ある日、グレイはスターシップの修復状況を確認するためにエンジニア部のガレージまで向かっていた。
「おや、あの者達は……」
やがて、グレイは五人の集団と出会う。それは、ゲーム開発部とシャーレの先生であったのだが、一人だけ見知らぬ生徒が紛れていた。
スーツを着た先生に、猫耳カチューシャを付けた才羽姉妹、ピョン太君の着ぐるみにINしたユズ……そして、最後の一人は髪先が地面に触れる長さの黒髪ロングヘアーの生徒だった。だったのだが……
(あのような生徒、名簿に載っていただろうか?そもそも、気配がおかしい……まるで、機械のような……)
グレイは違和感を感じていた。鳥人族のポテンシャルは高く、オカルト的な能力に目覚めることもある。ターロンⅣの鳥人族がその最たる例だろう。未来予知や残留思念を残す能力が確認されている。
少なからずグレイにもその系統の素質は備わっており、謎の少女の気配に違和感を感じたのだ。多くの生徒と関わってきたが、彼女からはメカノイドによく似た気配があった。
とにもかくにも接触してみる必要があるだろう。そう考えたグレイは先生達に近付いていった。
「やあ、先生。ミレニアムに来ていたのだね。ゲーム開発部のお嬢さん方も一緒ときた。何か依頼でも受けたのかね?」
「お久しぶりです、グレイ教授。百鬼夜行ではお世話になりました。実は彼女達から依頼を受けてまして、一緒に出掛けているところです」
「そうか。ゲーム開発部の皆も元気そうで何よりだ。ユズよ、ピョン太君の使い心地はどうかね?」
「はい……最近は慣れてきました。それに、教授のおかげでみんなと一緒にお出かけできるようになりました。ありがとうございます……」
「この着ぐるみ、とっても頼りになるんだよ!戦いの時はタンクとして前線に出てくれるし、何よりも可愛くて癒されるの!」
「こういった形ですけど、ユズちゃんと出掛けられるようになって嬉しいです」
ゲーム開発部からの評価は良い。作り手として冥利に尽きるものだったのだが、本題はこれではない。
「ところで、ゲーム開発部に新しい部員でも入ったのかね?彼女のことは初めて見るが……」
グレイはモップのような黒髪ロングの生徒を見る。その両目は青く、まるでカメラアイのように透き通っており、美しいものだった。そして、彼女は口を開く。
「あなたは……ミレニアムの長老様ですね!」
「ちょ、長老?」
「あ、アリス、この人は教授だよ!偉い人だから覚えておかないと!」
「モモイ、別に長老でも構わんよ。君の名は、アリスといったかね?」
「はい、私はアリスです!アリスは勇者をしているのですが、武器がないので鍛冶屋に向かうところです!」
「勇者?鍛冶屋?」
まるで自分をRPGゲームの主人公とでも思っているような発言だ。ゲーム開発部との交流のおかげでその辺りに理解はあるが、唐突な発言に首を傾げてしまった。
「教授、この子はゲームが大好きなんです。それも、現実をゲームのように解釈してしまうくらいに」
すかさずミドリが補足してくれる。アリスと名乗る彼女はかなりのゲーム好きであることが理解できた。
「今はね、アリスの武器を見繕うためにエンジニア部の部室に向かっているんだ!」
「鍛冶屋というのはエンジニア部のことだったのか……モノ作りという点で一致しているからね。私もエンジニア部に行くところだ。一緒に行こうではないか」
「パンパカパーン!長老がパーティに合流しました!」
こうして、六人でエンジニア部へと向かう。その最中、グレイは密かにアリスをスキャンしていたのだが……
〈スキャニング失敗〉
〈強度の高いファイアウォールによってスキャニングが妨害されています〉
何故かアリスを解析することができなかった。分かったことは、間違いなく彼女が機械であるということだけだった。
「なるほど、だいたい把握できたよ。新しい仲間に良い武器をプレゼントしたい……と。そういうことなら、エンジニア部の得意とするところだよ」
事情を説明するとウタハは快くOKを出し、これまで作ってきた試作品の中から好きなものを選んでいいと言ってくれた。
「やった!ありがとう、先輩!」
「アリス、これから探索を開始します!」
アリスは意気揚々とエンジニア部の部室を探索し、試作品を眺めていく。
「やあ、一年生のヒビキだよ。良ければ私が、何か良いものを見繕ってあげる。これはどうかな?」
そう言ってヒビキがアリスに渡したのは拳銃だった。
「見た感じ、多分だけどあまり戦闘経験は無いはず……」
