自治区の大半が砂に覆われたアビドス高等学校。その校舎の屋上に六人の人影があった。その一人は先生で、残りは廃校対策委員会の生徒達である。
「先生、本当にそのグレイバード教授とかいう人は信用できるのぉ?」
「ホシノ、彼は信用に値する大人だ。私が保障するよ」
先生に尋ねたピンク髪の小柄な生徒は、アビドス高校3年の小鳥遊ホシノ。対策委員会の委員長であり、キヴォトス最高の神秘を持つとされている。彼女は過去の経験から、大人という存在をあまり信用していなかった。
「そろそろ彼が来るはずだ」
本日、グレイバードはとある用事でアビドス高校を訪問することになっており、先生を経由して対策委員会と会談の約束を取り付けていた。
「ん、向こうから何か飛んで来る」
遠くから飛来する何かの音を真っ先に聞き取り、狼耳をピクリと動かしたのはアビドス高校2年の砂狼シロコだ。やがて、彼女の目は彼方より飛来する機影を捉えた。
「お、来たようだ」
最初はゴマ粒のように小さかった機影もかなり大きくなり、その機体はアビドス高校の校舎の周囲を旋回している。
「これは、ヘリコプターとも違いますね……ミレニアムの最新型でしょうか?」
その機体を見て分析を始めたのは、タブレットを持っているエルフ耳で眼鏡を掛けている生徒で、アビドス高校1年の奥空アヤネである。彼女は対策委員会の書記を務めている他、戦闘の際はオペレーターをしている。
その機体はローターを無くしたヘリコプターとステルス戦闘機を組み合わせたような航空機で、全体が白く塗られ、Mのような形であるミレニアムの校章が機体に入っている。
これはグレイの協力で開発された航空機、ウイングジェットだ。大気圏外に出るような能力は持ち合わせていないものの、チョウゾテクノロジーが入っているのでかなりの高性能だ。
〈こちら、ミレニアムサイエンススクール所属、ファルコン1。着陸許可を求む〉
〈アビドス高校対策委員会よりファルコン1、着陸を許可します〉
着陸許可を求められたので、アヤネが許可を出す。ミレニアムの機体は屋上の真上に移動すると、そのままヘリコプターと同じように垂直着陸した。
「やあ、三澤先生。君に会えて嬉しいよ」
「私もです、グレイ教授」
着陸したウイングジェットから最初に降りてきたのは、グレイバードだ。先生はその姿を確認すると小走りで近づき、互いに挨拶する。
「先生、お久しぶりです!」
その後に降りてきたのはセミナー会計の早瀬ユウカだ。シャーレの部員である彼女は、しばらく先生に会えておらず、その反動でテンションが上がっているように見えた。
「ユウカ、直接会うのは久しぶりだね」
「はい。元気そうな先生の姿を久しぶりに見れて嬉しいです」
「あらあら、あの冷酷な算術使いも先生の前では乙女になるなんて、可愛らしいですね」
「ユウカ先輩がこんな顔をしている姿、初めて見ましたよ! にははは!!」
さらに2人が降りてくる。1人はメイド服と眼鏡を着用したC&Cのアカネだ。その手には大きなジュラルミンケースを所持していた。そして、もう1人はピンク色の汎用機関銃を肩に掛けているピンク髪ツインテールの生徒だ。グレイの助手をしているコユキである。
今回、ユウカ以外にアカネとコユキがグレイに同行していた。
「な、なっ!何を言ってるの!? 私はただ、シャーレの部員として先生の体調を気にしているだけで!」
ユウカの顔が真っ赤に染まる。どうやら、アカネの発言が図星だったようだ。
「ユウカよ、落ち着くのだ。2人も彼女を弄らないであげてくれ」
グレイがフォローに入り、その場を収める。ミレニアムではよくある光景だった。
「さて、君がアビドス高校の廃校対策委員会の委員長か。私はグレイバード。ミレニアムサイエンススクールで教授をしている者だ」
「うへ~私が委員長の小鳥遊ホシノだよ。グレイ教授、よろしくねぇ」
「今回、君達に頼みがあって来たのだ。十分な報酬を約束しよう」
(まあ、先生が信用してるみたいだし、話くらいは聞いてもいいよね)
「是非、おじさんとしては話を聞かせてほしいなぁ」
