「ここが、カイザーインダストリーズか」
グレイは巨大な建物の前にいた。ここはカイザーコーポレーションの子会社の一つ、工業製品を生産するカイザーインダストリーズの工場である。
数日前、グレイは彼らから工場見学の招待を受けていた。しかし、それはグレイを誘き寄せるための罠であることが、ヴェリタスの協力で明らかとなっている。
しかし、グレイは敢えて乗ることにした。それにはセミナーからの反対もあったが、持っている切り札の存在を明かすことで許可を得ることができた。
『なあ、爺さん。本当に大丈夫かよ?』
「ネルよ、別に問題はない。私には切り札があるのでね」
『大体、その切り札って何なんだ?』
「なに、その時のお楽しみさ」
カイザーの工場から少し離れた上空には既にC&Cのエージェントであるネル達が搭乗したウイングジェットが待機しており、教授には同行せずに後で合流する手筈になっている。
『爺さん、身体には気を付けろよ』
「孫に心配されるのは嬉しいものだな」
『だ、誰が孫だよ!教授の孫になった記憶はねえぞ!』
『あははっ!リーダー、マジになってる!!』
『うふっ、顔を赤くしちゃって可愛いですね』
『リーダーが教授の孫……面白いな』
『て、てめぇら!後でしばくぞ!』
通信機の向こう側からはネルの怒号とC&Cの面々の声が聞こえてくる。目の前にはいないが、顔を真っ赤にするネルの姿が見えたような気がした。
「では、行ってくる」
彼女達の元気な声を耳にしながら、グレイは工場の入り口へと向かって行った。
「社長、ミレニアムの教授が来ています」
「本当に一人で来るとはな。馬鹿な奴だ、お前は我々にとって目障りな存在だというのに」
グレイの来訪はここの社長であるオートマタに知らされていた。彼の言う通り、グレイはカイザーにとって邪魔な存在だった。
「奴が現れてからだ。カイザーグループの業績が下落を始めたのは……」
グレイの持ち込んだ技術によってミレニアムは更なる発展を続けているが、それとは反対に衰退の方向に進んでいる者達もいる。
それは、元より存在していた大人達による企業群だ。特にカイザーグループは市場における工業製品や電子機器のシェアをミレニアム卒業生による企業に奪われていた。
「こちらへ引き込めば、我々は奴の持つ技術を手に入れることができる。無論、銃を突きつけて無理矢理だがな」
「最悪、殺してしまってもよいでしょうか?」
「まあ、良いだろう。その後で適当に濡れ衣でも着せてしまえば、ミレニアムの信用も落ちるだろうからな。我々ではなくガキ共に肩入れした愚か者の末路を教えてやらねば……」
本当の愚か者は誰なのか。それは後に分かることになるだろう。
「工場の防衛部隊に伝えろ。奴の入った応接室を完全包囲し、社外の者を絶対に通すなと」
「承知しました、社長」
彼らは知らない。グレイバードという存在が古より銀河社会に存在する戦士であり、銀河を守り続けてきた鳥人文明の一員であったことを。
「これは、何の真似かな?」
グレイは応接室にて銃を突き付けられていた。それも1人ではなく、複数体のオートマタ兵士からである。
『それについては私がお答えしよう』
オートマタ兵士が前へと出てきて、タブレット端末の画面を見せてくる。画面に映っている人物はカイザーインダストリーズの社長だった。
「あなたは、ここの社長だろうか?」
『そうだ。私こそがカイザーインダストリーズの社長だ』
「いきなり銃を突き付けるのがカイザーのやり方だというのかね?」
『貴様に選択肢などない。我々に従うか、ここで死ぬかだ』
「なるほど。我ら鳥人族の技術が欲しいというわけか」
『我々の元に来れば、相応の地位を用意しよう。ガキ共に従うよりも良い暮らしができるぞ』
社長はグレイのことを引き込もうとするが、グレイの答えなど最初から決まっている。
「残念だが、それは無理だ。私は彼らのために働くと決めていてね」
『貴様……!!』
「そなたらには特別に見せてやろう。我々、鳥人族の連綿と受け継がれてきた叡知の結晶を」
その時、グレイのガントレットが輝いた。その輝きは全身へと波及すると、その肉体を銀色のパワードスーツで包み込む。球状の肩アーマーと赤色の目が特徴的である。
ソウハ族もかつては戦闘民族であった。このパワードスーツはその影響を色濃く受けたものであり、装着することで衰退の過程で失った武力を取り戻すのだ。
『そ、それは……』
「覚悟せよ」
