あの戦闘の後、グレイ達はレイジハンドによる襲撃を何度も潜り抜けてきた。グレイが主に近接攻撃で対処したので弾薬の消費は抑えられていたが、明らかに疲労が溜まっているので休息しているところだ。
その最中、ノアが質問してきた。
「教授、この船に潜んでいる存在について教えていただけますでしょうか」
「この船はファントゥーンによって掌握されている。船が浮上してきたのも、オデュッセイアのハリアーが撃墜されかけたのも、奴が操作している為だ。奴はアストラル生命体に分類されている」
「アストラル……それは、霊的な存在を意味する言葉でしたね」
「そうだ。奴は別次元であるアストラル界に肉体を持つ生命体とされている」
「されている……と言いますと、不明な点が多いということでしょうか」
「ファントゥーンは捕獲サンプルがほぼ存在しないどころか、目撃されるのも稀な生命体さ。交戦したという記録も数件程で、倒し方が分かっているだけだ」
その交戦例にはサムス・アランのものが二件存在しており、最初に倒したと思われた個体が何らかの理由で復活したものと再び戦い、最終的に討伐に至っている。
「奴は時折、エネルギーを吸収して糧とするために物質界へと現れる。とある研究によると、アストラル界にある肉体は巨人型であり、こちら側には頭部だけ実体化させているそうだ」
「そのような生命体が我々の仲間を襲ったというのか……」
「奴は危険すぎる。ここで何とかしなくては、今後も被害に遭う生徒が出てしまうだろう。奴は私が倒してみせる」
グレイはファントゥーンの倒し方を知っている。奴は厄介な特性を持っており、そのタイミングもシビアなのだが、この場でそれを成功できるものは多くない。
「奴は次元の狭間にいるために攻撃は全てすり抜けてしまうが、開眼している間のみこちら側へと実体化する。そこが狙い目なのだが……」
「もしかして、そのタイミングが一瞬ということでしょうか?」
「あぁ。一瞬なのもそうなのだが、奴は実体化と同時に青い火球を大量にばら撒いてくる。まあ、そこは何とかしてみよう」
「動体検知機に反応が? いや、この反応は人間……味方だ!」
その瞬間、グレイ達が休憩しているスペースへと踏み込んでくる集団があった。
「教授、ご無事ですか?」
現れたのはアビ・エシュフに身を包んだトキだった。その後ろにはコユキや海兵隊員達がいる。
「あぁ、何とかね。そちらも我らと同様に奴らに襲われたようだな」
「ええ、こちらも弾薬が心許ない状態です。一刻も早く、ファントゥーンを討伐するべきでしょう」
「私も同じ考えだ。トキ、そなたの力を借りたい。奴には我ら二人で挑むとしよう」
「イエス、マイロード」
合流した彼らは難破船の中枢へと向かう。そこは広いドーム状の空間になっているのだが、入り口が完全にロックされた状態になっていた。
「これは鍵が掛けられているようだ。素材の強度は私でも破れない程……しかも、ギミックを操作するタイプのアナログ式……ハッキングは使えぬか……」
「これ、コユキちゃんなら解けるかもしれませんよ。コンピュータに限らず、物理的な鍵を解除した記録がありますから」
「や、やってみます!」
コユキがドアの鍵に近づき、直感に従ってギミックを弄っていく。厳重なロックと格闘すること数分。ついにガチャッという音を立ててロックが解除された。
「なんか、開いちゃったんですけど……」
「よくやった、コユキ」
「にはは、人の役に立てるのは嬉しいです!」
そして、グレイはトキと共に扉の向こう側へと入っていく。
「教授、ご武運を。必ず帰ってきてくださいね」
「気をつけてくださいね、トキ!」
「あぁ、約束しよう」
「必ず戻ります」
見送りを受けた二人は、暗く狭い通路を抜けて広いドーム状の空間へと出る。ここが、奴との決戦場だ。
互いの死角をカバーしながら進入すると、空間中央の上空に青白い火の玉が灯る。それを皮切りに次々と火の玉が出現し、その配置は円を形作る。
「これは……?」
「奴が来るぞ」
やがて全ての火の玉が一ヵ所に集まり、そこから空間が揺らいで異形の化物が出現する。それはまるで一つ目の巨人サイクロプスのような頭部そのものだった。
その頭部は異様に肥大化しており、内側には次元の間を移動するのに使用される特殊な器官と神経系がパンパンに詰まっていて、その末端が触手として両側から飛び出ている。
黄色に怪しく光る眼球は牙の並んだ口内に埋め込まれ、生物として有り得ない構造だ。別次元に潜む化け物には、こちら側の常識は通じない。
巨大な生首の化け物、ファントゥーン。奴こそが難破船のエネルギーを吸収し、内部のシステムを掌握している張本人だ。
ファントゥーンはこれまた巨大な眼球でグレイ達を捕捉する。そこが弱点だと聞いていたトキが〈シークレットタイム〉を発砲するが、口が閉じたことによって半透明になった奴の肉体を銃弾がすり抜けるだけに終わった。
「やはり、一筋縄ではいきませんか」
「向こうも自身の弱点は分かっているだろうからね……攻撃直後の隙を突くしかない」
ファントゥーンは実体化していない半透明の状態で、明滅しながら二人の周囲を旋回する。奴の周囲から青い火球が落ちていく中、二人は背中合わせの状態で警戒していた。
「教授!」
そして、奴はトキ側で開眼して実体化し、それと同時に火球を撒き散らす。グレイはトキの合図を受けて彼女と位置を交代すると……
〈ライトニングアーマー、オンライン〉
シールドを構えて防御の体勢をとったまま、全身に翡翠色の雷鎧を纏い、飛来した火球を全て受け止める。
「トキ、今だ!」
そして、その背後から飛び上がったトキがアームギアを構え、最大限にチャージしたリパルサーレイを投射する。攻撃後の隙を狙われた奴は対処できず、弱点に一撃をもらって悲鳴を上げた。
ギャォォォン!?
