チョウゾ・アーカイブ   作:ウエストモール

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パヴァーヌ編ラストです。後日談も投稿していきたい所存


冒険は続く

「なんだ?奴ら、いきなり消えちまった……」

 

 それは唐突だった。先程まで交戦していたはずのDivi:Sionの軍勢が忽然と姿を消したのだ。隠れたというレベルではなく、空気に溶け込むように、元よりそこに存在しなかったかのように……

 

『こちら、ファルコン1。要塞都市内に敵の姿は見えない。完全に消えたようだ』

 

『セイレーン隊、敵影確認できず』

 

『アルファチームも同様だ。敵影なし』

 

『エリドゥ内の監視システムに接続……確認しました、オールクリアです』

 

 実は何処かに隠れているのではないかと警戒する彼女らだが、複数の目によりDivi:Sionの軍勢がエリドゥ内に存在しないことが証明された。

 

「どうやら、先生達がやってくれたようだね」

 

 そこに、別方向で中央タワーを守っていたグレイが合流する。信頼できる大人によって安心した生徒達は、戦いに勝利したことを実感できた。

 

「そうか、あのチビが帰ってきたのか……はっ、ここまで戦い抜いてきた甲斐があるってもんだぜ」

 

「ネルよ、かなりボロボロではないか」

 

「リーダー、結構無茶してたよね」

 

 超接近戦を仕掛けていたネルはボロボロだった。あちらこちらに擦り傷があり、メイド服には破れている箇所がある。額からは血も出ていた。グレイはそんな彼女の頭を撫でてやった。

 

「そうか、頑張ってくれたのだな。偉いぞ」

 

「おいバカやめろ!?恥ずかしいだろ!?」

 

 ネルは抵抗するが、そのナデナデにアスナ達も加わったことで揉みくちゃにされ、されるがままにされるのであった。

 

「教授、私にもナデナデしてください」

 

 すると、重い足音と共に武装モジュールを展開したトキがやって来る。彼女はモジュールから降りると、ナデナデを要求してきた。

 

「あぁ。戦線を支えられたのはそなたのおかげだ。流石はパーフェクトメイドだな」

 

「はい、トキちゃんは完璧で最強ですから」

 

「教授、トキに構っているのはいいけど、アリスのところに行ってあげたら?警戒はしておくから」

 

「そうだな、エイミ。あぁ……オデュッセイア保安部の皆も、よく来てくれた。後は我々のみで対応する。ツバサによろしく言っておいてくれ」

 

『貴方を手助けできたこと、光栄でした。これより、セイレーン隊は帰投します』

 

 上空で警戒してくれていた数機のハリアーⅡがミレニアム近海方面へと消えていく。停泊中の母艦へと戻るのだろう。

 

 そして、グレイは中央タワーへと戻ってくる。エレベーターが最上階に達してドアが開くと、飛び込んでくる者がいた。

 

「長老!」

 

「アリスよ!よく戻ってきた!」

 

 それはアリスだった。すでに彼女は意識を取り戻しており、〈名も無き神々の王女〉ではなくミレニアムの一年生である〈天童アリス〉になっていた。

 

「モモイにミドリ、ユズ、先生のおかげです!アリス、魔王からジョブチェンジして勇者になりました!」

 

「魔王から勇者に……そうか、そなたは自身に課せられた運命を覆すことができたのだね……」

 

 メトロイドと同じく、アリスの力は善にも悪にもなり得る。だが、彼女には自分の行く末を決める権利がある。それが単なる兵器に過ぎないメトロイドとの決定的な違いだろう。

 

「そなたは自らの力の使い方を決められる。誰かに強制されることなく、運命はその手の中にある。故に、そなたは破壊兵器ではない……ただ一人の人間なのだ」

 

「アリスも人間……分かりました、今日から私の種族は人間ですね!」

 

「アリス、そなたを待っている者達が多くいる。地上に行って、顔を出してくるのはどうかね?」

 

「そうでした!アリス、ネル先輩に会ってきます!」

 

 そう言って、アリスはゲーム開発部の仲間達と共にエレベーターへ飛び込む。その扉が閉まるのを見届けた後、グレイは室内に残る者達に目を向けた。

 

「先生よ、よくやってくれた」

 

「いえ、私は何も。ただ、アリスの背中を押してあげただけです。あの子達の友情と、モモイの勢いがなければ、あれは成り立ちませんでした」

 

 先生は謙遜する。そもそも、アリスの帰還は彼女達の友情と、先生の後押しの両方があってこそだ。彼の存在は必要不可欠である。

 

「友情……合理的ではないけれど、それが今回の事件を解決する鍵になるなんて……これは計算外だったわ」

 

「リオ、友情は時として想定以上の力を生み出すものだ。理解し難いだろうがね」

 

「まあ、リオでは理解は難しいでしょうね。一応、私は貴女のことは友人だと思ってますよ。ええ、多少の気に入らないことはありますけど」

 

「でも、嫌いではないのだろう?」

 

「ええ。同レベルの会話ができる数少ない相手ですし、似た者同士でもありますから」

 

「ヒマリ……」

 

「勘違いしないでくださいね。あくまで嫌いではないだけですから」

 

