ドガァァァン!!
「きゃんっ!?」
魑魅一座との戦いの最中、コユキの爆弾が炸裂したと同時に甲高い声が響く。爆煙の中から現れた声の主は赤いマフラーを首に巻いたモフモフ尻尾の狐耳少女であり、先生は彼女と面識があった。
「イズナ!?どうしてこんなところに……?」
「あれっ、先生!?それはイズナの台詞です!どうして先生が私達の邪魔を!?」
イズナというらしい彼女は魑魅一座に混じって攻撃してきたわけだが、どうやら先生は彼女が不良集団と関わっていることが想定外だったようだ。
「はっ!もしかして先生は最初からイズナを誘い出すために近づいてきたのですか!?まさか、全ては仕組まれていた!?」
「え?」
「イズナの夢を応援してくれるって言ってくれたのに!本当は悪い大人だったんですか!?」
「どうして魑魅一座と一緒に?それに、イズナの夢は……」
随分と人聞きの悪いことを言われてしまっているが、先生は冷静にイズナへと尋ねた。
「い、イズナは忍びとして命令に従っているだけです!」
「命令?一体、誰から?」
“命令”などという不穏な言葉に反応する。先生は自称忍びのイズナから何らかの情報を引き出そうとしたのだが、今は時間切れだった。
「くっ、こいつら強すぎる!」
「あの大人が指揮をしているせいっす!」
「イズナ殿、戦略的撤退だ!」
先生の指揮によって戦いは有利に進んでおり、魑魅一座の士気は下がる一方だ。不利を悟った彼らは撤退を開始し、イズナにも声をかけた。
「撤退?しかし、イズナは主からの命令を何も果たせていません!」
「立派な忍者は引き際を弁えてるものだよ!」
「なるほど!それならば!」
イズナが言いくるめられたのは一瞬だった。そのまま魑魅一座と共に撤退しようとするが、その前に先生の方をもう一度だけ向く。
「先生……まさか、先生が立ちはだかるだなんて、何という運命の悪戯!ですが、忍びの道を行くからには、こういったこともあり得ると知っています!」
「えっと、何の話?」
「望まぬ戦いに巻き込まれるのも忍者の宿命というもの!次に会いまみえる時は今の三倍くらい強くなっているはずですので!それでは、ニンニン!」
風のように素早く去っていくイズナ。これまで一方的に彼女の世界観で話が進んでおり、先生にはあまり理解できていなかった。
「イズナ、君は……」
先生達が戻ってきた後、グレイは先生にイズナという生徒について尋ねた。今後のことを考えると、彼女のことを知っておく必要があるからだ。
「先生よ、彼女について知っていることを教えてくれぬか?おそらく、最も詳しい情報を持っているのはそなただけだろう」
「ええ、教授。彼女は……」
先生は語る。百鬼夜行に招待され、祭りが開催されている街をふらついていた時にイズナと出会ったのだと。
「何かから逃げている様子だったため、思わず私は彼女の手を引いて一緒に逃げました。そして、彼女に祭りを案内してもらうことになったわけです」
「何かから逃げていた?何か、追われるようなことをしたのかもしれぬな」
「しかし、彼女が進んで悪事を働く子だとは思えないのです。彼女は百鬼夜行を愛していましたし、純粋に夢を追う子でした」
「先生は自身の感覚を信じればよい。多くの生徒を見てきた先生の目を私は信じよう」
「教授……」
「それで、続きを聞かせてくれぬか?」
「ええ、イズナは私を案内しながら百鬼夜行の名物について教えてくれました。それを話す彼女の姿は、百鬼夜行に対する愛に溢れていたのです……」
最後にイズナから案内されたのは、百鬼夜行の展望台だった。そこから見えるのは百鬼夜行の象徴である巨大な御神木であり、彼女は街と御神木を見渡せるこの場所が大好きだと言っていた。
『イズナには夢があるんです!キヴォトスで一番の忍者になるという夢が……!』
