結果的に勇者一行は光の剣を入手することに成功した。ゲーム開発部の部室に帰っていく先生達を見送り、本来の目的を果たしたグレイはラボに戻ってきた。
(間違いないな……アリスは人間ではない。おそらく、純粋に戦闘用として開発されたガイノイドなのだろう)
人間と見間違えるような精巧に造られたアンドロイドなら銀河連邦にもある。銀河連邦軍の過激派がマザーブレインを再現し、とある存在を統率するために開発したMBというガイノイドだ。
なお、マザーブレインと同様に人間へ不満を抱いて反乱を起こし、兵器として改造されたエイリアンの集団を率いて大暴れしたらしい。
(ウタハも同様の見解であったな……)
「教授……あの子の握力は推定1トンだ。そして、発射時にもブレない安定した体幹に、戦闘を終えても傷一つない綺麗な機体……自己修復機能があるだろうし、その目的は戦闘だろうね」
(ミレニアムに被害を与えるのであれば……彼女を破壊する術を考えておくべきだろう。相手がヘイロー持ちである以上、鳥人族最強の破壊兵器……あれが必要だ)
今でこそアリスは友好的だが、いつ暴走するか分からない。彼女への対策を考えつつ、グレイは秘密の地下室からさらに地下へと潜る。
「MB、頼みたいことがある」
グレイの目の前に鎮座しているのは、透明な液体に満たされた巨大な試験管に浮かぶ白色の脳髄。彼こそがMB、グレイが開発したミレニアムブレインである。
『グレイ、どのようなご用件でしょうか?』
「とある生徒を調べてほしい。名は天童アリス……生徒名簿や経歴が操作された痕跡まで徹底的に洗い出してくれ」
『承知しました。数分で終わりますので、少々お待ちください』
MBによる調査は宣言通りに数分で終わった。彼の周囲に球体の浮遊デバイスが何体も現れ、空中にディスプレイを投影してくれる。そこにはアリスの顔写真や情報操作に関する情報が表示されていた。
『グレイ、天童アリスはたしかに生徒名簿に載っていました。経歴なども存在しています。しかし、これらの情報が先日に差し込まれた痕跡が僅かに残っていました』
「やはりか……」
『ええ。天童アリスはいきなり現れました。経歴は全て偽造されたものです。これにはヴェリタスが関わっているようですが、セミナーに報告しますか?』
「いや、まだだ。情報が足りなすぎる……おそらく、先生ならアリスに関する情報を知っているかもしれん。MB、先生はミレニアムにいるか?」
『ハッキングした防犯カメラによるとゲーム開発部にいるようです。セミナー会計のユウカが開発部の部室に入るところも確認しました』
「分かった。先生に会ってくる……留守は頼んだ」
『いってらっしゃいませ、グレイ』
ゲーム開発部の部室前に到着すると、中からユウカが出てきたところだった。
「あ、教授!どうしてここに?」
「先生に会うためさ。ユウカよ、ゲーム開発部の新しいメンバーはどうであったか?」
「アリスちゃんは可愛い子でしたよ。少し怪しいところもありましたけど、ゲームが本当に大好きなのは伝わってきました。これで規定人数は満たされましたけど、実績の方が……」
「あぁ、それだけだな。そなたに悪役をさせてしまって申し訳ない」
「いいんです。それが会計である私の仕事ですから。できれば、ゲーム開発部のことは助けてあげたいんですけどね……」
ユウカは厳しいが、それと同時に優しさも持ち合わせていた。立場上、彼女達に肩入れはできないものの、手助けをしたいようだった。
「私も同じ気持ちだよ。では、お疲れさん」
「はい、教授」
ユウカは去っていく。彼女と入れ替わりに部室へと入ると、先生達が勢揃いしていた。
「やあ、みんな。アリスは審査に合格したようだね。後は実績を上げるだけさ。私は皆を応援しているよ」
「長老!アリスに何かご用ですか?」
「いや、先生に用があってね。少し借りていっても構わんかね?」
「私なら大丈夫です。みんな、少し待っていて。私が戻ったら一緒に出掛けよう」
「分かった!待ってるね!」
「お留守番クエスト開始です!」
「行ってらっしゃい、先生」
「ま、待ってます……」
グレイは先生を連れて自分のラボへと戻ると、彼を応接室に通す。
「ここなら盗聴されることはないだろう。ここは一種の聖域になっているから、安心して話せるはずさ」
ラボの空間はMBによって掌握されているため、ハッキングや盗聴を受けても全て弾くことができるのだ。
「盗聴されないんですか?シャーレのビルはいつも物好きな生徒によって盗聴されているので、迂闊に秘密を話せないんですよ」
