「何?アビドスがカイザーPMCに襲われているだと?」
ある日、アビドスにいた先生から入ってきた連絡。それは、カイザーコーポレーションの子会社である軍事部門を扱うカイザーPMCの大軍がアビドスの街に攻撃を仕掛けてきたという報せだった。
「ええ、どうやらアビドスの土地の多くはカイザーの所有物になっていたようで……もちろん、それだけで攻撃する権利などありません。それに、そんなことをしたら連邦生徒会が黙っていないはずなのですが……」
「おそらく、内通者がいるのだろう。アビドスからの要請が一向に受理されなかったのも、情報をシャットアウトしている者が連邦生徒会にいるのなら納得できる」
アビドスは先生が来る前から何度も連邦生徒会に対して電子メールを使って支援要請を出していたが、それが受理されないまま月日が流れていた。唯一、先生に届いたのは手紙で出した要請のみであり、古い手段と言える手紙である上、特殊な立ち位置のシャーレだからこそ内通者の妨害を受けなかったのだろう。
「教授、実を言うと襲撃を受ける直前にホシノが退部届けを残して去っていました。添付されていた手紙によると、ホシノはカイザーPMCから傭兵としてスカウトされていたようで……」
それは、カイザーPMCの傭兵となる代わりにアビドス高等学校が抱える借金を肩代わりするという契約だった。だが、それは彼女がアビドスの生徒ではなくなるということでもある。
小鳥遊ホシノはアビドス高等学校の最後の生徒会メンバーでもあった。彼女が消えれば正式な生徒会を持たないアビドスは権利を全て失ってしまうのだ。
「先生よ、彼女は騙されたようだな。対策委員会が正式な認可を受けていない部活動である以上、彼女が去ればアビドスは事実上の無政府状態。カイザーPMCはそれを狙ったのだ……」
「私が、もっとホシノと話せていれば……」
「後悔するのは早い。カイザーPMCを撃退し、ホシノを取り戻すことができれば、立て直すことも可能であろう」
そして、先生はグレイに頼み事をしてきた。
「教授、どうか力を貸してくれませんか?アビドスの生徒達だけではカイザーPMCの大軍を追い返せません。私もパワードスーツを着て応戦するつもりですが……」
「先生よ、困ったことがあれば力になると約束したではないか。頼りになる援軍を連れていく。どうか、我々が来るまで持ちこたえてほしい」
「ありがとうございます、教授」
「礼はいらないさ。仲間なのだから」
こうして二人は通信を終了する。先生はパワードスーツを着てアサルトライフルを担いで前線へと向かい、教授はC&Cの招集と輸送機の確保を行った。
「行け!行け!」
「前進せよ!」
「ここには退去命令が下った!」
アビドスの街をカイザーPMCの軍隊が進撃していた。破壊活動が続けられており、住民達は慌てて逃げ出していく。
「ふふふっ……ついに、条件はクリアした。最後の生徒会がアビドスを退学……これでアビドス高等学校は消えた!後は、我らカイザーコーポレーションが吸収合併するのみ!」
PMC兵士達に混じっているスーツを着込んだオートマタが独り言を叫ぶ。彼はカイザーPMCの代表を務めている理事であり、前線に出てきていた。
そこへ、市民を守りながらPMC兵士を蹴散らしていたアビドス廃校対策委員会と先生が到着し、カイザーPMC理事とのにらみ合いとなる。
「ふむ、学校まで出向こうと思ったのだが、そちらから出迎えてくれるとは感心した」
「これは何の真似ですか?企業が街を攻撃するなんて……いくら土地の所有者だとしても、そんな権利はないはずです!」
「それに、学校はまだ私達のものです!侵攻は明確な不法行為!連邦生徒会に通報しますよ!」
「スカウトなんて、最初から嘘だったってこと?いや、それよりも先輩はどこ?」
「この悪党め……ホシノ先輩を返して!」
「くくくっ、何を言っているのやら」
ノノミ、アヤネ、シロコ、セリカがPMC理事に抗議する。だが、理事は何処吹く風といった様子であり、余裕の表情を崩さない。
「連邦生徒会に通報……面白いことを言うじゃないか。今すぐにやってみればいい、どうせ動くはずがないがな!はっはっはっ!!」
言い返す者は誰もいない。これまで連邦生徒会に何度も嘆願してきたが、彼らが動くことなどなかったのだから。他の学園だって、基本的に傍観の構えであり、助けてくれることはなかった。
対策委員会を嘲笑うPMC理事。彼の言うことは事実であり、誰もが言い返せない中で先生が初めて言葉を発した。
「黙れ……!」
先生らしからぬ攻撃的な物言い。予想外の一言に、流石のカイザーPMC理事も黙ってしまう。先生はそれを確認すると静かに話を始めた。
「連邦生徒会が助けなくとも、私は彼らに手を差し伸べ続ける。私は全ての生徒の味方だ。見捨てることは絶対にしない」
「貴様は、たしかシャーレの先生だったな。全ての生徒の味方……その理念には感心するよ。だが、こいつらはもはや生徒ですらない。貴様が無理して助ける程の存在ではないのだぞ?」
理事は語る。最後の生徒会メンバーの小鳥遊ホシノが退学したことで、アビドスの生徒会は消滅。統治機構を失ったアビドス高等学校は学校としての体を成しておらず、所属する彼女達は先生が助けるべき生徒ではなくなったのだと。
「こいつらはヘルメット団やスケバンと同じだ。特定の学園に所属していない以上、生徒としての権利を持たない不良なのだよ」
「それは違う。ヘルメット団やスケバンも最終的に助けるべき生徒達だ。対策委員会の子達も同じだ。誰もが否定したとしても、私だけは肯定を続ける」
「貴様一人に何ができる?いくら綺麗事を唱えていても、結局は力で決まるのだ。戦力の差を分かっていないわけでは無いだろうな?」
「まさか、それくらいは分かっているさ。それに、頼りになる味方がこちらに向かっているはずだ」
「お前達を助ける輩などいるはずが……」
ドカアアァァァン!!