その直後、再び半透明になったファントゥーンはドームの最も高い位置に陣取り、薙ぎ払うようにして火球の雨を降り注がせてくる。
「トキ、屈め!」
グレイは長い槍を頭上で高速回転させることで激しく降り注ぐ火球からトキを守る。火球の雨による攻撃は七回に渡った。
攻撃が止んだ後、ファントゥーンの姿が搔き消える。その代わりに現れたのは、これまでも襲ってきた奴の配下、レイジハンドの群れだ。
〈ビームバースト、オンライン〉
「アームギア、ミサイル発射」
しかし、対処は一瞬である。グレイは槍をビームマシンガンに持ち替えてビームの嵐を解き放ち、トキはアームギアから小型ミサイルを斉射してレイジハンドを蹴散らしていく。
ギャォォォン!?
全てを掃討した直後、悲鳴と共にファントゥーンが実体化してこちら側に戻ってくる。しかも、少しふらついているような状態だ。
「どうやら、レイジハンドに対するダメージは本体であるファントゥーンにも入るようだね。これは新しい発見だ……」
〈チャージビーム、オンライン〉
エネルギーをチャージし、単発で強力なビームをビームマシンガンから放つ。それはファントゥーンの眼球に直撃し、奴を大きく仰け反らせた。
「効いてますね」
「そうだな。だが、まだ続ける必要がある」
ダメージの蓄積でファントゥーンの体表が赤く変色しつつあるが、それでも奴はまだ動く。グレイが防御を、トキが攻撃を担当することで実体化した瞬間を確実に狙っていく。
しばらくして、ファントゥーンは完全に真っ赤になってしまう。満身創痍であり、こちら側に実体化したまま戻れなくなっていた。
「これで終わりにしよう」
悪足掻きのつもりか触手を振り回してくるファントゥーン。グレイはそれを回避し、踏み台にすることで接近する。そのまま巨大な眼球に取り付くと、槍を深々と突き刺した。
ギャ!?ギャォォォン!?
ファントゥーンは悲鳴を上げ、激しく閃光を放ちつつ空間の歪みに吸い込まれるようにして消滅する。そして、同時に船内の電力が復旧して明るくなった。
「記録には全て目を通させてもらったよ。まさか、あのような怪物が潜んでいたとはね。教授、ご協力に感謝するよ」
「なに、私は私のすべきことをしただけのこと。ファントゥーンは今後も現れる可能性がある。対峙するであろう者達のため、奴の情報は連邦生徒会に共有しておきたい」
「それには私も賛成だ。だが、難破船の存在は伏せておきたい。チョウゾの技術を狙って企業連中が動く可能性があるからね」
「難破船はオーパーツのようなものだ。特にカイザーにはそういったものを収集する動きがある。そなたの言う通り、余計なものは伏せておくべきだろう」
ファントゥーンを討伐した後、グレイはオデュッセイアの生徒会長であるツバサと会談していた。内容は今後のことについてだ。
まず、ファントゥーンについては今後も現れない確証がないため、ミレニアムとオデュッセイアの連名でその弱点や生態に関する情報を連邦生徒会に共有することになった。主に対処することになるのはシャーレと思われ、彼らの役に立つだろう。
難破船に関しては存在を伏せることになった。チョウゾテクノロジーを使用しており、カイザーをはじめとする企業によって狙われる可能性があるからだ。
難破船の内部にあるテクノロジーを全て回収して分析した後、電源を停止させた上で海底に沈める予定だ。海底に手が出せるのはオデュッセイアやミレニアムくらいなので、連邦生徒会や他の学園にバレることはないだろう。
「あぁ、そうだ。ミレニアムの皆さんの協力に報いるべく、オデュッセイア生徒会の保有するビーチを一日だけだが貸切にすることにした」
「それはありがたい。せっかく海に来たのだ、英気を養ってもらうためにも、生徒達にはバカンスを楽しんでほしいと思っていたところさ」
難破船探索という大きなイベントを乗り越えた彼らに待っているのは、頑張ったご褒美としてのバカンスだ。長くは滞在できないが、彼らは存分に休息の時を楽しむだろう。
「ところで、教授は水着を着るのかい?」
「一応、着る予定さ。私は頼んだ覚えがないのだが、エンジニア部の娘が勝手に作ってくれてね。使わないのも勿体無いだろう?」
「教授の水着か……気になるね」
この世界線のキヴォトスには総力戦:ファントゥーンがあったりします。攻撃タイプは爆発、防御タイプは特殊を想定してますね。