「その言葉は否定します。アリスはこれまでに人類を27回救い、魔王軍との46回に渡る戦闘を行い、三桁を超えるダンジョン探索を行ってきました。経験値は豊富です」
「えっと、それはゲームの話かな?とにかく、銃器の使用経験は……あまり無さそう。初心者には拳銃が一番……あれ、もういない」
拳銃に興味を持たなかったのか、すでにアリスは移動していた。その先で彼女がじっくりと見つめていたものは……
「これは?」
「ふっふっふっ……お客さん、お目が高いですね。あぁ、私は説明の専門家……エンジニア部のマイスター、コトリです!」
「あ、コトリちゃん久しぶり。ところで、アリスちゃんが見てるこの大きいのは何?まるで、大砲のように見えるけど……」
「いい質問ですね、ミドリ。この大きいのはですね……」
「レールガンじゃないか。最初にエンジニア部の部室を訪問したときに見せてもらったことを覚えているよ。たしか、名前は……」
「教授、このレールガンの名は光の剣:スーパーノヴァです!」
「ひ、光の剣!?」
〈光の剣〉という大袈裟な名前にアリスが反応し、眼を輝かせる。拳銃を見たときとは大違いである。モモイ達の反応を見ても、珍しいほどに興奮しているようだった。
「わぁ、うわぁ……!これ、欲しいです」
「アリス、君もレールガンが使いたいのかね?」
「君も?ということは長老も〈光の剣〉を使うのですか!?」
「あぁ、そうだが」
「なるほど、長老は先代の勇者であり、長老にジョブチェンジされたのですね!きっと、新しい勇者を導く役割を持っているに違いありません!」
「あ、あぁ……」
ゲーム脳炸裂である。アリスの中では光の剣=勇者であり、光の剣であるレールガンを扱うグレイは先代勇者ということになったらしい。そして、ノリノリのアリスはレールガンを貰おうとした。
「偉大なる鋼鉄の職人よ、あの龍の息吹が欲しいのだ」
「そう言ってくれるのは嬉しいのだけど……」
「申し訳ないのですが、それはちょっとできないご相談です!」
「何で!?この部屋にあるものなら何でも持っていって良いって言ったじゃん!」
「モモイよ、落ち着くのだ。こればかりは、エンジニア部の言う通りなのだ。これにはきちんとした理由がある」
グレイは説明する。このレールガンはエンジニア部の予算の70%を突っ込んだものであり、簡単に渡せるものではないと。そして、何よりも重量が140キロ以上であり、反動も凄まじいので撃てるものではないのだと。
「このレールガンは私でも持って撃つのがやっとという代物だ。アリスには難しいかもしれんな…………ん!?」
そんな中、グレイ達の目に衝撃的な光景が飛び込んでくる。それは、アリスが重量級のスーパーノヴァを軽々と持ち上げて嬉しそうにしている姿だった。
(やはり、彼女は異常だ……もしも、危険な存在だとしたら……)
「光の剣が抜けました!これでアリスも正真正銘の勇者です!えっと、ボタンは……これがBボタンでしょうか?」
「ま、待つのだアリス!」
アリスの行動にグレイは焦り、ボタンを押すのを制止しようとする。だが、ボタンはもう押されてしまった。
「……っ、光よ!」
時すでに遅し。立てるように保持されていたレールガンの先端から閃光を伴う高速の砲弾が空中に向けて射出され、部室の天井に大穴を開けてしまった。
ドカアアァァァァン!!!
「あああああっ!私達の部室の天井があっ!?」
「あぁ、言わんこっちゃない……」
レールガンの恐ろしさは使用しているグレイがよく知っている。大抵の場合は壁を貫通してしまうため、気をつけて撃つ必要があるのだ。
「すごいです……アリス、この武器を装着します」
「ほ、本当に使えるなんて……で、ですがそれだけは、その……!諸々の問題で、できれば他のをお願いしたく……」
「いや、構わないさ。持っていってくれ」
「ウタハ先輩、いいんですか?」
「あぁ、この子は置物状態だったからね。使える生徒がいるのなら、使ってもらえた方がいいだろうからね」
「あ、ありがとうございます!」
お礼を言うアリス。しかし、ウタハも簡単にスーパーノヴァを彼女に渡すつもりはなかった。
「いや、お礼はまだ早いさ。教授、演習場は空いているかい?」
「あぁ。常に一つは確保してあるが……アリスに試練を与えるのだね?」
「うん。そういうことさ、このスーパーノヴァを渡すに値する勇者かどうか、試させてもらうよ」
「おお!勇者として認められるための試練ですね!?燃えてきました!!」
勇者の試練と聞いてアリスはやる気満々である。そして、一向は演習場へと移動した。