ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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時間軸は4話と5話の間です。主役はみんな大好きセリカちゃん。


とある男子生徒の日常記録(番外編)
#番外編:私生活オワリ男とツンデレ猫耳娘の帰り道


 

 

 

「は? 良いアルバイトがないかって……お金、困ってるの?」

 

「うん」

 

 

 ズルズルと麺を啜りながら、困ったように眉を下げて相談してきたのは、つい先日に私と同じ学校に転入して来た1つ上の先輩・由九咲シュウ。

 

 放課後、いつものように柴関ラーメンの屋台でバイトをしていると、偶然にもお客さんとして暖簾を上げてきた時は、びっくりした。

 

 驚いたのは向こうも同じようで、私のことを見た最初に出た言葉が“おぉ、随分と可愛い猫耳の店員さんだぁ……”とか言って目を丸くしてたし。

 

 で、ひとまずラーメンを注文した先輩。どこかくたびれたサラリーマンのような雰囲気で、お冷を飲む姿が気になって話しかけてみると。

 

 

「あー、ちょっと困ってさ」

 

 

 と話し始めたのがきっかけ。なんでもアビドスに来る前までやっていたバイトが、こっちだと出来ないようで、金欠らしい。しかもこっちに来て数日間、探してもまだ見つかっていないとか。それで、このラーメン屋でバイトしている私に相談してきたのね。

 

 

「んー、バイトなら私もいくつかしてるけど」

 

「まじ!?」

 

「でも募集しているところは心当たりないのよね」

 

「まじ……?」

 

 

 嬉しそうな顔から一気に絶望した声と表情になる先輩に少し罪悪感が芽生える。そんな死んだような目でラーメン食べないでよ……。

 

 

「うまい、うまい……ずるる……」

 

「う……」

 

 

 そんなにお金ないの……? 別に悪いことはしてないはずなのに、しょぼくれた彼の表情を見ると不思議と助けたくなってしまう。まだ出会って数日だけど、普段はあれだけ能天気で笑っている顔しか見てないからか、ちょっぴり心配になる。

 

 どうしよう、と考えているとここまで黙っていた柴大将がシュウ先輩に声をかける。

 

 

「坊主、働き口に困ってるのかい」

 

「うまいうまい……え、あ、はい」

 

「大将?」

 

「なら、うちでやってみねぇか?」

 

「マジっすか!?」

 

「おう!」

 

 

 急な申し出に嬉しそうな先輩。確かに人情に厚い大将が困っている人を助けるのは理解できるけど。……こっそりと大将に耳打ちする。

 

 

「大丈夫なんですか、そのお金とか」

 

「気にすることねぇよ、結構稼いでるんだぜ?」

 

 

 それ以外にも接客やラーメンの仕込みなど教えることは多く、しっかりとしたアルバイトとして活躍するには、色々と手間がかかってしまう。前までのお店ならともかく、屋台となった柴関ラーメンだと色々と負担も大きいはず、と不安に思ってしまった。

 

 私のそんな思考を読み取ったのか、大将は“大丈夫だ”とカラカラと笑いながら言う。そして、先輩に雇用するために必要な書類を渡していた。

 

 

「でも……」

 

「それにセリカちゃんと同じ学校の子だろ? 悪い子には見えないしな」

 

「まぁ、悪い人ではないかも……たまにセクハラしてきますけど」

 

「セリカさん?」

 

「先輩、勝手に私の耳触ってきたでしょ」

 

「なんでもないです、ごめんなさい」

 

 

 ほんの少し前、放課後にうとうとしていた、というかほとんど寝ていた私の耳を急に触ってきたのを思い出して睨む。“ぴょこぴょこしている耳が気になってつい……”なんて言い訳をしていたが、問答無用だ。

 

 

「でもあれ、放課後に用事あるって言ってたセリカさんを起こすためでしてね?」

 

「声かければ良いじゃない!」

 

「いやかけても起きなかったからさ」

 

「それは、私も悪かったけど……ってそうじゃなくて、肩を揺するとかあったじゃない!」

 

「可愛く動く猫耳には抗えない魅力があるんだ」

 

「キリッとして真面目な顔で言っても、勝手に耳に触るのはセクハラよ。もうしないでよね」

 

「……やむを得ないときは触るかも?」

 

「またホシノ先輩に言いつけるわよ」

 

「2度と触りません」

 

「はっはっは。面白い坊主だなぁ!」

 

 

 ケラケラと笑う大将に“どこがよ!”と言いかけて、口から出る前に飲み込む。まったく、もう。

 

 

「さて、そんじゃ早速だが明日とかからお試しでやってみるか」

 

「うす!」

 

「え、明日って私もいますけど」

 

「おう! セリカちゃんが先輩として……ところで坊主、名前は?」

 

「あ、すみません。シュウです」

 

「よろしくな。シュウくんに色々と教えてあげてくれ。俺ももちろん教えるがな」

 

「えぇー……」

 

「よろしくセリカ先輩!」

 

「調子良いわね……まぁ、とりあえずね」

 

 

