「皆さん、先週はお疲れ様でした」
あれから一週間後、特異現象捜査部は再びヒマリによって招集されていた。ついにケセドから入手したデータの解析が終わり、何らかの結果が出たというのだ。
「ヒマリよ、何か進展があったのかね?」
「データを解析していたところ、興味深いものを発見しまして……それは、誰かに呼びかけているような呼び出し信号です。一見、ただのノイズのようでしたが、その信号パターンに見覚えがありました」
「デカグラマトンだね。奴が現れた時の信号は独特なものだ……忘れるはずもなかろう」
「ええ。一応、まさかと思って何度も確認しましたし、MBからも同一のものであるという結果が提示されました。間違いありません」
「ねえ、部長。その信号が発されている場所にデカグラマトンがいるってこと?」
「なら、早速そこへ殴り込みをかけようぜ。それで、そこは何処なんだ?」
「では、こちらをご覧ください。MB、お願いしますね」
『承知しました』
ディスプレイに表示されたのは一枚の画像だ。廃墟となったビル群が映っていたのだが、これまで見てきたのと異なっているのは、その大部分が水没しているという点だった。
「これは、初めて見る場所だ。見たところ、水没しているようだが……」
「ええ。廃墟水没地区とでも呼んでおきましょう。私は独自にドローンを突入させて調査を試みたのですが、この画像の数分後にはドローンが破壊されました」
「ドローンが破壊されたということは、ここに危険な奴が待ち構えてるってことですよね?」
「で、どこのどいつにやられたんだ?やられたらやり返さねえと気が済まねえ」
続けて、もう一つの画像が表示されるのだが、そこにはドローンを破壊したと思われる謎の影が映り込んでいた。
「これは、歩行戦車かね?」
「教授、ヘイローみたいなものが浮かんでいるように見える」
「チッ、新手の預言者かよ。デカグラマトンの野郎を守っているのか?」
それは、明らかに預言者と思われる影だった。ハッキリと見えているわけではないが、四足歩行の戦車のように見え、その頭上にはヘイローがあった。
「私達の知らない預言者がいるようです。デカグラマトンを守っている守護者……とでも言うべきでしょうか」
「こやつを倒さなければ、デカグラマトンの元へは行けないというわけだね」
「シンプルで分かりやすいじゃねえか。要は、あれをいつも通りにぶっ飛ばせばいいんだろ?」
「でも、リト先輩。こういう時に限って想定外のことが起きる可能性が……」
「コユキちゃんの言う通りですね。デカグラマトンの本拠地ですし、どのような存在が潜んでいるかも分かりません。警戒するに越したことはないでしょう」
「とにかく、我々は廃墟水没地区へと向かわなければならないわけだ。それ相応の準備をしようじゃないか」
特異現象捜査部はデカグラマトンが潜んでいると思われる廃墟水没地区に向かうべく、準備を開始した。
「ここに、デカグラマトンが……」
グレイはエイミとリトと共に廃墟水没地区の手前まで来ていた。目の前に広がるのは水没したビル群であり、ある種の美しさを感じられる。
「問題は、この広大な地区の何処にデカグラマトンがいるかだけど……」
『しかも、新手の預言者もいるときた。こいつは、骨が折れるかもしれねえな』
現時点で脅威の類いには遭遇していない。通常のオートマタ等はいたが、グレイ達からしたら脅威にカウントされない程度の存在である。
『教授、俺が先行する』
「ああ、頼む」
一足先にリトのアーウィンが水没地区の上空へと侵入し、その場を旋回して待機する。だが、何も変化は起こらない。
『こちらファルコン1、異常なし。本当にデカグラマトンの野郎がいるのか怪しくなってきたぜ……』
「エイミ、我々も続くぞ」
グレイとエイミも水没地区へと足を踏み入れる。しばらく歩いてアーウィンが旋回する場所の真下まで来たところ……
『グレイ教授、預言者らしき信号を観測しました!そちらに向かっています!』
ヒマリが警告する。そして、廃墟の何処かから何本ものアンカー付きワイヤーが射出され、アーウィンへと迫る。
『うおっ!?』
先程までアーウィンが飛んでいた場所をワイヤー群が通過し、グレイ達の付近にあるビルに突き刺さる。直後、ワイヤーに引き寄せられて純白の巨体が飛んできた。
