「また会えて嬉しいよ、シャーレの先生」
先生は魑魅一座に連れられ、とある廃墟にやって来た。そこで待っていたのは彼らを操る黒幕であり、会うのは二度目だった。
「ニャン天丸?」
黒幕の正体は商店街の会長、ニャン天丸だった。敵はすぐ側に潜んでいたのだ。彼は何故か黒い眼帯をしている。
「ふん、儂の本名はニャン天丸じゃない!儂の名はマサムニェ……路地裏の独眼竜!ニャテ・マサムニェとは儂のことじゃ!」
「………」
ニャン天丸はカッコつけたつもりなのだろうが、あまりにもダサい名前に先生は返す言葉が見つからなかった。
「おほん。おぬしの指揮能力は大したものだ。最初は脅威だと思っていなかったが、ここまでやられてしまうと評価を改めるしかない」
「褒めてもらえて光栄だ」
「ははっ、こんな状況でも余裕でいられるとはな。奥の手でもあるのかもしれないが、儂は典型的な悪役とは違う。スマホは没収させてもらうよ」
「スマホを……」
「歳をとると用心深くなるのだよ」
用心深さは感心すべきものだろう。だが、スマホさえ封じれば問題ないと思っているうちは、典型的な悪役は越えられない。すでに場所はグレイ達の知るところである。
「さあ、これで助けを呼ぶ手段はない。孤立無援という言葉がピッタリというわけだ。あるいは、飛んで火に入る夏の虫というところかな?」
「ニャン天丸。どうして祭りの邪魔を?伝統を守るためか?」
「儂はニャテ・マサムニェじゃ!まあいい、伝統なんてものはそこまで重要じゃあない。要は金だよ、金」
「お金?」
「そうだ。祭りが開かれる度にかなり大きな金が動くが、その全てをガキ共が握っとる。儂はそれが気に入らんのだ。儂に任せれば、あいつらよりもより多くの金を稼げたというのに!」
「そんなことのために?」
「そうさ。桜花祭が中止となれば、お祭り運営委員会は責任をとって運営を下りるしかない。次に運営を任せられるのは儂だろう。これでも儂は商店街の会長だからな」
「そのためにイズナのことも?」
「あぁ、あの自称忍者か?あいつは役に立った。安い報酬でよく働いてくれたよ」
そして、ニャン天丸は嘲笑った。イズナの忍者ごっこは幼稚だったと。真面目に忍者をやろうとしている彼女の姿は滑稽であり、彼女の言動に何度も笑いそうになったと。彼につられて、魑魅一座まで笑いだした。
「お金のためにイズナの夢を利用したのか?」
「夢?あんなものはただのバカの妄想さ。それに付き合うなど、おぬしは大したお人好しだよ」
「あれも立派な夢だ。夢を見るのは子供の特権……それを応援するのが大人ではないのか?」
「違うな。ありとあらゆる使えるものを踏み台にして、世界を支配するものだよ」
「お前もあいつと同じか」
先生が思い浮かべたのはゲマトリアの黒服だ。彼も、大人は子供を支配する存在だと主張していた。
「あいつ?誰のことを言っているのか知らんが、もう少し話しが通じる奴だと思っていたんだがな。お前に用はない。儂の計画を邪魔したことが運の尽きだ。じゃあな、シャーレの先生」
ニャン天丸は典型的な悪役のように吐き捨てると、魑魅一座に先生を始末するように命じる。多数の銃口が並べられ、一斉射撃が開始されようとしたが……
ドオォォォン!!