その時だった。少し離れた場所にて、理事の言葉を否定するように大爆発が起こったのは。その爆発に巻き込まれた部隊がいたのか、PMC側の無線は混乱に陥っていた。爆発は複数の箇所で発生し、PMCの大軍を分断していく。
「な、何が起こっている?!アビドスの連中はここにいるので全てのはずだ!!」
「ええ、たしかにアビドスはそれで全てよ。でも、私達のことを忘れてもらっては困るわ!」
上の方から声が聞こえてくる。全員が見上げた先には、建物の上にいる四人の生徒達が存在していた。
「あ、あんた達は!!」
「ん、あの時の」
アビドス廃校対策委員会の面々や先生はその正体を知っていた。1度はカイザーに雇われた敵として交戦し、次は最初こそ交戦したが肩を並べて共闘した存在……
「久しぶりね、先生とアビドス対策委員会。私達、便利屋68は義により助太刀するわ!」
彼女達は便利屋68。金さえ払えば何でもする何でも屋で、ゲヘナ学園の治安組織である風紀委員会からマークされている程のアウトロー集団だ。
「貴様ら、飼い犬の分際で裏切るというのか!?」
「うるさいわね。私達はアウトロー、いつまでも雇い主に従っていると思ったら大間違いよ!」
理事に対して啖呵を切ったのは、便利屋68の社長である陸八魔アルだ。いかにも悪の女幹部のような雰囲気の彼女だが、内面は全然そんなことはない。
(ふふっ、カッコよく決めてやったわ!)
「アル、来てくれてありがとう」
「先生、恩は返すわ。私達が来た以上、大船に乗ったつもりでいなさい。さあ、反撃の開始とい……」
ドカアアァァァン!!
「きゃあ!?」
どこかにミサイルが突っ込み、発生した爆発でそこにいたPMCの部隊が被害を受ける。それに驚いたアルは可愛い悲鳴を上げてしまい、女幹部みたいな雰囲気が一瞬で吹き飛んだ。
「ぐっ、今度は何なんだ!?」
轟音と共に空の彼方から向かってくる機影があった。それはアビドスの上空に現れると、ホバリングしながら機首下の機銃や翼下のミサイルでPMCを攻撃し始めた。
「あれって、ミレニアムのウイングジェットです!」
「教授、来てくれたのか」
しばらくして、ウイングジェットからメイド服を着た四人がラペリング降下してくる。ミレニアムのC&Cの到着である。
「アビドス高等学校の皆さん、お久しぶりです。カイザーPMCという粗大ゴミを綺麗に掃除しに参りました」
対策委員会の四人に話しかけたのは、交流で彼らと面識のあるアカネだ。前回はただのメイドとしての接触だったが、今は違う。ミレニアムのエージェントであり、戦闘メイドとしてアビドスに来ているのだ。
超法規的権限を持つ組織を率いる先生に、砂漠の精鋭たるアビドス廃校対策委員会、アウトローの便利屋68、華麗に敵をお掃除する戦闘メイド集団のC&Cと、多様な面々がここに集う。
そして、最後の一人がウイングジェットから降り立つ。着地と共にズシンと音を立て、身長およそ3メートルの装甲に覆われた巨体が降臨した。
それは、パワードスーツを纏ったグレイバードである。その姿を見たことがあるのはC&Cのみであり、多くの視線が彼に集まった。
「やあ、先生。私もこの戦いに参加させてもらおう」
「教授もパワードスーツを?」
「あぁ。戦力として数えてもらっても構わない。先生よ、共に戦おう」
「はい、よろしくお願いします」
これで役者は揃った。アビドス、便利屋68、C&C、グレイ教授によるカイザーPMC撃退作戦が幕を上げた。