ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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ホシノ以外のアビドス組や先生、ヒフミたちとのお話は番外編にて。


5:悪い大人と良い大人との出会いの話。ついでに、童貞を捨てた(ことになっている)俺

 

 

 

 

「クク……目が覚めましたか、シュウさん」

 

「……バケモノ?」

 

「随分と辛辣な物言いですね」

 

「ふぅ……」

 

「夢ではありませんよ」

 

 

 パッと目が覚めて最初に映ったのは、顔全体に亀裂が走る全身を黒で染め上げた喋るバケモノ。あ、これ夢かな、なんてもう1度目を閉じるが、すぐに近くから黒スーツのお化けからの声が聞こえて、恐る恐る目を開ける。

 

 

「え、なに、ドッキリ?」

 

「ふむ、まだ混乱しているようですね。何が原因でしょうか」

 

「アンタが原因ですけど???」

 

 

 これが俺こと、由九咲シュウがキヴォトスで最初に出会った外の世界と明確に違う異質なモノとの邂逅の記憶。

 

 ごく普通の生活を送り、いつものように自室で眠ったはずの俺は、次に目が覚めたら真っ黒な部屋の中で目が覚めたってわけ。意味わからん。

 

 そこからはまぁ、色々とあったよ。身に覚えのない契約書を盾に、変な実験をたくさんされた。でも、別に身体をぐちゃぐちゃにされるとか、頭の中身を弄られるみたいなのは無く、ランニングマシンで走らされたり、血を抜かれたり、身体検査をされたりと言ったものが主だった。

 

 実験動物にさせられた気分だったが食事は出るし、ある程度の娯楽は、黒服と名乗ったあのバケモノから支給されていたし。拉致されたという点を除いて、特に支障はないのが逆に不安にもなった。あの1週間くらいの生活で不満点を挙げるとしたら、それくらいかな。

 

 あ、いや。もうひとつ。あの黒服とかいうのが、やたら俺と会話をしたがる点は奇妙で怖かったかも。

 

 やれ、“貴方には素晴らしいものが宿っています。……弱すぎる火である点はマイナスですが”とか、“この部屋は気に入ってくれていますか?”とか、“クク……ここは私にとっても特別でして。今の私が始まった場所でもあるのですよ”みたいに、ほぼ毎日、俺の部屋に来ては雑談をしていた。なぜかお菓子とコーヒーを片手に。

 

 時折、よくわからない単語とかが混ざったりして、頭にハテナが浮かんでいたが、全く知らない場所に連れてこられて唯一話せる相手がいるというのは、俺としても少しありがたくて。……今になって思えば、とんでもないことなんだけど、黒服のことを良い人なのかも、なんて心情になってたんだ。

 

 だから、気づけば最初にあった警戒感は薄れていってしまった。でも、そこから少しして本当に“良い大人”が俺をそこから連れ出してくれたんだよ。

 

 

「こんにちは。シュウくん、であってるかな」

 

「ど、どうも?」

 

 

 まぁその人、俺のいた部屋の壁を物理的にぶち破って入ってきたもんだから、初対面の黒服と同じか、それ以上に警戒しちゃったんだけどさ。

 

 

 

 

 

「——ってのが、俺が最初にキヴォトスに来た時の話だよ。ほんの数ヶ月前のことだけどね」

 

「「「「……」」」」

 

 

 アビドス高等学校に入って少し。まだ3週間ちょっととはいえ、一緒に日常を送ったというのもあって対策委員会の子たちとも仲良くなり始めていたシュウ。

 

 この僅かな期間でも、この学校の借金を巡って色々と巻き込まれたわけだが“ともに苦労する”、というのは距離を縮めるのにはピッタリだったみたいで。もう友だちと言っても過言ではないくらいには、交流を深められた。

 

 何があったかは詳しく話すと長くなるので、何個かだけ例を挙げると。

 

・柴関ラーメンでキャピキャピ! 荒稼ぎの巻。

・ん、コンビニに立て篭もる。シュウは縛られて。

・やはりアイドル、アイドルは全てを解決する。

 

 みたいな感じ。良くもまぁこの短期間でこんだけのことが起きるよなぁ。今から元の世界に戻っても、退屈な日々になりそう、なんて思うのは、毒されてきているからなのだろう。

 

 ま、そんなこんなで今日も今日とて対策委員会の部屋で雑談をしていたわけだけど、その中で“シュウは先生とどうやって出会ったのか”と話題を振られたもんだから、普通にここに来た時のことを話した。そしたら、この空気である。

 

 なぜかみんなピリピリしたり、苦虫を噛み潰したような顔をしている。……小鳥遊先輩だけは、フラットな真顔だけど普段の先輩を知っていると、それが逆に怖いね、ははは。

 

