百鬼夜行へ
ある日、エンジニア部のガレージにて。
「そうか、百鬼夜行の祭りにエンジニア部の発明品を……そなたらは外部からも認められているのだな」
「あぁ、ミレニアムのマイスターとして嬉しい限りだよ」
百鬼夜行……正式名称、百鬼夜行連合学院は様々な部活や委員会が連合を組むことで成立した学園である。観光が主な産業であり、毎月のように開催されるお祭りが主に盛んとなっている。
ある日、百鬼夜行連合学院の委員会である〈お祭り運営委員会〉からミレニアムのマイスター達に依頼が舞い込んだ。それは、開催予定のお祭りでフィナーレに使う仕掛けを製作してほしいとの依頼であった。
「ウタハよ、その発明品はどのようなものなのだ?」
「教授、よくぞ聞いてくれたね。私達が製作したのはホログラム花火というものさ」
そう言ってウタハが取り出して机に置いたのは、ティッシュ箱大の四角い機械だった。その上面にはレンズのようなものが埋め込まれており、そこからホログラムを投影するのだろう。
「このホログラム花火には、既存の技術に加えてチョウゾの技術も取り入れていてね、本物と見分けがつかない程に精巧な像を浮かべることができる」
グレイがいた世界ではホログラム技術もかなり発展している。銀河連邦のとある巨大宇宙コロニーではどこまでも続く本物にしか見えない自然風景を投影できる装置が配備され、軍隊では実体を持ったホログラムが仮想敵として使われることもあった。
「ここまでコンパクトに収めるとは……私の知るホログラムユニットは人間よりも大きかった記憶があるのだが……」
「マイスターを舐めてもらっては困るよ。技術は単純に吸収するだけではなく、自分自身の手で発展させるのが一番だからね」
「よい心がけだ。そなたは良い技術者だな」
「褒めても何も出な……あぁ、もし良かったら……ホログラム花火の本番を見物しに百鬼夜行まで一緒に行くのはどうかな?」
「それは嬉しい誘いだ。是非、そなたらに同行させてもらおう」
数日後、グレイのラボの近くに四人の生徒が集まっていた。
「皆、おはよう。今日は百鬼夜行連合学院まで行くわけだが、よく眠れたかね?」
「やあ、教授。私達が生み出した発明品が使われるとあって、あまり眠れなかったよ」
ウタハもコトリもヒビキも眠そうな感じであり、三人揃って欠伸をしている状態だ。
「私はよく寝ましたよ!お祭りをしっかりと楽しみたいですからね」
百鬼夜行連合学院に向かうメンバーにはエンジニア部以外に黒崎コユキもいた。彼女に様々なことを経験してもらうため、グレイが誘ったのだ。
「そういえば、これから行く百鬼夜行連合学院でやってるお祭り、何て名前でしたっけ?」
「説明は私にお任せください!現在、百鬼夜行で行われている祭りは〈百夜ノ春ノ桜花祭〉と言いまして、一般的には桜花祭と呼ばれています!この桜花祭の起源には……」
コユキの何気無い質問がコトリに火を付けてしまったらしい。意気揚々と説明が始まったが、半ば暴走気味でいつまでも終わりそうにないため、泣く泣く中断してもらった。
やがて、迎えのウイングジェットがやって来る。グレイが手配したもので、中に乗り込むとコックピットにはリトが座っていた。
「よお、迎えに来たぜ」
「リトよ、また頼んでしまってすまんな」
「別にいいぜ。俺は地べたなんか這うよりも空を行く方がいいからな」
「そうか……本当に空が好きなのだな」
「まあな。前はバイクで暴走してたんだが……ある日、空飛ぶ乗り物に心奪われちまってな。そういうのに乗れると聞いて、中学を卒業したのを機に保安部へ入ったわけだ」
「なるほど、そのような経緯が……」
「昔話はこれくらいにしよう。さっさと出発するぞ」
全員が席に着いたのを確認し、リトはハッチを閉める。垂直に離陸して方向転換すると、ミレニアム製のVTOL機は百鬼夜行連合学院の自治区に向けて飛行を開始した。
「ここが、百鬼夜行の自治区か……」
百鬼夜行連合学院の自治区に到着した一行。依頼人がいる場所まで移動しつつ、その独特な街並みを楽しんでいた。
「すごいです!ネットでは見たことありますけど、本物の百鬼夜行の景色なんて初めてです!」
百鬼夜行では古き良き伝統的な街並みが広がっており、和装の生徒達が行き交っている。最先端や合理性を突き詰めるミレニアムではまず見られない光景であり、珍しいものを見てコユキは楽しそうにしていた。
「ミレニアムの景色もいいけれど、たまには伝統的な建物が軒を連ねている景色もいいね」
「建築様式の解説なら私にお任せください!百鬼夜行における建築様式は主に……」
「この景色、今度の発明品に活かせるかも。しっかりと記録しておこう」
百鬼夜行の景色にウタハはうっとりとする。そして、コトリは平常運転で勝手に解説を始め、ヒビキは景色を写真に収めていた。
「あ、向こうに屋台がありますよ!教授、何か買ってもいいですか!?」
「いいぞ。だが、私に奢らせてくれないか?ウタハ達もリトも、好きなものを買うといい」
丁度、お祭りの最中なので街には屋台がいくつも並んでいるのが確認できる。コユキは焼きそばを選び、エンジニア部の三人娘はタコ焼きをシェアして食べていたのだが、リトはというと……
「リトよ、そなたも何か買ってもよいのだぞ」
「別に、俺はいい……」
「ふむ……ならば、私が選ぼう」
リトが何も買う気がないようなので、グレイは自分で選んだものを買って彼女にあげることにした。
「ほれ、タコ焼きだ」
グレイは爪楊枝に刺したタコ焼きをリトの目の前に差し出す。立ち上る湯気で上に載せられた鰹節が舞い、ソースの良い匂いが拡散される。食欲を刺激された彼女は、思わずタコ焼きにパクりと食いついた。
「うまい……」
「そうか、それは良かった。ほれ、二つ目だ」
こうして、リトは差し出されたタコ焼きを次々と食べていき、やがて完食する。だが、お気づきだろうか。完全に彼氏が彼女にあーんしてあげる構図だということに。そして、グレイが視線を感じて振り返ると……
「教授、ズルいですよ。私にもタコ焼きをあーんしてください」
「同感だね……私もあーんをしてほしいね」
「今の気持ちを解説しますと、私もそんなことをしてほしいというか……」
「教授にはその義務があるよ」
他の四人から同様のことをするように要求が来る。彼女達の要求に対するグレイの答えは……
「分かった。少し待っていなさい」
グレイはタコ焼きを追加で購入し、横一列で並ぶコユキ達に順番で食べさせていく。彼女達はそれで満足したのだが、巣で待っている雛鳥に餌を与える親鳥の構図になっていたことだけ報告させてもらおう。