今回のストーリーはメトロイドの漫画であるサムス&ジョイのとある回が元ネタになってます
それは、アリスがいつものように冒険を終えて帰宅しているときのことだった。
「うーん、今日も宝箱はありませんでした」
収穫が無かったことに落胆しながら帰路につくアリス。キヴォトスにゴミ箱はあっても、宝箱が置いてあるようなことはない。
「あたし達の縄張りに入りやがって!」
ドドドドドッ!!!
ガガガガガッ!!!
「や、やめて……」
すると、何処かの路地裏から怒号と銃声、銃弾が弾かれる音、懇願する弱々しい声が聞こえてくる。
「何でしょう?」
アリスがその路地裏を覗いてみると、何人ものスケバンに囲まれて集中砲火を受けている大きなロボットがいた。
そのロボットはドラム缶のような寸胴に、伸縮性のあるバネのような長い腕、宇宙飛行士のヘルメットのような頭部をしている。身長だけならグレイと同等で、サイズからして明らかに市民ではない。
銃弾は全く効かずに弾かれており、その巨体を振り回せば返り討ちにもできそうなものだが、彼は反撃もせずに怯えているだけだった。
それを見たアリスの行動は決まっていた。
「光よ!」
路地裏が閃光に包まれ、炸裂した光の剣によってスケバン達が吹っ飛ばされていく。その場に残されたのは、大きなロボットと小さなアリスだけだった。
「それで、このロボットさんとアリスちゃんは友達になったんだね」
「でもさ、こんなロボット見たことないよ!エンジニア部にも、教授のところにだっていないって!」
数日後、アリスはゲーム開発部の仲間を連れてロボットのところまで来ていた。彼はアリスに助けられた後、スケバンやヘルメット団に狙われないようにとある廃墟に隠れていた。
「は、はじめまして……ユズです」
「こ、こんにちは……僕には記憶がなくて、な……名前がないんだ」
「なら、私達で名前を付けてあげようよ!」
「そうだね、お姉ちゃん。アリスちゃんの名前だって私達が付けたわけだし……」
ユズがロボットに対して恐る恐るだが挨拶をすると、彼は自分の名前がないのだという。なお、アリスは彼をゴーレムさんとしか呼んでいなかった。
「アリス、ゴーレムさんにはそれらしい名前を付けてあげたいです!仲間にしたモンスターにニックネームを付けるのはゲームの醍醐味です!」
「わ、私はレムさんがいいと思います」
そんな中、考えたロボットの名前を即答したのはユズだった。
「ゴーレムだからレムさんってことか!ユズは考えるのが上手いね!」
「シンプルだけど覚えやすくていいかも」
「流石はUZQueenです!」
「そ、それほどでも……」
ちなみにUZQueenはユズがゲームでよく使っているユーザー名だ。ゲーム界隈では腕利きの格ゲープレイヤーとして有名である。
「では、ゴーレムさんの名前はレムで決まりです!パンパカパーン、レムがパーティーメンバーに加わりました!」
ゲーム開発部は何度もレムのところまで通い、日を重ねるごとに仲良くなっていった。そして、同時に彼の記憶を取り戻すために試行錯誤していた。
そんなある日のことだった。
「うーん、やっぱりダメか……」
「お姉ちゃん、グレイ教授に見せた方がいいかも。ゲーム開発してるだけの私達じゃ記憶を取り戻すなんて……」
ゲーム開発部は色々と試行錯誤したのだが、レムの記憶を復活させることはできなかった。ゲームのプログラミングとは訳が違うのだ。
「グレイ、教授? 私のメモリーの奥底に、そのような文言が入っているような……」
その時、レムはグレイ教授という単語に反応する。どうやら、メモリー内に同様の単語が残っていたらしい。
「教授は物知りで、アリスも大好きな鳥の長老さんです!もしかしたら、長老に会えば何かの切っ掛けになるかもしれません!」
「で、でも、どうやって教授に見せよう……街まで連れていったらセミナーに見つかっちゃうし……C&Cまで出てきたら……こ、怖いかも」
