ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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#番外編+IF【ナギサ-1】:「恋のABCとか、なんでそんな古いのナギサは知ってんの?」「が、ガールズトークで少し……」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「あの……ナギサ?」

 

 

 両手に大きなカバンを持ったまま、数歩ほど先を早足で歩くナギサ。小走りで追いかけながら、おずおずと声をかける。

 

 ほんの少し立ち止まり、俺の方に顔だけ振り向いた彼女の表情は、“私は怒っています”という言葉が口から出ずとも察してしまうものになっている。

 

 眉間には皺が寄って八の字に。頬はぷくりとほんの少し膨れていて、口は幼い子どものようにちょっぴり尖らせている。怒っているのだろうけど、どこか照れているようにも見える。

 

 じっとりと何かを責めるような目線、そして拗ねたような声でナギサが俺に言った言葉は。

 

 

「なんですか……」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「————ぷ、くっ」

 

「もぅ!!」

 

「あ、ちょ……ごめんって!」

 

 

 なんて。きっと怒っているのに、かまって欲しそうな声音で簡潔なひと言を言われては、つい笑ってしまうというものだ。

 

 でも、そんな俺を見たナギサはより機嫌を悪くして、ムッとした顔のまま足を進めてしまう。

 

 

「シュウさんなんて、もう知りません!」

 

「あー! 待って待って! ほんとごめん、この通り!」

 

「どうせ格好だけの謝罪ですっ! 私がなんで……こほん」

 

 

 珍しく勢いで口を開いたのか、途中でハッとした顔になって言葉をくぎり、スンとした表情で咳払いをしたナギサ。

 

 そんな彼女の姿に少しだけ驚いて。でもって言いかけた言葉を察した俺は、“これはちゃんとナギサのことを理解しているかのチェックかな”と思って、続きをかわりに口にした。

 

 

「え? あ、ああ……ナギサが怒ってるっていうか、拗ねてる理由?」

 

「————もう! ほんとに、もう!!」

 

「痛っ!? ちょ、痛い痛い!」

 

「なんで言っちゃうんですか! 察しても、胸の内にしまっておいてください!!」

 

「え? だって気づいたら口に出せって、ナギサがむぐぉ!?」

 

「ばかばかばかぁ!!!」

 

 

 “乙女心がわかっていません!”と真っ赤な顔で叫びながら、カバンを使ってペシペシとあまり痛くない攻撃してくる困ったお姫様。

 

 さて、どうしたものかな。なんて他人事のような思考の中で、思い浮かべるのはナギサが“こうなってしまった”先ほどまでの出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

『おや? ……ふむ、君がナギサの言っていた子か』

 

『えー! キミなんだ! ほらほら座って〜!』

 

 

 とあるきっかけで初めて顔を合わせた、彼女が所属するティーパーティーの代表メンバー。そして、ビビるほどの勢いで迫ってきたあの先輩2人と質問の数々。

 

 

『色々と迷惑をかけたようだが……存外、私たちが思っているほどのことにはなっていないようだね』

 

『それはそうなんじゃないかな? だってほら、ナギちゃんから毎日、それこそお腹いっぱい聞いてるじゃんね!』

 

『は、ははは……。そう、なんですね』

 

『……………』

 

 

 でもって。その光景を後ろの方で見ながら、ずっと張り付けた笑顔を向けていたナギサの顔。あまり彼女を知らない人からすれば、いつもの余裕を持った微笑みに見えるが、裏ではもう“おこ”だったのだろう。

 

 だって目が怖ったし。いつの日か、まだこの関係になる前にうっかり怒らせた時と同じ、びっくりするぐらい鋭い目になってるもん。

 

 なんか後ろから重い音圧の効果音とか聞こえてきそうなくらい。ええ、激おこですね。

 

 

『で? で? 実際のところどーなの?』

 

『うお……えと、何がです?』

 

『ふっ————知らないふりをするのは良くないな』

 

『なんで急にポーズを取ってキメ顔をしてるんです……?』

 

 

 ナギサの幼馴染だという煌びやかで、ピンク髪が目を惹く可愛らしい先輩はドンッ! と音を出して立ち上がり、前のめりのまま興奮気味に迫ってくる。

 