それはグレイ達に背を向ける形で地響きを立てて着地すると、その巨体に見合わない程の軽快さで跳び跳ねて方向転換する。
「例の預言者か……」
「ヘイローもあるし、間違いないね」
それは、頭上にヘイローを戴く四足歩行の歩行戦車だった。上部には両側にガトリング砲を備えた砲塔が載っており、後方には垂直式ミサイル発射装置が備えられている。
奴の名はケテル。デカグラマトン第一の預言者であり、デカグラマトンを守る最後の砦だ。ドローンを破壊したのはこいつであり、侵入者を排除するために現れたのだ。
『他の預言者と比べると随分と原始的な造りですね。もしかすると、最初の預言者かもしれませんね。生命の樹の伝承に照らし合わせますと……名は〈ケテル〉でしょうか?』
『名前なんてどうでもいい。三人で囲んで叩いてしまおうぜ』
ケセドの時と違い、ここは開けた場所となっている。つまり、グレイとエイミに加えて、アーウィンに乗るリトも参戦することができるのだ。リトとしてはこのまま三人で袋叩きにするつもりだったのだが、そうは問屋が卸さない。
『はっ、これは……?ケセドと同一の信号をもう一つ捉えました!!預言者の眷属と思われる信号も多数です!』
「何だって?それは真か?」
再びワイヤー群が何処かから射出されてビルに突き刺さる。それに引き寄せられて現れたのは、姿が異なるもう一体のケセドであった。
さらに、UFOのような多数の飛行物体が出現し、群れでアーウィンに殺到してビームを放ち、撃墜しようとしてきた。
『おいおい、マジかよ!?くっ!』
アーウィンに複数のビームが当たりそうになるが、リトは機体を高速でロールさせることによってビームを弾いた。
これはローリングディフェンスといい、ローリングすることで機体に強力な電磁シールドを張って攻撃を弾く機能である。
『教授、空の奴らは任せろ!』
リトのアーウィンが離れていく。その後ろを全ての円盤が追いかけており、囮になって敵の航空戦力を引き離してくれたのだ。
「まさか、同一の預言者がいるなんて……」
『もしかして、量産型ってやつですかね?』
『ここまで原始的な構造なら、たしかに量産はしやすいでしょう。ビナーよりは工業的なデザインですし、納得です』
「エイミは最初の個体を頼む。二体目の相手は私がしよう」
リトが航空戦力の相手をし、グレイとエイミが二体のケテルに対処することになった。預言者とのタイマンが開始された瞬間である。
「歩行兵器の弱点は……足回り……!」
エイミは廃墟を駆ける。そのすぐ後ろをガトリング砲の火線が追いかけてきており、足を止めたら餌食となるだろう。
不規則な動きで二本の火線を掻い潜り、エイミはケテルの脚部を狙おうとするが、そこにミサイルも迫ってくる。
エネルギーブレードでミサイルを切り裂き、ショットガンで撃墜しつつケテルの足元に肉薄すると、回り込んで後方の脚部を狙う。
エイミはエネルギーブレードで関節部を何度も斬りつけ、赤熱化したそこにショットガンによる至近距離からの連射をお見舞いする。
完全な破壊までには届かなかったが、関節部からは黒煙がモクモクと噴出しており、スパークも発生している。ダメージはたしかに入っていた。
脚部の一つの破損によって機動力を削がれ、バランスが悪くなったケテル。残りの足でエイミを踏み潰そうと試みるが、すでに機体上部に彼女は移乗していた。
「まずはガトリング砲……!」
エイミはエネルギーブレードでガトリング砲の砲身を切り落とす。その断面は綺麗なものであり、ゴトリと両側の砲身が落下していく。もう、まともに砲弾を吐き出すことはできないだろう。
「後はミサイル……っ!?」
続けて後部のミサイルを狙うエイミ。だが、ここでケテルが跳び跳ね、一部のワイヤーを放って素早く回転しつつ水平移動したことで振り落とされてしまう。
離れた場所に着地したケテルは再びミサイルを放つ。様々な多数のミサイルがエイミを追尾してくるが、エネルギーブレードで斬り捨て、時にはミサイルを踏み台にして回避していく。
ミサイルとエイミの追いかけっこが始まる。先頭を走るエイミをミサイルが追いかけており、その先にあるゴールは、ケセドの足と足の間であった。
エイミはスライディングでケセドの足と足の間をすり抜けて奴の背後に回る。そして、追っ手であるミサイル達は発射元であるはずのケテルに突っ込むことになった。
ドガアアァァァン!!!