「だったら、教授に来てもらえばいいじゃん!教授ならきっと、セミナーにもレムのことを秘密にしてくれるよ!」
「そうだね、お姉ちゃん」
そして、ゲーム開発部から呼ばれたグレイが早速やって来た。
「やあ、ゲーム開発部の諸君。それで、例のロボットはこの廃墟にいるのかね?」
「そうだよ、教授。レムはね、私達の友達なんだ!」
「はい、レムは私達の大事なパーティーメンバーです!」
「ほう、名前を付けたのだね」
モモイとアリスに案内され、グレイは廃墟の中へと足を踏み入れていく。内部は迷路のように複雑で、しばらく進むと大きなロボットの姿が見えてきた。
「あ、教授。来てくれてありがとうございます」
「ひ、久しぶりです……教授」
「ミドリにユズ、久しぶりだな。それで、そこにいる彼が君達の大切な友人かね?聞くところによると、記憶がないそうだが……」
「アリス達も頑張ったのですが、私達のスキルレベルではどうにもなりません。ここは、スキルレベルがカンストしているガチ勢、長老の力が必要です」
「分かった。私が見てみよう」
グレイはゲーム開発部のみんなを伴ってレムへと近づく。彼は尻を着いて座っており、透明なヘルメット越しに黄色のカメラアイでグレイを視認した。次の瞬間だった……
「う、ううっ、あ、頭がぁ!?!?あ、ああああぁぁぁっ!?!?」
突然、レムが頭を抱えて苦しみ出す。グレイを見たことで、何かが作用したのかもしれない。彼はしばらく苦しんだ後、カメラアイから光が消えた。
「長老!レムが!」
当然、ゲーム開発部は慌てる。彼を助けるためにグレイを呼んだはずなのに、グレイと会った瞬間に不具合が起こったのだから。
『システム、再起動します』
やがて、謎のシステム音声が停止したレムの体から聞こえてきて、カメラアイが黄色ではなく赤く発光する。
『破壊工作ロボット〈オメガ〉、再起動完了。目標、ミレニアムのグレイ教授。直ちに目標を排除します』
「彼は危険だ、すぐに離れろ!」
ゲーム開発部はあまり状況を飲み込めていないようだったが、グレイの警告に従って様子のおかしいレムから離れる。
『ターゲット、ロックオン。排除します』
レムの胸部がガバッと開き、内蔵されたビーム砲が出現する。エネルギーをチャージし、グレイに向けて極太のビームが発射される。近くにゲーム開発部の四人がいるが、お構い無しのようだ。
「不味い!」
グレイは瞬時にパワードスーツを纏い、生徒達を抱えて廃墟の窓から飛び出る。着地した直後、廃墟の二階部分からビームが飛び出てきて、彼方へと飛んでいった。
『目標は排除……排除……排除……』
ビームで破壊された外壁の大穴からレムが這い出てくる。そのまま二階から飛び降り、大きな音を立てて着地すると、グレイの方へと向かってくる。
「レム、目を覚ましてください!長老は敵ではありません!」
アリスがレムに対して必死に訴えるが、彼は歩みを止めない。それどころか、アリスに向けて腕を振り下ろしてきた。
『作戦を邪魔する者は、全て排除……』
「アリス、逃げるのだ!」
咄嗟にグレイが槍を振るって腕を弾き飛ばす。アリスを自身の背後に移動させるとシールドを構えて突進し、強烈な体当たりで巨体を吹き飛ばした。
「教授、レムはどうなっちゃったの?私達の友達だったじゃん!」
「モモイ、おそらく彼は私を倒すために送り込まれたのだろう。私と接触した瞬間に戦闘ロボットとして覚醒するようにプログラムされていたかもしれん」
「それって、元に戻らないということですか?」
「それは分からんよ、ミドリ。だが、今までの人格が残っている可能性は限りなく低いだろう。彼の任務には必要のないものだからね」
レムは当初、記憶のない状態で何者かによって送り込まれた。ゲーム開発部が拾ったのは単なる偶然だろうが、謎のロボットが現れれば必ずグレイは呼ばれる。
調査のために訪れたグレイと対面した瞬間、隠されていた破壊工作ロボット〈オメガ〉としての人格が覚醒し、襲いかかるようにプログラムされていたのだ。
