ってるのは『闇の書』やなくて『夜天の書』や。

そしてわたしはみんなと一緒にいるために闇の書の罪を背負うって決めたんや。蒐集行使のスキルはもちろん、闇の書の名前を返すつもりは無いで!」

 

だが、はやては守られるのではなく、自身が戦うと意思表示するように自身の魔力光である白色によって描かれる魔法陣を展開する。

対話による解決は出来ないのは悲しいが、それでもまだ自分には出来る事があるからと、戦う意志を固める。

 

「貴女が罪と呼ぶそれもまた私のものであるべきものです。あくまで返す気が無いというのなら、力づくで返して貰いましょう」

 

「夜天の主としてきっちり片をつけたる。闇の書事件の最後の大仕事や。

いくよ、リインフォース。この子をきっちり眠らせてやるんがわたしらの務めや」

 

リインフォースは危険性から、はやてに彼女と戦って欲しくないと思っていた。

だが、はやての自分達守護騎士に対する優しさを嬉しく感じていた。

それは、はやてにとって何のいわれもないモノを背負わせてしまっていると分かっていて、それでもこの優しい主だからこそ、自分も、騎士達も共に在りたいと願ったのだ。

 

「……分かりました、我が主。我が心は何時如何なる時もあなたと共に」

 

自分達の存在が重荷になっている。それでも立って前に進もうとしている主を支える事が自分の成すべき事。

はやては守られるだけのか弱い存在ではない。リインフォースもまた共に戦う事を改めて誓う。

壊れかけた自分だが、それでも主の未来を切り開くべく存分に力を奮おうと決める。

 

両雄は戦いを決めた。ならば戦いの幕をあげようと、彼女の魔力光の輝きが増す。

 

「さあ、お互いの持てる魔導を存分に奮い、雌雄を決しましょう」

 

そういう彼女の周囲には、誘導弾の発射体である桜色の光球が次々と生じてゆく。

誘導操作弾の同時複数生成は、彼女のオリジナルであるなのはの基本戦術だ。それだけなら今更驚く事はない。

 

「な……!?」

 

だが、はやてもリーンフォースも目の前の光景に驚くしかなかった。

なのはは最大で12発の誘導弾を同時に操作する。だが、目の前にある誘導弾の数は、すでに20や30で収まらない数が展開されている。

 

「パイロ……シューター!」

 

既に数えるという行為に意味を無くすほどの数を展開された誘導弾は、彼女の号令によって、桜色の流星群となって解き放たれる。

 

その光景を真正面から見ていたはやてとリインフォースにとって、それは桜色の壁が押し迫ってくると思わせるほどの物量。

 

パイロシューターは誘導弾であり、主な目的は相手の自由な機動の阻害にある。

だが、彼女がとった手段は、大量に発生させた誘導弾で空間を埋め尽くそうというもの。

 

現に彼女は、誘導弾を発射はするが操作はしていない。桜色の魔力弾はみな一直線にしか飛んでいない。

 

「我が主!」

 

だがそれで十分。逃げ場もなく、詠唱の暇もない故に迎撃も出来ないふたりは防御するしか手段はない。即座にリインフォースがはやての前に進み出て魔法陣の盾を発生させる。

 

「くぅ……っ!」

 

リインフォースは空中にしっかりと踏ん張っている。だが、次々と際限なく襲い掛かる桜色の流星群は単発の威力の低さを数で圧倒してくるため、累積する威力は下手な砲撃を超える。

防御力を優先して、全方位防御魔法ではなく前面に集中する防御壁の魔法を選択したというのに、そう長い時間はもちそうになかった。

 

「リインフォース!」

「はい、我が主!」

 

だが、はやてもリインフォースも長い時間持ちこたえる気は無い。

ふたりは互いの名を呼びあうだけで相手が何をしようとしているのかを察する。

 

「いくでっ。──クラウソラス!」

 

はやてはリインフォースが守ってくれると信じて、桜色の流星群を前にしても怯む事無く詠唱していた砲撃魔法を、詠唱完了と共に即時解放する。

その刹那、リインフォースも防御の魔法を解除してはやての正面から退避する。

 

リインフォースの行動は僅かでも遅ければはやての砲撃魔法を背中から受けてしまい、逆に早ければ砲撃魔法が発動するより早く無数の操作弾に呑み込まれてしまうもの。

だが、ふたりは何の合図も無しに、ただ互いを信じるという想いだけでタイミングを完璧に合わせてみせた。

 

はやての放つ砲撃魔法は、白い奔流となって桜色の流星群に真正面からぶつかり合う。

普通なら威力の低い操作弾を打ち消して砲撃魔法が突き抜ける。

だが、彼女の操作弾の数の前に、貫通させたとして撃ち漏らしが自分達に襲い掛かり相討ちに、下手をしたら自分達の方が大きなダメージを負う事は分かっている。

そのため、放った砲撃魔法にコマンドを送り、わざとその途上で爆発させる。

着弾点から衝撃波が発生する特性を持つ『クラウソラス』という魔法を絶妙なタイミングで爆発させる事により、彼女の誘導弾が次々と誘爆されていく。

 

