「あぁ、美しい……」
とあるガレージに紫色のロングヘアーの生徒がいた。その頭上に六角形のヘイローと共にウサミミのような形状のアクセサリーを浮かべている彼女は、目の前の物体を見て感嘆していた。
彼女の名は白石ウタハ。マイスターと呼ばれるモノ作りの天才が所属するエンジニア部の部長を務めている3年生だ。高い技術力を持つエンジニア部はミレニアムのみならずキヴォトスへの貢献度の高さからかなりの予算が与えられている存在である。
そして、ウタハのいるエンジニア部のガレージに鎮座しているのは、グレイのスターシップだ。大破している状態であるものの、曲線的な美しいシルエットは健在であり、彼女はその虜になっていた。
グレイのスターシップはエンジニア部に預けられており、グレイはエンジニア部と共に修理に取り組む予定である。
「どうかな、スターシップは?」
スターシップに夢中なウタハの背後から現れて話しかけたのは、教授に就任したばかりのグレイバードだ。
「やあ、教授。本物の宇宙船に触れることができるという事実に感動しているよ。私はね、この子を修理して後輩達と宇宙を見に行きたいんだ」
「いいではないか。夢を見られるのは若者の特権さ。スターシップが直ったときには、君達に宇宙を見せることを約束しよう」
ウタハは宇宙に行くことを夢にしており、エンジニア部はそのために宇宙戦艦を作ることを本気で計画していた。そんなエンジニア部の前に宇宙戦艦とまではいかないが本物の先進的な宇宙船が現れたのだ。興奮しないはずがない。
「スターシップの損傷については昨日話したばかりだが、自己修復装置では直しきれない部分が多い。特に、下部の反重力ドライブは1基を完全に喪失、残りの2基は損傷した状態になっている」
スターシップの下部には半球状の3基の反重力ドライブが埋め込まれ、ランディングギアとしても機能している。だが、その内の1基が失われてしまっていた。
「反重力ドライブを新造することが必要だね。損傷しているとはいえ現物はあるし、設計図のデータも頂いている。作れないことはなさそうだ」
「あぁ。協力に感謝するよ、ウタハ」
「感謝したいのは私の方だよ。宇宙文明の産物とその当事者が目の前にいるなんて、夢のようだ」
今後、エンジニア部はスターシップの修理やチョウゾテクノロジーの再現を通してグレイバード教授と交流を深めていく。そして、いつか宇宙へと向かうだろう。
あれから1ヶ月。ミレニアムにて教授としての活動を開始したグレイの存在は生徒達に受け入れられつつあった。
「あっ、グレイ教授だ!」
「おはようございます!」
最近は道行く生徒が挨拶をしてくれたり、科学技術に関する話題で生徒と盛り上がるなど、完全にミレニアムの一員となっていた。
「やあ、おはよう。今日は良い天気だな」
挨拶を生徒に返すグレイ。今の彼はミレニアムの校章が各所にプリントされた白い服に袖を通し、同じく校章の入った腕章が付いている。
右腕には銀色のガントレットが装着されているのが確認できる。チョウゾテクノロジーによって作られた産物であり、触れられる空中ディスプレイを映し出す機能を備えた情報端末だ。
現在はスマホアプリの機能を使えるように調整が為されていて、生徒のスマホと通話したりモモトークで会話できるようになっている。
また、解析機能を備えた片眼鏡型のデバイスを装着しており、ガントレットと連携させることで解析したデータを映し出すことが可能だ。
グレイの本日の目的地はエンジニア部の部室である。先日の夜、見せたいものがあるという旨の連絡をエンジニア部から受けていた。
「やあ、教授。来てくれてありがとう」
彼を出迎えたのは部長のウタハだ。
「ウタハ、何を見せてくれるのだ?」
「実を言うと、新素材開発部との共同でバイオ素材*1の再現に成功したんだ。是非、教授に見てほしくてね」
「ほう、バイオ素材か。色々と役に立つだろうな……」
バイオ素材はチョウゾテクノロジーの1つだ。主にチョウゾ製のパワードスーツに使用されており、エネルギーを与えると自己修復する特性や、高いエネルギー伝導性*2を持つ。なお、グレイのガントレットもバイオ金属製である。
「とりあえず、付いてきてほしい」
ウタハに案内された先には一枚の装甲板が鎮座しており、その周囲をウタハの後輩であるエンジニア部の部員2人が固めていた。
「おぉ! 教授、おはようございます!」
「あ、教授だ。おはよう」