すぐにゲーム開発部がグレイに知らせていれば、彼女達からレムに対して情が湧く前に始末できていた可能性があり、今は最悪のタイミングで覚醒してしまったのだった。
『排除……排除……排除……』
「皆、許せ。このまま彼を放置していれば自治区に被害が出てしまう。その前に私が破壊する」
吹き飛ばされたレム……ではなくオメガが立ち上がり、グレイの方へと向かってきている。ゲーム開発部が隠れたのを見てから、グレイはオメガと対峙した。
『ターゲットロックオン、発射』
再び放たれる破壊光線。グレイは上半身を振り回すようにして姿勢を低くし、回避すると地面を蹴ってスタートダッシュを切る。
『破壊……』
『フラッシュシフト、オンライン』
長く伸び、突き出された腕による殴打。衝撃波を発する程の速度で放たれたそれを、光を纏った高速移動で回避する。
「ぬんっ!」
オメガの背後に回り込んだグレイは、渾身の力を込めて槍を横薙ぎに振り回し、太い胴体に叩きつける。
大きくしなった槍の威力は凄まじいものだ。人間サイズでさえ鎧を凹ませるのだから、グレイの扱う槍のサイズに彼の膂力が加われば戦車くらいは簡単に叩き潰せるのだが……
「まるで重戦車……いや、要塞ではないか」
しかし、オメガの装甲を凹ませるにも至らない。相当に堅牢な装甲が装備されているのだろう。
「どうやら、私のことを研究して作られたらしい。やはり、カイザーかゲマトリアの差し金か……」
グレイのことを脅威に感じている連中は少なくない。オメガの性能もそうだが、送り込み方からしてグレイのことをかなり研究しているのは間違いない。
その後も振るわれる腕を槍で弾き続け、ビームを避けて反撃を加えていくが、槍では彼に大したダメージを与えることはできなかった。
「私を倒すためだけに生徒を巻き込むとは、なんと卑劣な……決して許しはせんぞ」
グレイの脳内に沸き出るのは怒りのみ。真正面から堂々と送り込んでくるのなら構わないが、今回の場合はその過程に生徒を巻き込んだのだ。許せるはずがない。
「これを食らうがいい」
『ウェイブビーム、オンライン』
ビームマシンガンを取り出し、ビームの種類を変更する。これはウェイブビームといい、高電圧の電気エネルギーを集束させ、指向性を持たせて発射するビームだ、
グレイはウェイブビームを最大チャージしてから放つ。電撃を纏った波打つ紫色のビームが発射され、オメガに着弾する。
『ガ、ガガガガガァッ!?』
高電圧の電気エネルギーが流れ込み、オメガは感電してしまう。内部の回路がイカれたのか、両手足があらぬ方向へと動き回っている。
ウェイブビームは終わらない。グレイは容赦なくトリガーを引いて電気エネルギーを流し込み続け、完全にショートさせようとする。
『ガガガッ……破壊……目標、破壊……ガガガ、ガガッ……排除……排除……』
ついに膝を着いたオメガは、這いずりながらもグレイへと向かってくる。機能の多くが停止しながらも任務を続けようという意志には感心するが、すぐにでも倒れてほしい。
このままいけば、自身の元へと辿り着く前に機能が停止するのは一目瞭然だ。グレイはウェイブビームの照射を続けるが……
『ガガッ……ア、アリス……モモイ……ガガガッ……ミドリ……ユ、ユズ……ガガッ、ボクの……タ、タイセツな……トモダチ……』
突然、オメガの話す言葉が変わる。それも、これまでのような物騒な言葉ではなく、ゲーム開発部のメンバーの名を呟いている。カメラアイも片方だけ黄色に戻っているのが見える。グレイは攻撃を止めた。
「まさか、レムとしての記憶が残っているとでもいうのかね?アリス、彼の記憶に強く残っているものはあるか?」
「えっと……あ、光の剣なら!」
アリスは初めて会ったレムを助けるため、レールガンを放ってスケバンを蹴散らしている。それならば、彼のメモリーを刺激できると思ったのだ。
「ひ、光よ!」
アリスのスーパーノヴァから閃光が放たれ、オメガの目の前を通過する。そして、彼はそれを放ったアリスの方を見た。
