ある日、ヴェリタスのマキからモモトークにメッセージが来ていた。
『ねえ、教授。廃墟で面白そうなものを発見したんだけど、ヴェリタスの部室まで来てくれない?』
メッセージと共に送られてきたのは、一枚の画像。開いてみると、奇妙な外観のロボットが映し出されていた。
「これは……リオの言っていた……トキ!」
「はい、ここに。ムシャムシャ」
スナック菓子の袋を片手に持ち、現在進行形で口に放りこんでいたトキが現れる。
「ええ、たしかにDivi:Sionです」
二人で画像を見て、そのロボットの正体が要注意対象であるDivi:Sionの一体だということを確認する。
単純にヴェリタスによって回収されただけなら問題ないが、彼女達はゲーム開発部と仲がいい。アリスとの接触の可能性は高いため、早急に破壊する必要があるだろう。
そして、メッセージには続きがあった。
『あ、そうだ。実は先生とゲーム開発部も呼んでるんだ。きっと、教授が来てくれたら喜ぶよ!』
アリスとの接触は時間の問題だ。何らかの拍子に彼女がDivi:Sionに触れてしまえば、大惨事を引き起こすだろう。
「私は急ぎヴェリタスの部室へと向かう。トキ、そなたはリオに連絡を……そして、臨戦体勢で待機するのだ。アビ・エシュフの使用も許可する」
「イエス、マイロード」
グレイはパワードスーツを装着し、ヴェリタスの部室を目指してミレニアムの市街地を駆ける。ビルをよじ登り、連なっている屋上を乗り継ぐことで時間短縮もしていく。
やがて、ヴェリタスの部室が入っている建物が見えてくるが……
ドガァァァァンッ!!!
突然、そのビルの一角から爆発が発生し、爆風と共に外壁などの破片が四方八方に散らばる。
「くっ、遅かったか……!!」
現場へと駆けつけたグレイはそれを目撃した。瓦礫の山へと変貌したヴェリタスの部室だったものに、その場に立ち尽くすゲーム開発部の“二人”とヴェリタスの生徒達とシャーレの先生。そして、いつもは水色の眼球型カメラアイが赤く発光している様子の変なアリス。その周囲を固めている、五体の異形のメカ達だ。
見れば、アリスはレールガンを先生達に向けて構え、エネルギーのチャージを開始している。シッテムの箱によるバリアやパワードスーツはあるが、最大威力のレールガンを受けて無事ではいられないだろう。
グレイは駆け出す。フラッシュシフトを連続使用して素早くアリスとの距離を詰め、勢いのままレールガンの砲身へと前蹴りを放ち、砲撃を逸らした。
「アリス、目を覚ますのだ!」
アリスは名もなき神々の王女として覚醒してしまったのだろう。しかし、それでもグレイはアリスが元に戻る可能性を信じていた。だが……
「妨害要素を排除します」
アリスがレールガンを向けてきたので、グレイは危険な武器を取り上げようとレールガンを掴むのだが、人智を越えた腕力でそのまま振り回され、吹っ飛ぶ結果となった。
「なにっ!?」
空中へと投げ出されたグレイは地面に叩きつけられることなく、受け身を取って安全に着地する。
「アリス、そなたを止めてみせる」
「エネルギー充填開始…………」
時は数分前に遡る。ゲーム開発部の四人と先生はヴェリタスの部室に通され、発見したというロボットを一緒に見ていた。
そのロボットは球状であり、触手のようなものが何本も生えている。ビジュアルはまるで深海魚のようだった。
それにアリスは接近すると、じっくりと至近距離で観察する。しばらくの間、何かを考えているような様子だ。
「どう、先生?何か分かったりする?」
「うーん、私には分からないな……こういったものは専門ではないし、教授に聞いた方がいいかもしれない」
モモイが先生に聞いてみるが、当然ながらロボットの正体など分からない。
「やっぱり、教授か部長に聞いた方がいいよねぇ……教授なら解析してくれそうだし、部長はオカルトとかに詳しいみたいだし……一応、教授は呼んであるから来てくれると思うけれど……」
招待した張本人であるマキも先生では分からないだろうと察していたようだ。早急にヒマリかグレイに見てもらうべきだと考えた時だった。
「……あ」
ふと、アリスが呟く。まるで何か思い出したかのような一言に、モモイが反応する。
「どしたの?何かあった?」
「アリス…………見たことあります」
意味深な発言をしたアリスに全員が注目した直後、変化が起こる。うんともすんとも言わなかった謎のロボットが振動を発し、モノアイに妖しい赤い光が灯る。
「え?何!?電源入った!?」
「え?なになに?」
モモイとマキによって騒がしくなり、急に起動したロボットに意識を持っていかれる。アリスの発言よりもロボットが起動したことの方が衝撃的で、アリスのことを見ていない。
ただ、一人を除いて……
「ま、待って……アリスちゃんの様子が……おかしい」
それはユズだった。目の前のアリスは目を閉じたまま、微動だにしていない。まるで、ゲームソフトを入れた後にソフトを起動している最中のように。その異様な様子に、全員が怪訝な表情を浮かべている。
