海洋学園からの要請
それは、夏のある日のこと……
「教授、猛烈に暇です……トレーニングしかやることがありません……」
「何か、面白いことでもないですかねぇ…?」
グレイのラボにある休憩室に二人の生徒がいた。彼の元に迎え入れられた訳ありの生徒、飛鳥馬トキと黒崎コユキである。トキは逆立ちで腕立て伏せをしており、コユキはソファーでゴロゴロしていて手持ち無沙汰な状態だった。
「たしかに、最近は特に騒動も起こっていないな。デカグラマトンの予言者達も鳴りを潜めておる……平和なのが一番ではあるがね」
ここ最近はグレイがパワードスーツを持ち出すような事案は起こっていない。C&Cの戦闘メイドさん達がいれば大抵のことは片付いているし、仮に不在でもパワードスーツ部隊アルファチームが控えているので問題ない。特異現象捜査部もヒマリとMBだけが情報収集に努めている状態だった。
「コユキ、あなたもトレーニングをしませんか?」
「トレーニング……うっ、頭が……」
トレーニングと聞いて、コユキのトラウマが抉られる。コユキもトレーニング部に行ったことがあるのだが、ガチでハードなトレーニングをさせられて死にかけていた。この前のトキとは大違いである。
「ふむ、何か出張でもあればよいのだが…………おや?」
その時、グレイの端末に一本の連絡が入る。
「…………ああ、ノアか……そうか、分かった。すぐに向かおう……」
通話が終わった後、グレイは二人の方を向き…
「喜べ、二人とも。もしかすると、暇から脱却できるかもしれぬ」
「それは本当ですか?この完璧美少女トキちゃんの力を見せるときが来たようですね」
「まあ、暇じゃなければ私はいいですけど……」
そして、三人はラボを飛び出していく。彼らが向かった先は、ミレニアムの生徒会であるセミナーの入っているミレニアムタワーであった。
「急に呼び出してしまってすいません、教授」
「構わんよ。ちょうど、我々も暇していたところなのでな」
グレイ達を待っていたのは、セミナーで書記をしている2年生の生塩ノアだ。ロングヘアーの白髪にヘッドギアを装着し、白を基調とする制服を着こんだ彼女は、会計のユウカと共にセミナーを取り仕切っていた。また、彼女には完全記憶能力があったりする。
「あら、コユキちゃんも一緒なんですね?」
「こ、こんにちはノア先輩……」
コユキを見て笑顔を浮かべるノア。だが、コユキは少しばかりビビっているような状態である。何故なら、彼女に対してトラウマに近いことがあるからだ。
それは、グレイに預けられる前のこと。コユキは幾度となく反省部屋に叩き込まれており、一時的に部屋を抜け出すためにあの手この手でアリバイを作り、色々と誤魔化していた。
しかし、ノアには通じなかった。コユキの発言や部屋の配置、様々なログを時間付きで完璧に記憶しており、それを元にコユキを追い詰めてくるのだ。コユキの自業自得だが、淡々と迫ってくるノアに恐怖を感じていた。それも、夢に出るほどである。
「ところで私の記憶にない子が一緒に来ているようですが……?」
そして、ノアはトキの存在に気づく。完全記憶能力によって全生徒を覚えているはずなのだが、当然ながらトキのことは知らなかった。リオはセミナーに対して完璧にトキの存在を隠しきっていたらしい。
「あぁ、少し訳ありでな。トキ、挨拶を」
「1年生の飛鳥馬トキです。最近になってミレニアムに転入してきました。よろしくお願いします」
トキは廃校したばかりの学園から転入してきた設定になっている。架空ではなく実在していた小規模な学園であり、そこの生徒名簿も消失しているのでリオによってカバーストーリーに使われたのだ。
「それで、ノアよ。重要な話があると聞いて我らは飛んできたわけだが、何があったのかね?」
「実を言うと、ミレニアムと友好関係にあるオデュッセイア海洋高等学校から要請が届きまして、教授の力が不可欠なものでした」
「ほう、オデュッセイアか」
オデュッセイア海洋高等学校。それは、自治区の殆どが何十隻もの大型船と島々に集中していて、海洋関係や造船の技術など、一部の技術ではミレニアムを追い抜いてしまう程の学園である。
「はい。先日、キヴォトスの外から来たと思われる巨大な遺物を発見したそうで、未知の技術が使われている可能性から、ミレニアムとの合同調査を打診してきました」
「巨大な遺物……興味深いではないか。是非、私達に調査へと向かわせてほしいのだが」
「ふふっ、教授ならそう言うと思っていました。ところで、その“私達”には私のことも含めてくれますか?」
どうやら、ノアは今回のオデュッセイアとの合同調査に同行するつもりらしい。
「えっ!?ノア先輩も来るんですか?」
「コユキちゃん、もしかして私が同行してはいけませんか?何か、都合が悪いことでも?」
「そ、そんなことはないですよ!わあ、ノア先輩が来てくれるなんて嬉しいなぁ!にははは……」
コユキに対するノアの圧がヤバい。表情は笑顔のはずなのに顔が笑っておらず、逆らってはいけない何かが感じられた。
「というわけで教授、私も合同調査に参加させていただきます。いいですよね、教授?」
「わ、分かった……同行を認めよう」
流石のグレイもノアの圧に押され気味だ。ミレニアムで逆らってはいけない人と聞かれたら、間違いなくノアの名が挙がるだろう。
「ありがとうございます、教授。全てを記録するのが書記としての私の役目です。もちろん、教授やトキさんのことも“記録”させていただきますので、よろしくお願いしますね♪」
こうして、オデュッセイアとの合同調査にはグレイ達三人に加えてノアも参加することになった。
「トキ、彼女には逆らってはならんぞ」
「イエス、マイロード」
「二人とも、何か言いました?」
「「いえ、何も!」」
オデュッセイア出張編
Shipwreck~別次元より迫る者~
ということで、オデュッセイア出張編の開始です。ほぼオリジナルに近いので投稿には時間がかかるかもしれない