『こちら、東部方面隊!多数の榴弾砲による砲撃を受けっ……』
『ゲヘナの風紀委員長がいるなんて聞いてないぞ!この、化物めぇぇぇぇぇ!!!ぐあっ!?』
『何なんだ、このチビメイドは!?ま、待ってくれ!チビは取り消……あ、あぁぁぁぁ!?』
『この、零細企業風情が!!』
カイザーPMC側の無線では、三大学園と便利屋68の攻撃で蹴散らされる兵士達の怒号と悲鳴が響き渡る。戦場の主導権は三大学園が完全に掌握していた。
そんな中、シャーレの先生とアビドス対策委員会はホシノが閉じ込められている旧アビドス高等学校本館の前まで来ていたのだが、そこへPMC理事がたった一人で現れた。
『カイザーの理事!!』
「しつこい……」
「ああもう、どこまで邪魔すれば気が済むのよ!」
「退いてください!さもないと……」
各々が銃を照準し、無理矢理にでも押し通る構えだ。理事はそんな彼らに向けて話し始めた。
「対策委員会、ずっとお前達が目障りだった。これまで、ありとあらゆる手段を講じてきた……」
それから、理事は対策委員会に対して恨み節を吐き続ける。そこにいたのは大人ではなく、駄々をこねるだけの子供だった。
「あれだけ懲らしめたのに、徹底的に苦しめたのに、毎日毎日楽しそうに!!お前達のせいで、計画がっ!!私の計画があぁぁっ!!!」
喚き続けるPMC理事。そんな彼を物理的に黙らせたものは、木霊する銃声と一発の銃弾。見れば、先生が〈フェデレーション〉を構えており、銃口からは煙が立ち上っていた。
「みんな、こんな大人に構っている余裕はない。一刻も早く、ホシノを助けよう」
そして、オペレーターとして前哨基地にいたアヤネがウイングジェットを自ら操縦して合流し、全員で旧アビドス高等学校本館に踏み込む。
数分後、作戦に参加している連合部隊の無線に流れてきたのは、ホシノの救出に成功し、PMC理事を捕縛したという報せだった。
『そうか、成功したか。先生よ、ご苦労だった』
『ええ、おかげさまで。教授の力添えがなければ、ここまで来ることはできなかったと思います』
アビドス高校対策委員会の勝利に、作戦に関わった者達は例外なく喜びの表情を見せる。アビドスの問題が解決したわけではないが、一歩前進といってもいいだろう。
しかし、この時は誰も知らなかった。この激戦による戦場の熱気に誘き寄せられるように、北方より巨大な何かが接近していたということを……
「これは、一体……?」
「チヒロよ、何かあったのかね?」
「教授、これを見て……北方から巨大な反応が接近してる。座標を見る限りだと地中のようだけど、移動速度が新幹線並み……」
「地中を新幹線並みで?興味深いな……」
グレイとチヒロ、ウタハの三人でディスプレイの一つを覗き込む。そこにはかなりの速度で北方より向かってくる一つの光点があった。
「嫌な予感がする。チヒロ、この反応の予想進路と各部隊の位置関係を調べてくれないか?」
「もうやってる」
ディスプレイに各部隊の位置関係と巨大な反応の予想進路が同時に表示される。予想進路を辿った先にいたのは、移動中の先生と対策委員会であった。
「いかん!もしも、これが敵性存在だとしたら……」
グレイは通信を先生達に繋げ、警告する。彼の脳裏にあったのは、先生が死亡するという最悪のシナリオだった。
『先生よ、そちらに巨大な何かが地中より接近している。気をつけよ!』
『巨大な何か?』
『あぁ、そうだ。先生の身に何かあれば困る。私も、すぐに合流する』
グレイは通信を切った後、精神を統一してパワードスーツを展開する。一部の武装を背部に装着し、シールドと槍を装備して前哨基地から飛び出していった。
ゴゴゴゴゴ……!!!
アビドス砂漠が揺れる。発生源である何かは北方にいた風紀委員会の近くを素通りし、先生達がいる方へと高速で地中を掘り進んでいく。
「追いかけないと……誰か、車を貸して」
それが危険な存在であると察したヒナは風紀委員会の車両に飛び乗り、その後を追って移動を開始していた。
「ん、何か来る!」
そして、奴は先生達の目の前で地上へと姿を現した。それは、鱗の代わりに純白の装甲を纏ったビルよりも巨大な機械の大蛇。その頭部には生徒にしかないはずのヘイローを戴いている。
奴の名はビナー。デカグラマトンの預言者の三番手であり、対デカグラマトン大隊やかつてのアビドス高校が戦い続けてきた存在だ。
「まさか、黒服の奴が言っていたデカグラマトンの預言者……?その一体がアビドス砂漠に?」
付近まで来ていたグレイは、以前に黒服から聞いていた頭上にヘイローを浮かべる純白の巨大機械という特徴との一致から、目の前の存在がデカグラマトンの預言者の一体だと判断する。
『ご名答です、グレイ教授。ええ、あれはデカグラマトンの預言者の一体。第三セフィラ、ビナーです』
『黒服!?貴様、何処から通信を?』
『企業秘密です。そもそも、今は私よりもビナーに集中すべきなのでは?』
黒服がそう言った直後、ビナーが動きを見せる。
グオォォォォ!!!
