ある日、グレイはミレニアムの自治区の郊外に位置する山間部の上空にて建設中の施設を視察していた。
「MB、スカイタウンの建設は予定通りに進んでいるようだね」
『計画に狂いはありません。このペースで建設が進めば、外宇宙から脅威が近づく前に完成するでしょう』
「あぁ、脅威がキヴォトスに到来してしまってからでは遅いからね」
それは、ミレニアム上空8000メートルに浮かぶ空中都市〈スカイタウン〉である。宇宙観測に役立てるためにグレイが計画したものだが、外宇宙より迫る色彩を観測する目的もあった。
『それと、武器格納庫の設置と武器の搬入は完了しています。いざという時に射出して届けることも可能ですので、是非ご利用ください』
「ああ、使わせてもらうよ」
スカイタウンにはグレイが使用する武器の格納庫も備えられている。普段から持ち歩くことのないプラズマビーム砲といった危険度の高い武器が収められていた。
現在は反重力ドライブとプラズマエンジンが埋め込まれた巨大な足場が一つ浮いているのみであり、施設の数も少ないのだが、今後は複数の足場を繋げて文字通りの空中都市にする予定だ。
ちなみに、空中都市のデザインはゲーム開発部が担当しており、中世の城のようになっている。雲の間から見える空中都市は幻想的であり、後に登山客の中にそれを目当てにする者が現れたとか。
なお、空中都市の高度は8000メートルなので空気が薄く、人間が生身で来ていい場所ではない。鳥人族なら生身でも平気な環境であるが、念のためグレイはパワードスーツを着た状態で視察していた。
内部で働く人員は全て機械であり、エンジニア部が開発した鳥人族型ロボットを量産したものが採用される。MBの端末も置かれるため、ミレニアムの中心部とのデータのやり取りも容易だ。
「ああ……惑星エリシアに降り立った我が同胞も同じような光景を見ていたのであろうな……」
スカイタウンは元々、1500年前の鳥人族がエリシアという巨大ガス惑星の大気圏上層に建造した研究施設であり、巨大な浮遊都市の名であった。
鳥人族は自ら創造したロボット達と共に様々な研究を行った。鳥人族が去った後、ロボット達はエリシアンと名乗って活動を続けたのだが、フェイゾンを巡る事件の中で犠牲となり、全滅したとされている。
「もう一回りしてから帰るとするかね」
『グレイ、緊急事態です』
感慨に浸るグレイだったが、それが許されない事態が発生したらしい。
「どうしたのかね?」
『ヒマリ様より緊急の通信が来ています。どうやら、デカグラマトンの預言者が現れたようで』
「繋いでくれ」
『承知しました、グレイ』
すると、MBの球体型インターフェイスから映像が投影され、ヒマリの姿が現れる。
『教授、ミレニアムの地下から預言者ホドが接近していることが判明しました。ええ、間もなく地上に到達するでしょう』
「そうか。ヒマリよ、奴の狙いは何だと思う?」
『おそらく、ミレニアムタワーを狙っているのかと。遠隔で無理ならミレニアムの中枢を直接掌握する。そういう腹積もりなのでしょう』
「分かった、すぐに戻る。それまでの間、どうにか持ちこたえてほしい」
『お任せください。すでにアルファチームに召集がかかっていますし、エイミを急行させました。そのうち、リトちゃんもスクランブルしてくるでしょう』
「それは頼もしいな。私も急がなくては」
グレイは通信を切ると、スターシップを駐機しているランディングサイトへと向かう。そして、スターシップの上に飛び乗ると、上部のハッチから搭乗してシップを起動させた。
船内の計器やディスプレイに光が灯り、様々なホログラムが投影される。左側にあるスイッチを押し、格納されていたエンジン始動レバーを展開すると、そのまま押し込む。
『プラズマエンジン、起動します』
エンジンの音が船内に広がる。その音からエンジンの出力が安定したことを読み取ると、続けて反重力ドライブを起動させる。
『第一ドライブ、異常なし』
『第二ドライブ、異常なし』
『第三ドライブ、異常なし』
スターシップの下部には計3基の反重力ドライブが搭載されている。その全てに異常がないことが確認されたため、グレイはスターシップを発進させることにした。
「スターシップ、発進する」
スターシップはランディングサイトの床から離れ、空中で方向転換すると後部のスラスターを吹かし、ミレニアムの中心部に向けて飛び去った。
『教授、現時点で判明しているホドの情報を共有します』
スターシップで移動中、ヒマリがホドの情報を共有してくれる。
『ホドは地上へ侵攻する直前、四本の杭のようなものを射出しました』
「杭か……」
『ええ。その杭……インベイドピラーと命名しましたが、本来はハブが装備していたものです。ケーブルの整備中に通信を途絶えさせないようにする中継地点となっていました』
ホドに変貌する前、ハブはミレニアムの地下に張り巡らされたケーブル網を整備したり、建設を支援する存在だった。
『しかし、現在は周辺のケーブルや電波を掌握し、ミレニアムを侵食してホドのテリトリーを広げるだけの代物になりました』
「なるほど。侵食する杭ということで、インベイドピラーと命名したわけだな」
『はい。その侵食能力は恐るべきものです。MBであっても対抗は難しくなっています。インベイドピラーの破壊と本体への対処が必要でしょう』
遠隔からのハッキングはMBによって完璧にガードされているが、端末を直接的に接続されてしまった場合はその限りではない。MBによって叩き出されたデカグラマトンの失敗がフィードバックされているのだ。
『インベイドピラーの破壊にはチーちゃん達やエンジニア部、セミナーの子達が向かっています。教授は本体の対処をお願いします』
「あぁ、分かった」
『それと、ホドの武装についてですが、全く判明していません。そこは実際に交戦しなければ分かりませんが、長い作業用アームを装備しているのは確かです』
「作業用のアームか。攻撃に使えないようにリミッターがかけられているとは聞いているが、預言者となった以上は、その保証はないだろうね」
『生半可な生徒ではアームを避けられずに叩き潰されるのがオチでしょう。C&Cは不在ですし、真正面から対峙できるのはアルファチームやエイミだけです』
毎度のようにC&Cは不在である。アルファチームのおかげで負担は軽減されているが、それでも多忙であることに変わりはない。
インドア派が多いミレニアムでは、積極的な戦闘を得意とする生徒が少ない傾向にある。最強格の戦闘メイド達に匹敵する戦力といえば、エイミやアルファチームの名が挙がるだろう。
「ホドが質量攻撃をしてくる前提で戦う必要があるわけだ。その危険度的にエイミやアルファチーム以外に任せられるものではないだろう」
作業用とはいえ、ホドの長いアームはその質量だけで立派な武器となり得る。悪用を防ぐためにリミッターがかけられていたが、近接特化ケテルの例を考えると武器にされている可能性は高い。
『グレイ、左側後方よりアーウィンが接近しています』
すると、後方から接近する機影があった。スターシップと併走するそれは、グレイが開発し、リトが操縦するアーウィンである。
『よお、教授。新手の預言者が現れたらしいな』
「あぁ。我らの腕の見せ所だ……ミレニアムを守るため、共に行こうではないか」
『二人とも、ホドが地上に到達しました。アルファチームとエイミが交戦中ですが、いつまで抑え込めるか分かりません。後はお願いします』
「任された。行くぞ、リトよ!」
『おう!』
スターシップとアーウィンの速度が更に上がる。彼らが目指すのはミレニアム中心部で暴れるデカグラマトンの預言者ただ一つ。ミレニアムを守るための戦いが幕を開けようとしていた。
ホドが襲来する話なのに交戦する前で話が終わりました