ケイの受難
「どういうことですか!?どうして、私が、メイド服など着なければならないのですかぁ!!」
そこは、ゲーム開発部の部室。ケイは何故かメイド服を着させられており、モモイとミドリ、ユズも同様の服装だ。ケイはこの不本意な状況に吠えていた。
「服装は統一する必要があるからね。でも、ケイちゃんによく似合っていると思うよ」
「誰がケイちゃんですか!?先生、貴方という大人を完全に認めたわけでないですからね!」
ケイは先生に関する悪い噂を聞いていた。生徒の足を舐めただの、ほぼ全裸で野原を駆け回っただの、生徒と混浴しただの、生徒に水着を着せているといった噂ばかり聞いたものだから、そんな奴にアリスを預けていいのかと親目線で考えているのだ。
「アリスもそう思います!そのメイド服、ケイにもよく似合ってます!アリス、ケイとお揃いになれて嬉しいです!」
「ありがとうございます、アリス」
(……アリスに褒められるなら、メイド服も悪くないかもしれませんね……しかし、元はと言えば、馬鹿モモイが……)
ケイはあの日のことを思い返す。全ての元凶たるモモイが面倒事を持ち込み、先生経由で教授にまで伝わって飛び火してきた最悪の日のことを。
ガキンッ!!
グレイのラボの地下にて、金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。そこにいるのはケイとパワードスーツを装備したトキであり、模擬戦をしているのだ。
ブレードモードのルミナスカリバーとアームギアが何度も激突し、激しく火花を散らす。その最中に放たれた回り蹴りをケイは飛び退いて躱した。
〈バスターモード〉
空中にてルミナスカリバーの持ち手を挿し替えれば、太い刀身が真っ二つに割れてバスターモードへと変わる。着地と同時にコンテナすら貫く単発ショットを三度、撃ち放った。
咄嗟にトキはアームギアを解除すると、パワードスーツの太もも部分から引き抜いた二挺のハンドガンに持ち替え、ショットを回避しながらビームを猛烈に連射する。
「くっ……」
ルミナスカリバーの銃身で銃撃を防ぐのだが、その隙にトキの接近を許してしまう。向けられたハンドガンの銃身に対して同様に銃身をぶつけて狙いを逸らし、銃口を彼女の腹部に突きつけた。
「やりますね、ケイ様」
「そちらこそ……」
なお、同時にケイの額にも銃口が突きつけられている。この模擬戦の結果は引き分けに終わった。
「二人とも、良い動きだったぞ」
そこに、模擬戦を見物していたグレイがやって来て二人を褒める。流れ弾対策でパワードスーツを纏っている状態だ。
「今日はこのくらいにしておこうか」
「そうですね、マイロード」
「トキ様、ご協力に感謝します」
すると、MBからこんな通達があった。
『グレイ、シャーレの先生がお見えになっています。いかが致しますか?』
「先生か……来る予定はなかったはずだが……取り敢えず話だけでも聞こう。MB、通してやってくれ」
『承知しました』
「トキ、ケイ、そなたらはどうする?」
「ご一緒します、マイロード」
「では、私も」
グレイはトキとケイを同行させ、待たせている先生の元へと向かう。そこで彼から聞かされたのは、耳を疑う話だった。
「つまり、モモイがネルと誤認され、C&Cとして依頼を受けることになってしまったと?」
「その通りです、教授。取り敢えず教授に相談するべきかと思いまして」
それは、モモイがゲームセンターに行った時の話だ。格ゲーで勝てるまで戦いを続けていたところ、急に〈リトルタイラント〉などという異名で呼ばれてしまう。
どうやら、それはネルが格ゲー界隈で呼ばれている異名らしく、彼女もまた勝てるまで戦いを続けていたことから、そのリトルタイラントだと思われてしまったのだ。
ゲームセンター内がざわつき、皆の口からその異名が口々に呟かれる中、モモイは一人のブルドッグの獣人に声をかけられる。
『私は銅田明太郎と申します。どうぞ、お気軽に明太郎とお呼びください』
『早速ですが、〈
そして、銅田明太郎と名乗った彼は〈リトルタイラント〉とC&Cに〈掃除〉の依頼をしたいのだと言う。モモイが否定する間もなく、彼は日時と場所だけ記した手紙だけ渡して足早に立ち去ってしまったのだとか。