 何やかんやでヒマリとリオは仲が良い。グレイという頼れる大人が現れた結果でもあり、二人はこれからもキヴォトスを終焉から守るために奔走するのだろう。

 

「先生よ、これから先は何が待っているか分からない。また別の要因でキヴォトスの終焉が近づく可能性もあるだろう。その時はまた、協力してもらえるかね?」

 

「勿論です。生徒達のためなら、何処までもご一緒……いや、冒険しますよ」

 

「冒険か……あぁ、アリスの……ゲーム開発部の冒険が続くように、我々も日々冒険だな」

 

 やがて、朝日が地平線の彼方から顔を出す。それはまるで、破壊兵器ではなく一人の人間として旅に出るアリスの船出を祝福しているかのように思えた。

 

………彼らの冒険は続く。

 

 

 

 

 

 それは、翌日のこと。リオはグレイを伴ってセミナーの二人に改めて事情の説明を行い、最後に謝罪をすると頭を深く下げた。

 

「セミナーの資金を横領し、勝手に使ってしまったこと……本当に申し訳なかったわ」

 

「会長……例の都市が必要だったことは理解しましたし、備えたい気持ちはよく分かりました」

 

「できれば、キヴォトスの終焉なんてものを一人で抱え込まず、私達にも相談していただけたら良かったのですが……」

 

「まあ、教授がおっしゃられた通りに事情が事情でしたし、コユキによるものも含めた損失分は私のポケットマネーで何とかなったので特に罰することはしません」

 

 ユウカは株や投資を普段からしており、資産運用による利益が存在していた。たまたま大きな利益を出せたため、予算上では問題ない状態である。グレイの弁護もあり、リオは許されることになったのだ。

 

「ユウカ、ノア、それについてなのだけど、横領と混乱を招いた責任をとって、セミナーの会長の座から降りさせてもらうわ」

 

 そう言ってリオがユウカに渡したのは辞表と大きく書かれた封筒だった。

 

「会長、これは?」

 

「何って、辞表だけれど……」

 

 リオは確かに許された。しかし、彼女自身はそうはいかない。キヴォトスの終焉に備えるという大義名分があるとはいえ横領という犯罪行為に及んでしまったことに罪悪感があり、自ら罰することにしたのだ。

 

「会長、本当に辞めるんですか?」

 

「当然よ。どのような事情があろうと資金を横領したことは事実。会長の席に座る権利はないわ」

 

 ユウカは少し考えた後、行動を起こす。それは、渡された辞表をビリビリに千切って捨ててしまうという行動だった。その行動にリオは一瞬面食らってしまった。

 

「ユウカ、何をして……!?」

 

「私は何も聞いていないですし、何も受け取りませんでした。会長、貴女には横領の責任をとって最後までセミナーの会長として勤め上げてもらいますから。逃げるなんて許しませんよ、いいですね?」

 

 リオは責任をとって会長を辞めようとした。しかし、そんな彼女に突き付けられたものは責任をとって最後まで会長でいるという、ある意味の罰であった。

 

「ありがとう、ユウカ、ノア……」

 

「良かったな、リオよ」

 

 

 その帰り道、二人はトキに出会った。

 

「リオ様、もしかしてクビになりましたか?」

 

「いえ、むしろ逆よ。罰として会長を続けることになったわ。トキ、C&Cの皆とはどうかしら?」

 

 トキは正式にC&Cの一員として数えられるようになり、秘密のエージェントではなくなったことでC&Cのメンバーと行動を共にすることが増えた。

 

 彼女は今後、C&Cの作戦行動に関与するだけではなく、危険地帯へグレイが赴く際の護衛という任務を遂行する。また、特異現象捜査部の活動にも参加することが決まった。

 

「先輩方には良くしてもらっています。やはり、仲間がいるというのは嬉しいものです」

 

「そう……貴女には迷惑をかけたわね」

 

「リオ様、そんなことはありません。強いて言うならば、生活能力が底辺レベルなリオ様の世話をするのが大変でした。今の生活は大丈夫ですか?」

 

「そ、それは……教授の作ったロボットが世話してくれているから……」

 

 リオはしどろもどろになる。紛れもなく全くその通りである事実に、彼女は言葉を失った。

 

「トキ、これでもリオは生活能力の向上に努めておる。どうか、暖かく見守ってやりなさい」

 

「分かりました、マイロード」

 

 最近のリオは自炊にも挑戦している。なお、包丁で指を切ったり、レシピにない勝手なアレンジをして失敗したり、ひっくり返したパンケーキが顔面に直撃するなど、前途多難である。

 

「リオ様、教授、もしよろしければ、これから柴関ラーメンでもいかがですか?丁度、屋台がミレニアムにも来ているそうです」

 

「おお、柴関ラーメンか。久しぶりに柴大将に挨拶しようと思っていたところだ。リオ、そなたのことも彼に紹介させてもらうよ。大切な生徒の一人としてね」

 

「教授……大切な生徒だなんて……」

 

 リオはこれからもセミナーの会長として、ミレニアムやキヴォトスのために働く。彼女の冒険もまた、終わることはなさそうだ。

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