ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
プロローグ:気づいたら歳上のんびりぺちゃんこな先輩で童貞を捨てていた件
違う。断じて、違う。こんなものは俺が求めた青春じゃない。
「私で童貞捨てたくせに……!」
クソ暑い真夏。砂漠にある学園の教室の中。ミンミンミンミンと、うるさいセミの求愛の声が急激に遠くなる。
怒ったように、拗ねたように。でも、なんだか恥ずかしそうな声音。
そして羞恥で顔を歪ませながらも“言ってやったぞ!”みたいな表情でとんでも無い爆弾を落としたのは、目の前のちんまりとした先輩。
いつもほんわかとしていて、“おじさん”を自称する、まだ出会って間もない小鳥遊ホシノという名の少女。
「……は?」
「……はい?」
「……びっくり」
「えぇ……」
耳に入ってくるのは、その小鳥遊先輩の後輩にあたる対策委員会メンバーたちの困惑と、どこか引いたような声。
汗が頬から口元へと落ちていく。暑さのせいだったそれは、今は別のもの。すっごく嫌な汗がじわじわと流れていくのがわかる。
先ほどまでの、わいやわいやとした騒がしい部室はどこにいったんだ? と変に冷静になってしまった俺の肩にポン、と手が置かれてマヌケな声がでる。
錆びた歯車のような音が自分の首から聞こえつつ、顔を横に向けるとびっくりするくらいに“良い笑顔”の先生が目に入った。
「せ、先生?」
「どういうことか、しっかりお話しようね」
「いや……いやいやいや!」
「イヤイヤ期が来るのがおそかったのかな、シュウは」
「とっくに卒業してます!」
変な誤解をかけられて、それで怒られるなんて嫌だ! 必死に何かの間違いだと口を開き続けるが、ずっと向けられている白い目に涙が止まらない。
「そもそも俺、アビドスに来てまだ数週間ですよ!? それこそ、ここにいる人たちとはまだ知り合ったばかりで」
「……出会ったばっかりなのにホシノ先輩に手を出した?」
「ケダモノね」
「シャラップ、シロコさん&セリカさん!」
「必死ですね〜」
「それが逆に……?」
「ノーです、ノノミさん&アヤネさん!」
なんで口を開くほど、弁解をするほどに怪しまれている?
あわあわと四方八方に突っ込んでいるなかで、元凶である小鳥遊先輩と目があった。ここ数週間で見ていた、ほにゃんとした目が半目でじっとりとした目線となっているのはなぜ。
「小鳥遊先輩も変な冗談はやめてくださいよ? 俺たち、まともに話したことも……っ!?」
な、なんだ、背筋が凍ったように寒い……?
「……へぇ。“小鳥遊先輩”で、“まともに話したこともない”ねぇ……?」
「せ、先輩……?」
スクッ、と音もなく立ち上がり、ゆっくりとこちらへ歩いてくる小鳥遊先輩の姿に、自然と足が後方へと下がる。
な、なんか怒ってる? と、気づけばもう目の前に迫った小鳥遊先輩に自然と背筋が伸びてしまう。
「ね、シュウ……くん。なんでよそ見してるのかな?」
「ひゃ……は、はい」
俺と小鳥遊先輩の会話を見守る対策委員たちに目線だけで助けを呼ぼうとしたが、すぐに咎められて、変な声が出てしまった。
冷たい目で俺を見ながら、こそこそと何かを話すシロコさんたちの姿を見なかったことにしつつ、目線を小鳥遊さんに固定する。
何をされるのか、恐怖と困惑の中で小鳥遊先輩が聞いてきた内容は、最初意味がわからなかった。
「左肩に銃創、右太ももの内側にほくろ、あるよね?」
「へ……? え、はい」
「左の脇下に火傷の跡、お尻には切り傷」
「………? ありますけど、それが」
なんですか、と聞こうとしてハッとする。同時に、俺を見ていた彼女たちと先生の絶対零度とも言える視線が突き刺さってきた。
な、なんで……そんなに俺の身体のこと詳しいの……?
言葉につまり、視線を小鳥遊先輩に移すと、そこには。
先ほどまでの不機嫌そうな顔のまま、ほのかに頬を染めて、目線をずらした乙女な顔をしている17歳の女の子の姿が。
「は、え、えと」
「私だって」
「は、はい……?」
「私だって、女の子だから。……はじめてのコトは相手の体と一緒に、ちゃんと覚えてるもん」
ミンミン、ミンミンとあまりにもうるさいセミの鳴き声と、蒸し暑い真っ昼間の教室。
出会って間もない少女からのとんでも無い言葉と、周りから突き刺さるような冷たい視線の中で、俺が言えた言葉は。
「俺は童貞だぁぁぁぁぁ!!!!!」
気が向いたら続くかも。