「ふむ……しかし、C&Cに掃除の依頼というと……トキ?」
「C&Cにとっての掃除は本当の掃除の場合もございますが、大抵の場合は“戦闘”です。敵の排除という意味の物騒な掃除になります」
「だろうな……だが、一つだけ不可解な点がある。何故、彼は依頼を出すだけで話し合いの時間すら設けなかったのだろうね?そもそも、碌に本人確認すらしていない様子だ」
「たしかに、私もそう思いました。事を急ぎ過ぎていますし、重大な何かを隠している予感がします。ちなみに、ネル達は今?」
「先輩方は長期の任務に出ていますので、今回の依頼は難しいです。私ではネル先輩に代わりにはなれませんし、モモイが先輩だと思われている以上は……」
向こうは明確にモモイをネルだと認識しているのだ。彼女に依頼したはずが、全く別人が現れたとしたら不信感を抱くだろう。C&Cの今後のためにも、悪い噂が流れるのは避けておきたいものだ。
「こうなったら、モモイ達をC&Cとして送り込むしかないだろう。MB、依頼人の情報はあるかね?」
『はい。依頼人、銅田明太郎は美術商を営んでいます。コレクターから買い取った品を管理し、オークションを開催して再び流通させているようです』
「そうか。MB、彼の外部とのやり取りを洗い出してくれ。何か分かることがあるかもしれない」
『承知しました、グレイ』
「トキ、そなたはゲーム開発部が着るメイド服の調達を頼めるかね?」
「分かりました。たしか、ネル先輩のメイド服には予備がいくつかあったはずですので」
C&Cのメイドの中で、ゲーム開発部の面々と背格好が近いのはネルだ。身長が伸びたときのために少し大きなものも用意されていた。
「ケイ、そなたはゲーム開発部に同行するのだ。先生が引率してくれるとはいえ、アリスのことも心配だろう。それに、そなたなら違和感なく彼女らに溶け込めるはずだ」
最後に、グレイはケイをゲーム開発部に同行させることにした。彼女なら戦闘能力も申し分なく、彼女達をサポートできるだろうという判断だ。また、ケイの背格好ならば彼女達の一員として怪しまれないと思われた。
「分かりました、アリスのためです。是非、私に行かせてください」
(ふふっ、アリスのメイド服姿も見られるなら眼福ですね)
ケイはアリスのため、少しの下心がありながらもゲーム開発部に同行することを決意する。だが、その時の彼女は知らなかった。メイド服を着るのはゲーム開発部のみならず、自分もその対象に含まれていたということに。
(で、今に至ると……あの時の自分を殴りたいくらいです……)
『ケイ、ケイ、聞こえているかね?』
「はっ!?き、聞こえています、教授」
ケイが回想していたその時、耳のインカムにグレイからの通信が入ってきた。ケイは少しだけ反応が遅れてしまった。
『これからのことは、そなたの装着したボディカメラとマイクでモニターさせてもらう。銅田は確実に何かを隠している。それを解き明かすのが我らの任務だ』
ケイの任務は銅田の不正や犯罪を明らかにすることだ。そのことを知っているのは他に先生くらいであり、この時点で開発部のメンバーは単なる掃除のバイトであるとしか思っていない。
「分かりました、教授」
あの日の夜、グレイはMBから銅田明太郎についての調査報告を受けていた。
『グレイ、銅田は玄龍門の戦闘部隊を率いる幹部と通じているようです。莫大な報酬を約束し、屋敷の警備を依頼しています』
「玄龍門か……山海経高級中学校の生徒会だったな。おそらく、生徒会長……いや、門主には無断だろう。C&Cへ依頼したというのに、彼らにも警備を依頼するとは不自然だ」
『また、銅田の元に〈慈愛の怪盗〉から予告状が届いているそうです』
「あの七囚人か……分かった。すぐにトキへ連絡を……彼女も現地に派遣しよう。これは一波乱ありそうだ」
『承知しました。それと、玄龍門の門主にコンタクトを取りますか?』
「いや、まだよい。何らかの不正や犯罪に関わっている証拠でもない限り、彼らの名誉のためにも連絡はできない」
今回、グレイは基本的に表舞台には立たない。任務へと赴くゲーム開発部やケイ、先生のため、裏方で動き始めた。
ということで、今回からは白亜の予告状となります