ビナーは鎌首をもたげると咆哮した。その衝撃波で大量の砂が吹き飛び、先生達は砂嵐に巻き込まれてしまう。
それが過ぎ去った直後、視界が回復した先生達の目の前に見えてきたのは、開いた口の中にエネルギーを集束させるビナーの姿。
「みんな、逃げっ……!?」
先生達は退避しようとするが、ビナーのエネルギーチャージが完了する方が早い。集束されたエネルギーが解き放たれ、強力なビームが迫ってきた。それを受ければ無事ではいられないだろう。キヴォトス人ではない先生に至っては死を覚悟した。
「やらせはしない!」
だが、そこにグレイが割り込む。シールドを構えると迫るビームに向けて前進し、その進行を押し留めようと踏ん張った。
「ぐっ、ぐおぉぉぉっ……!!」
ビームの威力はゴリアテのそれとは違う。パワードスーツを装着したグレイであっても徐々に押し返される程の威力であり、少しでも気を抜けば吹き飛ばされてしまうだろう。
「先生よ、今のうちに逃げるのだ……」
グレイは先生達に逃げるように促すが、直後に自らの体が後ろから押される感覚があった。なんと、アビドスの生徒や先生がグレイのことを支えていたのだ。
「先生よ、何故こんなことを?」
「教授を見捨てるわけにはいきませんから……」
先生達の支えによって、ようやく拮抗する状態となる。その瞬間を見逃さず、ビナーに対して横槍を入れる者達がいた。
『目標、巨大蛇型機械!砲撃開始です!』
「ターゲットを確認した」
ビナーに襲いかかったのは、トリニティの砲兵部隊による同時弾着射撃と、ゲヘナの風紀委員長による強烈な範囲攻撃であり、ビナーはビーム砲撃を中断する。奇しくも、対立するトリニティとゲヘナが直接的に協力する形となった。
「あたしのことを忘れてもらっちゃ困るなぁ!!」
そこへネルも現れる。ビナーに向けて跳躍すると顎を蹴り上げ、そのままの動きで回転してビナーの頭部を再び真正面に捉えると、〈ツイン・ドラゴン〉を構えてフルオートで発砲する。
顔面を多数の銃弾で打ち据えられたビナーはネルをビームで追撃しようとするも、そこへ一発の銃弾が横方向から突き刺さり、大爆発を起こしたことで妨害される。
「あっはは!命中よ!」
ビナーがその四つ目で犯人を探すと、片腕だけでスナイパーライフルを真っ直ぐに構える人物がいた。それは、我らが陸八魔アルである。彼女は神秘を込めることで銃弾に爆発を付与することができるのだ。
「あなたは、便利屋68の……」
なお、その近くにはいつの間にか空崎ヒナが来ており……
「ふっ、風紀委員長……!?」
「安心して。別に今は捕まえる気はない」
自分達を追う組織の委員長の登場にアルは後退りしてしまうが、状況が状況だけにヒナも彼女を捕まえるつもりはなかった。
そして、先生は集まった生徒達に協力を要請する。
「みんな、私に力を貸してほしい。あれを倒すためには、みんなの力が必要だ」
「任せて。風紀委員会を代表して助太刀させてもらう」
「随分と壊し甲斐がありそうな奴じゃねえか。C&Cも参戦させてもらうぜ」
「あぁ、私もだ。C&Cと共にミレニアムとして闘わせてもらうぞ」
「私達、便利屋68もやらせてもらうわ!」
『わ、私達も砲撃支援をさせてもらいます!』
「おじさん達も負けてられないねぇ……」
先生の元に所属も思想も種族も異なる者達が違いを乗り越えてここに集う。彼らは一本の矢へと変わり、機械の白蛇を討つべく団結した。
変異電脳形態:ビナー
大蛇の形態をしているデカグラマトンの預言者の一人です。「生命の木」の伝承にある第3のセフィラの名を冠しています。アビドス砂漠を本拠地としており、アビドス高校には何度も交戦記録がありましたが、その記録は混乱の過程で失われてしまいました。
口内に高出力エネルギー兵器、後頭部には多数の垂直ミサイル発射管を確認。地中に潜航して高速で移動する能力の他に砂嵐を発生させる能力を有しており、アビドスにおける急速な砂漠化の原因だと考えられています。