「ガガッ……ハッ!? ア、アリス……? ぼ、僕はなんてことを……」
「「「「レム!!」」」」
四人は喜んでレムの元へと駆け寄っていく。どうやら、レールガンより発射された閃光が、彼の深層に隠されたレムとしての人格を呼び覚ましたらしい。
「もう、一時はどうなることかと思ったよ!」
「でも、良かった。最後にはこうして戻ってきてくれたから……」
「わ、私も……う、嬉しい……です」
「これでまたアリス達は友達ですね!」
喜びを顕にする四人。グレイはその姿を見守っていたのだが、レムからあることが告げられる。
「アリス……僕には任務が失敗すると自爆するプログラムが入っているんだ。ガガッ……ぼ、僕は君達を傷つけたくない……ガガガッ……だから、僕のコアを破壊してほしい」
すると、胸部の装甲が開いてビーム砲が出現し、さらにそれすらも開くと心臓のような機械が出現する。ご丁寧に自爆カウントも表示されており、残りは一分といったところだ。
「そんな、せっかく仲良くなれたのに!教授、どうにかならないの?」
「スキャンしたところ、彼のコアと自爆装置は完全に一体化している。コアを破壊しなければ、自爆は止められないだろう。こればかりは、私にも……」
「お姉ちゃん……レムは私達に壊されることを望んでる。でも、私達には……」
「ううっ、どうして……どうして……」
「アリスには、アリスにはできません……!」
「お願い……アリス、君にしか頼めないんだ。爆発して死ぬよりはずっといい……」
「アリスは……アリスは……」
カウントは残り三十秒。手が震えながらもレールガンを構えてコアに向け、チャージしているが狙いはブレブレで動揺を隠せていない。
まさか、こんなことになるなんて想定外だった。新しい友達ができたというのに、自分の手で破壊することになったのだ。その引き金は、子供には重すぎた。
アリスが迷っている間にも、カウントは刻一刻と減り続けている。
10……
9……
8……
7……
6……
5……
4……
3……
「ひ、光よ!」
そして、レムのコアは破壊された。
「アリスは結局、撃てませんでした……」
「アリスよ、君がいくら怪力の持ち主とはいえ、その引き金は君には重すぎる……仲間の命を奪うようなことなど、ない方がよいのだ」
最終的に、レムのコアを破壊したのはグレイだった。アリスは自爆のカウントが終了する間際になって撃つことを拒否してしまい、側に控えていたグレイが槍の一撃でコアを貫いたのだ。
「ねえ、教授。レムのことは直せるの?」
「ちょっと、お姉ちゃん?」
モモイが突拍子もないことを言ってくる。だが、彼を直せないことはないだろう。自爆していないので機体は残っているし、グレイはロボットに強いので問題はない。
「直せるさ。君達の大切な友人なんだ、大切に預かって直してみせよう」
「ま、また、レムと遊べるようになるんですね」
「だが、彼の記憶が残っていることは保障できない。調査しないと分からんが、メモリーが消えている可能性もある」
「だったら、アリス達はもう一度レムと友達になるだけです!」
「そうだよ、レムじゃなくなっても私達からしたらレムなんだし、本当の意味で友達になればいいんだよ!」
「そうだね、お姉ちゃん」
「わ、私はレムともっとお話がしたいです。ゲームのこととか、もっと教えてあげたい……です」
かくして、ロボット騒動は表沙汰になる前に幕を下ろした。ゲーム開発部はかなりショックを受けたようだが、未来への希望はある。きっと、今後起こるであろう出来事も、彼女達なら乗り越えられるだろう。
(アリスもいつか、ああなってしまうのでしょうか……自分の意思とは関係なく暴れて、友達を傷付けてしまうのでしょうか……)
しかし、底知れぬ不安を抱えた生徒が一人。いつか、その不安は牙を剥く。自分の運命と向き合い、闘う時が来るだろう。
なお、アリスとゲーム開発部には次回から更なる試練が襲い掛かります