それは、地面を突き破ってミレニアムの地上に姿を現した。純白の装甲に包まれ、頭上にヘイローを頂く、2本の長いアームとモノアイを備えた機械の化物だ。
もしもアリスがその姿を見たら、白いクラーケンのようなモンスターとでも呼ぶかもしれない。だが、実際はデカグラマトン8番目の預言者〈ホド〉であり、蛸のモンスター呼ばわりされたら堪ったものではないだろう。
「目標を捕捉。アルファチーム、攻撃開始!」
「特異現象捜査部……たった一人だけど攻撃を開始するよ」
ホドと真っ先に交戦を開始したのは、アルファチームと特異現象捜査部である。もっとも、特異現象捜査部についてはエイミ単独だった。
『エイミ、そしてアルファチームの皆さん、事前に説明した通り、我々の目的はホドの足止めです。インベイドピラーの破壊と教授の到着までの時間稼ぎで構いません』
「そのくらいはお安いご用だ。我々、アルファチームに任せてくれ」
アルファチームとエイミはホドに対して銃撃を加えていく。全ての銃弾が甲高い音を立てて弾かれているが、目的はあくまでも時間稼ぎなので問題ない。
「やっぱり硬い……ビナーとの交戦記録だと銃弾は通用していたのに……進化している?」
『そうでしょうね。ビナーは三番目の預言者であり、昔から存在していました。しかし、ホドは現時点で最新クラスの預言者なのです。確実に進化していると見ていいでしょう』
「目標に不審な動きあり。総員、警戒せよ」
「「「ラジャー!!!」」」
見れば、ホドの頭部の両側にある旅客機のジェットエンジンのようなパーツが輝き始めている。直後、そこから大きなビーム弾が連射された。
「総員、回避!」
エイミとアルファチームは迫るビーム弾の雨を掻い潜る。当たってしまえば大怪我は免れない。ただし、それは普通の生徒の場合である。
この場にいるのはミレニアムで最精鋭の生徒達だ。銃弾くらいは普通に回避するものであり、避けることは容易いものだった。
なお、エイミとアルファ1に至っては積極的に前に出ており、エネルギーブレードやショットガンでビーム弾を迎撃し、シールドで防いでいたりする。
「いい腕してるな……あんた、うちに来ないか?今なら、アルファ5のコールサインも付いてくるぞ」
「遠慮しておくよ。私は特異現象捜査部が気に入ってるから。でも、今だけ臨時でアルファ5を名乗ろうかな」
同じく前衛を務め、ショットガンを扱う者として、アルファ1はエイミの戦闘力を高く評価していた。アルファチームに勧誘したのは流石に冗談であるが。
「聞いたか、今だけアルファチームは五人体勢となる。異論はないな?レディーズ」
それに反対する者は誰一人いない。皆、無言でサムズアップして同意を示していた。
『おかしいですね、ホドは一向にアームを攻撃に使ってきません。やはり、安全装置が外れていないのでしょうか?』
ヒマリが指摘する。ホドのアームによる質量攻撃を警戒していたのだが、奴はここまで頭部の両側にあるビーム砲しか使用していなかった。
「まあ、警戒するに越したことはないけど」
「あのビーム砲だけでも破壊しておくべきだ。教授にはおそらく、奴を倒せる切り札がある。削れるものは削っておいたほうがいいだろう」
『これは……注意してください、ホドの内部にエネルギーが集束しています!』
その時、ホドの両側にあるビーム砲がエネルギーのチャージを開始する。やがて、奴のモノアイが輝き、そこから強力なビームが放たれた。
「来るぞ!」
ビームによって一帯が薙ぎ払われる。エイミ達は退避したので無事だったが、周辺のビルが何棟も破壊される結果となった。
「やはり、壊した方がいいな」
「なら、私に任せて。試してみたいものがある」
「そいつは楽しみだ。アルファ5、時間稼ぎは我々に任せろ」
アルファチームがホドを引き付けている間、エイミは準備を開始する。目を閉じて精神統一を行い、自分の内部に意識を向ける。
(私の熱を集めて……)
すると、エイミの肉体から超高温の熱気が放出され、水蒸気がもうもうと立ち上っていく。現在、彼女の体内は体温が上がり続けており、人間ストーブの状態だ。
(よし、この熱を……攻撃に転用する……)
エイミといえば、常に高温の熱気を放出してしまう体質の持ち主であり、露出が多いのもその影響だ。彼女はグレイからアドバイスを受け、熱気を制御する術を身につけるべく修行していたのだ。
エイミはガンソードを構え、熱を全てその内部に注ぎ込んでいく。やがて、銃身が赤熱化したとき、彼女はトリガーを引いた。
銃口から飛び出したのは、真っ赤な一筋のビーム。それに含まれる荷電粒子は超高熱を帯びており、直撃を受けたホドのビーム砲を一瞬で溶かし、爆発を起こさせた。
「取り敢えず……片方は……潰した。はぁ、はぁ……」
エイミは息が上がっており、手にしたガンソードも内部構造が露出した状態になって放熱を開始している。再び撃つには時間がかかるだろう。
「これで火力も半減し、先ほどの攻撃の威力も下がったはずだ。アルファ5、流石だな」
ここでホドは初めて傷を負うことになった。頭部の横からは黒煙が立ち上り、装甲が融解している。痛々しい姿であるが、その程度で倒れる存在ではなかった。
〈右側副砲の損傷及び、主砲の機能不全を確認。安全装置の解除完了……これより、障害を排除……〉
