交渉の終了後、グレイ達はアビドス高校廃校対策委員会の生徒達と交流することになった。
「改めてご挨拶致します。私はメイド部所属の2年生、室笠アカネと申します。ご主人様のために誠心誠意、ご奉仕することが私の仕事です」
「ミレニアムの生徒会、セミナーの会計をしてます。2年の早瀬ユウカです。会計のことで困った時は相談してくださいね」
「ミレニアム1年の黒崎コユキです!教授の助手をしてます!特技は暗号解読です!」
アカネ、ユウカ、コユキが詳細な自己紹介を順番にしていくのだが、ミレニアムから同行している者が後1人だけ残っていた。
「ミレニアム保安部所属の2年生、乱羽リトだ。ウイングジェットのパイロットをやっている」
最後に現れたのはパイロットスーツを着こんだ青い短髪で猛禽類のような鋭い眼光の生徒。青い翼をモチーフにしたヘイローを頭上に頂く彼女はウイングジェットのパイロットであり、元は暴走族だった異例の経歴を持つ。
このメンバーによる交流が始まるのだが、時間がお昼頃ということもあり、一緒に昼食を取るところから始めることになった。彼らが案内された先は……
「来たわよ大将!」
セリカが扉を開け放つ。そこは〈柴関ラーメン〉というアビドス高校の校舎の近くにあるラーメン屋であり、彼女のバイト先だ。アビドスの生徒達はよく立ち寄っていたりする。
「お、セリカちゃん達にシャーレの先生じゃないか。見慣れない子達もいるけど、新しいお友達かい?」
「そんなとこよ。ミレニアムから来てくれたの」
「それは随分と離れたところから……うちのラーメンは絶品だから、是非食べていってくれ」
一行を出迎えてくれたのは、柴関ラーメンの店主である犬獣人の大人、柴大将だ。人情に溢れた大人であり、学生によくサービスしてくれる。
「こんにちは、大将。ミレニアムで教授をしているグレイバードという者だ」
「おお、あんたがあのミレニアムの教授か。こんなところに来てくれるとは……後でサインを貰ってもいいかい?」
「あぁ、構わない」
こうして、席に座った彼らの前にいくつものラーメンが並べられる。なお、グレイだけは体のサイズの関係で椅子を持ち込んでいた。
「へい、お待ち!名物の柴関ラーメンだよ。熱いうちに食べてくれよ!」
「ほぅ、これがラーメンとやらか。昔、何かの資料で見たことはあるが、実物は初めてだ。さあ、食べるとしよう」
「いただきます!」
真っ先にラーメンに飛びついたのはコユキだった。運ばれてきた瞬間から目を輝かせていた彼女は、もの凄い勢いで柴関ラーメンを食べ始めた。
(ダイエット中なんだけど……油も因数分解できたらいいのに……)
一方、ユウカはラーメンと睨み合っていた。実はダイエット中であり、油っこい食べ物は避けていたのだが、こってりとしたラーメンに直面してしまった。
(おいしそう……先生の前で油っこいラーメンを食べるなんて……でも、逆らえない……)
ラーメンの匂いがユウカの食欲を刺激し、ついに彼女の理性を守るシールドが破られる。彼女はいきなりレンゲを手に取ると、スープを掬って一口飲んだ。
「う、美味い……」
こうなったらユウカの手は止まらない。割り箸を割り、麺を啜り、チャーシューやメンマを口に運んでいく。その様子は先生に見られており、それに気付いて赤面したのは食べ終わった後のことだった。
「コユキちゃん、口が汚れてますよ」
「にはは…!アカネ先輩、ありがとうございます!」
コユキの隣に座っていたアカネが彼女の口をナプキンで拭いてくれる。すでにアカネはラーメンを食べ終えており、かなり綺麗な食べ方だった。
「コユキちゃん、柴関ラーメンはどう?」
セリカがコユキに話しかけ、柴関ラーメンの店員としてラーメンの感想を聞く。
「とても美味しいです!今度、
「それは良かった。いつでも歓迎するわ!」
「うちのラーメンを好きになってくれて嬉しいよ」
柴関ラーメンでの交流は全員がラーメンを完食するまで続き、その後は校舎での日程に移る。なお、グレイは戻る前に約束通りサインを描いて大将に贈ってあげた。
「ふふふ。皆さんよく似合っていますね」
微笑むアカネの前に並んでいる廃校対策委員会の面々。彼らは今、アカネが持ってきていたメイド服を着用していた。
「いや~おじさんが着るには可愛すぎるよぉ」
「ホシノ先輩、可愛いです~☆」
「ん……私も負けてない。先生、誰が一番可愛い?」
だが、そこにシロコが特級の爆弾を放り込んだ。その場の空気が一瞬で固まり、対策委員会全員の視線が先生に集まる。
「み、みんな……?」
「ん、早く答えるべき」
「うむむ……」
