結果的に言おう。先生と教授の努力により、アビドス廃校対策委員会によるホシノ救出作戦を援護するためにミレニアム・ゲヘナ・トリニティの三校から援軍が派遣された。
ミレニアムからは教授自身とC&C、保安部の航空隊、後方支援要員としてエンジニア部とヴェリタスの部員が、ゲヘナからは風紀委員長率いる風紀委員会の精鋭達が、トリニティからはファウストなる謎の人物が率いる砲兵部隊が派遣されている。
現在、彼らは作戦会議をするためにアビドスの校舎へと集結していたのだが……
「てめえか、ゲヘナの風紀委員長とやらは」
「あなたは、C&Cのダブルオー……」
ネルがとある生徒にガンを飛ばしていた。彼女に睨まれているのは、軍服のような制服に〈風紀〉と書かれた腕章を身に付け、悪魔のような大きい翼と角を生やした生徒。
ミレニアム最強に睨まれても動じない彼女の名は空崎ヒナ。ゲヘナ学園風紀委員会の委員長にして、ゲヘナ最強として不良から恐れられている存在である。
「あたしとタイマンで勝負しろよ。どちらが最強か決めようぜ」
「美甘ネル……情報通りの人物ね。ここまでガラが悪いのは想定外だったけど」
「なんだぁ?てめぇ……」
「ネルよ、喧嘩を売るのはそこまでだ」
ヒナに対して怒りを顕にするネルだったが、グレイによって子猫のように首根っこを掴まれて強制的に引き戻されてしまう。
「じ、爺さん?わ、分かったよ……」
「風紀委員長殿、うちの生徒がすまんな……」
「いいわ、喧嘩を売られるのは慣れてる。あなたは、ミレニアムの教授ね?」
「あぁ、そうさ。私はグレイバード、これからよろしく頼むよ」
「よろしく。私のことはヒナと呼んでいいわ」
握手するヒナとグレイ。身長差はかなりのものであり、グレイが跪くことで何とか高さを合わせていた。
そして、舞台は会議室へと移行する。そこには四つの長机が用意されており、三大学園とアビドス高校がそれぞれに着席する。
アビドス側は先生とアヤネ、ミレニアム側は教授とネル、アカネ、ゲヘナ側は風紀委員長ヒナに加えて風紀委員会ナンバー2である行政官が出席している。また、便利屋68は風紀委員会が出席しているので参加していない。
なお、トリニティは諸事情からリモートで出席しているため、ディスプレイが設置されているのみだ。
その事情の一つとして、ゲヘナとトリニティの関係がある。悪魔系の生徒が多いゲヘナと天使系の生徒が多いトリニティは昔から犬猿の仲であり、戦争を仕掛けようとする過激派が双方にいる。
派遣された砲兵隊の中にも過激派はいるだろう。ゲヘナの生徒と対面した彼らが作戦を無視してゲヘナを攻撃するようなことがあれば問題である。
そのため、トリニティからはゲヘナに偏見を持たない一名のみの参加となった上、リモートとなったのだ。そして、ディスプレイに映し出されたのは覗き穴の空いた紙袋を被った生徒だった。
『こ、こんにちは。ゲヘナとミレニアム、アビドスの皆さん。わ、私はファウストと申します』
ファウストと名乗る紙袋の生徒は挨拶する。正体を知っている先生とアヤネ以外がそのビジュアルから呆気にとられる中、一人だけ立ち上がった。
「何ですか、そのふざけた格好は!?人を直接寄越さないばかりか、そんな格好をするなんて、やはりトリニティは……」
それは風紀委員会ナンバー2の行政官、天雨アコだ。ヒナの副官のような存在なのだが、横乳がはみ出ている格好をしているため、裏では風紀委員なのに風紀を乱していると言われている。そのため……
『でも、あなたは横乳が出てますよね?あ、でも、それが呼吸用の穴だったらごめんなさい』
「くっ……」
ファウストによる会心の一撃。行政官アコは苦悶の表情を浮かべて何も言えなかった。
「あ、あの、そろそろ会議を始めませんか?」
「そうだね、アヤネ。ホシノはこの瞬間も助けを待っているはずだから」
そして、ようやく作戦会議がスタートした。
『こちら、南ゲート守備隊。現在、アビドス高校と思われる戦力と交戦中。数はたったの四人です』
作戦はアビドス高校廃校対策委員会の攻撃から始まった。先生が率いる部隊は遮蔽物に隠れながら、ゲート上にいるPMCと銃撃戦を行う。
「理事、敵が南ゲートに出現しました」
「兵力を集結させろ!北と東からも呼び寄せておけ、北方の対デカグラマトン大隊もだ!」
