ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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4:その日、少年はおじさんと出会う

 

 

 

 

「……ぅへへ……」

 

「……」

 

 

 天候は嫌になるほど、太陽が輝く晴れ。普通に歩いている分にはくっそ暑いだけだが、屋上はカラッとした風が程よく吹き、涼しい。そんな場所で、体育で使うマットを敷き布団代わりにして、気持ち良さそうに“くー、すぴー”っと眠っている小柄な少女が目の前にいる。

 

 何となく、じっと見つめてみる。ピンク色の長い髪にぴょこぴょこと動くアホ毛と整った顔立ち、3年生と聞いていたがその年齢に見合わない小さな身体。

 

 ホントにこの人が目的の先輩なのかが不安となり、後ろにある屋上の扉に隠れている4人に確認すべく、指を刺して“この人?”と尋ねる。

 

 セリカさんとアヤネさんは、コクコクと激しく頷き、ノノミさんは両手で大きくマルを作っている。そして、シロコさんはグッと指を立ててサムズアップしていた。

 

 ……うむ、やっぱり勘違いではなくこの人が例の先輩・小鳥遊ホシノさん。先生から聞いたイメージとはちょっと違うが、話してみればまた印象も変わるかな。

 

 眠っている女の子を見ず知らずの男が起こすというのは、絵面的に犯罪臭がするけど、このまま無駄に時間を使うのもなぁ。

 

 恐る恐る無防備で眠り続ける小鳥遊先輩の近くに寄って、足を曲げて中腰になり、声をかけてみる。

 

 

「た、小鳥遊さ〜ん?」

 

「………zzz」

 

 

 ぐっすりですね。しょうがないと、軽く肩を揺すりながら声を掛け直す。

 

 

「小鳥遊ホシノさん〜……? お、おきて〜?」

 

「ん……にゅ……ぅへ……?」

 

 

 すると、一瞬不機嫌そうに顔を歪め、可愛らしいふにゃっとした声とともにうっすらと目が開く。まだ寝ぼけているようで、目がとろんとしたまま、視線が動いている。そして、その目がゆっくりと俺の目とあった。

 

 

「お、おはようございます」

 

「ん〜〜……? ……あれ。キミ、は……ッ!?」

 

 

 初め、俺と目が合った瞬間は、ハテナを浮かべたまま眠そうな顔をしていた小鳥遊先輩。けど、意識がしっかりと覚醒しかけたと同時、片目をギュッと瞑り、片手で頭を押さえて苦しそうな声を発した。

 

 寝起き特有の頭痛かな? と心配して再度、声をかけようとした瞬間、気づけば俺の視界に映ったのは真っ青な空。

 

 

「は、え……?」

 

 

 何が起きたか、それを認識するまで数秒くらいかかった。お腹の辺りに違和感を感じて視線をそちらに向けると、小鳥遊先輩が左右で違う色をした瞳を鋭いものに変えてこちらを睨み、マウントを取るように俺の体を組み伏せていた。その力はあまりにも強くて、彼女の強い警戒を感じ取る。

 

 けれど、急に起きた目の前の事象、それは俺を混乱させるには十分で、何も言葉を発せずに困惑するしかなかった。そんな状況下で、先に口を開いたのは、当たり前だが小鳥遊先輩。

 

 

「お前は、誰。なんでここにいて、その制服を着ている?」

 

「え、と。俺は……」

 

 

 みんなから聞いていた話と違うんだけど!? めちゃめちゃキレてるんですが!? とパニックになりながらも、何とか会話をしようと口を開くが、体は思ったように動いてくれない。ギラついた視線の中で俺の体は極度に緊張していて、まともな返答ができない。

 

 冷静に考えて見ず知らずの男子が寝起きで側にいたらこうもなるよな、なんて他人事のように考えてしまっている自分がいるが、そんなのは現実逃避でしかない。まずは怪しいものではないことを伝え、そして謝るのが1番いいはず。そう思考をまとめる。

 

 その中で不意に、また小鳥遊先輩が俺を押さえ付けている手と反対の手で、頭を押さえて苦しむような表情と声をあげる。

 

 

「ぅ、ぐ……」

 

「あの、大丈夫、ですか?」

 

「……何、これ」

 

 

 グッと押さえ付けられていた力が急に緩む。視線を自身の腹に向けると小鳥遊先輩が手を離したのを確認できた。そして、再び視線を彼女の顔に向けるとそこには。

 

 

「…………ぇ。あ……なんで……?」

 

「……へ?」

 

 

 困惑、戸惑い、不安。それらの感情をぐちゃぐちゃに混ぜたような顔で、今にも泣きそうになった小鳥遊先輩が目に映る。それを見て、さっきまでとはまた違った混乱を起こしかけたが、その場に後ろで様子を見ていた4人が慌てて駆けつけてくれた。

 

 

「ストップ、ホシノ先輩ストップ!」

 

「その人は怪しい人じゃありません!」

 

「先輩、どうどう」

 

「シュウくん、大丈夫ですか?」

 

「え、ああ。うん」

 

 

 ノノミさんに体を起こされて、気の抜けた返事をしてしまう。一瞬、視線をノノミさんに移すがすぐに小鳥遊先輩の方へと顔を戻す。

 

 シロコさんたち3人が落ち着いて、と声を掛け続ける小鳥遊先輩の表情は、先ほどまでの真っ青な顔色からマシなものになっていたが、まだ困惑したままのようで、ちらちらと俺の顔を何度も見ていた。

 

 その後、4人が俺のことについて小鳥遊先輩へと説明するからと、言われた。なので、先に対策委員の部室へと戻ることにしたが、やけにさっきの困惑した先輩の顔が脳裏に残り続ける。

 

 何かしてしまったのだろうか、いや、やったけどさ……なんて言い訳がましいことを思いながら、不安を胸に抱き、部屋で待機していると。

 

 

「やぁやぁ。さっきはごめんね〜〜」

 

「はぇ?」

 

 

 なんて、俺を押し倒した時の表情と180度違う、ほにゃっとした顔と声音で部屋の中に登場した小鳥遊先輩。

 

 “ごめん!”とか、“ここまでびっくりされるとは思いませんでした”なんて、みんなに謝られながら、ようやくアビドスの生徒全員と顔を合わせることができた。

 

 ただ、ひとつだけ気になることが残ってしまった。それは。

 

 

「……」

 

 

 表情や口調は柔らかいものになったが、目線だけは何かを見通すように鋭いままの小鳥遊先輩の姿。他の子と喋っている最中も、自己紹介をした時も、そして解散する直前まで。あの目でずっと俺のことを見続けていた。

 

 その姿がやけに気になって、それでいて嫌に心がざわついた。

 

 

「どうなるんだろ、俺の学校生活……?」

 

 

 

 

 

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