爆煙が視界を覆い尽くす。はやてからは完全に彼女の姿を捉える事は出来ないが、条件は彼女も同じ。

とはいえ、爆発の影響は彼女まで届いていない。

砲撃魔法を放った直後のはやてと違い、彼女は放っておけばこの爆煙を突き破って砲撃魔法でも撃つかもしれない。視界が利かないという状況下では反応が遅れるかもしれない。

 

だが、はやてに不安は無い。

 

「ブラッティーダガー!」

 

防御の役目を果たしたリインフォースが、今度は更なる追撃をするべく動くと分かっているからだ。

 

リインフォースの使った魔法により、その名の通り、血に濡れたかのような真紅の短剣の形を成した刃が彼女の周囲に幾つも浮かび上がる。

その刃は中心に居る彼女に向いている。そう認識するが早いか、更なる血の赤に染めようかというように真紅の刃達は彼女に襲い掛かる。

周囲を取り囲まれていた彼女を中心に、魔力が爆発してその姿を煙に覆い隠す。

 

「バルムンク!」

 

傍目には直撃していたように見える。

だが、はやてもリインフォースもこれで終わったなどと楽観視はしていない。むしろ、ここが好機と更にたたみ掛けるべく、はやては剣状の魔力弾を8つ放つ。

それらははやての意志に従い、爆煙の中心に居るであろう彼女へ向けて収束する。

手ごたえは、あった。

 

「リインフォース!」

「はい、我が主!」

 

言葉は呼びかけるだけ。それで互いの想いを知り、はやての足元には白い魔力光による魔法陣が、リインフォースの足元には紫かかった黒い魔法陣が展開される。そして、

 

「クラウソラス!」

「ナイトメア!」

 

彼女を挟みこむようにして、まったくの同時に二種の砲撃魔法が放たれる。

その着弾点である中央では、そこにあった爆煙を吹き飛ばすような更なる爆発が起こり、白と紫かかった黒の入り混じった煙が新たに発生した。

 

「……どや!?」

 

これ以上無い手ごたえにはやては内心ガッツポーズを決める。

倒せないにしても、確実にダメージは与えたはずだと確信していた。

 

「な……!?」

 

だが、その確信は同時に油断となっていた。

突如として爆煙から突き抜けてくるように飛び出してきた彼女の姿に、はやては驚きに身体を硬直させてしまう。

本人は気を抜いたつもりは無いのだが、その瞬間は確実に心に隙が出来ていた。

 

肉薄してくる彼女のその姿は、はやてとリインフォースの連携攻撃を受けたはずだというのに、バリアジャケットに僅かのほころびも見て取れない。

その事実が、はやての動揺に拍車をかける。

 

ただ、それでもこのままではまずいとはやては思い、半ば反射的に手にした杖を振りおろして迎撃しようとする。

 

「え……?」

 

だが、いざ振りおろそうとした刹那、はやては彼女の姿を見失ってしまう。

彼女ははやての目の前まで近づいたところで、更に高機動魔法を発動させていたのだ。

 

リインフォースから魔導を継承していたはやてではあるが、それでも圧倒的に実戦経験が不足している。

その中でも、後衛型であるはやてに接近戦における技術は皆無と言っていいほど不足している。

彼女の行動に対して、反応の一切が出来ていなかった。

 

「こちらです」

 

彼女のその声は、はやての背後から聞こえた。背後を取られた事に平常心が揺らぐ。

慌てて、考える事無く杖を振るって攻撃を加えようとする。

だが、そのはやての行動は単調そのものであり、至極、読みやすい。

はやてが杖を振るう事にさきがけて既に防御魔法を展開させていた彼女の防御を、慌てただけの攻撃で破れる物ではない。

逆に弾かれ、明らかな隙を晒してしまう。

 

「滅砕っ」

 

無論、その隙を見逃す彼女ではない。白兵戦での杖の使い方はこうだと見せつけるかのように、振り下ろされる。

 

「あう!?」

 

避ける事は許されないその一撃をモロに受けてしまい、はやては大きく吹き飛ばされる。

単純な打撃であり、鉄槌の騎士と呼ばれるヴィータほどの威力ではないが、それでも隙を突かれたその一撃は重い。

 

はやての息が詰まる。意識が遠のきそうになる。

それでも歯を食いしばって意識を繋ぎとめる。痛い事や苦しい事には長い闘病生活で慣れている。

身体の痛みよりも、大切な家族が居なくなるような事の方がよほど辛い。

だから耐えられる。耐えてみせると、痛みの中でも体勢を立て直そうとする。

 

「ブラスト──」

 

だが、その中でも彼女が追撃を加えようと砲撃魔法を構えているのがはやての目に映る。

体勢の立て直しも間に合わない現状で避ける手段も防ぐ手段も何もない。

 

 