「苦労しているようだな……それで、私がそなたを呼んだ理由なのだが、分かるかね?」
「アリス……のことですか?」
「そうだ。天童アリス……彼女は転校生ということになっているようだが、経歴が偽造であることが判明した。先生よ、彼女は何者なのだね?」
「そ、それは……」
先生は口ごもった。彼は全ての生徒の味方である。そんな先生としては、生徒の秘密を漏らしたくないのだろう。
「別に話したくなければ、話さなくてもよい。ただ、私は彼女のことが知りたいのだ。できれば、信頼する先生の口から聞きたいと思っておる。どうか、知っている範囲で教えてもらえないだろうか?」
「信頼する教授になら、アリスのことを話してもいいと考えています」
「協力に感謝するよ」
グレイによる説得で、先生はアリスのことを話すことを決意してくれた。
「あの子は……アリスはゲーム開発部と共に廃墟で見つけました」
「廃墟?まさか、あの廃墟なのかね!?」
「ええ。教授の想像通りです」
廃墟とはミレニアム自治区の郊外に広がる謎の荒廃した都市のことであり、武装したロボットやドローンが徘徊する危険地帯だ。デカグラマトンが誕生したのもそこである。
連邦生徒会によって立ち入りは禁止されており、連邦生徒会関係者やセミナーから許可を受けた者しか入れない領域となっていた。
「しかし、どうしてあのような場所に……一応、シャーレの権限ならば入ることは可能だと思うがね」
「ゲーム開発部の探しているものが廃墟にあるらしいのです。G.Bibleという伝説のゲームクリエイターが残した神ゲーを作れるマニュアルだと聞いていたのですが……」
「しかし、見つけたのはアリスであったと……」
「ええ。そして、彼女を発見した時の様子なのですが……」
先生達は多数のロボットに追われてとある工場の一部屋に逃げ込んだのだが、そこで謎の声が聞こえてきた。
『対象の身元を確認します、三澤先生……資格を確認しました。入室権限を付与します』
そして、資格がないとされていたゲーム開発部の三人も先生の生徒ということで入室権限が与えられ、直後に床が消えた。
先生達が落ちた先には謎の空間があり、そこには椅子に座った全裸のアリスが眠っていた。機体名らしきAL-1Sという文字が刻まれており、それがアリスの由来である。
先生達は起動したアリスを連れて帰った。そして、モモイが彼女をゲーム開発部のメンバーにして人数の要件をクリアするため、色々と画策したようだ。
学籍を偽造するためにヴェリタスへ依頼をしたのは勿論のこと、赤ん坊同然のアリスを違和感のない受け答えができるように教育した。その際に使われたのが、テイルズオブクロニクルだ。
初めてプレイしたコユキをドン底に叩き落とした、クソゲーランキング1位に輝いてしまった伝説の作品である。
アリスはその理不尽な仕様によって何度も再起動させられる目に遭わされたようだが、諦めずに繰り返す内に感情を獲得していった。
そして、その他にも様々なゲームをプレイしたことで違和感のない会話ができるようになったのだが、言動がゲームのようになってしまったらしい。
「先生よ、ゲームをしているアリスはどうであったかね?」
「とても楽しそうにプレイしていましたよ。それも、機械の少女とは思えないほどに……彼女の感想を聞いてユズも着ぐるみから出てきましたから」
「そうか、ユズが……」
(情緒は年頃の子供と変わらんようだな……少なくとも、すぐに脅威になると思えん。このまま、友好的な路線で進んでもらうしかないだろう)
ユウカや先生からの聞き取りにより、一先ずアリスが敵ではないことをグレイは確認することができた。
「情報に感謝するよ。アリスのことはセミナーには黙っておこう。先生よ、どうかアリスが健全に過ごせるように見守ってほしい」
「任せてください。アリスを危険な存在にはさせるつもりはありませんので……」
「あぁ、頼む。ゲーム開発部の皆が待っているはずだ。すぐに戻るとよい」
「教授、また会いましょう」
こうして、先生は帰っていく。
「MB、アリスに対する監視を強化してくれ。防犯カメラを探り、彼女の位置や行動を逐一報告してほしい。もしも暴走するようであれば……被害が広がる前に私が直々に制圧する。場合によっては破壊も厭わない……」
グレイはミレニアムの大人として決意した。ミレニアムの自治区や生徒・住民を守るため、もしもの場合はアリスを破壊することを。
「それと、制圧用に例の武装の開発を行う。手伝ってくれるかね?」
『プラズマビーム砲ですね。承知しました、グレイ……』
次回は2章ではなく番外編の方を更新します