「はっ!」
対策委員会の動きに応じて、理事も兵力を動かす。四人の敵に対して多数の兵士を差し向けており、確実に潰すつもりだった。
「なあ、たった四人で基地を襲ってくる連中が現れたらしいぞ」
「らしいな。まあ、そのうち全滅するだろうよ」
「こうやってレーダーを真面目に監視しているのも阿保らしくなってくるな。どうせ、この基地を落とせる奴なんて………なっ!?何だこれは!」
「どうした……な、何だとっ!?」
PMC基地の司令部にてレーダーを担当していた二体のオートマタが見たもの。それは、本来のレーダーの表示を上書きするように出現した、“Veritas”と描かれたロゴだった。
こうなったのはレーダーだけではない。司令部に存在する全てのディスプレイに同様のものが表示されており、その全てが使用不能な状態である。
このような事態を引き起こした張本人は、PMC基地から少し離れた場所にいた。そこは、この作戦のために構築された前哨基地……の中に設置されたテントの一つだ。
「チヒロよ、状況はどうかね?」
「問題ない。しばらくは基地のシステムも動かないはず」
ディスプレイの前にいるメガネの生徒の名は各務チヒロ。ハッカー集団ヴェリタスの副部長である。今回はグレイの要請を受けてアビドスに赴いていた。
「流石はチーちゃんだね。その腕前には惚れ惚れするよ」
その場にはメンテナンス要員としてウタハも来ている。ハードウェア系を得意とする彼女とソフトウェア系を得意とするチヒロは、互いの長所を認め合う仲であった。
『と、いうことだ。リト、到着したら航空支援を開始してくれ』
『了解、派手にやらせてもらうぜ』
ミレニアム保安部所属のパイロットであるリトの操るウイングジェットが先生達のいる場所へ向かって行く。そして、その直後に発進しようとする別の機体もいた。
『ネルよ、本当に私が行かなくてもよいのかね?』
『爺さんばかりにやらせるわけにはいかないだろ?今回はあたし達だけにやらせてくれ』
『あぁ、分かった。今回は任せる。幸運を祈っているよ』
その機体にはC&Cと便利屋68が搭乗している。グレイとしては作戦に参加する予定だったのだが、ネルの提案で後方支援に徹することにしていた。
『ファルコン1から対策委員会へ。これから南ゲートを吹っ飛ばす。外すつもりはねえが流れ弾に気をつけろ』
その直後、先生達の上空をミサイルが通り過ぎ、南ゲートに着弾する。発生した爆風が南ゲートを包み込み、次の瞬間には跡形もなく消し飛ばされた。
「わあ、凄い威力です~☆」
「ん、あれなら銀行強盗も……」
「ちょっと、威力がおかしいじゃない!どうなっているのよ!?」
リトが発射したミサイルには特殊な弾頭がセットされていた。それは、鳥人族の武器の中でも最高クラスの威力を誇る爆弾、パワーボムのスペックを落としたものである。オリジナルよりは弱体化しているが、その威力はお釣りが来るほどだ。
『ありがとう、リト。これでホシノを助けにいけるよ』
『礼なら教授にしてくれ。俺はこれから対空兵器を破壊してくる。また会おう』
先生と対策委員会は防壁に空いた穴を通ってPMC基地の内部に入っていく。何処からか爆発音が連続して聞こえてくるが、それは対空兵器や敵兵が撃破される音だろう。
やがて、南ゲートの破壊を察知して多数のPMCが押し寄せてくる。それは津波のように彼らを飲み込むかと思われたが、そうなるのは奴らの方だ。
『こ、こちらファウスト。支援射撃を開始します!砲兵隊の皆さん、お願いします!』
通信機から可愛らしい声が聞こえてきた後、PMCの頭上から猛禽類の鳴き声のような音が響く。直後、飛来した複数の榴弾が爆発し、拡散した破片によって真下のPMCは壊滅した。
これは、トリニティ総合学園が配備しているL118榴弾砲による攻撃だった。
「みんな、砲撃でPMCは混乱している。今のうちに突破しよう」
火力支援の直後に突撃は定石だ。彼らはガタガタになった包囲網を突破し、ホシノがいるという座標まで急いだ。
一方その頃、アビドス砂漠の北方からは大隊規模のカイザーPMC部隊が基地へと接近していた。その部隊の名は対デカグラマトン大隊。文字通り、デカグラマトンに対抗するための部隊である。
