「ようこそ、皆様。お待ちしておりました。約束の刻限通りにお越しいただけるとは……感謝申し上げます」
一行が手紙にあった屋敷に向かうと、例の依頼人である銅田明太郎が待っていた。そこで、先生が代表として前に出る。
「お掃除の依頼だと伺いましたが、詳細を教えていただけますか?」
「実は、私は美術商を営んでおりまして……コレクターから買い取った品を管理し、オークションを開催して再び流通させる、所謂セカンダリーをしております。次のオークションに貴重な美術品が並ぶ予定なのですが、参加者の護衛と美術品の警護をお願いしたく……」
(案の定、こうなりましたか……)
ケイは内心でため息をつく。このような依頼であるとは予想していなかったであろうゲーム開発部の慌てふためく様子が目に浮かび、これから先の苦労を悟った。
「ちょ、ちょっと待って!?私達はお掃除の仕事って聞いたんだけど!?」
「仰る通り、私はお掃除と申しました。ですが、C&Cにおけるお掃除とは、エージェントとしての活動を指す。そうでしょう?C&Cのリーダー、美甘ネル様」
(あなたの責任ですよ、馬鹿モモイ……完全に自業自得です)
見れば、モモイが何やら小さな声で騒いでおり、寝耳に水と言わんばかりに慌てている。ミドリはそれを宥めると、この状況を乗り越えるために姉の代わりに答えた。
「は、はい!たしかに、その通りではありますが!」
「事前に詳細を教えてくだされば、まだこちらの準備も……」
そこに先生が言葉を繋げ、上手く切り返す。
「その点にしては、失礼いたしました。ですが、C&Cの皆様は秘密のエージェント……公衆の面前で込み入った話をするにもいかず、限られた期間では話し合いの時間を設けるのも難しいと判断した次第です」
そして、銅田はそれでも彼女達が来てくれたことへの感謝の意を示すと、とあるお願いをしてくる。
「ほんのお願いなのですが、噂に聞くC&Cの実力を直接お目にかかりたく存じます」
それは、一同に緊張を走らせた。最悪、美術品の警護くらいならできるだろうが、その実力だけは誤魔化しが効くようには思えない。キヴォトスの存亡を賭けた戦いで活躍したとはいえ、所詮はインドア派の部活なのだから。
「なんでも、皆様はそれぞれの分野で特別な実力をお持ちとか。是非、その一端だけでも見せていただければ……」
こればかりは避けられそうにはない。先程は宥める側だったミドリすらも慌てているようで、内心では全て白状してしまおうと弱気になっていた。
(はぁ、仕方がありません)
そこで、ケイは動いた。
「かしこまりました。ですが、お見せするためにも準備が必要です。少しお待ちいただけますか?」
「ええ、勿論ですとも」
ケイは銅田に背を向ける形でゲーム開発部を一箇所に集め、小声で指示を出してこの場を取り仕切る。
「……では、私が指示した通りに振る舞ってください」
数分の会議を終え、実力を見せる時が来た。
「アリ……コールサイン02は、今から遠くに見えるあの小さな岩を狙撃します!」
狙撃手にジョブチェンジしたアリスはスーパーノヴァを構え、遠くの岩を狙い撃つ。「光よ!」の叫びと共に閃光と轟音がこの場を支配し、岩は木っ端微塵となった。
「おお……!あんなに遠くの岩が一撃で……!これが噂に聞く、どんな標的も撃ち抜く狙撃手の実力……!」
アリスは今、C&Cの狙撃手カリンとして振る舞っている。最も長射程の武器を扱っているので、この枠となった。
「ところで狙撃手は、位置が露見しないように目立ってはいけないと聞きましたが……?」
「だ、大丈夫です!遠くから一撃で制圧できますから!」
「そ、そう!目撃者がいなければ何も問題なし!」
「ふぅむ……C&Cの方がそう仰るなら……」
狙撃手らしからぬ目立つ攻撃手段に、流石に銅田も怪しく思ってしまうが、ミドリとモモイが双子のコンビネーションで丸め込んでくれた。
「ひとまず、ありがとうございました。他の方の担当も気になるのですが、ところで一人ほど姿が見えませんが……」
