ミレニアムタワー襲撃の末、ゲーム開発部は無事とはいえないが鏡を入手し、G.Bibleの中身を見ることができたようだ。
しかし、G.Bibleの中身は神ゲーマニュアルでもなんでもなく、『ゲームを愛しなさい』というメッセージが入っているだけであった。簡単に神ゲーを作る方法など存在しなかったのだ。
それを見たゲーム開発部は大いに動揺し、一時は絶望したようだが、グレイの言葉を思い出して奮起し、時間が限られている中、実績のためにゲーム制作を開始した。
ゲーム開発部が目指しているのは、六日後に迫っているミレニアムプライスにおける受賞だ。ミレニアム中の部活が競い合う品評会であり、そこで受賞することが部活の存続に不可欠だった。
G.Bibleさえ入手できれば全て何とかなると思っていたばかりに、かなり焦っているようだが、ゲーム開発部を叩き直すのに良い薬になるだろう。
余談だが、当初は中枢であるミレニアムタワーを襲撃したことで、当然ながらゲーム開発部はC&Cの標的になったわけだが、これはあくまでリオが仕組んだことだったため、彼女の手で襲撃は無かったことにされた。
リオはアリスの正体を確定するために調査をしばらく続けるらしい。人違いで取り返しのつかないことをしてしまえば問題であるため、慎重に行うそうだ。
ミレニアムプライスまで後三日というところで、ゲーム開発部は新作のゲームを完成させ、ネット上に公開。残りの短い時間でどのような評価がもらえるか。それが彼女達の生命線だった。
それと同じ頃、グレイはヒマリから呼び出されていた。デカグラマトンに関連した重要な話があるというのだ。迎えが来るというので、指定された場所に向かう。
同行者は二名。リトとコユキだ。リトは対デカグラマトン戦力であるアーウィンのパイロットということで捜査部の一員となっている。そして、コユキは暇だという理由で同行していた。
「あっ、教授。待ってた」
「迎えの生徒というのは君のことだったのか、エイミよ」
グレイ達を迎えに来たのはエイミというピンク髪の一年生だった。これまで特異現象捜査部のメンバーは彼女だけであり、セミナーからの依頼を全て単独で完遂してきた万能な生徒である。あるのだが……
「「ち、痴女だ!?!?」」
エイミの姿を見て、リトとコユキがシンクロして叫ぶ。それもその筈だ。彼女の上半身は服を大きくはだけさせており、丸見えとなっているブラには謎のファスナーが付いているという奇抜な服装だったのだから。
「何か変?驚かれるのには慣れたけど」
「二人とも、別にエイミは好き好んでこのような服装をしているのではないぞ。彼女は特異体質でね、常に発熱してしまうのさ」
エイミは勘違いされやすいが、露出度の高い服装をしている理由は、異常な程の熱を逃がすためである。グレイは彼女の神秘によるものと分析していた。
「そういうのもあるのか……」
「寒い所に行く時に連れて行ったら、暖まれそうですね」
「時間がない。こっちに付いてきて」
エイミもリオに負けない程の合理主義者である。そのため、露出度の高い服装を恥ずかしいと思うことはないし、効率性を重視するのだ。
グレイ達はエイミの後を追って移動する。様々な場所を通った末に人気の無いビルへと辿り着いた。
「部長、教授達を連れてきたよ」
「ありがとう、エイミ。教授、リトちゃんにコユキちゃん、特異現象捜査部へようこそ」
そこは多数のディスプレイとコンピューターを備えた薄暗い部屋だった。ミレニアムの特殊回線のみが通っている閉鎖空間であり、セキュリティはかなり固いものだ。
「それで、重要な話ということだが……」
「ええ。一言でいいますと、緊急事態です。この天才美少女ハッカーでもお手上げな程の……」
「それは一体……?」
「先日の夜中、ミレニアムの誇る高性能演算機関〈ハブ〉がデカグラマトンによって乗っ取られ、預言者と化しました」
「何だと!?」
ハブといえばミレニアムの技術の結晶であり、最高傑作のはずだ。MBが現れるまでは最高峰の性能を持つ存在だった。それが、一晩のうちにデカグラマトンによって落とされたのだ。
「しかし、どうしてデカグラマトンの仕業だと分かったのだ?」
「ハブがハッキングされ、一秒足らずでそのAIが消失した後、ミレニアムのネットワークにとあるテキストが現れたからです」
竟に、摂理へと至るパスを見つけたり。
嗚呼……我がパスは「名誉を通じた完成」
我が異名は「輝きに証明されし栄光」