とある目的のためにアビドス砂漠にて活動しているカイザーPMCは、何度もデカグラマトンの預言者に襲撃されており、その被害は無視できるものではなかった。
そこで編成されたのが対デカグラマトン大隊だ。通常の歩兵と戦車に加え、量産型のゴリアテやパワーローダーという歩行兵器を配備し、預言者と激戦を繰り広げてきた精鋭部隊である。
そんな彼らの力はアビドス対策委員会を叩くために使われることとなり、全速力で基地へと移動していたのだが、目の前に立ち塞がる集団がいた。
『委員長、大隊規模のカイザーPMC部隊を確認しました』
「こちらでも確認した。ここで全軍を止める。誰一人として先生には近づかせない」
それは空崎ヒナ率いる風紀委員会だった。ヒナの背後には多数の風紀委員が展開しており、その全てが精鋭だ。
対デカグラマトン大隊は身をもって知ることになるだろう。空崎ヒナがゲヘナ最強である所以を……誰を敵に回してしまったのかを……
「こいつの出番」
ヒナは己の身の丈ほどもある全長の機関銃を片手で構えた。大きな悪魔の翼を最大まで広げてバランスをとり、愛銃である〈終幕:デストロイヤー〉に神秘を込めて発砲する。
銃口から飛び出したのは紫色の嵐だ。神秘を纏った紫色の銃弾は物理法則を無視して放射状に解き放たれ、敵大隊の中央を蹂躙。パワーローダーやゴリアテまでもが粉砕された。
空崎ヒナの強さはこの殲滅力にある。それにより、彼女は数百人単位が所属する風紀委員会の戦力の半分に匹敵しており、彼女が一人動くだけで大抵の事態は武力解決できる程だ。
「さあ、始めよう。風紀委員会、攻撃開始」
配下の風紀委員達も動き出す。実力はヒナに遠く及ぶものではないが、気概は十分だ。北方にて、新たな戦いが始まった。
「よくぞここまで来たものだ。シャーレの先生にアビドス対策委員会」
対策委員会が敵部隊を突破した先で待ち構えていたのは、残る全ての兵力を結集した大部隊とPMC理事だった。中にはゴリアテも含まれており、理事に関しては下半身が修復されていた。
「砂漠化が進行し、捨て去られたアビドス高校本館……ここが、元々はアビドスの中心だった。かつて学園都市で一番大きく、強大だった学校の残骸が砂の下に埋もれている。ゲマトリアは、ここに実験室を作ることを要求した」
『実験室……?』
「そんなことよりも、ホシノ先輩は何処ですか!」
「副生徒会長なら、向こうの旧アビドス高校本館にいる。もしかしたら、実験はもう始まっているかもしれないが……」
「んっ!」
「彼女の元に行きたければ、私達のことを振り切って行けばいい。それができるなら、という話だが」
「それはどうかな」
四人だけでは突破できそうになく、ホシノが生き埋めになる可能性を考えると火力支援も期待できない。しかし、先生達には自信があった。何故なら……
ドカアアァァァン!!!
PMC部隊の一角で爆発が起こる。それと同時に一機のウイングジェットが先生達の頭上に現れた。
「騎兵隊の到着だぜ!」
機体から飛び降りてきたのは、ネル達C&Cとアル達便利屋68の混成部隊だ。彼らの役目は、救出を妨害してくるであろう敵を足止めすることである。
「先生、ここは私達に任せて先に行きなさい」
「アル……君達も来ているなんて驚いたよ。それはともかく、これで安心してホシノを助けに行ける」
こうして、先生と対策委員会は別ルートを通ってホシノのいる建物へと向かう。後に残されたのは、C&Cと便利屋68だけだ。その時、ネルが睨み付けながらアルに話しかけた。
「おい、便利屋……」
「何かしら?」
「くれぐれも足手まといになるなよ」
「まさか、私達が遅れを取るとでも?あなた達こそ、足手まといにならないようにすることね」
「面白い奴だ、気に入った。殺すのは最後にしてやるぜ」
(言っちゃったああぁぁぁ!!!)
ネルに睨まれながらの問答に余裕な感じで答えているように見えるアルだったが、実はそんなに余裕がなかった。極めつけに見栄を張ってあんな発言をしてしまったため、内心では白目を剥いていた。
「てめぇら、ぶっ壊しに行くぞ!」
「いくわよ、我が社員達!」
ネルとアルの号令で双方が動き出す。キヴォトスでも上澄みに入る強さの生徒達による攻撃が、PMCに襲いかかった。