廃墟に響き渡る轟音。大量のミサイルの直撃を受けたケテルはグロッキー状態となり、一時的に動きを止めてしまった。
「よし、今!」
エイミはケテルが背負っているミサイル発射装置を目にも止まらぬ速さで滅多斬りにする。その表面に何本もの赤熱化した線が刻まれていき、まるでジグソーパズルのような状態になった。
エイミがケテルに背を向けてエネルギーブレードを収納した直後、ミサイル発射装置だったものが大爆発を起こす。
ケテルにもかなりのダメージが入ったのか、ワイヤーを再び射出すると素早く撤退していく。倒すことはできなかったが、エイミは預言者を単独で撃退するという功績を上げた。
時を少し戻そう。エイミと平行してグレイが対峙していた預言者ケテルは、エイミが対峙していた個体とは正反対の存在だった。
「これは……近接特化型かね?」
目の前のケテルはガトリング砲を装備しておらず、その代わりに巨大なアームが取り付けられていた。見た目は完全にショベルカーのそれである。
ケテルはアームを振り上げ、地面を踏み鳴らしてグレイを威嚇する。そして、脚部が変形してキャタピラのような機構が出現し、それを超高速で回転させて突進してきた。
グレイの近くまで迫った時、ケテルはアームを地面に深々と突き刺すと上半身を360度回転させて周囲を薙ぎ払う。咄嗟にフラッシュシフトで下がることで回避するが、その範囲内の物体が破壊され尽くす結果となった。
「何という破壊力……くっ!」
直後、アームが振り下ろされる。ライトニングアーマーを発動することで強化したシールドを構えて受け止めるのだが、その威力は恐ろしいものだった。
激突した瞬間に強力な衝撃波が発生し、グレイの立っていた場所がクレーターのように変わってしまう。グレイの足はコンクリート製の床に突き刺さっており、放射状に亀裂が走っていた。
「うぉぉぉぉっ!!!」
グレイは力を込めてアームを弾き飛ばす。ショルダータックルをお見舞いし、ケテルとの距離を取ると量子化していた二つの武装をシールドと入れ替える形で出現させた。
その一つは初めて見る武装だった。右腕に固定された大がかりな機械であり、一際目立つ巨大な杭が特徴的だ。俗に言うパイルバンカーというやつである。
開発したのはエンジニア部だ。ロマン武器を作るのは彼女達以外にはあり得ない。レールガンと同様、人間に扱えるようなものではないのでお蔵入りしていたのを引っ張り出し、グレイ用に改造を施したのだ。
もう一つの武装は結構前にも使ったアイスビームガンだ。ゴリアテのように完全に氷漬けにすることはできないが、ケテルの動きを阻害する目的があった。
「まずはアームから無力化させてもらうぞ」
アームによる攻撃を避けつつ、グレイはアイスビームをアームの付け根に浴びせていく。ケテルがアームで粉砕したコンクリートや岩石が散弾となって襲い掛かるも、ライトニングアーマーで耐えて攻撃を続行する。
やがて、関節部が凍りついたことでアームの動きが鈍くなっていく。回避に余裕が出てきたため、アイスビームをチャージして効果を高めて放ち、完全にアームを氷漬けにしてしまった。
「撃ち貫くのみ!」
そこへグレイが飛びかかり、右腕のパイルバンカーを振りかぶる。杭の先端を凍結したアームの付け根に叩きつけると同時にトリガーを引き、杭を深々と突き立てた。
突き刺さった杭だけをその場に残し、離脱するグレイ。数秒後、装甲の内側に侵入していた杭が大爆発を起こし、アームを完全に吹き飛ばしてしまった。
このパイルバンカーが使用する杭には強力な爆薬が詰められており、杭を火薬と電磁力で加速させて目標の内部に打ち込み、それを起爆させることで大ダメージを与える狙いがある。
ケテルはアームを吹き飛ばされたどころか、爆発で上半身にも多大なダメージが入っている。一部の装甲が剥がれ、バチバチと火花が散っている状態の内部がそこから露出していた。
それでもケテルは止まらない。機体下部から複数の回転ノコギリを出現させて前足の間から出し、突進してくる。
ケテルは進路上のものを全て薙ぎ倒し、デカグラマトンの本拠地に侵入した愚か者を回転ノコギリの餌食にしようとする。
グレイも黙ってやられてやるつもりはない。フラッシュシフトで斜め方向に瞬間移動して奴の横や背後に回り込み、足回りにチャージアイスビームを浴びせる。
ケテルの正面に出ないように立ち回り、やがて周囲が冷気に覆われてきた頃、奴は氷で地面に縫い付けられて身動きが取れなくなった。
停止したケテルを目指してグレイは駆ける。その右腕に装備されているのはパイルバンカーではなく、初期の頃から使っているお馴染みのレールガンだ。
グレイはケテルの上に飛び乗ると、レールガンの長い砲身を奴の装甲が剥がれた箇所に突き刺す。そして、レールガンにエネルギーの充填を開始し……
〈エネルギー充填率100%〉
「光よ……!」
アリスと同じセリフを言いながら、グレイはレールガンによるゼロ距離射撃を敢行する。光の剣が解き放たれ、雷鳴のような音と共に鋼鉄の巨兵を穿つ。
その直後、ケテルのヘイローが消失する。脚部からは力が失われ、死んだ虫のように縮こまり、地面に伏したまま動かなくなった。
「これで終わりか……」
「教授、こっちも終わったよ。まあ、逃げられちゃったけど……」
『教授、そしてエイミ、お疲れ様でした』
「ヒマリ、今後の動きだが……」
『すぐに信号の発信源に向かいましょう。一体は撃退し、もう一体は撃破しましたが、別の個体がいる可能性も否定できません。撃退した個体が復帰する可能性も有り得ますので』
「そうだな。後はリト次第だが……」
噂をすればなんとやら。その直後にリトからの連絡が入った。
『こちら、ファルコン1。円盤は全て片付いた。そちらに合流する』
「ああ、待っているぞ。これからデカグラマトンのところに乗り込むのでな……」
その後、リトが合流する。グレイ達は態勢を整えた後、デカグラマトンがいると思われる建物へと向かった。奴との遭遇は近い……
ケテルを瞬殺してしまった……