「──ファイアーッ!」

 

そして、無慈悲なまでの威力を誇るであろう、彼女の魔法が放たれる。

はやてに分かるのは、アレの直撃を受けたら、それで自分は戦線離脱を余儀なくされるという事。

だが、分かっていても、はやてには何も出来ない。ただ目の前いっぱいに広がる桜色の光に網膜を焦がされるような想いを抱くばかり──

 

「我が主!!」

 

──そう思った直後、耳に大切な人の声が届くのと同時に、彼女の魔法とは違う衝撃をはやては感じていた。

それは暖かな温もり。横合いから砲撃の射線上から弾きだされたおかげで、桜色の奔流が目の前を通過するのが見て取れた。

そして、はやてのすぐそばに在るのはリインフォースの顔。

 

「くぅ……!?」

「リインフォース!?」

 

だが、はやてを庇ったリインフォースには苦悶の表情が浮かんでいた。

防御は無理と、高機動魔法を使ってはやてを庇い、射線上から外れる事は出来た。

だが、彼女のその砲撃の威力は並ではない。その余波だけでリインフォースのバリアジャケットを削りダメージを与えていた。

直撃ではないため、致命傷を受ける事は無かったが、それでも少なくないダメージに、リインフォースの顔は苦痛に歪む。

 

「ブラストォ……」

 

そして、彼女は情けや容赦など掛けたりしない。

トドメの一撃と言わんばかりに、先程よりも魔力のチャージに力を入れている。

はやてひとりなら、砲撃の射線上から退避する事は出来る。だが、はやてにリインフォースを置いて行くという選択肢は最初から存在しない。

 

それを見越した上で、彼女は操作弾ではなく砲撃魔法を選択していた。

 

「ファイアーァッ!!」

 

二射目の彼女の砲撃魔法は、明らかに先程よりも威力が高い事を肌で実感するはやて。

それでも迎撃も退避も選択肢に無い。リインフォースを守るため全力でシールドを展開する。

今は後先を考えていられる余裕もなく、ただ全力で魔法陣の盾に魔力を注ぎ込む。

 

「くぁぁっ……!?」

 

彼女の魔法の威力はえげつない程で、防御の上からだというのにどんどん魔力が削られていく。

はやては闇の書の主に選ばれるほど保有する魔力量は多いというのに、その貯蔵のことごとく抉り取られていくような錯覚。

魔力の喪失に気が遠くなりそうになりながらも、それでもはやては耐える。

 

そして爆発。

 

行き場を失くした魔力の奔流が炸裂してはやての視界を覆い尽くす。同時に、はやてを蝕む魔力が削られる感覚も途絶える。

その事実を前に、なんとか耐える事は出来たとはやては思うが、被害は甚大だった。

はやてもリインフォースも、まだ戦闘の続行は可能ではあるが、既に勝利の天秤はどちらに傾き始めているかは明白だった。

 

「……我が主、まずは移動をっ」

 

今は爆煙に紛れて向こうはこちらの姿を見失っているだろうが、もしこの爆煙も無視して更なる砲撃魔法を放たれるのではないかと考えるだけで、プレッシャーがかかる。

そんな、何処か強迫観念の様なものに突き動かされ、今は足を止めていても益は無いと、リインフォースは疲労困憊のはやての手を引いて移動する。

 

そして、はやてとリインフォースは、爆煙を抜けて、彼女の姿を視認する。

 

「な……」

 

目に映った光景は、無数の桜色の誘導弾の発射体に囲まれた彼女の姿。

彼女は確かに爆煙ではやてとリインフォースの姿を見失っていた。故に、ふたりのいるであろう範囲全てを攻撃する事で、確実に追い込もうとしていたのだ。

 

「パイロシューター!」

 

そして、彼女の号令に従い、誘導弾達は流星群となってはやてとリインフォースへと降り注ぐ。

それは、この戦いの最初に見た光景と同じ、焼き直しの様にふたりの目に映る。

だが、はやてとリインフォースはダメージが大きい。最初の時の様な反撃を繰り出せる程余裕はない。

逃げる事も、既に手遅れ。

 

「我が主!」

 

それでも主だけでも身を呈してでも守ろうとリインフォースははやての前に出て、魔法陣の盾を展開する。

状況は絶望的。それでも、絶対に主を守って見せるというかのように。

そして、

 

「翔けよ、隼!!」

 

紅蓮の炎を纏う、ラベンダー色の閃光が桜色の流星群を貫いた。

 

「……来ましたか」

 

彼女は、自身の放った誘導弾を突き破ってきた閃光を回避すると同時に、誘導弾の発生と発射を打ち切る。

そして、その視線は一点へ向けられていた。

 

「我ら、夜天の守護騎士四騎」

「主とその共に、害成すものがあるなら」

「誰であろうとブッ叩くッ!」

「闇の彼方で……おやすみなさい」

 

はやてとリインフォースにとって、この上ない味方の登場だった。

 

 

 




次回、VS八神家。
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