次の瞬間、ホドが2本のアームを振り下ろしてくる。並の生徒では避けられず、まともに食らえば一撃で再起不能に追い込まれるような攻撃である。
「回避!」
先ほどまで五人がいた場所にアームが叩きつけられる。コンクリートの地面に放射状の割れ目が広がり、クレーターが形成された。
「まずいな、これではまともに攻撃できない……」
「私もいつまで凌げるか……」
いくら精鋭といっても、所詮は生物なので限界はある。いつまでもアームを避けられるはずがないのだ。そんな中、ヒマリから通信が入った。
『皆さん、朗報です。間も無く、援軍が到着します!』
そして、アームを振り回そうとしていたホドの意識が彼方の上空に向けられ、その方向へビーム弾を連射していく。
光の雨の中から現れたのは2つのシルエット。鋭角的なアーウィンと曲線的なスターシップという対照的なコンビであり、同時に攻撃を開始する。
『騎兵隊の到着だぜ!』
アーウィンからはレーザー砲が連射され、スターシップからは幾多のミサイルがばら撒かれると同時に機首下の二連ビーム砲から強力な砲撃が解き放たれる。全てがホドに命中し、奴をグロッキー状態に追い込んだ。
そして、ホバリングするスターシップの上からパワードスーツを装着したグレイが現れ、彼がエイミ達の前に降り立つと機体が何処かへと飛び去っていく。
『皆、待たせたな。よく、ここまで奴を抑え込んでくれた。ここからは、私とリトが奴の相手をしよう』
『教授、奴がまた動き出したぜ!』
グレイの視線の先では、グロッキー状態から回復したホドがアーウィンに対して光弾を放ち、アームを振り回している。
『副砲は俺が潰す。教授は鬱陶しいアームを頼むぜ!』
「ああ、任された!」
リトはローリングで光弾を弾き、アームを避けながら機首にエネルギーをチャージする。奴の副砲をロックオンすると発射スイッチを押し、緑色の光弾を飛び込ませて破壊した。
「新兵器を使わせてもらうぞ」
そして、グレイは機関銃を鳥人族サイズにしたような武器を装備していた。名はビームマシンガンといい、かなり直球なネーミングなのだが、サムスのアームキャノンと同等の性能を備える武器だった。
放つビームの種類を変更することが可能で、現在は通常のパワービームとアイスビームだけだが、今後はプラズマビームなどの種類も追加される予定である。
〈ビームバースト、オンライン〉
ビームマシンガンから飛び出したのは、高い威力と連射性を併せ持つビーム弾の嵐だ。リトを狙っていた片方のアームを一瞬で切断し、続けて自分に向けて振り下ろされたもう片方のアームを真正面から粉砕した。
「凄い威力……」
「これは素晴らしい……」
もはや、ホドに武器は残されていない。悪足掻きのつもりか機体後部からインベイドピラーをミサイルのように放つが、グレイとリトによって即座に破壊されてしまう。
「ご退場願おう」
すると、彼方の空にピカリと1つの光点が輝いたかと思えば、そこからカプセルのようなものが飛来する。
カプセルはグレイの頭上に到達すると、2つに割れて中身の長砲身の武装を落とす。グレイはそれをキャッチし、慣れた手つきで背中に背負うと変形させて両手で構えた。
〈プラズマビーム砲、起動〉
それは、この前も使ったプラズマビーム砲である。グレイはホドをロックオンすると、エネルギーのチャージを開始する。
〈エネルギー、充填開始〉
プラズマビームは鳥人族最強の破壊兵器であるが、結局は使い方次第である。使用者の意思によって最悪の破壊兵器にも、希望をもたらす光にも変わるのだ。
「プラズマビーム砲、発射。光よ!!」
黄緑色の電撃を伴う極太の光芒が発射され、ホドを貫く。ビームに触れた箇所から装甲が泡のようにブクブクと膨れ上がり、内部から大爆発を起こしてしまう。
外装が吹っ飛び、内部が融解して大ダメージを受けたホドは、そのまま自分が現れた穴へと真っ逆さまに墜ちていく。そのまま、奴は奈落の底へと消えた。
『こちら、エンジニア部。ピラーの破壊を完了したよ』
『ヴェリタスも同じく、インベイドピラーの破壊完了』
『にはははは!セミナーチームも完了です!』
ホドの撃破と同時に、インベイドピラーの破壊が完了した報せが舞い込んでくる。ホドの反応をミレニアム内では検知することはできず、彼らが預言者に勝利した瞬間であった。
『お疲れ様でした、教授。これで新たな預言者を撃破することができました。預言者との戦争も一段落ついたと言ってもいいでしょう』
「あぁ、そうだなヒマリよ。しかし、此度の戦いで少なくない被害が出てしまった。被災地の復興と奴の捜索に力を注ぐとしようか。協力してくれるね?」
「ええ、お任せください」
特異現象捜査部とミレニアムはデカグラマトンや預言者との戦争を乗り越えることができた。だが、潜在的な脅威はまだ眠っている。これはまだ、ミレニアムに迫る危機の序章に過ぎなかった。
2章 電脳戦争-Cyber Wars-〈完〉
エイミが放った真っ赤なビームはプライム版のプラズマビーム、グレイのビームマシンガンはDOOMのプラズマライフルがモデルになってます
プラズマ(ビーム)で目の前(の敵)をぶち抜いたので、これは実質ジークアクスかもしれない(暴論)
しばらくは番外編の予定です