 この日から学校では先輩なのに、バイト先では後輩となったシュウ先輩との新しい関係性が始まった。バイト初日は、正直に言ってしまえば結構酷いもので。

 

 

「先輩、これ量間違ってるわよ」

 

「すみません!」

 

「あとこっち、メモの仕方が違う」

 

「すみません!」

 

 

 とにかく、“すみません”と謝られてばっかり。でも分からないことばかりなのはしょうがないし、そんなことで怒っていてはまともにお客さんを回すことも出来ない。だから、とにかく一から十まで教えたなぁ。

 

 でも、こうやって教えているとシュウ先輩の良いところもたくさん見えてくる。例えば、彼は言い訳を絶対にしない。

 

 何かミスをしたら必ず謝るし、同じミスをしないように心がけていた。あとは素直で真面目。覚えなきゃいけないことはすぐにメモするし、分からなければ必ず私か大将に聞いてきた。

 

 

「偉く真面目で素直だな、シュウは。なぁセリカちゃん?」

 

「……なんですか」

 

「いや、まだバイトに入ったばかりのセリカちゃんを思い出してな」

 

「大将大将、俺、それすっごく聞きたいです」

 

「もう! シュウ先輩はそんなことより皿洗い!」

 

「うす!」

 

 

 そう言ってすぐにお皿を洗い始めた姿に、呆れとちょっとの関心。たまに大将(気付けば仲良くなっていたふたり)と一緒に私をからかってくることはあっても、絶対に仕事優先だし、笑顔を絶やさない。実際、接客する上で1番疲れるし大変なのは、笑顔を保つこと。

 

 でも、シュウ先輩はお客さんがいるときは、ずっと笑顔を絶やさない。ここはホント、素直にすごいと思った。

 

 だから、数日もすればもうほとんど教えることも無くなったし、ミスもしなくなったのよね。要領が良いと言うか、色々とハイスペックというか。

 

 あともうひとつ気づいたことも。

 

 

「セリカさん、これ」

 

「ありがと。あ、さっきの注文は」

 

「もう出ます。ついでにこっちも俺の方で仕込みますね」

 

「……うん」

 

「なんだよ、意外なものを見たかのような顔で」

 

「別に、なんでもないわよ。……色々、見てるのね」

 

 

 頭にハテナを浮かべて残りの仕事をこなすシュウ先輩。彼はとにかく誰かのフォローや気遣いが得意みたい。

 

 今も私が視線だけで手拭いを探したら、すかさず手渡してくるし、急な注文で手一杯になっていればパッと食材の準備をしている。

 

 普段の学校で見る先輩はぽけっとしているし、ホシノ先輩みたいにお昼寝していることもある。ぶっちゃけると別人のようなのだ。

 

 あとは、優しいところも個人的には高ポイント。たまーにいる変なお客さんの対応に疲れていたときなんかは、“おつかれさま”とバイト終わりに紅茶をくれたときは、ほんの少しきゅんとした。

 

 我ながらちょろいと思うけど、私がちょっとしたダメージがあるときとか、普段のふざけた様子無しで、優しく気遣ってくれるのは思った以上に嬉しかった。

 

 そんな数日間を思い出しながら、横で歩いている眠そうにあくびをする先輩の顔を見ていると、気付かれてしまった。

 

 

「どした?」

 

「シュウ先輩、ホントは二重人格だったりするの?」

 

「藪から棒だな、おい」

 

「だって、学校の先輩と柴関ラーメンの時の先輩、全然違うんだもん」

 

「具体的には?」

 

「それは……その、真面目で優しい、というか」

 

「普段の俺をどう思っているんだ???」

 

「抜けてるセクハラ先輩」

 

「……」

 

「そんな不満そうな顔しても、また私の耳触った事実は消えないわよ」

 

 

 う、藪から蛇だった……と、バツが悪そうに顔を顰めて目を泳がせる姿に少し笑ってしまう。

 

 顔や声が同じでも本当に違う人に見えるのよね。セクハラといってもまた眠りこけた私を起こすためだったし、今度は肩を揺すっても起きなかった私にも非があるから、そこまで責めない。

 

 あとは、まぁ。

 

 

「……別に嫌じゃなかったし」

 

「え? 何がさ」

 

「聞いてるんじゃないわよ!」

 

「理不尽!?」

 

 

 軽いデコピンで、すぐ近くに来た先輩を撃退する。口に出してしまうとは自分でも思ってなくて、少し動揺。

 

 陽が完全に落ちた夜の市街地で、こうやって少しふざけながらもシュウ先輩と一緒に帰るのも本当は楽しいけど、それを言ったら調子に乗りそうだから言わない。

 

 

「なんだよ、一体……ふぁ……ぁあっと」

 

「またあくび。そんなに疲れたの?」

 

「んー、そんなに疲れてないけど。よく眠くなるんだよ、俺」

 

「だから朝もギリギリなのね」

 

「そういうこと。めちゃくちゃに朝弱いんだよ」

 

 

 ほれ、とスマホの画面を見せられて、なんだろうと視線を移すと。

 

 

「うわ、1分刻みでアラームかけてる」

 