そこでイズナは先生に夢を語ってくれたのだという。このキヴォトスにおいて忍者はフィクションの存在であり、彼女は恥ずかしく思っていた。だが、先生はそんな彼女の夢を応援してあげた。
『夢があるのはいいことだ。私はイズナの夢を応援しているよ』
『たとえ、忍者になりたいという普通の学生が抱かないような夢でもですか?』
『どんな夢でも、生徒の夢は応援する。私は先生だからね』
『そのように言っていただいたのは先生が初めてです!イズナの夢を応援してくれるなんて……!』
そうして、立派な忍者になることを宣言して去っていったのだが、その時に雇い主からの依頼の存在を話しており、先生としてはそれが引っ掛かっていた。
「もしかすると、彼女は騙されているのかもしれぬな」
「イズナは純粋な生徒ですし、そうかもしれませんね。魑魅一座のこともありますし、彼女のためにも妨害の黒幕を見つけなくては……」
「そうだな……こちらとしては、ミレニアムの発明品を守るためにも協力をさせてもらおう」
二人が話を終えて戻った時、生徒達は魑魅一座による妨害について話し合っていた。
「魑魅一座はどうしても祭りの邪魔をしたいみたいだね。私達が作った発明品まで狙っているようだし」
「昔から問題を起こすような問題児だったとはいえ、こんなに組織的に動くようになったのは最近のことですし、まるで組織立って祭りを台無しにしようとしてるっていうか……」
「魑魅一座のことはよく知ってるが、普段は纏まりのない連中が組織的に動くのは不自然だ。裏から誰かが手を引いているようだな」
ウタハ、シズコ、リトの三人がメインになって話を続けている。ウタハはホログラム花火の開発者として、シズコはお祭り運営委員会の委員長として、リトは純粋な戦闘要員かつミレニアム側の護衛として危機感を覚えていた。
「何にせよ、任侠を志す者として放ってはおけマセン!」
「あぁもうっ!本当に何なのよっ!今までは私達だけで何とかできたけど、頻度も数も増えている気がするし、このまま桜花祭がダメになったら私達が責められるじゃない!たまったもんじゃないわよ!」
流石にシズコも猫を被るのを忘れて声を荒らげてしまう。それに気付いた彼女は少し前のように取り繕おうとしたが……
「……えっと、な~んちゃって、シズコ怖いです~☆」
「どう反応すればいいのやら……」
先生を除いてガン無視だった。
「フィーナ、理解できマセン。どうして、桜花祭を邪魔しようとするんデショウ?」
すると、フィーナの疑問に答える声が現れた。
「知ったこっちゃないが、色々と気に食わないんじゃないかい」
「あ、会長!」
みんながシズコの視線の方を向くと、そこには和服を着た猫の獣人男性が立っていた。
「どうも、百鬼夜行の商店街の会長、ニャン天丸というものだよ。シャーレの先生にミレニアムの教授、よくぞ百鬼夜行へおいでくださった。歓迎しよう」
「会長、いったい桜花祭の何が気に食わないんでしょうか?」
「そりゃあ、新しい試みのことだろうな。続いてきた伝統がねじ曲げられることはもちろん、学生なんかが例の機械にかなりの金をかけたことが気に入らない奴だっているだろうよ」
「でも、これは祭りをもっと素敵なものにするためで、決して趣味や道楽でやっているわけではありません!それだけは胸を張って言えます!」
「ふん、そうかい。じゃあそうなるように頑張りな」
ニャン天丸はぶっきらぼうに言葉を返す。突き放したような言い方だったが、シズコ達はそれが激励であると理解していた。
「こう言いつつも、会長は手伝ってくれてますし、私達のことを心配してくれてますもんね」
「ツンデレってやつデスね!」
「違うわい!」
ニャン天丸はツンデレ発言を否定する。その後、彼は用事があるということで百夜堂から去っていった。