突然、先生と魑魅一座の間にある天井が落下してニャン天丸達が驚く中、そこから人影が現れる。
「な、何だ!?」
「キヴォトス最強を目指す忍び、真の主君の窮地を救うため、今ここに参りました!」
「イズナ!」
「お前、どうして天井から……まさか、全て聞いていたのか?」
「全て聞いていました。そして、イズナの夢を笑わずに応援してくれた先生こそ、イズナが仕えるべき真の主君であると理解しました!」
「ぐっ、裏切るのか!?」
「イズナは先生……いや、主殿にその全てを捧げ、主殿のために戦います!いざっ!」
「イズナ……」
イズナは啖呵を切り、たった一人で魑魅一座に挑んでいく。最初こそは持ち前のフィジカルと実力で大勢を圧倒するも、やがて追い込まれていき……
「う、ぐうっ!」
「愚か者めが。儂を裏切らなければよかったというのにな」
「忍者は、イズナは……イズナの夢を信じてくれた人のために、主殿のために戦うだけです!それこそが、イズナの信じる忍びの道だから!」
「ふん、口だけは達者じゃないか。だが、多勢に無勢だ。本当に愚かな奴らだよ」
『その言葉、そっくりそのまま貴様にお返しさせてもらうぞ!』
ズガァァァン!!!
今度は先生の背後にある壁が破壊され、鋼の鳥人が現れる。彼は先生とイズナを守るようにニャン天丸の前に立ちはだかった。
「お前、何者だ!?」
「私の存在を忘れたか、ニャン天丸よ」
「儂はニャテ・マサムニェじゃ!……それより、お前はまさか、ミレニアムの教授か!」
「また会ったな、ニャン天丸。貴様の陰謀もここまでと知れ!」
そして、グレイに続いてお祭り運営委員会や修行部、リト達が突入してくる。
「あなたが黒幕だったんですね、会長。いや、ニャン天丸!」
「儂はニャン天丸じゃない!マサムニェじゃ!」
先生にもグレイにもシズコにもニャン天丸と呼ばれ、一向にニャテ・マサムニェと呼んでもられない。ちょっと可哀想だ。
「忍びの少女よ、そなたは立派だ。誇りに思ってよい。ここからは、我らに任せよ」
グレイは背後にいるイズナを褒め称える。主を必死に守ろうとする従者の姿に、一人の戦士として感動を覚えたのだ。
「おのれ、どいつもこいつも儂の邪魔をしおって!魑魅一座、奴らをまとめて始末しろ!」
ニャン天丸は命令を下すが、魑魅一座がグレイ達に発砲する動きがない。そして、困惑する彼の肩が魑魅一座の一人によって叩かれた。
「あ、あの……」
「何だ!どうして誰も動かない!?」
「その、ミレニアムの教授が現れた時点で多くが逃げちゃいまして……あんな化け物とやりあえるかって……」
「何だと?なら、付近に来ている増援がいるだろう!」
「あ、その件なんですが、ここで働くよりも祭りを楽しみたいということで、遊びに行っちゃいました」
「ぐぬぬ……だが、こんなこともあろうかと、儂の資金を大量に投入して傭兵を雇っておいたのだ!」
魑魅一座と入れ替わるようにして、ニャン天丸の背後から多数のオートマタの傭兵が雪崩れ込んでくる。中にはPMCとペイントされた個体もおり、元カイザーPMC兵士なのだろう。
「みんな、行くよ。今までの鬱憤をここで晴らしてしまおう!」
「そうだな、先生よ。皆、我に続くのだ!」
こうして、戦いの火蓋は切られる。その結果は分かりきったことだろう。傭兵達はあのカイザーPMCと同じ末路を辿ったとだけ語らせてもらおう。
そして、兵力を失い追い詰められたニャン天丸だったが、ここで彼は最後に自ら足掻く。また別の廃墟に逃げ込むと、そこにあった乗り物に搭乗。壁をぶち抜いてグレイ達の目の前に現れた。
「役立たずどもめが!こうなれば、儂自ら邪魔者を叩き潰してくれるわ!このパワーローダーでな!」