「こうしないと寝坊しちゃうからな。昔からこうなんだ」

 

「しっかり寝てるのよね」

 

「おう」

 

「うーん、なら食生活?」

 

「食べてはいるよ」

 

 

 む、目を背けた。何か心当たりがある時の仕草ね。シュウ先輩は誤魔化したり、何かを隠すときはすぐに目を背けるから、すっごくわかりやすい。

 

 

「何食べてるのよ、普段は」

 

「えーっと、カップ麺とか」

 

「ほかは?」

 

「ゼリー飲料とかかな」

 

「原因のひとつ、それじゃない……」

 

「最近は大将の賄いがいちばんの楽しみです」

 

「料理、ある程度はできるでしょ」

 

「面倒が勝つのと、何もないときはダラダラしたい」

 

「うわぁ……」

 

「女の子からのそれが一番傷つく」

 

 

 めそめそする先輩を放っておき、思い出すのは時折、バイト帰りにカップ麺やレトルト食品を買い込んでいる姿。

 

 それと今の言葉を聞くに、休日はベットでボケーっと寝転びながらスマホをいじっている姿が簡単に想像できる。

 

 

「せめて、朝くらいはちゃんとしたもの食べたら? 元気、出ないわよ」

 

「あー、うん」

 

「え、もしかしてだけど朝はろくに食べてないの?」

 

「なんでわかるの???」

 

 

 そりゃ、そんだけ痛いところ突かれましたーって顔してればね……。……うーん。

 

 

「お腹、空かないの?」

 

「学校に着いたらはらぺこ!」

 

「元気に返事されても……ならどこかでサンドイッチとか買うとか」

 

「その、お財布事情的に……」

 

「そっか、お金ないって言ってたもんね」

 

「面目なし……」

 

「もう、落ち込まなくても良いじゃない」

 

 

 サンドイッチとか最後に食べたのいつだっけ、なんて真剣な顔で悩む先輩の顔を見て、また笑ってしまう。ホントに喜怒哀楽がはっきりしていて、関わっていて楽しい人だと思う。

 

 同時に少し心配も。私も見たことあるし、他の人からも軽く聞いたことあるけど、たまに顔色が悪い時があるし。

 

 本人には言っていないけど、バイトとか学校でも結構助けられて、感謝している。私も、ちょっとくらい何か恩返しみたいなことができたらな、なんて。

 

 だから、ほんの気まぐれ。ちょっとした冗談くらいの気持ちで、しょぼくれたシュウ先輩にひとつの提案をしてみる。

 

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「ホントに簡単なものだけど」

 

「うん」

 

「たまに、たまーになら朝ご飯、作ってあげようか?」

 

「まじで!?」

 

「そんな大した物じゃないわよ」

 

「いやいや感謝感謝! 前に作ってもらったセリカさんの賄い、めちゃうまかったし」

 

 

 思った以上の先輩の反応に、これまた私も思った以上に嬉しくなってしまう。

 

 

「なら、たまにね」

 

「朝起きるモチベができた!」

 

「調子良いんだから。……でも私の料理、そんなに嬉しいってなんで?」

 

「だって猫耳ツンデレ後輩からの手料理なんて憧れ……あ」

 

「誰がツンデレよ!」

 

「そういうとこじゃないかな!?」

 

 

 バシン、とお尻にカバンをぶつけて、つい怒ってしまう。私が他のみんなにも反射的にやってしまう照れ隠し、みたいなものなんだけど。シュウ先輩に対しては、最近は遠慮しなくなってきてしまって、つい手が出てしまう。

 

 でも、それをじゃれあいとでも思っているのか、私からのアクションを嬉しそうにする彼の顔見て、また同じことをしてしまって。……それがすっごく楽しくて。

 

 

「おっと、俺はこっちだ」

 

「あ……うん」

 

 

 だから、シュウ先輩との帰り道が別れるときは、少し寂しいな、と感じるようになった。でも。

 

 

「じゃ、また明日。学校とバイトでなー」

 

「寝坊しないでよ」

 

「う……話すんじゃなかったかな。起きてなかったら、モーニングコールよろしく、セリカ母さん」

 

「ばーか。もう……ふふ」

 

 

 ひらひらと手を振って“またな”と別の帰り道を歩いていく姿と言葉に、また明日会えるから、いっかと気付けば寂しさも消えていた。

 

 らしくなく、少し鼻歌を歌いながら自分の家に通ずる帰り道を歩む。その中で考えているのは。

 

 

「……サンドイッチ、何作ろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまい! うまい!」

 

「シュウ、珍しく朝ご飯食べてる」

 

「随分と綺麗に作られたサンドイッチですね〜。シュウくん、お料理もできるんですか?」

 

「いや、これ貰い物でさ」

 

「誰からもらったんです?」

 

「んぐんぐ……誰って——」

 

「んんっ!!」

 

「ご近所さんです!」

 

「……ふふ」

 

「んー? どしたのセリカちゃん。随分とご機嫌だね〜?」

 

「え!? べ、別になんでもないけど」

 

 

 

 

 





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