ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
1:思春期が求めた青春物語と、自称・平凡なトリニティの少女
どかん、ばこーん。そんな爆発音が日常的に響くここはブラックマーケット。
まだお天道様もさんさんに輝き、悪さをするには早すぎる時間の中、少し焦げた服と、黒髪が燃えてより黒くなった頭をした1人の少年が、金髪ツインテールで特徴的すぎる鳥のリュックを背負った少女を抱えて爆走していた。
その後ろを追いかけるのは、ザ・スケバンな格好をした数人のヤンキーたち。何か怒り口調の大声を上げながら、少年たちを追いかけている。
「うわぁぁぁーーん!!」
「ばかたれぇぇぇぇ!!!!」
「ごめんなさいぃぃぃぃ!!!!」
高校2年、16歳童貞・
必ず、この脇に抱えたペロロ狂いをシバかねばならぬと。
シュウにはペロロの良さはわからぬ。だが。
「ブラックマーケットは危ないから1人で行くなっていったよねぇ!?」
「ごごご、ごめんなさいぃぃぃ!!」
何度言ってもペロログッズのためなら、どこにだって突撃する、このおバカのことは、嫌というほど知っていた。
脇に抱えられながらも、器用にこちらへとしがみ付き、涙目&上目遣いで謝っている少女・ヒフミの姿に、普段なら胸がきゅんとするだろうが、今は後ろから追ってくるスケバンたちのせいで、胸がきゅんどころかギュンなのだ。
ときめいている余裕などないわい。
「待てやコラァ! そのトリニティをわたせぇ!」
「ソイツはアタシらの獲物だぞ!!」
「うるせー! しらねー! てか待てっていうなら攻撃やめろ!」
口では待てという癖に、バカスコと銃を乱射してきているし、なんなら手榴弾まで投げてきてるヤンキーたちに、つい口汚く言い返してしまう。
どうしたもんか、とあぅあぅ情けない鳴き声を出すヒフミを横目に、思い出すのはこの自称・平凡な女の子との出会いについて。
神秘が溢れているくせに、無駄に科学が発達した巨大な学園都市・キヴォトスへと、俺が流されて来たのは2〜3ヶ月ほど前。
この場所に来た当初は、それはそれは大変だった。長くなるので色々と端折るけど、変なロボットにいきなり銃口を向けられたり、よくわからんテロリストどもに拉致られたり、果てには”悪そうな大人“、いやしっかり悪い大人の実験に巻き込まれたりと、踏んだり蹴ったり。
そんなこんなで色々な場所を巡って、出会って、保護されて。最終的には、シャーレの先生の元でバイト的なことをしてるのが現状だ。
それゆえに、特に所属している学校もない……あえて言うなら連邦生徒会? だが、俺の処遇やら、入学する学校が決まるまでの間だけと聞いている。
だから、生活費やらを自力で稼がなきゃ行けないから、ちょっとした”なんでも屋“みたいなことをしている。
だって憧れるじゃん、なんでも屋って。字面がカッコいいしね。
話は逸れたけど、そんなわけでシャーレの依頼箱的なものに入ってくるペットの代理散歩や、探し物なんかの簡単な依頼をこなしていた俺だったが、ひょんなことから立ち入ってしまったブラックマーケットで、これまたひょんなことから出会った……いや、巻き込まれたことで交友が出来たのが、阿慈谷ヒフミという少女だった。
どんなふうに巻き込まれたかは、今のスケバンたちに追いかけられている状況を見れば察せると思う。以下、ハイライト。
「うわ〜〜ん!!」
「この声、阿慈谷さん? 追いかけられてるのか……え、なんでこっちに来るんだよ!?」
「ちちちちがうんですよ!? 追いかけられてて……!」
「阿慈谷さんが俺のことを追いかけてくるから、その後ろからアイツらくるんだろ!?」
「え、あ、あぅぅ〜……! ご、ごめんなさいぃぃ!!」
「謝るならどっか行けぇぇーー!!」
とか。
「ヒフミさんや、俺は何回も何回も言ったよね?」
「は、はいぃ……」
「別に好きなものを買いに来るのはいい。けどさ」
「「「まてやこらぁぁあ!!!!!」」」
「俺を巻き込むなぁぁぁぁ!!!!」