 一方で小柄ながらも、知的な言葉と聡明そうな雰囲気を持ったキツネ耳がグッドな先輩は、ティーカップを片手に片目を閉じてキメ顔で意味深なセリフを告げてきた。

 

 ぶっちゃけ、この2人が聞きたいことは察している。俺としては明かしても問題ない……というかバレているっぽいし、開き直った方が楽だろうと思うんだけど。

 

 

『…………………………』

 

『……は、はは』

 

 

 圧。

 

 ビッグでヘビィなグラビティを感じる視線が、テーブルの奥からずっしりばっちり飛んできてるんだよね。

 

 “もちろん、わかっていますよね?”。あの視線を言葉として表現するならば、たぶんこんな感じ。

 

 興味津々な目線×2と、ジーっとした呆れと信頼が込められた目線×1。

 

 この状況下で、俺が取った行動は……。

 

 

『あー、まぁ……ナギサとは仲良くさせてもらってます』

 

『もう! その“仲良く”のところを詳しく聞きたいのっ!』

 

『全く……勿体ぶるのも大概にしたまえ』

 

『いや、あの……ね……?』

 

『どこまで行ったの? ほら、なんだっけ……“恋のABC”みたいなの』

 

『それは少し古い表現だが……ふむ、逆にはっきりとする良いものではあるかもしれないね』

 

 

 軽く誤魔化したわけだけど、逆に気になってしまったのか、さらにずいっと寄ってくる2人。

 

 

『………………』

 

 

 背後にはジトッとした目で、ムッとした顔になったナギサが目に映る。……あの様子的にもう少しなら話しても良いけど、“シュウさん、おふたりと近くないですか?”という嫉妬も混じってきているので、ちょっと危険なサインだ。

 

 でも質問を無視するのも良くないし、とりあえず答えようと聞かれたものを頭の中で復唱する。

 

 恋のABC。これが何を指すのかはちょっとわからないが、ナギサの様子を見る限り、そこまで変な言葉ではない……はず。

 

 うーん、多分関係性の進行度的なものを表しているんだろう。ということは、あまり浅いAとかBだと逆に疑われそうだし……ナギサも良い気持ちにならないはず。なら、正解は。

 

 

『えっと……まだ“C”ですよ、ははは』

 

『『……………』』

 

『あれ? あの、なんで固まるんです?』

 

 

 目を大きく、それはもう大きく見開いて。口もポカーンとした先輩たちに“あれ?”と疑問を持つのと同時に、ゾクっと背筋に冷たいものが走る。

 

 こっそりと視線をナギサの方に向ければ、貼り付けた笑顔で誤魔化せないほど、顔を真っ赤にさせた彼女が目に入ったワケで。

 

 で、ここでようやくナギサの様子がおかしいことに気づいた2人が、後ろを振り返ってギョッとする。

 

 

『あー……あはは……えっと……。あっ! 私、このあと予定があったんだった!』

 

『え?』

 

『あ、ああ。そうだね、私も実は少し野暮用がね』

 

『え? え?』

 

 

 2人が突然、席を立ってそそくさと荷物をまとめ出したのを、驚いて見ているしかなく。

 

 気づけば“またねー!”、“では、また”という別れの言葉を残して、ピューっと去っていく姿を茫然と見守っていることしかできず。

 

 最終的に俺は椅子に座ったまま、ナギサとふたりきりの状態へ。だけど悲しいかな、思春期特有のドキドキでモジモジなんてものは微塵もない。あるのは。

 

 

『………シュウさん?』

 

 

 頬を赤く染めて黒〜い笑みを浮かべた、恐るべきトリニティ総合学園の生徒会長様のひとりがそこにいた。

 

 ……ドッキドキの怒気、ってね。ははは、笑えるね。

 

 

『ふふっ……何を笑っているんですか?』

 

『ち、違うんです……ッ!』

 

『何が“違う”んですか? ……絶対に質問の意味をわからずに答えましたね?』

 

『はい……その、なんかまずかったか……?』

 

『まずいも何も、あんな破廉恥な……!』

 

『え、破廉恥? ってことはなんかやばい隠語だったのか。というか、それだとあのふたりに嘘ついちゃったのかな』

 