だが、そんな銅田の背後にゆっくりと一箱のダンボールが接近している。そこから飛び出てきた何者かが彼に銃口を突きつけた。
「動かないで、ください……」
「うおおおっ!?」
「コールサイン01、です……」
それはユズだった。某伝説の傭兵のようにダンボールに隠れて接近し、背後を取ったのだ。
「これは、これは、驚かされました。私の背後を容易く取ってしまうとは……まさか、豪運の持ち主でいつの間にか目の前に現れるという噂の潜入員が彼女だったと……」
ユズは今回、アスナの立ち位置にいる。これまでロッカーで気配を消していることが多く、それを応用したのだ。
「では、次……そうですね、冷静に状況を把握し、皆をまとめる参謀が居るとも聞いていますが……それは貴女のことですか?」
「はい?えっと、はい……私が参謀のコールサイン03です」
ミドリはアカネの立ち位置だ。ゲーム開発部の中でも冷静な部類なので、銅田も勝手に思い込んでくれたらしい。
「そして、残るは美甘ネル様と言いたいところですが、ところで貴女は……?C&Cは四人だと聞いていましたが……」
ここで銅田はケイに目を向ける。ようやくC&Cの人数がおかしいことに気がついたのだ。しかし、こんなことも彼女は織り込み済みである。
「たしかに、“表向き”にはC&Cのメンバーは四人となっています。私は裏のメンバーですので、私のことは他言無用でお願いいたします」
「裏のメンバーですか……これは、秘密にしておかなければ私の命がありませんな……」
銅田は苦笑いする。C&Cの実態など彼が知るわけもなく、モモイをネルと勘違いする程度なので簡単に信じてくれた。
「是非、貴女にも技をお見せいただけませんかな?」
「まあ、そのくらいでしたら。03、私を少し離れた場所から数発撃ってもらえませんか?」
「わ、分かりました」
ミドリは少し離れた場所に立つと、愛銃を構えてケイに向ける。三発の銃声が木霊し、同数の弾丸が彼女へと飛翔した。
「はっ!」
ケイはブレードモードのルミナスカリバーを振るい、飛来した銃弾を全て叩き斬る。辺りには真っ二つにされた銃弾の残骸が転がった。
「これは、恐るべき技量……!まさか、C&Cにこのような隠し球まであるとは……」
銅田は驚愕する。銃社会であるキヴォトスで剣を使っていることの珍しさもそうだが、剣で銃弾に対抗できるなんて想像もつかなかったのだ。彼は首筋に刃を当てられているような感覚すら覚えた。
やがて、一行は屋敷に招き入れられる。その規模はちょっとした校舎にも匹敵しており、とても四人で守りきれるような広さではなかった。
(おかしい……教授の情報では警備部隊を雇っているはずなのに)
先生はグレイから銅田に関する情報の一部を受け取っていた。その一つは、彼が玄龍門から警備部隊を雇っているというものだ。しかし、この屋敷に警備部隊がいる様子はない。そこで、先生は銅田に対して質問という形で揺さぶりをかけることにした。
「この規模の屋敷であれば防犯システムがあるのは当然だと思いますが、何故C&Cに依頼を?大勢の“警備部隊”を雇うことだって……」
「け、警備部隊!?……ゴホンッ、失礼。そのようなものは雇ってはいません。なにしろ、今回の相手は只者ではありませんので。それにかかれば、警備部隊など烏合の衆となるでしょう」
(警備部隊のワードに明らかに反応している……雇っているのは本当かもしれない。一体、何を隠しているのやら……)
「ところで、今回の相手というのは?」
「シャーレの先生は、〈慈愛の怪盗〉をご存知ですかな?」
「ええ、知っています。七囚人の一人で美術品を盗んでいるという……」
「実は、その怪盗から予告状が届いたのです」
(それも本当だったか……慈愛の怪盗にC&Cをぶつける計画だというなら、警備部隊は何のために?)
グレイから得たもう一つの情報は、〈慈愛の怪盗〉からの予告状の存在だ。七囚人の一人であり、ターゲットにしたものを必ず盗み出すことで有名だった。
「皆様方には〈慈愛の怪盗〉から美術品を守っていただきたいのです」