屋上では会談に向いていないということで、場所は屋内に移される。そして、双方の人員が1部屋に集った。
「実を言うと、アビドス自治区の砂を買い取らせてほしいのだ」
「砂? 別にアビドスじゃ珍しくもないけどさ、どうして砂が欲しいのかな?」
「砂が重要な資源なのは知っているかもしれないが、ミレニアムにおいて建築資材や電子機器の素材に加工するための砂が不足してしまった。そこで、砂の輸入先としてアビドスを選ばせてもらったのだ」
現在、ミレニアムではチョウゾテクノロジーの導入の煽りを受けて景気が上がっており、建設ラッシュや電子機器の増産が進んでいるのだが、それらに使う砂がかなり不足している状態にあった。
「今回は一先ず、アビドス自治区産の砂の成分を調べるため、ある程度の量を買い取らせてもらいたい」
「ふ~ん、ところで買取価格はどうなってるの?」
「価格はこちらになります」
そこでユウカが動く。彼女は手にした愛用の電卓を叩くと、数字が表示された画面をホシノに見せ、彼女の後輩達も一斉に画面を覗き込んだ。
「こんなに貰えるんですか? スゴイです~☆」
最初に反応したのはアビドス高校2年の十六夜ノノミである。何処とは言わないがかなり成長している部位があり、アカネやアスナに匹敵しているだろう。
彼女の武器はガトリング砲で、その細腕で軽々とガトリング砲を振り回す上に、射撃時に体が一切ブレることがないなど、かなりの怪力と体幹の持ち主であると報告されており、彼女の神秘によるものとグレイは分析している。
「これなら、暫くは毎月の借金の返済で慌てることはなくなるわ!ホシノ先輩、この取引に乗った方がいいわ!」
さらに黒髪ツインテールで猫耳の生徒が反応する。アビドス高校1年で対策委員会の会計である黒見セリカだ。会計の立場にある者として、この取引は逃せないものだった。
「でも、これは……砂の市場価格よりも高くないですか?どうしてこの値段に?」
だが、アヤネには気づいたことがあった。それは、提示された価格が砂の市場価格と比べて高いということだ。
「よく気づいたな。確かに、砂の市場価格に上乗せさせてもらっているよ。私なりのアビドスに対する支援だと思ってもらって構わない」
今回のアビドスとの取引は、ミレニアムの資源確保と同時にアビドスへの支援という側面も存在していた。そのため、砂の買取価格は一般的な価格にかなり上乗せされていた。
(後輩達に害は無さそうだし、受けてもいいか)
「なるほどねぇ。まあ、砂がお金になるんだったら、砂の除去もできて一石二鳥だし、おじさんとしては取引してもいいかな。みんなもいいよね?」
グレイの提案に乗ることに決めたホシノ。彼女に反対する者はいなかった。
「ありがとう、ホシノよ。お金についてはこの場で先払いさせてもらおう。アカネ、ケースを出してくれ」
「承知しました、ご主人様」
アカネが最初から持っていたジュラルミンケースを机に置き、鍵をいじって蓋を開く。その中には大量の札束が詰め込まれていた。
「ん、スゴイ。銀行強盗でもしない限りこんなに手に入らないと思う」
対策委員会の面々は目を輝かせてジュラルミンケースの中を見ている。銀行強盗とかいう物騒な発言をした者が1人いるが、気にしてはいけない。
なお、彼らは実際に銀行強盗をしているのだが、それは返済した借金がアビドスを襲う武装組織や犯罪組織に流れている証拠を掴むためだったので、問題ない……はずである。
「あの、念のためお札を確認させてもらってもいいでしょうか?」
なお、大金を前にしてもアヤネだけは冷静だった。必ず本物かどうか確認しようとするあたり、しっかり者と言えるだろう。
「構わないよ、お嬢さん」
やがて対策委員会によるお札の確認が終わり、全てが本物であることが確認されたので取引は成立。採取用の機材を吊り下げた2機目のウイングジェットが飛来し、かなりの量を採取していった。
ウイングジェットの見た目はアベンジャーズのクインジェットを想像してください。
次回は交流編を予定