チョウゾ・アーカイブ   作:ウエストモール

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色々と詰め込んだ回になりました


黒服

 ある日の帰路、コユキと歩いていたグレイはビルの影から自分を見張っている存在がいることに気がついた。

 

「ん……?」

 

「あれ、教授。どうかしましたか?」

 

「どうやら客人が来ているようだ。コユキ、先に帰っていなさい」

 

「え、教授は一人で大丈夫ですか? 私、心配ですよぉ……」

 

「大丈夫だ。心配はいらんよ」

 

 同行していたコユキへ先に帰るように指示を出すが、グレイを1人にすることに不安を感じている様子だ。

 

「で、 でも……」

 

「すぐ戻る。ラボで待っていなさい」

 

 グレイは不安そうなコユキの頭を撫でると優しく背中を押し、帰るように促す。この工程を経て、ようやくコユキは帰っていった。

 

 そして、グレイはビルの影に近づいていくと、自分を見ていた存在に接触を試みる。

 

「さて、いつまで隠れているつもりかな?」

 

「おやおや、あの距離で気づかれるとは……クックックッ、流石は銀河最強の戦闘民族の末裔ということですか」

 

「貴様、何者だ?」

 

 グレイの語感が強くなり、いつもは穏やかな目が鋭いものに変わる。彼の目の前に現れたのは、まさに異形といってもいい容姿のヒューマノイドだった。

 

「はじめまして、グレイバード教授。私はゲマトリアの“黒服”と申します。以後、お見知り置きを」

 

 黒服と名乗った彼は、名前の通りに黒いスーツを着用していた。肉体は真っ黒で無機質であり、のっぺらぼうの顔面の右目に当たる部分には白い発光体が浮かび、そこから稲妻のような線がいくつも走っている。

 

 その線の一つは顔面の下側へと走り、まるで口角が上がっている口のような曲線を描いているが、それはダミーだ。ポーカーフェイスどころか、表情そのものが存在しない。胡散臭い以外の感想が浮かばなかった。

 

「私に何のようだ?」

 

「我々の組織に勧誘しに来たのです。銀河で最も高度な技術を持ち、かつて栄華を極めた鳥人族の一人であるあなたを……」

 

「要件は分かった。ところで、その組織というのは?」

 

「あぁ、説明していませんでしたね。我々はゲマトリア……あなたと同様にキヴォトスの外部から来た者。研究者や探求者のサークルと思っていただいて構いません。我々の求めるものはただ一つ……“神秘”を入手し、それを解明することです」

 

「神秘?」

 

「あなたは疑問に思ったことがありませんか? 何故、生徒達が銃撃や爆発を受けても掠り傷程度で済むのか。それは、彼女達に神秘が宿っているからです」

 

「ほぅ……それを解明して、何を為すつもりだ?」

 

「ええ、我々は……」

 

 黒服は語る。キヴォトスの外部から迫る「色彩」という厄災の存在を。そして、ゲマトリアはそれに対抗するために様々な観点から神秘を研究しているのだと。

 

 銀河の守り手として存在してきた鳥人族の一人として、彼が興味を持たないはずがなかった。話を聞く限り、色彩の危険度はXやフェイゾンに匹敵するものだと思われる。

 

 とはいえ、目の前の存在は怪しすぎる。黒ずくめの顔面の下では何を考えているのか分からない。ゲマトリアに協力できないこともないだろうが、間違いなく彼は何かを隠している。

 

 そこで、ある質問を投げかけてみた。

 

「しかし、どのように神秘の研究を? 神秘を持つのは生徒くらいのもの。まさか、生徒を実験台にしていないだろうな?」

 

「クックックッ、ご名答です。たしかに、我々は生徒を使って実験をしています。ですが、ご安心ください。実験に使ったのは行き場のない生徒のみです。その過程で死ぬものもいましたが、野垂れ死ぬよりはマシでしょう。全ては色彩に対抗するためなのですから」

 

 黒服の返答。それは、グレイの地雷を思いっきり踏み抜く結果となった。

 

「ふざけるな!」

 

 声を荒らげるグレイ。そして、急に輝いた彼の右手にはいつの間にか巨大な槍が装備されており、風切り音と共に迫った穂先が黒服の首スレスレで止まる。

 

「教授、正気ですか? 穏健派鳥人族であるソウハ族には心理プロテクトが施されているはずです。他者を傷付ければ、あなたにはそれ以上の苦痛が襲いかかりますよ?」

 

 心理プロテクトは、鳥人族の中でも武器を捨てた部族が自らに施した暗示である。他者を傷付けると自身の精神と肉体に負荷がかかり、最悪の場合は死に至るとされている。

 

「心理プロテクトなど、すでに解除している。いや、解除というのは語弊があるな。新しい暗示で上書きしたという方が正確だろう」

 

「暗示の上書きですか。とはいっても、心理プロテクトはかなり強固なもののはず。上書きするだけでもかなりの苦痛があるに違いないでしょう」

 

「あぁ、苦痛だったさ」

 

「何故、わざわざそんなことを?」

 

「力がなければ何も守れないことを思い知らされただけだ。連中のように“力こそ全てだ(HADAR SEN OLMEN)”とは言わないが、必要なのは間違いない」

 

 グレイの脳裏に浮かぶのは、武器を持ち続けることを選んだ部族であるマオキン族の姿。そして、戦闘用アーマーを纏った彼らが同胞のはずのソウハ族を次々と殺害していく光景だった。

 

「あの惨劇を生き残った私は武器を捨てたことを後悔し、心理プロテクトがなかった若い頃のように戦士に復帰した。もう、守る同族すら殆ど残っていなかったがね」

 