元気な挨拶をした金髪メガネは豊見コトリ。物知りで解説することが大好きな少女だ。しかし、その解説は正確であるが質問された部分に加えて直接的に関係のない知識に至るまで行われるため、途中で逃げ出す者も少なくない。
グレイはそんなコトリのために週一で彼女の解説を聞きに行っており、彼女を満足させると共に癖の改善に取り組んでいる。
そして、もう1人のダウナーな雰囲気でペタンと倒れたイヌ耳の黒髪は猫塚ヒビキ。工学に長けている彼女は様々な発明品を作ることで有名だが、主機能以外に変な機能を付ける傾向がある。
ヒビキの趣味はコスプレ衣装を作ることであり、その趣味を活かしてグレイが着ている服を製作している。流石に変な機能は入れられていないが、防弾や防爆といった機能が備えられている。
「教授、これが私達の試作したバイオ素材だ」
「ふむ。見せてもらおう」
グレイは装甲板を手に取り、片眼鏡型のデバイスの解析機能を使ってスキャンする。
〈スキャニング完了〉
そして、右腕のガントレットを操作して空中ディスプレイを出現させ、そこに結果を投影した。
〈チョウゾ製バイオ素材との86.86%の類似性を確認しました。素材としての使用に問題はありません〉
「問題はないそうだ。まさか、データを提供してから約1ヶ月でここまでのものを作るとは、流石じゃないか」
「褒めてもらえて嬉しいよ。是非、その言葉を新素材開発部の子達にも聞かせてあげてほしい」
「あぁ、そうさせてもらう」
「しかし、教授がもたらしてくれたバイオ素材は優秀な素材だ」
「そうですね! バイオ素材は従来の素材以上の高いエネルギー伝導性を持っています!」
「自己修復するのも凄い。これを使って装備を作れば、長年に渡って運用できるものになるかも」
「このエネルギー伝導性ならば、スーパーノヴァの改良型に活かせるかもしれない」
「スーパーノヴァ……たしか、レールガンだったな」
スーパーノヴァとは、エンジニア部が開発した全長が人の背丈ほどの巨大レールガンのことである。重量は140キロ、発射時の反動は凄まじく、人が持って撃つものではない。グレイもパワードスーツを着なければ自分も撃てないと評しているくらいだ。
そもそも、スーパーノヴァが作られたのは、ウタハ達が宇宙戦艦を作りたいと考えたことに起因する。ロマンを追い求める彼女達は即座に作業に取りかかったのだが、何故か宇宙戦艦の本体ではなく搭載する武装の方から作ってしまった。
問題なのは、それを1つ作るだけでエンジニア部の半期予算の70%を使ったことだ。エンジニア部はかなりの予算を与えられているが、半期分とはいえ3割しか残らなかったのは恐ろしい事態である。
「あぁ。スーパーノヴァはかなり強力だが、電力を確保するための強力な発電機の重量が問題になっている。そこで、エネルギー伝導性が高いバイオ素材を使うことで小型化と威力の維持を両立したい」
「でも、予算はどうします?」
「この前、セミナーの会計に怒られたばかり……でも、レールガンは作りたい……」
「なら、作ろう!」
「作りましょう!」
「そうだね」
エンジニア部はロマンを求めるあまりに予算や損害を無視しがちである。予算を出しているセミナーの会計から怒られても、実験の失敗で部室が爆発しても、彼女達はロマンという目的のために突き進む。
「好きに作るといい。必要とあらば私のラボの予算の一部をエンジニア部の方に回してくれるようにセミナーに頼んでおこう」
グレイにはラボが与えられており、それと同時に活動費や研究費としてそれなりの予算をセミナーから貰っていた。
「ありがとう、教授。でも、それでいいのかい?」
「構わないよ。私も昔は君達のようにロマンを求めて発明をしていた。資材の使いすぎで長老に怒られたこともあったな……」
一応、グレイもエンジニアである。ロマンを求めるエンジニア部の姿に過去の自分を重ねていたのだ。
「教授にもそんな時期が……」
「誰だって若い時はある。あぁ、そうだ。鳥人文明の話でもしようか。コユキやセミナーの皆には話していたが、チョウゾの技術を扱う君達にも知ってもらいたいのだ」
「宇宙文明の話、気になるね」
「おぉ、教授の解説が聞けるんですね!」
「いいインスピレーションが湧きそう」
グレイは、若きエンジニア達に鳥人文明のことを語りだした。鳥人文明が銀河に勢力を拡大し、やがて衰退していくまでの悠久の時を……
余談だが、話を聞いた後のエンジニア部の3人は、鳥人族をモチーフとした戦闘用ロボットを製作したが、何故か暴走してC&Cに鎮圧されることになったらしい。
コユキ「あの、私の出番はないんですか?」