ニャン天丸はパワーローダーに搭乗して現れた。カイザーPMCも保有している歩行兵器である。武装は両腕のガトリング砲だ。
「平伏しろ!儂こそが商店街の会長で、路地裏の独眼竜、ニャテ・マサムニェなのだぁぁぁ!」
「自ら抵抗するとはな。貴様のその覚悟、敵ながら天晴れというべきか。ここは、私が相手をしよう」
たしかにニャン天丸は悪人であるが、最初から最後まで芯を貫き通し、自ら抵抗する点は褒めるべきものだろう。ただし、悪人である。
「なら、お前から平伏しろ!ミレニアムの教授!死ねぇぇぇぇ!!!」
それと同時にガトリング砲が回転を開始し、弾丸の雨がグレイに殺到する。しかし、グレイはそれらを掻い潜ると側面に回り込みつつ……
「せやっ!」
叫び声と共に槍の一振りで片腕のガトリング砲を切断する。そして、それが落下するまでの刹那に腕をコックピットに捩じ込ませ、ニャン天丸を引きずり出した。
「は、放せ!!!」
宙吊りにされたニャン天丸は踠いてジタバタする。そのまま、グレイによってシズコの前に突き出された。
「シズコよ、こやつをどうするかはそなたの自由だ。焼くなり煮るなりするとよい」
「えっと、その、だな……儂が悪かった。どうか、無かったことにして水に流すというのは……」
「ここまでされておいて、そんなことできるかぁぁっ!!シズコ本気の看板娘パーーンチ!!」
ドスッ!!
ニャン天丸の腹部にシズコの拳が叩き込まれ、可愛らしくない鈍い音が響く。黒幕が成敗され、事件が終わった瞬間である。
「いやぁ……一時はどうなることかと思いましたけど、予定どおりに花火が見れそうですね」
「そうだな、コユキ。何とか桜花祭を守ることができた」
黒幕を倒し、後の現場処理や百鬼夜行の生徒会への報告を終えた後、グレイ達は先生と別れて桜花祭を楽しんでいた。
現在、コユキはグレイに肩車をしてもらっている状態であり、グレイの横には護衛としてリトが随伴していた。
「教授、そろそろ花火の時間じゃないか?」
「本当だな。向こうでウタハ達がホログラム花火の最終調整をしているだろうな」
「楽しみですねぇ……モグモグ」
グレイの上という最高の特等席に座りつつ、コユキは何処かで買った団子を食べている。そして、ウタハから開始の合図として通信が送られてきた。
『教授、これからカウント10でフィナーレの花火を開始するよ』
『私達の発明品が活躍する時が来ました!』
『ちょっと緊張してきた』
「大丈夫さ。君達なら上手くいく」
『そういってもらえて嬉しいよ。では、これからカウントを開始するよ』
9……
8……
7……
6……
5……
4……
3……
2……
1……
そして、花火が始まる。
ドォォォン!!!
爆発の効果音と共に空へホログラムの花火が咲き誇る。本物ではないために煙が発生せず、視界を遮られることなく美しい景色を見ることができた。
「うわぁ……!!綺麗ですね、教授!」
「あぁ、そうだな。花火はいいものだ」
『教授、お陰様で成功したよ。ありがとう』
「おめでとう、エンジニア部の皆」
グレイ達は花火を眺める。その間、花火を写真に収めるようなことはなく、その目に焼き付けているだけだ。先生達と共に守った花火は特別であり、皆の心に刻み込まれて忘れられることはないだろう。
斯くして、百夜ノ春ノ桜花祭は先生とグレイ、生徒達の活躍によって陰謀の魔の手から守られ、無事にフィナーレを迎えることができた。
これ以降、百鬼夜行連合学院とミレニアムサイエンススクールの間で公式に交流が始まるようになり、両校は友好学園として深い関係を築くようになったと報告させてもらおう。
百鬼夜行出張編〈完〉
2章は主な舞台がミレニアムなので、グレイがメインで活躍する予定です。しばらくお待ちください