 

「な、なんだよ?」

 

「別に。またアイツの名前を聞くと思わなかっただけだよ」

 

「え、みんな黒服さんのこと知ってるの?」

 

「ふふふ、あんな大人に“さん”付けなんて必要ありませんよ〜」

 

「笑顔なのになんでそんな圧を出せるの……?」

 

「ホシノ先輩にしたことを思えば当然」

 

「シロコ先輩の言うとおりです!」

 

 

 もの凄いおこですね、みなさん。どうやら黒服さんとの間に何かあった模様。それについて気になるが、聞いても良いものなのだろうか、と察するにこの話の中心点にいるであろう小鳥遊先輩の顔をチラリと確認すると、目がピッタリと合ってしまう。……気まずい。

 

 そんな俺の心情を察してから、表情が和らげた小鳥遊先輩が“別に終わったことだしね〜”と笑いながら、彼女たちと黒服の間にあった物語を聞かせてくれた。

 

 カイザーコーポレーション、子どもから搾取する汚い大人とそれに抗う小鳥遊先輩のお話。淡々と語っているようで、どこか後悔のようなものも感じる口調で、彼女たちが戦ってきたこれまでのことを静かに聞く。

 

 

「——って感じで、間抜けなおじさんが悪い大人に騙されちゃってね。それでみんなと、先生が助けてくれたんだ」

 

「……」

 

「あの時は大変だった。ホシノ先輩、勝手に退部届だけ残すし」

 

「退部届が見つかる前は、シロコ先輩とホシノ先輩が微妙な空気感でしたね……」

 

「もうあんなことしちゃダメですよ〜」

 

「うへぇ、ごめんってばぁ〜」

 

「もうホントによ! だからシュウ先輩もあの大人には気をつけること!」

 

「……」

 

「シュウくん?」

 

 

 話を聞いて黙ったまま、反応をしない俺を心配したのか、珍しく小鳥遊先輩の方から声をかけられた。

 

 俺の中にはなんとも噛み合わない疑問点があり、反応が遅れてしまう。そして、思ってしまった疑問をそのまま口に出してしまった。

 

 

「あ、いや。俺の知っている黒服さ……黒服とは随分と印象が違うなーと。そこまで悪い人には……?」

 

 

 癖でさん付けしようとしたら、鋭く睨まれて修正したものの、俺の言い分はみんなを不機嫌にさせてしまう。

 

 

「今の話を聞いて、よくそんなふうに思えるわね……?」

 

「いや、違うんですよ、違うからそのぎゅっと握りしめた拳を下ろしてセリカさん……? なんで首に腕を回して締め上げるのおおおっ!?」

 

 

 プルプル震えて怒るセリカさんからチョークスリーパーをかけられて必死に逃げようとしていると、その間に入ってくれる小柄な影あり。

 

 もちろんそれは小鳥遊先輩。“まぁまぁ”と仲裁しながら、庇ってくれる。それに感謝を伝えようとしたが、それよりも先に俺の方に振り返った小鳥遊先輩。

 

 

「でもダメだよ、シュウくん」

 

「へ?」

 

「大人っていうのはね、良い人もいるけど大半は悪人ばっかり。おじさんはたくさん騙されてきたから、シュウくんにはそんな目にあって欲しくないんだ」

 

「は、はぁ」

 

「特に黒服、アイツは絶対にダメ。おじさんはアイツに2回……3回も騙されてるんだ。だから、信用とかしちゃホントにダメだよ」

 

 

 口調は優しいが内容と目がとても厳しいものになっている小鳥遊先輩。最初、ちょっとだけ何かを言い返そうとしたが、こんな悲しそうな顔で言われたら何も言い返せない。

 

 確かに俺を攫った時点で悪い人ではあるし、長期的に加害者と被害者が一緒にいると、変な関係性になるって話も聞いたことあるような?

 

 

「わかりました」

 

「うん、ならこの話はおしまい。ほーら、セリカちゃんもシュウくんから離れて戻る戻る」

 

「わ、押さないでよホシノ先輩!」

 

「いーからいーから。このあと先生も来るんだし、準備しないとね」

 

「す、すみません。助かりました」

 

「いーよ。でも、あんまり女の子と簡単にベタベタしちゃおじさん、また怒っちゃうからね」

 

 

 今のは俺も悪いんか? なんて異議を申し立てようとしたが、あの目で見られてそっと身をひく。最近はあまりなかったけど、時折あの時と同じ、出会ったときの鋭い目で睨まれることがある。

 

 それを見ると不思議と何も言えなくなってしまうのは、きっとどこかで小鳥遊先輩のことが怖いと思っているから、なのかな。

 