魑魅一座による破壊活動への対処。それがお祭り運営委員会の課題だった。だが、あまりにも戦力が足りないのだ。
実質的に戦力となれるのは、運営委員会の二人に加えて、コユキとリトとコトリくらいのものだ。一応、ヒビキが迫撃砲を持ち歩いているので火力支援要員になれるが、それでも足りない。
かといって、ミレニアム側から部隊を呼ぶわけにもいかないだろう。他校の自治区に戦力を移動させるのは基本的にご法度であり、紛争の火種となり得るのだから。
結果、頼ることができるのは百鬼夜行連合学院の生徒のみという状態になっていた。
「一つ、思うことがある。魑魅一座という武装勢力が暴れているというのに、治安組織が駆けつけてくる様子が見られないのだが……」
「教授の言うとおりだね。ミレニアムなら騒ぎが起これば特殊部隊が一瞬で駆けつけてくるはず」
「そうですね!私達が作った鳥人メカが暴走した時も、特殊部隊が数分ですっとんで来ましたから!」
「私なんて何度も一瞬で捕まってます!」
「百鬼夜行にも治安組織はあったはずだ。たしか、百花繚乱紛争調停委員会とか言ったか。昔、俺も世話になりかけたことがある」
C&Cという最強の特殊部隊を抱えているミレニアムサイエンススクールでは、大規模な武装勢力が好き勝手することはできない。集まる前に察知されて潰されるし、いざ動き出しても数分で駆けつけてくるので終わりなのだ。
そんなミレニアム所属だからこそ、魑魅一座というヘルメット団の親戚のような集団が好き勝手している状態に違和感を覚えた。
「実は、百花繚乱紛争調停委員会は事実上の解散状態になっていまして……組織的に動けていないんです」
「噂によると、委員長と副委員長が行方不明になってしまったそうデス!」
「なんと……それは不味い状態だ」
例えるならば、銀河から銀河連邦軍や銀河連邦警察が消え、スペースパイレーツのような犯罪集団が跋扈しているようなものだ。そうなれば、自衛するかバウンティハンターを雇うくらいしか身を守る手段は存在しない。
「現在は各々で自衛することが求められている状態です。そのため、私達のようなメンバーが少ない部活は他の部活に助けを求めるしか……」
「何か、心当たりはある?もしも力を借りに行くなら、私が同行してもいいかな?」
「先生が同行していただけるんですか?」
「生徒を助けるのが先生の役目だからね。シャーレの権限も使わせてもらうよ」
シャーレは超法規的な組織である。その代表である先生は学園や所属に関係なく無制限に全ての生徒に協力を要請し、指揮下に入れることができる。所属が異なる生徒達をまとめるためにも、先生の力は必要だった。
「ありがとうございます!」
「それで、力を借りられる部活に心当たりはあるかい?」
「その……あるにはあるのですが。変人の集まりというか……悪い人達ではないんですけど……」
「変人?」
「そうなんです!修行部っていうんですけど、修行の一環として寝ながらパズルをやる人とか、素敵なレディになるためにチンピラ退治をする人とか、読心術を使える人がいるとか……」
「修行って何だっけ?」
たしかに変人が揃っているものの、悪い評判はないらしい。先生とシズコの二人で会いに行くことになった。
「先生よ、留守は我らに任せよ。ただ、うちのウタハが取りに行きたいものがある。構わないかね?」
「ええ、大丈夫ですが何を取りに?」
「私が発明した戦闘メカさ。戦力は少しでも多い方がいいからね」
「こちらが乗ってきた飛行機に積んである。リトよ、ウタハの護衛を頼めるかね?」
「構わねえが、教授の護衛はどうする?」
「私がいますよ!」
「コユキよ、しばらく頼むぞ」
「はい!」
こうして、行動の方針は決まった。先生とシズコは修行部へ、ウタハとリトは戦闘メカを取りに、残りの教授とコユキ達は留守を預かることになった。