「ようこそ、教授。私達の新たな部室へ」
ミレニアムプライスから数日後、デカグラマトンに対する作戦を開始するということで、グレイは特異現象捜査部の新たな部室に来ていた。
前の部屋はデカグラマトンが襲来した際に色々と壊してしまったため、新たな部室が用意されたのだ。
「しかし、ビルが丸ごと我らの拠点になっているとは、誰も思わないだろうね」
「しかも、地下には格納庫もあります。最高クラスのセキュリティもありますし、まさに秘密の基地というわけです」
新たな拠点となったビルは、グレイのラボと同じくMBによる保護が行われており、より一層強力なものが張られているため、万が一ミレニアムに奴が侵入したとしても、ここがやられることはまずない。
ビルの地下には格納庫があり、アーウィンやウイングジェットが格納されている。ラボや山岳地帯の方まで直通であるため、それを利用すれば何者にも露見せずに移動できるだろう。
「教授、皆が待っていますよ」
ヒマリに案内された先にあったのは、ゲーム機や卓球台などの遊べるものが備え付けられた部屋であり、そこでコユキとリトが対戦ゲームで遊んでいた。
「ちょ、何でこのタイミングでサンダーがっ!?」
「悪く思うなよ、黒崎。お、キラーが来たぜ!よし!」
「リト先輩、ズル過ぎですよ!」
二人が遊んでいたのは、赤い帽子の配管工達が出てくるレースゲームだった。コユキの状況は散々だ。リトの出した雷に打たれて弱体化し、立ち直ろうとしたタイミングで、無敵状態のリトに轢かれたのだから。
「よっしゃあ、俺が一位だ!」
「うぅ、どうしてこんなことに……」
二人が一喜一憂する中、グレイの接近に気がついたのは、ゲームを観戦していたエイミとMBだった。
「あ、教授。おはよう」
『おはようございます、グレイ』
「おはよう、エイミ、MB。どうかね、二人の戦績は?」
「コユキの運が悪過ぎる。特にひどかったのは、ゴール手前で後ろから遠投されたバナナが直撃してビリになった時かな」
「それは……大変だね」
『お二方、教授が来ています』
やがて、MBが二人にグレイが来たことを教えてくれる。
「おはよう、教授」
「おはようございます!」
「二人とも、元気そうだね。後で私も混ぜてくれるかね?このゲーム、結構私もやり込んでいてね……」
「え、教授もやってるんですか?!」
「そいつは初耳だぜ」
グレイもそのプレイヤーだった。人間用のコントローラーは使えないので、エンジニア部が開発したグレイ専用コントローラーを使っていたりする。
特異現象捜査部の全メンバーが揃ったため、ここでヒマリが話を切り出した。
「全員、揃ったようですね。これからデカグラマトンに対する作戦について説明しますので、ブリーフィングルームへ移動してください」
このビルにはいくつか部屋があり、今いるレクリエーションルームや、作戦を話し合うブリーフィングルーム、最新鋭の機器を揃えた分析室、サーバールームなどが存在している。
彼らはブリーフィングルームへと移動し、そこでヒマリから作戦の概要を聞くことになった。
数時間後、特異現象捜査部はミレニアム近郊の廃墟の一区画に展開し、調査を行っていた。
「この辺りの何処かにケセドがいるのだね」
「そうみたい。教授、データ収集を始めよう」
廃墟に来た目的。それは、デカグラマトンの預言者の一人であるケセドを探すことだ。
カイザーPMCの基地から盗……拝借してきたデータによると、廃墟にある兵器生産工場の一つを管理するAIがデカグラマトン4番目の預言者と化したものであり、デカグラマトンの兵力を賄っているという。
データによって大体の居場所は把握されているが、正確な位置情報までは分からない。そのため、ケセドが生産したと思われるデカグラマトンの兵力からデータを収集し、ケセドの位置を割り出す。それが今回の作戦だった。
最終的には、ケセドを足掛かりにデカグラマトンに迫る予定である。
『データの収集はコユキちゃんのドローンで行いますので、戦闘に集中して構いません。そして、同時に天才ハッカーである私とMBちゃんで解析を行い、即座にフィードバックします』
『お任せください、グレイ』
パワードスーツを纏ったグレイの側には円盤状のドローンが浮遊している。コユキの髪色と同じくピンクに塗装されており、データ収集用のレドームを装備していた。
『にはは……教授の戦闘を見るのが楽しみです!』
「はっはっはっ、これは頑張らなくてはな」
やがて、ケセドが潜んでいると思われる地帯の上空を大きく旋回しているリトのアーウィンから通信が入った。
