「ドローンの展開、完了です!これで周辺は警戒できますよ」
「流石だな、コユキ。複数のドローンを同時に操作するとは……」
百夜堂の店内にてコユキはパソコンのキーボードを叩いていた。画面に映るのは複数のドローンの視界であり、ドローンを操って周辺を警戒しているのだ。
コユキの特技といえば暗号の解読であり、何でも感覚的に解くことができるのだが、最近はドローンの操作もそれに加えられている。まるで暗号を解くように、感覚的に複数の機体を操れるようになった。
「お疲れさまデス、お頭!こちら、百鬼夜行名物のサクラ大福になりマス!お茶もどうゾ!」
そこへ、フィーナがお菓子とお茶を持ってやって来る。お盆の上には桜の花びらが乗ったピンク色の大福と、緑茶が注がれた湯飲みがあった。
「おやつだ!ありがとうございます!」
「これがサクラ大福ですか!」
「可愛い大福だね」
「すまんな、わざわざ用意してもらって」
「いえ、お頭をおもてなしすることが仕事ですから!」
「そうか。そういえば、どうしてそなたはお頭と呼ぶのかね?」
みんなで大福に舌鼓を打つ中、グレイは気になっていたことをフィーナに聞いてみる。それは、彼女が来店する客のことをお頭と呼んでいることについてだ。
「よくぞ聞いてくれマシタ!ワタシ、任侠映画のファンでして、任侠に憧れているんデス!」
「任侠映画?」
「解説しましょう!任侠映画とは、ヤクザや極道を主人公とした映画のジャンルのことです!義理人情がテーマになっていることが多いそうです!」
「そうなんデス!義理人情に、切っても切れない絆!悲劇的な結末と、大切な人達のためのやむを得ない犠牲!最高に浪漫デス!」
フィーナは興奮したように自分の好きな任侠映画の世界について語ってくれた。その様子はとても楽しそうで、微笑ましいものだった。
「フィーナよ、何かおすすめの映画はあるかね?」
「そうデスね……個人的には“仁義なきニャンニャンパンチ”がおすすめデス」
「それ、私も見たことありますよ!最後のあのシーンが良かったです!」
「おお、あなたも分かりマスか!?」
聞いただけで脱力しそうな題名の任侠映画のことをコユキも知っていた。二人は即座に握手し、意気投合してしまった。
「ふむ。私も後で見てみるとしよう」
お留守番は平穏に終わるかと思われたが……
「あ!?ドローンのカメラに魑魅一座が!」
「でも、人数は少ないようデスね」
「そろそろリトとウタハも戻るはずだ。それまで、我々で対処するしかない。ヒビキは二階のベランダで迫撃砲の準備を。コユキとコトリ、フィーナは前線を頼む」
グレイの指示で各々が配置についていく。今、向かってきているのは先ほどより小規模の魑魅一座であり、イズナの姿はなかった。
「ヒビキ、準備はできたかね?」
『問題ない。いつでも撃てるよ』
「よし、それでは頼む」
『目標を確認。支援射撃、開始』
ヒビキは遠くから迫る魑魅一座を目視すると、愛用する迫撃砲の角度を調整し、砲弾を砲身内部に落とし込む。底に触れると同時に爆発が起き、押し出された砲弾は湾曲する軌道を描いて飛んでいった。
「今ならあの忌々しい先生もいない!」
「今のうちに百夜堂を破壊すれば私達の勝ちっす!」
彼らは先生や一部生徒の不在を狙って攻めて来た。先生が指揮を取り始めた瞬間に自分達が不利になったという事実があり、脅威だと認識しているからだ。先生さえいなければ何とかなるだろうと思っていた彼らだったが、それは一瞬で崩れ去る。
「なあ、変な音がしないか?」
「まるで砲弾が落ちてくるような……砲弾!?」
ズドォォォン!!
