アリスへの対応方針
オデュッセイアにおける一件の後、グレイは数か月の間で様々なことに関わった。対立するゲヘナとトリニティ間における平和条約〈エデン条約〉に関連した諍いの調停や諸々の後始末、学園の垣根を超えた合同体育祭〈晄輪大祭〉の運営やその内部で起きた事件の解決など、その全てを語るには時間がかかるだろう。
無事に晄輪大祭が終了してから数日後のこと、グレイは久しぶりにリオとヒマリによって呼び出される。アリスに関することだと思われ、指定された時間も人目につかない真夜中の時間帯だった。
「さて、そろそろ教授が来る頃かしら…」
「ええ、教授は約束を破るような人ではありませんので」
草木も寝静まった深夜のミレニアムタワー。最上階にある最低限の照明しか付いていない薄暗い生徒会長室にて二人の生徒、リオとヒマリが向かい合っている。黒と白という対照的なカラーが特徴的で、二人の違いが強調されていた。
「やあ、二人とも。時間通りに来たぞ」
「教授、よく来てくれたわね」
「お待ちしておりました」
「私を呼び出した理由はアリス関連かね?」
早速、グレイは自分を呼び出した理由を尋ねるのだが、返答は思った通りのものだった。アリスの扱いについて確定させるというのだ。
「この前も話したと思うのだけど、アリスに対する認識を再確認させてもらうわ。ヒマリ……」
「ええ」
事前に示しあっていたらしく、二人はグレイの目の前でアリスについて認識を再確認していく。最初に口を開いたのはヒマリだ。
「アリスの正体……それは、無名の司祭が崇拝するオーパーツであり……」
「遥か昔の記録に存在する……」
「「名もなき神々の王女」」
その解釈は変わらない。以前、グレイに話した内容と同一の内容だった。しかし、二人の話には続きがある。
「そう、同じ解釈になったようね。つまり、あの
存在の本質は……」
「ええ、アリス、あの子は……」
「世界を終焉に導く兵器」
「かわいい後輩、ですよね♪」
最後の最後で二人の意見は割れた。アリスの解釈については一致したが、扱いについては正反対のものだった。
「どういうことかしら、ヒマリ。名もなき神々の王女は世界を滅ぼすために作られたオーパーツ。それを後輩などと……」
「しかし、私達に友好的な人格が芽生えていることは一目瞭然。リオだってそれを見ていたはずです」
「あれは生徒ではないわ。人の形をした兵器なのよ。何か起こる前に対処しなくては取り返しのつかないことになるわ」
「私達に敵対しないようにアリスを育成できる可能性は大いにあります。可能性をわざわざ潰すだなんて、夢がありませんね」
「可能性なんて合理的ではないわ。私にはミレニアムを守る義務がある。可能性を信じて滅ぼすくらいなら、私は事実に基づいて動くわ」
二人は相容れない。事実に基づいて動くのか、可能性を信じて先に進むのか。たったそれだけで不協和音を奏でていた。
「いいわ。邪魔をするのならばそれ相応の措置を採らせてもらうわ」
「それはこちらも同じことです」
この場にグレイがいることなんて忘れ、二人の口論はヒートアップしていく。一つのことに囚われ、目の前しか見えていない。
「やめんか、二人とも!」
そこでグレイが二人を一喝する。生徒に対して声を荒らげるのはこれが初めてだ。グレイはあまり乗り気ではなかったが、これによって口論を止めることはできた。静かになった二人を見て、グレイは口を開く。
「そなたらの解釈はどちらも間違いではない。だが、それと同時に間違いでもある」
「それは、どういうことかしら?」
「そなたらは物事を一面からしか見ていない。白か黒かはっきり分けることに固執しておる。私が言いたいのは、アリスは世界を終焉に導く兵器にして、可愛い生徒でもあるということさ」
「でも、世界を滅ぼす兵器であるという事実には変わりないわ」
「もしも、AL-1Sの本来の人格が目覚めてアリスの人格が戻る見込みがない場合、私が彼女を破壊する。その準備はできている」
「それは、教授に責任を押し付けることになりませんか?」
「ヒマリ、私は大人だ。大切な生徒達に手を汚すような真似はさせたくないのだ。大人として、ミレニアムの教授として、私が全ての責任をとる」
グレイの覚悟を前にして反論できる者はいない。二人はアリス関連の始末をグレイに任せることで一致した。
「一つだけ聞きたいことがあるのだけど、アリスを破壊するための準備というのは、ホドに放ったアレのことかしら?」
「そうだ、あれはプラズマビーム。高い貫通力と破壊力を併せ持った最強の兵器さ。その直撃を受ければ爆縮し、分子レベルで崩壊する。最大威力を受ければ生徒であっても無事ではいられないだろう」
「それならば、アリスに対しても効果があると……何だか、教授の方が恐ろしく見えてきますね」
「はっはっは、その気になれば私だって世界を滅ぼすことは可能だろうな。無論、私はそんなことはしないがね」
鳥人族の技術力なら世界を滅ぼすことは容易い。生物兵器として最高クラスのメトロイドを創造した前科があるし、殲滅力の高いプラズマビームやパワーボムもある。おまけに惑星破壊レベルの爆弾も作れるので敵に回してはいけない。
「ところで、リオよ。アリスを監視するに当たって注意すべきことはあるかね?」
「そうね……気を付けるべきはアリスとDivi:Sionの接触よ。もしも接触すれば、アリスはAL-1Sとして覚醒するわ」
「Divi:Sion?」
「Divi:Sionは廃墟に潜むロボットの軍団であり、名もなき神々の王女を指揮官とする司祭の尖兵……」
「アリスが覚醒してから、彼らの動きは活発化しています。そして、廃墟より出てきてアリスとの接触を試みていました」
「ミレニアムに侵入される前に破壊していたから問題はないけれど、監視をすり抜けてくる可能性もあるわ」
「分かった、私も目を光らせておこう。だが、その前にDivi:Sionの特徴を教えてほしい」
「なら、後でトキ経由でデータを送るわ」
「あぁ、ありがとう」
アリスへの最終的な対処はグレイに一任されることになった。しかし、これが苦しい戦いの始まりであることをまだ誰も知らない。
エデン条約編はダイジェストどころか言及だけで終わりましたが、パヴァーヌやデカグラマトンの後に書いてみようと思います。ちなみにベアトリーチェはグレイによってボコボコにされました
最終編を書くかどうかは不明です