シロコに急かされ、先生は困ってしまう。そのまま、メイドと化した対策委員会の面々を一人ずつ見ていった。
後頭部を掻いているホシノに、腕で胸を強調するノノミ、両手でハートを作る澄まし顔のシロコ、いつも通りツンツンしているセリカ、恥ずかしくて赤面しているアヤネ。みんな個性があり、十人十色というやつだ。もっとも、十人もいないのだが。
(どれも捨てがたい……じゃなくて、先生として、生徒を選ぶわけにはいかない。だったら、答えは……)
「私には誰か一人を選ぶことはできない。みんな違ってみんな良いという言葉もある。私からしたら、生徒はみんな可愛いものだよ。アビドスのみんなも、ミレニアムから来てくれた子達も……」
先生がそう言うと、アビドス全員が恥ずかしくなってしまう。誰もが顔を赤く染め、先生へのアピールをやめた。ミレニアム側もユウカが顔を真っ赤にしていたりする。
(先生よ、そなたは立派な大人だ……)
誰か一人を選ぶのではなく、全ての生徒の良さを尊重する在り方。グレイは先生のそんな姿勢に感動を覚えていた。
(だが、騒動の種になるかもしれんな……)
なお、先生の在り方は八方美人でもあり、キヴォトスでは倫理観が低いため、先生に重い愛を向ける生徒が暴走して騒動になる可能性も予想していた。
この後も色々なことがあった。ユウカが会計のいろはをセリカに叩き込み、数学の勉強を教えてあげたり、リトが操縦するウイングジェットの飛行体験を行ったり、最後にアカネが淹れた紅茶でティーパーティをしたりと、充実した1日となった。
一日に渡る双方の交流も終わった後、グレイはアビドス高校の屋上にて先生と語らっていた。その背後には駐機されているウイングジェットと夕陽が写っている。
「先生よ、今日は立ち会ってくれて助かった」
「お礼を言いたいのは私の方です。私にはあなたのような助け方はできませんので。教授ほどの知恵がない私には、彼女達の背中を押してあげることしか……」
どうやら、先生は劣等感を感じているらしい。グレイはそんな先生に優しく語りかけた。
「先生よ、人によって出来ることは異なるものだ。私は先生のように的確な戦闘指揮はできない。すぐに生徒の元へと駆けつけることも難しい。互いに助け合い、補う……それが人というものではないか」
「教授……」
大人である先生からしても、グレイバードは立派な大人に見えた。かなりの年齢差があるのは勿論だが、経験豊富なグレイは先生にとって尊敬すべき存在だった。
「先生よ、君に渡したいものがあるのだが……」
そう言ってグレイが手渡したのは腕時計のようなアイテムだった。時計盤にあたる黒い部分には、十字と円を重ねて光輪を頂いている連邦捜査部シャーレのロゴが入れられていた。
「これは……」
「先生専用防護スーツの格納装置だ。先生は生徒達にかなり近い場所で指揮を執っていると聞いたのでね、いざというとき銃弾や爆発に耐えられるようなものを作らせてもらった」
早速、先生は腕時計型の機器を手首に付け、グレイの指示に従って操作する。リューズのような部品を押し込み、本体の外周部分を回転させるとスーツの展開が行われた。
「どうかな、私が作ったスーツは?」
「カッコいい……未来的なデザインで好みです。それに、いつもよりも体が軽いような気が……」
「パワーアシストも付けさせてもらった。生徒達は先生と比べて力やスタミナがある。彼女達に追従して指揮をするためには必要だと判断した」
グレイが製作したスーツは過去の銀河連邦軍で採用されていた装備を参考にしたものだ。カラーは白と黒の二色であり、白い胸部アーマーの左側にはシャーレのロゴが入っている。
「このスーツは今後、ミレニアムの治安を守る保安部の生徒達に配備する予定だ。このスーツがあれば、強い生徒との差を詰めることができるだろうな」
保安部の生徒達は決して弱いわけではない。C&Cのエージェントが強すぎるだけであり、その辺の不良生徒ならば十分に対処できる実力は備えている。
ただし、キヴォトスの有名なテロリストや脱獄した凶悪な囚人には蹴散らされるばかりで、C&Cが駆けつけた頃には壊滅状態になっていることが多い。
「おっと、もう時間だ。先生よ、また会おう」
「はい、教授。次会うときは、おそらく……」
「あぁ。カイザーとの戦いであろうな」
握手を交わした後、グレイはウイングジェットの後部から乗り込んでいく。リトの操縦で機体は垂直発進し、わずかな時間で遥か彼方へと機体は消えていった。
乱羽リト
→オリキャラ。ミレニアム保安部所属のパイロットで元暴走族。 EXスキルで航空支援してくれる。任天堂作品のとあるキャラクターが元ネタ
今後も何回か登場予定