「すみませんんんんんん!!!!!」
とか、似たようなことがたーくさんあった。会うたび会うたびヤンキーどもと襲来する(俺の中で)超がつく問題児。
初めは女の子相手だから色々と遠慮していたが、気づけば下の名前+呼び捨てにするくらいの仲、いわゆる腐れ縁になっていたし、途中から巻き込まれるのは、もう勘弁ということで。
「わかった、もうわかったぞ、ヒフミ。ここに来る時は俺に言えば付き合う。だから事前に連絡をくれ」
「え、いいんですか?」
「うん、かまわん。まずはブラックマーケットに行く前に俺へ連絡しろ。途中から”助けてください!"ってだけ、モモトーク投げられても無理だからね?」
「ごめんなさい……でもシュウくん、いつも来てくれますよね?」
「お前が! 本当に危ない時にしか! 連絡しないからだろうが!!!」
「わぁぁぁぁぁ!! 頭ぐりぐりしないでくださいぃぃ〜!!」
「とにかく、どんなにレアなアイテムがあっても、まずは俺を呼ぶこと。わかった?」
「………あはは」
「ヒフミ? ヒフミさんや、目を逸らして何を考えている????」
これが1週間前くらいの会話。そして、冒頭に戻るってね。ばーーーか!!!!
「ゲロ吐きそう」
「ごめんなさい……!」
少し陽が落ち始めたトリニティ近くの公園にて、ベンチに寝そべり、顔を真っ青にしているところからこんにちわ。
ブラックマーケットでの逃走劇のあと、ヒフミを脇に抱えたままトリニティ付近まで逃げて来れた。
気の緩みと、この年頃の女の子としては、意外と身長高めなヒフミを3時間近く抱えて走った俺の体はとっくに限界。バカほど暑いし、しんどいよね。
ベンチの硬さですら心地よく感じるくらいには、疲弊しているようだった。
横に目をやれば、パタパタと手でこちらを、扇いでくれているヒフミの姿が目に入る。
「これお水です、あとこれもおでこに貼ってください!」
「さんきゅー。……いやに準備がいいな」
「こんなこともあろうかと準備しておきました!」
「こんなことになると思っていたな、キサマ」
「あっ、えっと……あはは」
「………」
「あぅぅぅ、ご、ごめんなさい……」
「終わったことだからいいよ。それで、欲しかったものは?」
「あ、はい!無事に!」
しゅんとした顔からペカーっと輝く笑顔に変わるヒフミ。うーん、このペロロ狂いめ。
無事に手に入った限定のペロロさまなるグッズを嬉しそうに語る姿は、年頃の女の子。さっきまでの銃撃戦が蔓延る非現実的な光景から想像もつかないなぁ。
ぽけーっとヒフミのペロロさまトークを聞いていても良いが、硬いベンチだと流石に頭が辛くなって来た。
「よいしょ、と」
「ま、まだ起き上がっちゃダメですよ!」
「大丈夫、大丈夫……え、ちょ、力強っ!?」
肩をくいっと押されただけで、カチカチ木のベンチにカムバックしてしまった。
これもまだ慣れないけど、こっちの世界の子たちはやたら力が強いし、丈夫なんだよなぁ。銃弾を受けて痛いですんでるのを初めて見た時は目玉飛びでた。
「まだ顔色悪いですし、ふらついてます。もう少し休んでください」
「誰のせいだと……?」
「あぅ」
「じょーだん。ごめんて」
「は、はい……」
とは言え、頭が辛いのはどうしたもんかね。と考えながら、頭のポジションをごろごろと変えていると。なにやらヒフミが慌てたように声をかけて来た。
「ご、ごめんなさい!気づきませんでした。頭、辛いですよね?」
「まぁ、ちょっと」
「大丈夫です、任せてください!」
「え、こんなことも想定してたの……ッ!?」
効果音を出すなら、ふにょん。感触はふわり。匂いは柑橘系の上品な甘い香り。
そして眼前に映るのは、夕陽に煌めく薄い金色の糸のような髪と、柔らかい笑顔を浮かべたヒフミの顔。
「これでどうですか? あんまり寝心地は良くないかもですが……」
「……………イエ、オカマイナク」
「カタコト? えっと、どうしたんですか?」
「ナンデモ、ナイヨ」
こてん、と頭を傾げて不思議そうにしているヒフミ。おかしいのは俺の方なのか?