静かに発されたそれは死刑宣告だ。グレイの手に槍とシールドが出現し、槍の横凪ぎ一発で自らを包囲するオートマタ集団をスクラップにしてしまう。
落下したタブレット端末の画面を覗き込み、赤く鋭い眼光で画面越しに社長を睨み付けると、シールドを構えて走り出し、応接室の壁を突破した。
「撃て!撃てぇ!」
廊下にてオートマタ兵士達がグレイに銃弾を殺到させる。相手が大きい上に狭い場所なので殆どの弾が命中しているが、火花を散らすだけで大したダメージにはなっていない。
彼らの装備しているサブマシンガンではスーツに傷を付けることは叶わない。チョウゾのパワードスーツは過酷な環境下でも運用できるようになっており、かなりの防御力を誇っているのだ。
「エネルギー充填開始……」
グレイはレールガンを取り出すとエネルギーの充填を開始する。
「な、何だあれは!?」
「絶対にヤバい奴だ!撃たせるな!」
武器を狙った集中砲火が始まるが、レールガン本体もスーツと同様に頑丈であるので意味はない。そして、その時が来る。
〈エネルギー充填率50%〉
「レールガン、発射!」
放たれたのは閃光だった。それは廊下にて密集していたオートマタ達を吹っ飛ばし、奥にあった頑丈な扉までもを破壊してしまった。閃光は社屋を容易に貫通し、光の柱が遥か彼方へと伸びた。
「ふむ。パワードスーツがあれば反動はほぼ無視できるな。良いデータがとれた」
以前、生身でレールガンを撃った際には反動で後ろに滑ってしまっていた。今回はその時と同じ威力で撃ったのだが、全く後ろに下がることはなかった。
「さて、大将首を拝むとしようか」
グレイは再び動き出す。最上階にあるであろう社長室を目指し、道中にある防衛線を次々と蹂躙していった。
「クソ!あんなパワードスーツを持っていたなんて報告になかったぞ!本社の連中は何をやっているんだ!」
一方、インダストリーズの社長は苛立っていた。それもそのはずだ。通常の兵士だけで彼をどうにでも出来る想定のはずが、本当はとんでもない伏兵だったのだから。
「社長、現在の戦力ではあれには敵いません。ここは撤退してカイザーPMCの援軍を呼ぶしか……」
「うるさい!それではPMC理事の野郎に借りを作ることになる!使えない奴らめ、私が自ら敵を仕留めてやる!」
社長はそう叫ぶとガンロッカーを開け放ってロケットランチャーを取り出す。先端に弾をセットすると社長室の入り口に狙いを定めた。
「来たな……これは最新式の対戦車ロケットだ、これならば奴であっても……」
社長室に足音が少しずつ近づく。やがて扉が蹴りで粉砕され、強固な外骨格に包まれた老戦士が現れた。
「し、死ねぇ!!」
社長はトリガーを引く。射出されたロケット弾は後部から炎を吹き出しながら超高速でグレイへ向けて突っ込んでくるが……
パシッ!
グレイはロケット弾を掴み取った。鳥人族の反射神経であれば飛来する高速の物体を掴むことなど容易く、即座に投げ返していた。
「お返しするぞ」
「ば、馬鹿なぁ!!!」
自分の放ったロケット弾を投げ返され、社長は爆発に巻き込まれた。社長室の壁に大穴が空き、社長の頭部だけが宙を舞い、グレイの手に収まる。
「この、化け物め……!」
半壊した社長室に頭部だけになった社長の怨嗟の声だけが響く。それを無視してグレイが見据える先に空いている大穴からはウイングジェットがその姿を覗かせていた。
「か、かっけぇ!!爺さん、こんなの持ってるんなら最初から言ってくれよ!」
工場の屋上にてグレイはC&Cと合流した。パワードスーツの姿を見た瞬間にネルが飛び出してきており、まるで男子小学生のような反応で喜びを露にしていた。
「すまんな、ネルよ。私に戦闘能力がないと敵に思わせるため、今日に至るまで隠していたのだ」
「別に構わねえよ。ただ、今度はあたし達と爺さんで肩を並べて戦いたいぜ」
「いずれ、そうなるさ。ネル、アスナ、カリン、アカネよ、その時は頼りにさせてもらうぞ」
その後、この一件はカイザーインダストリーズに教授が誘拐され、救出のために特殊部隊が殴り込みをかけたとして公表された。
また、これを受けてミレニアム自治区やその周辺に存在するカイザー関連の事業所や施設に対する強制捜査が保安部とC&Cによって間髪入れずに行われ、結構な数の不正が見つかったとか。
グレイがロケット弾を掴んで投げ返したのは、スーパーメトロイドで出てくる黄金の鳥人像がスーパーミサイルを投げ返してくるのが元ネタです