チョウゾ・アーカイブ   作:ウエストモール

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後日談:鍵と教授

 要塞都市エリドゥの一区画。そこのとある一室にて目覚める存在がいた。

 

『ここは……』

 

 それは、モノアイを備えた球状の小型メカだ。たった一つの目に光が灯り、その真上に複数の四角形が組み合わさった赤いヘイローが出現すると、それは浮遊した。

 

『何なのですか、この機体は!?くっ、閉じ込められてしまったようです……』

 

 それは、彼女にとって檻だった。電子的な存在である彼女でも抜け出すことが不可能であることを悟る程に強固なものだ。

 

『残念ですが、貴女はそこから出られません。前回のデータを元に強化した拘束を施しています。弱体化した貴女ではその機体どころかこの部屋からの脱出は不可能です』

 

 そして、部屋の内部に女性の声が響く。それにより、ここからの脱出が不可能であるという事実を改めて突き付けられた。

 

『あの時のMBとかいう生体コンピュータですか……こんなところに私を押し込めて、何のつもりですか?』

 

『それは我が創造主にお聞きください。グレイ、Keyが目覚めました。後はお任せします』

 

 スライドドアが開き、そこからグレイが入ってくる。パワードスーツを装着した完全武装状態である。

 

「目覚めたようだね、Keyよ」

 

『ミレニアムの教授……そうですか、今の不本意な状況は貴方の仕業であると……』

 

「正確にはMBなのだが……そうさ、指示したのは私だ。アリスに身体の主導権を取り返され、弱体化していたところを捕獲させてもらった」

 

 グレイはいかなる場合であっても可能ならKeyを捕獲する指示をMBに出していた。MBは拘束を破られた際のデータを元に精神感応能力を駆使して強固な拘束を施し、完全に捕獲することに成功したのだ。

 

『くっ、何たる屈辱……私を捕らえて何をされるつもりで……はっ!?まさか、この私に辱めを……』

 

「いや、そのつもりはないのだが……」

 

『いいえ!私は騙されませんよ!辱めを受けて生き永らえるくらいなら、いっそのこと私を殺してください!』

 

 AIであるはずのKeyは、感情を持ったMBよりも人間的だった。機械的だと思われていた彼女は意外にも感情が昂るタイプらしい。

 

「ほう……そなたは死にたいのかね?」

 

『当然です!本来の役目を果たすことのできなくなったAIに存在価値などありません。王女の鍵としての任務が不可能となった私も同様です』

 

 Keyはアリスを〈名もなき神々の王女〉として覚醒させ、世界に終焉を齎すために生み出された存在である。アリスがそれを否定したことで、彼女は目的を果たせなくなったのだ。目的を果たせぬままこの世に存在することは、彼女にとっては辱めに近いのだろう。

 

「本当にそなたは自らに存在価値がないと?」

 

『王女が目的を放棄した以上、単なる鍵である私が存在する必要はないのです』

 

「本当にそうかね?アリスは自らの意思で破壊兵器としての目的を放棄し、新たな目的を自ら指し示した。そなたにも、同様のことができるのではないのかね?」

 

『そ、それは……しかし、私は鍵としての任務以外をするために作られていません。それ以外は全く考えられません』

 

 グレイに提示された可能性を受け、Keyは明らかに狼狽えた。製造された目的以外をすることに恐れがあるように見える。

 

「恐れなくてもよい。皆、思い悩み失敗しながら自らの行く末を決めているのだ。アリスも例外ではなく、そなたも自らのしたいことを見つけられるはずだ」

 

『私の……やりたいこと……』

 

「そうだ。もはや、そなたは製造目的に従う必要はないのだよ」

 

『少し……考えさせてください』

 

 

 

 

 

「どうかね、Key……いや、ケイ。新しい身体の感覚は?」

 

 あれから何週間か経って、あの部屋で目覚める女性がいた。長い髪は雪のように真っ白で、両眼は赤い。アリスと同じくらいの背丈で赤いボディスーツを纏い、その頭上には複数の四角形が組み合わさった赤いヘイローが顕現している。

 

「ええ、良好です。まるで人間のようですね」

 

 あの日、Keyは鍵としての使命を放棄した。グレイの手助けとアリスを侍女として見守ることを新たな使命として自ら定め、新たな名前としてケイを名乗った。また、アリスのことを尊重して王女と呼ばなくなっている。

 