薄々は気づいていたが、キヴォトスに住む女性陣はなんとも距離感がおかしい。
中でもこの少女は特にバグっているのだ。膝枕なんてラブコメの王道シチュエーションを味わえるのは、とっても嬉しいが前後がおかしい。
頭痛い→せや!私の膝を枕にしたろ→そうはならんやろ。
「なっとるやろがい!」
「ひゃ!?」
「あ、ごめん」
「い、いえ……だ、大丈夫ですか?」
「うん……平気です……なんならすごい元気になってます……」
「それなら、よかったです。えへへ」
そう言って自然と頭を撫でられてしまい、照れる。向こうはちっともそう言った意識はないのに、一方的に照れさせられているのは、なんかなっとくいかないけど。
ぽけーっと空を眺めながら身体を休める。時折、ヒフミの鼻歌とどこからか聞こえる爆発音と銃の音。……爆発音と銃の音は余計だな。
とにかく、夕暮れ時の公園でヒフミとは言えど、同い年の女の子に膝枕をしてもらっていると言うシチュエーション。
え、なにこれ。甘酸っぱい。すごく甘酸っぱいよ?
普段のバーサーカーじみたやばい生徒はいないし、近くでドンパチもなければ火薬やら血の匂いもない。
青春。これが青春なのか? とぐるぐる目を回しながら、頭の中でひとり沸騰していると。
「あ、シュウくん」
「……つまりいままでがおかしかったわけで、これが本来の……」
「えっと、シュウくん?」
「え、え?なに?」
「携帯、鳴ってるみたいですよ」
「うぉ、本当だ。ありがとう」
ブーブーとバイブする携帯に気づかずにトリップしてたみたいだ。ヒフミにお礼を言って携帯を取り出すとそこに映し出された名前は。
「先生?」
「え、先生ですか」
「おう。あ、知り合いだっけ」
「えーと……はい。以前に、その……ブラックマーケットで……あはは」
「てい」
「いたいっ!?」
おでこを抑えるヒフミを放っておき、起き上がって電話に出ると、ほんわかした優しい声が携帯のスピーカーから聞こえてくる。
「やぁ、シュウ。今は大丈夫かな?」
「お疲れさまです、先生。とくに何もありませんよ」
「それならよかった。……なにか聞こえるような……?」
「とくに何もありませんよ」
「え?でも」
「何もありません」
横で悶えてるヒフミの口に手を当ててシラを切る。今日、俺はただお使いをしただけの健全な学生。決してブラックマーケットになんて行ってないからね。
「そ、そう? なら良いけど。……ああ、そうだった、シュウ」
「はい?」
「ちょっと、私のおねがい……というか仕事というか……やってもらいたいことがあるんだ」
どこか申し訳なさそうな声音で尋ねてくる先生に内心、ちょっとびっくり。この人、基本的に全部自分でやろうとするし、言い方的に〆切間近の書類とかじゃなさそうだ。
「構いませんけど、今度はどんな?」
「前に話したアビドス高等学校のこと、覚えてるかな」
「はい、あの砂漠のど真ん中にある学校ですよね」
「そうそう。シュウは行ったことあるんだっけ?」
「いえまったく。特に用事とかもないですし」
「うんうん、なら新鮮で良いかもね」
新鮮で良いとは?
「あのね、シュウ。あの学校に体験入学してみない?」
「はい……はい?」
なんかビビるくらい反応来たので、続きを置いておきますね。なおストックはこれで最後の模様。