そして、アリスの中で何かが蠢く。
〈私の大切な………〉
「…………起動開始」
突然、アリスが呟くと同時に他の個体も一斉に起動し、五体全てが浮游する。
「わわっ!何で急に動くの!?」
全ての個体が動き出したことに驚くマキだが、理解不能な出来事を上塗りするように更なる理解不能がやってくる。
〈私の大切な………よ〉
やがて、時は来た。
「……コードネーム〈AL-1S〉起動完了」
アリスは開眼する。その目は謎のロボットと同じように赤く輝き、今までの彼女とは全く別の雰囲気を放っていた。そして、アリス改めAL-1Sは宣言する。
「プロトロルATRAHASISを実行します」
アリスがレールガンを構え、ロボット達が彼女の命令でヴェリタスの部室をビームで攻撃して火の海に変えた。そして、レールガン発射の衝撃で部室が崩壊し、今に至るわけだ。
「射撃準備完了、発……」
AL-1Sはグレイに向けてレールガンのトリガーを引こうとする。が、彼方より飛来した一発の銃弾が直撃したことでキャンセルされる。
『教授、援護します』
「間に合ったか、トキ」
付近のビルの屋上を見ると、そこには濃紺のパワードスーツである〈アビ・エシュフ〉を纏ったトキの姿がある。
その手に抱えられているのは、試作型の個人携行用レールガンだ。これまで、個人で扱えるサイズではなかったレールガンを、リオが狙撃銃サイズまで縮小したものである。
「新たな脅威を確認。優先的に排除」
ビルの屋上にいるトキに対してレールガンによる砲撃が飛ぶ。ビルの最上階に大きな被害が出てしまったが、彼女は飛び下りて無事だった。
地面へと降下するトキに対して、AL-1Sは五体の戦闘ロボットを差し向ける。ビームによる対空射撃が何発も迫るが……
「アームギア、装着」
トキは身を翻してビームを回避しながら降下し、アームギアを右腕に装着する。そのまま、自由落下の勢いを乗せた一撃でロボットの丸いボディを叩き潰した。
「戦闘開始」
ロボットの残骸の上にいるトキに対してビームが飛んでくるが、彼女は跳躍して回避すると宙返りしつつ他の機体へと飛び移り、至近距離から最大威力のリパルサーレイを照射して撃破する。
機動力を活かして敵に飛び乗る戦法で、トキは立て続けにロボットを撃破する。彼女は知らないが、これはサムス・アランが実際に行っていた戦法であった。
「これで最後です」
トキはロボットの懐に飛び込み、レールガンの銃口をそのボディに押し付ける。瞬時にエネルギーチャージが完了し、タングステンの徹甲弾が装甲を食い破った。
「アリス、許せ」
AL-1Sが砲撃をトキに放った直後、グレイはその隙を突いて大槍を叩きつけていた。グレイが生徒に対して攻撃するのはこれが初めてだ。生徒に対して決して攻撃しない彼だが、これはやむを得ない事態だった。
「対処します」
だが、彼女はレールガンの長くて重い砲身を長柄武器として扱い、グレイの一撃を受け止めてしまう。そのまま、彼女はレールガンを連続で振るって白兵戦を開始した。
(なんと、白兵戦に対応するとは……)
AL-1Sの腕力は凄まじいものだ。白兵戦の技術はあまり高いと言えるものではないが、純粋なパワーによって穴埋めされている。もしも技術が伴っていれば、グレイは負けていただろう。
レールガンと槍がぶつかり合い、その度に衝撃波が発生する中、その側面から突っ込んでくる濃紺の人影があった。
「側面がお留守です」
それはアームギアを装備したトキだ。背部のスラスターを吹かして加速し、鉄拳をAL-1Sの頬にクリーンヒットさせる。
彼女は横方向に吹き飛ばされ、最大の凶器であるレールガンを手放してしまう。後は無力化するのみである。
(ここは、ウェイブビームで……)
一応、現時点でグレイのビームマシンガンには最強のプラズマビームも搭載しているが、まだアリスが元に戻る可能性もあるため、あまり使いたくなかった。
『ウェイブビーム、オンライン』
「すまない……」
彼女にウェイブビームが着弾する。それを受けてもなお、立ち上がろうとしてきたので、そのまま撃ち続ける。端から見れば何とも酷い仕打ちなのだが、グレイは心を鬼にしてトリガーを引いていた。
やがて、高圧電流を流し続けられたAL-1Sは気絶する。戦闘ロボットも全てが破壊され、この事態は一旦落ち着いた。が……
「先生よ、無事かね?」
「ええ、教授のおかげで。ですが……」
グレイはシャーレの先生と同じ方向を見る。そこにいたのは、泣きそうなミドリと顔が青ざめたユズ、そして意識を失って横たわるモモイであった。
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが……!」
「あ、ああ、も、モモイ……」
どうやら、モモイは最初の攻撃の際にレールガンの砲弾が掠り、衝撃波と瓦礫の破片を受けて怪我を負ったらしい。
この日、最悪の事態が起こってしまった。