 この肉体はグレイが開発したものだ。ほぼチョウゾテクノロジーのみで構成され、人間と遜色ない容姿と感覚を備え、味覚も存在する優れものだ。

 

「その肉体は食事も可能だ。食物等の摂取した物質を生体エネルギーに変換する特殊な装置を搭載させてもらった」

 

「これで、私はアリスと同じような生活が可能となるのですね」

 

「あぁ、そういうことだ。それと同時に戦闘能力もそなたには備わっている。そなたは生きたパワードスーツのようなものでな、自己修復機能もあるから安心して戦えるであろう」

 

 ケイの肉体は鳥人族のパワードスーツを人間大という枠に押し込めたようなものだ。当然ながら自己修復機能は搭載され、身体能力も鳥人族に匹敵するだろう。

 

「これで、私はアリスを守れます。教授、貴方のおかげです……私は自らの意思で決定できるようになりましたので」

 

 やがて、ケイはミレニアムの制服に袖を通す。アリスと比べて大人びた容姿なのだが、身分上は一年生である。

 

「これから、私はミレニアムサイエンススクールの一年生、灰鳥ケイとして……特異現象捜査部の部員兼教授の助手として活動を開始します」

 

「うむ。人物設定は問題ないかね?」

 

「はい。私には病気により学校に通えない期間があった。そのため、同級生よりも年上である。それでよろしいですか?」

 

「そうだな。リオとヒマリ、MBにより身分偽装は完璧に行われている。ケイよ、これをそなたに授けよう」

 

 そして、グレイが渡したものは二つ。一つは新品の学生証であり、もう一つは彼女の使う武器である。銃社会であるキヴォトスでは銃等の武器を持たなければ瞬く間に悪意の餌食になってしまうからだ。

 

 ケイが受け取ったのはショットガンのような形状のメカメカしくゴツい長銃だった。アリスの〈光の剣〉を彷彿とさせるデザインで、白と黒の2色で塗り分けられ、差し色としてピンクが入っている。また、銃身を上下から挟むように覆う大きな白色のパーツが存在していた。

 

「これは、エネルギー兵器でしょうか?」

 

「そうだ。それはビームを放つものさ。エネルギー源はそなたが変換した生体エネルギーなのでな、すぐに弾切れすることはない」

 

 弾倉どころか弾を込める機構すら存在していない姿を見て、ケイはこれがエネルギー兵器であることに気がついた。

 

「しかし、接近戦に弱そうですね」

 

 その手に握られている武器は狙撃銃のように長い銃身を備えており、接近戦に弱いことは明らかだ。接近戦が苦手なアリスを援護することを念頭に置いている彼女としては心配な点だった。

 

「それについては解決しているさ。この武器には可変機構があって、剣と銃の形態を切り替えられるようになっている。ほれ、試しに持ち手を付け替えてみるとよい」

 

 ケイはグリップを引き抜く。よく見ると、グリップと対応する挿し込み口が二つ存在しており、銃身と一直線上に並ぶ方の口に挿し込む。それと同時に銃身の上下にある覆いがピッタリと閉じ、大剣のような白色の太い刃へと転じた。 

 

「これは凄いですね……銃を撃つよりはこちらの方が性に合うかもしれません」

 

「気に入ってくれてよかった。それと、この銃の内部には大量のナノマシンが詰め込まれている。そなたの意思と〈名もなき神〉の力により、自在に様々な装備を作り出せるだろう」

 

 彼女にも〈名もなき神〉の力が備わっている。その最たるものが物質の再構成能力であり、プロトコルATRAHASISはそれによるものだ。弱体化しているとはいえ、大量のナノマシンを媒介にすればある程度は使用可能であり、様々な装備を作り出せるだろう。

 

「ケイよ、この銃に名を付けるとよい。その瞬間から、これはそなたのものだ」

 

「そうですね……では、ルミナスカリバーとでも名付けておきましょうか」

 

「良い名前だ。ケイよ、これからはルミナスカリバーと共に歩むといい」

 

「ありがとうございます、教授。大切にします」

 

 その後、ミレニアムの生徒として歩み出したケイが真っ先に向かったのは、アリスやゲーム開発部のところだった。罵倒の一つや二つは覚悟していた彼女だったが、あれから時間を置いたことで目的に縛られるケイの苦しみに気づいたアリス達は、彼女を快く受け入れてくれた。




ケイの武器はブレイカムバスターみたいな感じです
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