「そうですか。ですが、それならば色彩に対抗するために生徒を犠牲にすることも許されるはずです。違いませんか?」

 

「黒服よ、若者を犠牲にすることは認められない。彼らの未来を奪って守った未来に何の価値があるというのだ?」

 

「残念です。あなたとは分かり合える気がしません。ゲマトリアに来ていただければ、あなたは真理と秘技を得ることができ、我々はチョウゾの技術でより崇高に近づくことができたというのに……」

 

「この話は終わりだ。帰らせてもらうぞ」

 

 グレイはその場から踵を返して立ち去ろうとする。だが、黒服が引き留めた。

 

「お待ちを。お近づきの印にとっておきの情報をあなたに共有させていただきたいのです」

 

「ほぅ、それは?」

 

「ええ、それはですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒服との話が終わり、グレイはコユキの待つラボへと戻ってきていた。生体認証で鍵を開け、研究室へと通じるスライドドアを開くと、そこからピンク色の小さな人影が飛び出してきて、グレイに抱きついた。

 

「教授! 心配しましたよぉ!」

 

「コユキ……遅れてすまない。つい、客人との話が弾んでしまったのだ」

 

「教授に何かあったんじゃないかと……C&Cのお姉さん達に通報する寸前だったんですよ?」

 

 コユキの目には涙が浮かんでおり、かなりグレイのことが心配だったようだ。

 

「すまんかった。お詫びに何かしよう」

 

「それじゃあ……おいしいスイーツが食べたいです!」

 

「分かった。明日、ケーキ屋に連れていこう」

 

「いいんですか!? ありがとうございます!」

 

 そして、時は流れて草木が眠る頃。ウサギの着ぐるみのようなパジャマに身を包んだコユキもベッドで可愛い寝息を立てながら寝ていた。そして、その様子をグレイが優しい表情で見守っている。

 

「幸せそうによく寝ているな……コユキ達が安心して寝られる世界を守らねば……」

 

 そう決意した後、グレイはコユキが眠るベッドから離れていき、ラボの中を移動する。そして、一見何もないような壁の前に立ち、右手で壁に触れる。すると、目の前の壁が開いて地下へと続く薄暗い階段が現れた。

 

 この壁が扉になっていることは助手のコユキも知っておらず、完全に秘密の部屋である。生体認証なので、偶然触れても開くことはない。

 

 グレイは薄暗い階段を降りていき、秘密の地下室へと入る。その部屋にはチョウゾの彫像や関連するオブジェが立ち並んでおり、ここだけ鳥人族の要素が色濃い場所となっている。

 

 さらに進むと部屋の端へと行き着く。そこにあったのは大きな縦長のカプセル型の容器であり、その中には全身のカラーが銀色で統一されたチョウゾ用パワードスーツが収まっていた。

 

「そなたを再び纏うことになりそうだ……同胞達よ、若者の未来のために力を貸してほしい」

 

 グレイはカプセルを開くと、ガントレットを装備した右腕でパワードスーツの胸部に触れる。すると、パワードスーツが輝いて実体を失い、ガントレットに吸収された。

 

「デカグラマトン……あのような存在までもがいるとはな」

 

 そして、グレイは思い起こす。最後に黒服から聞いたとっておきの情報のことを。

 

 

 

 

 

「デカグラマトン?」

 

 黒服によって示されたのはデカグラマトンなるAIの存在だった。

 

 遠い昔、とある都市で「神を研究し、その存在を証明できれば、その構造を分析して再現できるのではないか」という研究が進められており、デカグラマトンはそこから誕生したという。

 

 誰もが滑稽な研究として嘲笑ったそうだが、それに興味を示した組織の支援を受け、神の存在を証明するための超人工知能……対・絶対者自律型分析システムが作られた。

 

「AIの稼働から月日が流れ、都市は破壊されて研究所は水底に沈みました。しかし、研究の存在が忘れ去られた頃になっても、AIは稼働を続けました」

 

「役目に忠実なのだな」

 

「ええ、素晴らしいですね。そして、最後にAIは証明の完了を宣言しました。こうして生まれたのがデカグラマトン(神聖十文字)……“音にならない聖なる十の言葉”を自称する存在です」

 

 これだけならば、デカグラマトンはただの興味深い存在で終わっていただろう。だが、彼の者にはとある能力があった。

 

 それは、他のAIを感化して自らの同志である預言者に変化させる能力だ。預言者と化したAIは本来の役目を放棄し、武装して創造主である人々に牙を剥いた。

 

 デカグラマトンを野放しにしていては、いずれキヴォトス全てのAIが彼の者の預言者と化してしまうだろう。この話を聞いて、グレイはデカグラマトンやその他の脅威への対策のため、幾つかの計画を立てることにした。

 

 

 

 

 

「色彩にデカグラマトン、ゲマトリア、カイザー……いずれも若者の未来を脅かす存在……その全てに備えなくては……」

 

 その備えの1つが、鳥人族のパワードスーツである。戦いを生徒に任せるのではなく、共に並び立って闘う。戦闘能力があるのだから、これを使わない手はないだろう。

 

 ちなみに武装は槍とシールドのみだ。飛び道具が無さすぎるので、エンジニア部の協力を得て飛び道具を作る予定である。

 

 グレイはその他にも元々考えていた計画を脅威への対策にも使用することを決めている。有機生体コンピュータの開発や多数の観測設備を備えた宇宙観測施設の建造がその例であり、それぞれデカグラマトンや色彩への対策にも使われる予定だ。

 

 グレイ教授は独自に動き出す。学園都市キヴォトスという方舟を破滅から守り、次の時代に進ませるために。




キヴォトスはサムスアラン案件が多すぎない?サムスがキヴォトスに来たら、1人でデカグラマトンの預言者を全部倒してそう
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