 

 やばい、初対面の人たちに嘘を……しかもナギサと特に仲の良い人たちに自分たちの関係を偽ってしまったというのは、かなりまずい気がする。

 

 やってしまった過ちを後悔して、勝手にひとりで顔を青くしている俺。

 

 それに対してナギサはというと、先ほどまでの怒りが綺麗さっぱり消えていて。

 

 なぜか恥じらいで顔を赤くし、視線を色々な方向に向けながら、手を落ち着かないような感じで動かしていた。

 

 

『…………う、ウソは別についていない、というのが問題と言いますか』

 

『? えっと、じゃあ“C”ってなんなんだ』

 

『…………………そ、それは、その』

 

『すっごい気になるんだけど』

 

『…………………え、エッチ、のこと、と言いますか』

 

『なんて?』

 

『っっ! もう、知りません!!!』

 

『え? ちょ、まって!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、回想終わり。噂ではもっと堅苦しいというか、みんなの言葉では神聖化された印象ばかり受ける人たちだったけど。

 

 実際に会ってみれば、ほんとに面白い方々だったなぁ……。あんな感じの人たちとナギサは、あんまり相性は良くないと思っていたけど。

 

 実際に見たかぎり、ソリが合っていたのは間違いないし。なんならすんごい仲良しな雰囲気だった。

 

 

「何を明後日の方向を見てるのですか! 私の顔を見てください!」

 

「はいはい……。よしよし」

 

「ん……なんですか。今日はこれだけじゃ、誤魔化されませんよ……?」

 

 

 そっと触れた髪はしなやかでふわふわ。聞かずとも、彼女がどれだけこの長い髪を大切にしているのか、よく手入れをしているのかが感触から伝わってくる。

 

 ナギサの頬や耳にも指先に触れる。ちょっと高めの体温と、少し力を入れてしまえば壊れてしまいそうな柔肌。

 

 鼻には彼女がよく好んで飲んでいる紅茶の匂いと、花のような優しい甘い香りが感じられる。

 

 

「ふふ……」

 

 

 触れた手のひらに自分の頬を擦りつけてくる彼女の姿に、どうしようもなく心が温かくなる。

 

 お互いに言葉はほぼなく、ただゆっくりと歩きながら触れ合う。ちょっと前までは機嫌が斜めだったナギサは、気づけばもうご機嫌。

 

 もちろん、俺も。好きな女の子と触れ合うなんて、この年頃の男なら誰だって舞い上がるし、嬉しくなってしまうものだ。

 

 いい雰囲気、とは。きっと、穏やかでしっとりとした今みたいなものを言うのだろう。

 

 

「あ、そうだ。よっと」

 

「あ……すみません、ありがとうございます」

 

 

 今日、一緒に帰っている時からずっとナギサが持っていた大きなバッグ。

 

 さっきまでの雰囲気では代わりに持つなんて言えなかったけど、今は平気そうだと自然に彼女の手から取れば、嬉しそうにお礼を言われる。

 

 

「別にいいよ。ん……割と重いけど、これ何入ってんだ?」

 

「あ、明日は……おやすみ、ですよね?」

 

「おう。特にバイトもないけど」

 

「……その、なので着替えとかです」

 

「……あー。そ、そっか」

 

 

 はにかむ表情になったナギサと、出た言葉で色々と察した。俺はまだしも、忙しい立場のナギサが休めるのは珍しく、その機会をわざわざ自分とのために使ってくれているのだろう。

 

 でもって、着替えとかその辺を恥ずかしそうに言ってくると言うことは。まぁ、なんだ。

 

 

「あら。なーんで照れてるんですか?」

 

「うぐ……別になんでもない」

 

「もう……ふふ。日中は寂しかったんですから、夜は私の独り占めにさせていただきますね?」

 

「…………。おう」

 

 

 きゅっと強く握られた手を握り返して、いやに熱くなった頬を撫でる心地よい風に身を委ねて。

 

 自宅への道を雑談しながら、足を進めていく。で、いくつか話題が切り替わったタイミングで、ふとナギサが思い出したように俺のバイトのことを話し始める。

 

 