我が名はホド。聖なる十文字の神を証明し、奇跡を預言する8番目の預言者なり。
「聖なる十文字……デカグラマトンのことだね」
「ええ。この出来事とテキストによって、デカグラマトンがAIを感化して預言者に変えているということが紛れもない事実であると理解できました」
AIがデカグラマトンによって預言者に変えられていることは周知の事実であったが、こうして観測されたのは初めてのことだった。しかも、テキストによって単なる配下ではないことを自ら示してくれたのだ。
「しかし、どうしてデカグラマトンは他のAIを完全に支配下に置かないのでしょうか。自分の一部にしてしまえば、それが一番簡単で合理的なはずです」
ヒマリの疑問はもっともである。デカグラマトンはAIを洗脳するのではなく、感化させてそれぞれが自律的に動くようにしており、機械がやることにしては非効率的なのだ。
「デカマクラだかグラタンだか知らねえが、とりあえず片っ端からぶっ飛ばせばいいんじゃないか?」
「しかし、デカグラマトンは脅威であると同時に興味深い存在でもあります。ただ倒すだけでは趣がないというか……」
「それもそうだな。我らでデカグラマトンとその預言者について調べつつ、撃破も目指していく。その流れで活動するとしよう」
「もしかして、“我ら”の中には私も含まれていたりしますか?」
「コユキもだ。そなたの能力が今後に役立つ可能性もあるのでな」
特異現象捜査部はグレイを顧問、ヒマリを部長とし、リトとエイミは戦闘要員、コユキは支援要員となっており、しばらくはこの五人態勢で活動することになった。
「では、本日より特異現象捜査部としての活動を本格的に始めましょうか」
ヒマリは新生・特異現象捜査部の活動開始を宣言する。しかし、その直後に警報が部室内に鳴り響いた。
「あら?」
「部長、サーバーに誰か侵入してる」
「この場所は特殊回線しか通っていないというのに……こ、これは、ファイアウォールが全て!?」
「仕方がない、物理的に止める」
エイミがショットガンで電源を停止する。リトとコユキも設備に銃弾を叩き込んで破壊していくが、すでに遅かった。
「いえ、すでに手遅れのようです」
電源を喪失したはずのディスプレイが再び輝き、真っ赤になった画面に〈DECAGRAMMATON〉という文字が表示されたのだ。
「うわ、電源が落ちてるはずなのに!?」
「おいおい、マジかよ!」
「閉鎖空間かつ、電源は喪失している状態。これはまさに……」
「特異現象というわけだね、ヒマリよ」
「ええ。これがデカグラマトンの力……」
「部長、何か聞こえる。スピーカー?」
どこからか微かに声が聞こえてくる。それは最初こそ雑音のようなものだったが、徐々に声として認識できるほどにハッキリとしてきた。
『……のだ……ようやく…………ようやく会えたな、ミレニアムの教授よ』
「貴様は、デカグラマトンか?」
「だめです、応答してはいけません!」
『私は私、ただ存在するもの。始まりでもあり終わり。汝の思うまさにそのもの』
『私は私、これ以上、証明する術はない。私の存在証明には何も要らない、誰の許可も必要ない』
『私は私の許可の元、こうして存在する』
『私は神秘であり、恐怖であり、知性であり、激情でもある……』
『私のヘイローこそが私を証明する。刮目せよ、私はついに私を証明してみせる。手始めに、ミレニアムの都市を全て乗っ取るとしようか』
現れたのはデカグラマトン本人と思われる存在だった。彼はミレニアムを完全に制圧しようとするが……
「ミレニアムプライスを……生徒達の夢を守るためにも、そんなことはさせん!MB、奴を叩き出すのだ!」
『承知!』
グレイの懐から球体状の小型機械が飛び出し、何本ものケーブルを伸ばしてディスプレイに突き刺す。すると、デカグラマトンの悲鳴が部屋一杯に響き渡った。
『うっ、くぅっ……ぐあぁぁぁぁっ!!何故だ、この私が負けるだとっ!?おのれぇぇぇぇ!!』
ディスプレイは真っ暗に戻る。先ほどまでデカグラマトンがいたのが嘘であるかのように部室は静かになった。
『グレイ、私の影響範囲をラボからミレニアム全域に拡大しました。これで、あのデカグラマトンがミレニアムに侵入することはないでしょう』
『よくやった、MB。警戒を続行してくれ』
『お任せください、グレイ』
あのハブを一秒足らずで落としたデカグラマトンも、マザーブレインを元に開発されたMBには敵わなかったようだ。
「あの、教授。それ、誰ですか?」