直後、彼らのすぐ近くに迫撃砲の砲弾が落下する。何人かの仲間が爆発で吹き飛ばされ、戦闘不能となった。
「みんな走れ!近付けば撃てなくなるはずだ!」
立ち止まっていてはやられてしまう。そう判断したリーダー格は全員に走るように指示を出す。そのまま、百夜堂に向けて突撃していくが……
「これは痛いですよ!」
「一網打尽デス!」
「にはははは!!!」
待ち構えていたのは三丁のマシンガンだ。偶然にも三人の愛銃はMGで統一されており、一斉射撃で濃密な弾幕を展開することができた。
そんな中に突っ込むことになった魑魅一座は、弾幕に絡め取られてバタバタと倒れていく。中央にコトリ、左右にコユキとフィーナが展開し、十字砲火で効果的に敵を倒していた。
「ち、畜生……!!」
負けじと魑魅一座の側も反撃を試みる。構成員の一人がロケットランチャーを放ち、ロケット弾がコトリに向かってきた。彼女は避けられず、爆発に巻き込まれる。
「うわっ!?」
「よし、まずは一人だ………なっ!?」
だが、煙の中から現れたのはエネルギーシールドのようなものに守られた無傷のコトリだった。
「説明しましょう!これは、鳥人族のエネルギーシールドを元に私が開発した携帯式シールド発生装置によるものです!防御力は折り紙つきですよ!」
キヴォトスにも携帯できるエネルギーシールドは存在しているが、コトリが開発したものは従来のものより強固なシールドを張れるものになっている。コユキとフィーナも装備済みである。
『死ぬほど痛いよ』
「次はこれで!」
そこへヒビキの支援射撃やコユキの投げた爆弾から降り注いだ散弾が襲いかかり、魑魅一座は戦力を更に減らしていく。そして、追い討ちと言わんばかりに戻って来た二人がいた。
「行け、ネオ雷ちゃん!」
突如、魑魅一座の横方向から多数の光弾による掃射が行われ、一瞬で蹴散らされる。見れば、両腕と頭部にガトリング砲を装備した椅子のような純白の機械と、その上に座るウタハの姿があった。さらに……
「おらよっと!!」
「ぐえっ!」
リーダー格の顔面に何処からか飛び蹴りが直撃する。青と銀の人影はその反動で飛び上がると、腰から二挺の拳銃を抜いて弾丸の雨を降り注がせ、そのままウタハの側に着地した。
「てめえら、覚悟しろよ」
ウタハの側に着地したのは、赤いパイロットスーツの上に銀色のジャケットを羽織った青髪の生徒、乱羽リトだ。
「クソ!先生さえいなければ何とかなるんじゃなかったのか!?総員、撤退!」
追い詰められた魑魅一座は一目散に逃げていく。倒れた仲間を担いで逃げており、仲間意識はきちんとあるようだった。
「皆、よくやった。リトとウタハも、丁度良いところに戻ってきてくれた」
「教授、無事か?」
「問題はないさ。コユキとコトリ、ヒビキのお陰でな。あぁ、フィーナもありがとう」
「いえ、お頭のためデスから!」
グレイはみんなに労いの言葉をかけていく。そんな中、ついに先生達が戻って来た。それも、三人の援軍を連れて。
「ふぁ~。修行部の部長、春日ツバキだよ。これからよろしくね」
先生が連れてきた修行部の一人は眠そうに欠伸をする生徒だった。寝ながらパズルをしているというのは、部長を名乗る彼女のことだろう。その服装にはゲヘナの行政官に通ずるものがあったと報告させてもらおう。
彼女はシールドを装備しており、敵の攻撃を受け止めるタンクを担当していると思われる。同じくシールドを使う者として、グレイは後で彼女と話がしてみたいと考えた。
「私は勇美カエデ!素敵なレディになるために毎日修行してるの!」
もう一人は小柄で活発な印象の生徒だった。何となくゲーム開発部のモモイと波長が合うような気がした。
「修行部の副部長、水羽ミモリと申します。以後、よろしくお願いいたします」
最後はおしとやかな雰囲気の生徒だ。おそらく、読心術を使えると言われているのは彼女のことだろう。
「君達が修行部の……私はミレニアムサイエンススクールの教授、グレイバードと申すものだ」
「あ、同じくミレニアムの黒崎コユキです!」
初対面の彼らにミレニアム側もグレイを代表として続々と挨拶をしていく。
「ねえ、教授って偉いの?!」
そう聞いてきたのはカエデだ。
「偉くないと言ったら嘘になる。まあ、それなりの発言力はあると自負しているよ。アドバイザー的な側面が強いと言えるがな」
グレイはチョウゾテクノロジーの提供者であり、その影響力からミレニアムでは彼の存在を無視することはできない。故に、ミレニアムの行く末について口出しするようなことも可能だ。
ただし、ミレニアムの部活動の存続に関しては難しい。その存続はミレニアムの予算に直結しているものであるし、一部の部活動に極端に肩入れするのは不平等だからだ。実際、廃部の危機にあるゲーム開発部に助力せず、応援するに留まっている。
「もし良かったらエンジニア部に依頼したいんだけど、いいかな~?」
「依頼なら大歓迎さ。それで、どのようなものがお望みかな?マイスターとして腕を振るわせてもらうよ」
「新しい修行道具を作ってほしいの」
「修行道具……もしかして、枕のことかな?」
「そう……最先端の技術を使った枕に興味があるんだ~」
「それならお安いご用さ。この事件が片付いたら、話し合いの場を設けて詳細を詰めさせてもらうよ」
「よろしくね~」
一方、ツバキとエンジニア部との間では何やら新しい依頼の話が進みつつあった。今後、百鬼夜行の様々な部活からエンジニア部に依頼が舞い込むことになるのだが、それはまた別の話だ。
「みんな、これから連携を確認しよう。魑魅一座に対抗するためにも、お互いのことを知る必要がある」
「あぁ、それが重要であろうな」
魑魅一座の破壊活動がいつ始まるかは分からない。いざというときのためにも、できるだけ早く連携を確認する必要があるだろう。新たな仲間を交えた話し合いが始まった。
百夜夜行出張編は残り2~3話で終わりにする予定です