『教授、白いオートマタの集団を発見した。もしかすると、グラタン野郎の配下かもしれねえ』
『では、その辺りでデータを収集するのが良さそうですね』
「あぁ、そうだな。リトも降りてきてくれ」
『了解……』
やがて、降りてきたアーウィンがグレイ達の頭上でホバリングする。そして、隠された機能の一つを発動させた。
『ウォーカー形態へと移行する』
すると、機体の両側や後部のパーツが変形して二本の脚部へと転じ、まるでダチョウのようなフォルムの歩行兵器となった。対地強襲用二足歩行形態〈ウォーカー〉である。
『こんなもんより俺は空の方がいいんだが……任務的に仕方がないな……』
「これで揃った。それじゃあ、手早く終わらせよう」
エイミが愛用するショットガンに弾を込める。そして、特異現象捜査部は白いオートマタの群れへと足を進めた。彼らの初陣が始まる瞬間だった。
『ファルコン1、エンゲージ!』
リトの駆るウォーカーが攻撃を開始する。素早く移動しつつ、強靭な二本足でオートマタを踏み潰し、蹴り飛ばし、機首の二連レーザー砲で消し炭にしていく。
「いいぞ、リトよ!」
その隣を行くのは、パワードスーツを纏ったグレイだ。片手で槍を振り回し、もう片方でビームガトリング砲を撃ち放ちつつ前進し、リトに負けない程に敵を蹴散らしていた。
二人は移動式の小型要塞のようなものだ。強力なエネルギーシールドで覆われた彼らを破ることのできる火力はここには存在しなかった。もはや、理不尽以外の何ものでもない。
「交戦を開始するよ」
一方、エイミは二人が行く道沿いの廃墟ビルに突入し、内部に潜む伏兵を排除していた。
彼女は素早くビル内を駆け抜け、効率的に敵を排除していく。狭い空間であることを活かし、壁キックを織り混ぜた不規則な動きで翻弄する。彼女は、優秀な戦闘員と言えるだろう。
〈フラッシュシフト、オンライン〉
グレイが青白い光に包まれたかと思えば、一定の距離を瞬時に移動し、その先にいた集団を槍で薙ぎ払う。
これはフラッシュシフトといい、鳥人族が開発したアビリティの一つであり、連続で三回まで一定距離を瞬時に移動することが可能になっている。
本来ならば惑星SR388のエネルギーであるエイオンが必要なのだが、グレイは生体エネルギーのみで使用できるように改良しており、パワードスーツにダウンロードしたのだ。
フラッシュシフトを使用したグレイは、その大きさからは想像できない程の速度で瞬間移動し、瞬時に距離を詰めて打ち倒していた。
『スマートボム、発射』
ウォーカー形態であってもスマートボムは使用可能だ。誰もいない廃墟ならば被害を気にせず撃てるため、丁度よい機会であった。
廃墟のど真ん中でスマートボムが炸裂し、超高温の熱波が拡散する。それに巻き込まれたオートマタや無人戦車は一瞬で蒸発してしまった。
『うわ、恐ろしい威力ですね……』
「コユキが見るのは初めてであったな」
カメラ越しとはいえ、スマートボムの威力を目撃したコユキは若干だが引いていた。
『教授、データの分析が完了しました。とある座標とデータのやり取りがあることが分かりましたので、座標を送ります』
やがて、座標が送られてくるのだが、それによって示されていた位置とは……
「これは、ここの地下のようだね。おそらく、そこにケセドが……」
『まさか、穴掘りでもするのか?』
「いや、こやつらが地下から出てきたというのなら、その出入口が何処かにあるはずだろう。それを探そうか」
そこで、グレイは追加されたアビリティの一つを発動させた。
〈スキャンパルス、オンライン〉
グレイを中心に発生した青白く発光する球体が急速に膨らみ、その内部に取り込んだ環境を自動的にスキャンする。やがて、HUDに周囲の正確な地形が表示された。
これはスキャンパルスといい、鳥人族が開発した探索用のアビリティである。これを使用すれば、目には見えない隠し通路も看破できるのだ。
「見つけたぞ」
移動しつつ何度かスキャンパルスを発動した末に、グレイは地下へと続く出入口を発見する。それは、廃墟となった工場の内部に存在していた。
『教授、そこから先は完全に未知の領域です。こちらからもモニターしますが、十分に気をつけてください』
「あぁ、分かった。リト、エイミ、地下へと突入しよう」
ここから先はケセドの本拠地とも言える場所である。彼らは、前人未踏の危険地帯へと足を踏み入れた。
今後の予定としては、デカグラマトン編が終わったら番外編をやり、エデン条約編は飛ばしてパヴァーヌ2章に突入するつもりです
セミナーのメンバーでノアだけ話に絡ませることができていないので、パヴァーヌ2章へ入る前に番外編には出したいところ……