「まだいくつかバイトをしてるんですよね」

 

「俺、金欠。生活費、稼ぐ」

 

「それは立派なことですが。貴方が生活費以外の何にお金を使っているかは、私も知っていますからね?」

 

「目をつぶっていただいていることに感謝……」

 

「はぁ……。あんまり、えっちなのはダメですよ?」

 

 

 バイトをしている理由は確かに生活費もあるが。俺がお金を使っている先は主に趣味でして。

 

 こっちにくる前からの趣味、そのちょっぴり女の子には言い辛いゲームでね? ははは。

 

 すでにもろもろを知っているナギサは、呆れた顔でため息を吐きつつも理解を示してくれている。

 

 

「別にバイトを辞めてもいいんですよ? 前にも伝えましたが」

 

「それはダメ! そこまで行ったら俺は完全にナギサに依存して、本当にヒモになるから!」

 

それは……それでいいと思うのですが

 

「なんて?」

 

 

 怪しい目つきと表情になったナギサは、一旦置いておくとして。トリニティに来た時と比べて頻度を減らしたとはいえ、金欠バイト戦士な俺は今もいくつかの労働先に勤めているわけだ。

 

 ナギサからは過去に真顔で“私が出しますよ? だからその分、そばにいてください”とか言われたが、それは流石に男の意地がある。と言うか、マジで俺がダメになると思うし、世間の目がとんでもないことになる。

 

 

「シュウさんのバイトといえば……確かすごいお客さんが来た、とかでしたね」

 

「あー、まー、うーん……?」

 

「?」

 

 

 俺の曖昧な態度を見て首を傾げるナギサ。でもって思い出すのは、俺がバイトしている“とあるジャンキーな飲食店”でひょんなことから交流ができた、とあるミレニアムの生徒について。

 

 ちょっと遅い時間で、店には俺ひとり。所謂ワンオペで回していたときに来店した————黄金の髪を持つ美しい少女。

 

 細く、鋭くなった紅い瞳。正確な歳はわからないけど、つい見とれてしまうような美を集めたような貌。

 

 まさに美少女……なんだけど。どこか雰囲気は荒々しく、強者(強きもの)のオーラを纏っているように見えた。

 

 

『————』

 

『————ぁ、えっと……いらっしゃいませ』

 

 

 まずい、お客さんを相手に見惚れてしまった、と焦りながらもなんとか接客。

 

 もらったすごい量の注文を急いで作って提供。で、謎の緊張感があった俺の耳には確かに。

 

 

『————ふむ……悪くない。及第点、だな。ごちそうさまでした』

 

 

 料理への感想と思われる小さな呟きが耳に入って、ひとりでガッツポーズしたのは記憶に新しい。なんか、王様に褒められた気分というか。

 

 

「そのような方がミレニアムに」

 

「うん。言葉にするのは難しんだけど、こう……とんでもない人って感じ、なんだけど」

 

「? 他にも何かあったんですか」

 

 

 言葉の歯切れが悪かった俺をみて不思議そうにするナギサ。今自分の中にある、“あの黄金の人”に対する小さな疑問、これはあくまで直感的に感じたものなんだけど。

 

 

「どっかおっちょこちょいで抜けてそう、みたいな?」

 

「は、はぁ……?」

 

 

 “それだと最初に抱いた印象と真逆ではないですか”。そんなナギサの疑問に、“確かになぁ”と勝手に納得して。

 

 また会うこともあるのかな、なんて漠然とした期待を胸に、夕焼けで赤くなった自宅への道を2人で歩いた。

 

 そんな、ありふれた青春の1ページ。

 

 

 

 

 

 





ほんのちょっぴり他作品さまとのコラボ(の伏線回)だし、素敵なイラストもいただいている特別編でした。

チキ・ヨンハさま(イラスト提供)、兵隊さま(コラボ作品の投稿主)、本当にありがとうございました!!

ナギサさまのイラスト、とっても素敵でした余っ!


・兵隊さまの作品『こちら、世界征服推進部ソロモンである』(ハーメルン)
https://syosetu.org/novel/351988/

・チキ・ヨンハさまのTwitter(X)
https://x.com/TyongeTyon_nise
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