あれから二日後、ミレニアム郊外の放棄された鉄道基地にグレイ達とアリスは来ていた。護衛のC&Cとエイミも集結済みであり、戦いに備えて弾薬も運び込まれている。
リオやヒマリ、トキは既に現地入りしており、アリスから例の人格を分離する機械の最終調整をMBと共に行っている最中だ。
出発の時が近付く中、アリスの表情は実に浮かないものだった。
「教授……アリスは怖いです。また、あのようになってしまったら……」
「アリスよ、そなたのことは必ず助ける」
「そういうことだ。チビのことはあたし達がしっかり守ってやるよ」
「チビメイド先輩……!!」
「あぁ!?何がチビだ?ちょっと面貸せや」
「うわーん!ネル先輩こそ魔王だったみたいです!!長老、助けてくださーい!」
「はっはっはっ!チビ魔王ネルよ、この勇者を許してやりなさい」
「あ、おい!教授まで!?……たく、しゃあねえなぁ……」
その光景を見て皆が笑った。夜天の闇に笑い声が響き渡り、どこかピリピリとしていた空気が和らぐ。アリスの表情も笑顔に変わった。
「後は、先生が来るのを待つだけか……」
やがて、一行の元に接近してくる人影があった。数は三つであり、そのうちの二つは小柄だ。そして、闇の中から現れたのは先生とミドリ、ユズだった。
「すいません、教授。遅れました」
「先生よ、よく来てくれた。ところで、ミドリとユズも付いてきているようだが……」
「あぁ、それは……」
本来の計画ではミドリとユズが同行する予定など無かった。激しい戦闘が起こることが予想されていたため、一般人に近い二人を危険な目に遭わせないためだ。
「あ、アリスの側にいてあげたい……です。大切な友達なので……」
「アリスちゃんが大変なのに、私達だけ安全地帯にいられないですから」
「ユズ、ミドリ……」
二人は危険を顧みず、友達のために同行することを選択していた。仮に拒否されても、シャーレの先生の指揮下に入ることで強行突破するつもりなのだろう。
「教授、二人の同行をどうか許可していただけませんか?」
「いいだろう。アリスよ、本当にそなたは良い友を持ったな……」
「はい!アリス、嬉しいです!」
なお、グレイとしては二人を戦闘に参加させるつもりはない。あくまでも処置を行っている間の付き添いくらいだ。
「それじゃ、時間だから行こっか」
そして、エイミが出発の時間を告げる。一行は一両の貨物列車に乗り込み、要塞都市エリドゥに向かった。
「お待ちしておりました、教授、先生」
放棄された地下鉄駅のホームで一行を待っていたのは、大柄な機体のアンドロイドであった。広い肩幅と長く太い手足が特徴的で、頭部は無骨で赤く輝くモノアイを備えている。
「MB、首尾は?」
「ええ、問題ありません。設計通りのパフォーマンスを発揮できるでしょう」
その正体はMBの戦闘用ボディだ。グレイは彼女の生徒達と共に歩きたいという要望に応えてこれを開発していた。
「なあ、先生。こいつは最高に……」
「うん。か、カッコいい……!」
MBの戦闘用ボディを見て、ネルと先生はテンションが上がっている。反応は完全に男子小学生だ。
「褒めていただけて光栄です。当機体は固定武装として多連装小型ミサイルポッドや個人用防御フィールド発生装置を装備。格闘戦に加え、人類用の銃火器や機関砲の使用が可能となっています。また……」
「MB、嬉しいのは分かるが彼らの案内を頼めるかね?」
「あぁ、申し訳ありません。C&Cの皆様方は私に付いてきてください。タワー周辺で戦闘配置についていただきます」
MBは機械なのだが知的生命体のような感情を獲得している。あのマザーブレインと同様の進化を遂げているといってもいいだろう。
「頑張れよ、チビ」
「はい、ネル先輩!」
ネル達はMBと共にエリドゥの防衛のために移動していく。なお、MBの戦闘用ボディを気に入ったネルは、その肩に飛び乗っていた。
「皆、付いてくるのだ」
そして、グレイの案内でアリス達はエリドゥ中枢に存在する超高層タワーに移動する。エレベーターでしばらく上昇を続けた後、最上階で扉が開いた。
「来たわね……教授、先生」
多くのディスプレイで一面の壁が覆い尽くされた薄暗い部屋で待っていたのは、リオとヒマリ、トキだった。
「リオよ、MBから話は聞いている。装置の準備は出来たそうだな」
「ええ、そうよ。ヒマリの協力があったおかげね」
「まさか、貴女に褒められるとは思いませんでした。ええ、この天才美少女ハッカーこそが立役者です」
「相変わらず部長は平常運転だね」
いつも通りの挙動をするヒマリに向けられたのは、エイミのジト目だ。その表情からは少しばかりの呆れが感じ取れた。
「ええと、君がヒマリでいいかい?教授から話は聞いていたけれど、本当に面白い子だね」
「はじめまして、シャーレの先生。この私こそがミレニアムの清楚な高嶺の花である超天才病弱ハッカーにして、清らかな水のような超天才美少女、明星ヒマリです」
「ず、随分と長い肩書だね……」
先生とヒマリが会うのはこれが初めてだ。彼女の独自性のあるノリに付いていけず、どこかドン引きしていた。
「トキよ……二人の護衛任務、ご苦労であった。今回、場合によってはC&Cとの合流もあり得るだろう」
「先輩方に遅れを取るつもりはありません。私、超最強美少女メイドですので」
「そなたは頼もしいな」
暫しの会話をした後、アリスに処置を行う時間がやって来た。ここにいる全員の目線が部屋の中央にあるベッドのような機械に向けられる。
「アリス、ここに寝てもらってもいいかね?」
「はい、分かりました!」
アリスが機械に入ると両手両足がロックされる。もしも例の人格が覚醒して暴れてしまった場合の備えである。
「うう……アリス、緊張してきました……」
「アリスちゃん、私達もついてるよ」
「が、頑張って……」
さらに、頭を挟むようにしてヘッドフォンのような装置が出現する。アリスは目を瞑り、処置が始まる時を待った。その時だった……
『こちら、コールサイン00……この前の敵さんが来やがったぜ!』
『見て見て!どっちを向いても敵がいるよ?』
『ふふっ、これは爆破しがいがありますね』
『……一匹も通さない』
『エリドゥ内にDivi:Sionの発生を確認。中央タワーに向かっているものと思われます』
MBにより、すぐさまディスプレイに都市内部の映像が映し出される。そこには数日前に交戦した異形の機械達が虚空より出現し、一点を目指して進撃している様子が確認できた。その狙いはただ一つ、アリスだろう。
「ついに来たか……トキよ、C&Cに加勢してくれるかね?全武装の無制限使用を許可しよう」
「イエス、マイロード」
トキは一礼すると濃紺のコアスーツを展開する。エレベーターに乗ることはなく、そのまま外に飛び出して地上へと降下していき、その後を何やら大きな物体が追いかけていった。
「時間はあまり残されていないようね。ヒマリ、教授、処置を始めましょう」
「そうだな。MB、戦闘用ボディの操作と同時になってしまうが、問題はないか?」
『問題ありません。私のリソースは十分に確保されていますので』
「そうか、なら良かった。これより、アリス安全化計画を開始する!」
こうして、多くの敵が迫る中で計画は始動する。アリスの安全化計画及びエリドゥ防衛戦の幕開けであった。
MBの戦闘用ボディの元ネタはプライム4のあれです