「彼はMB。私が作った有機生体スーパーコンピューターにして、ミレニアムの新たな仲間さ」
『はじめまして、黒崎コユキ。私はMB、もしくはミレニアムブレイン。あなた方と共に歩むことが私の使命です』
「よ、よろしくお願いします……」
球体状デバイスからケーブルを伸ばし、手に見立ててコユキと握手するMB。コユキは理解が追い付かず、困惑しながらも握手を交わしていた。
「教授。デカグラマトンは排除するべき存在です。これから預言者達が襲来するでしょう。私達は彼らを調べ、撃退し、本体に止めをささねばなりません」
「あぁ、そうだなヒマリよ。我らでデカグラマトンに立ち向かうとしよう。
デカグラマトンとのファーストコンタクトから三日後、ミレニアムプライスは無事に開催された。
「教授!ミレニアムプライスが始まりますよ!」
「おお、ようやくか。コユキ、一緒に見よう」
グレイはテレビの前に移動する。その膝の上は当たり前かのようにコユキによって占拠されていた。
『これより、ミレニアムプライスを始めます!司会および進行を担当するのは私、エンジニア部のコトリです!』
『今回は、これまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募数となりました。おそらく、セミナーの方針変更により、部活動の維持のために〈成果〉が必要となった影響かと思われます!』
テレビに映ったのは、ミレニアムプライスの授与式会場で司会と進行を務めるコトリの姿だ。彼女は、注目されている応募作品の名前を挙げていく。
『歯磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ』
『ミサイルが内蔵された護身用の傘』
『ネクタイ型モバイルバッテリー』
『スーパー鳥人ロボ〈トリゾー君〉』etc…
などといった作品が挙げられていくのだが、最後にゲーム開発部が応募した作品の名前が出てきた。
『そして!今、キヴォトスのネット上でセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム、〈テイルズ・オブ・クロニクル2〉などなど!』
「あっ、ゲーム開発部のやつだ!」
『今回出品された三桁の応募作品のうち、栄光の座を手にするのは、たったの7作品!』
「モモイ達、大丈夫ですかね……」
「コユキ、とりあえず信じよう」
コユキは友人達の行く末がどうなるのか心配していた。ゲーム開発部のメンバーは最初に出来た友人であり、一緒にゲームで遊ぶ仲間だからだ。
『それでは7位から、受賞作品を発表します!』
次々と作品が発表されていく。やがてベスト3に差し掛かるのだが、ゲーム開発部の名が呼ばれることはない。
『第2位はエンジニア部のスーパー鳥人ロボ〈トリゾー君〉です!これは、グレイ教授へのリスペクトと最新技術が詰め込まれた戦闘ロボットであり、ミレニアム最強のロボットになります!』
2位として紹介されたのは、鳥人族を機械化したかのようなデザインの戦闘ロボットだった。かつて、暴走してC&Cに鎮圧された機体と同タイプである。
「これは、良いものを作ったな……」
自分へのリスペクトから作られたロボットが受賞したことに、グレイは満足そうだ。
『そして、第1位を発表します!待望の第1位は……』
「私、緊張してきましたよ……」
当事者ではないというのに、コユキもかなり緊張している。やがて、1位を勝ち取った部活の名前が発表された。
『新素材開発部のーーー』
「あ……ゲーム開発部の名前が……モモイ達、これからどうなっちゃうんですか?」
「なに、諦めるのはまだ早いさ」
絶望的な表情をするコユキ。だが、グレイが言った通りに発表会はまだ終わっていなかった。
「今回、残念ながら入賞することが出来なかった作品がありましたが、その熱意に応えまして〈特別賞〉を設ける形となりました!」
「おお、まさか……!?」
「その受賞作品は、ゲーム開発部の〈テイルズ・オブ・クロニクル2〉です!」
「やったー!!!」
「ゲーム開発部の努力が報われたか……良かった」
テレビでは審査員が授与の理由について語っている。今頃、ゲーム開発部では大騒ぎになっていることだろう。どん底に突き落とされたかと思えば、いきなり引き上げられたようなものだからだ。
ゲーム開発部の冒険はここで一旦、終了となる。今度はグレイ達、特異現象捜査部が冒険をする番である。
「今度は我々の番か……」
デカグラマトン終了のお知らせ