 ひとまずいつも通りの空気感に戻り、このあと来るという先生へ渡す資料をまとめながらのおしゃべりに戻った。

 

 

「先生、最近また忙しそうだけど何してるんだろう」

 

「私は特に聞いてません。シュウ先輩は何か知っていますか?」

 

「そういえばシュウくんは、元々シャーレに居たんですもんね〜」

 

「一応知ってるけど、なんかゲームを作ってる? とかなんとか」

 

「ゲーム?」

 

「うん」

 

 

 ちょっと前に連絡を取った際に聞いた話によると、ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部なるところで、困っている生徒を助けているとかなんとか。で、なぜかゲーム作りをしているみたいな話を聞いた。

 

 どうして生徒を助けるためにゲームを作る必要があるのかは知らんけど、なんて先生の話題で喋っていると話題の中心人物が、ちょうど部室内にやってきた。

 

 

「こんにちは、みんな。今日も暑いね」

 

「あ、先生」

 

「お疲れ様です、先生」

 

「こんにちわ〜」

 

「遅かったけど、何かあったの?」

 

「やぁ〜、待ってたよ」

 

「ちょっと電車で。待たせちゃってごめんね」

 

「特に何もしてなかったですよ。資料をまとめながら雑談してただけだし」

 

 

 な? とみんなに聞けば、ひらひらと手を振ったり、そうね、なんて応えてくれる。それを見てにっこり笑顔なのが先生。

 

 

「うんうん、ちゃんと仲良くやれているみたいで、安心したよ」

 

「俺、そんなに不安な生徒ですか?」

 

「基本は良い子だけど、たま〜〜に悪い子になっちゃうから」

 

「う……うす」

 

「ふふ、心当たりあるみたいだね」

 

「え、なになに。シュウ先輩、先生を怒らせたの?」

 

「ん、すぐに白状して話すべき」

 

「ええい、この野次馬根性丸出しのおバカども! 特に変なことはしてないし、怒らせてもない!」

 

「へぇ、私のこと怒らせてないって思っていたんだ。シュウは」

 

「違うんです先生」

 

 

 そこからはもう、わいのわいのキャッキャという感じで、元から騒がしい対策委員会の部室がより賑やかになった。

 

 先生が俺のやらかし話をするとそれは楽しそうに聞くみんなに、無の感情で耐え続ける。気づけば、さっきまで寝てた小鳥遊先輩まで起きて楽しそうに話を聞いている。

 

 先生の話がちょうど、俺とヒフミのものになったとき、“あ、そうだ”と先生が何かを思い出したように何かが入った袋を手渡してきた。

 

 

「これは?」

 

「ヒフミからシュウにって。ちょうどアビドスに行くって話をしたら、渡してほしいって頼まれたんだ」

 

「なんだろ」

 

 

 持った感じは結構軽めで、大きさもそこまでのものじゃない。ガサゴソと開けていると気になったのか、横に座っているシロコさんが覗き込んでくる。

 

 気にせず中身を取り出してみると、白くて丸っこいものが出てきた。……いやこれ。

 

 

「ペロロの小さなぬいぐるみ?」

 

「モモフレンズ。ヒフミが好きなキャラ」

 

「うん、そうなんだけど、なんで俺に……」

 

「シュウ先輩、それは?」

 

 

 対面に座っているアヤネさんが指差すところを見てみると、これまたペロロがデザインされた封筒が。なんだ、お手紙?

 

 

“シュウくんへ

 

アビドスへの転入おめでとうございます。お祝いにペロロさまのぬいぐるみをお送りします。

転入したばかりで大変だと思いますが、落ち着いたらまた一緒にペロロさまグッズ巡りに行きましょう!

それとアビドスの皆さんにもよろしくお伝えください。

 

ヒフミ”

 

 

 つまりこのぬいぐるみはプレゼントか。わざわざ手紙じゃなくても、モモトークで送ってくれれば良いのに、律儀だなぁ。

 

 と手紙を読み終えて顔を上げるとみんなに注目されていた。……あぁ、手紙の内容が気になるのかな。

 

 

「なんだって?」

 

「アビドスへの転入祝いだって。あとみんなによろしくとも書いてあったよ。……にしてもペロロのぬいぐるみかぁ」

 

「ヒフミの好きなものだね。シュウも好きなの?」

 

「先生、それ本気で言ってます?」

 

「だってシュウ、ヒフミとすっごい仲良しだから」

 

「ん、まぁ……そうですね。でも」

 

 

 だからってペロロが好きってわけじゃない、と言葉を続ける前にポツリとノノミさんが一言、呟く。

 

 

「そう言えばシュウくん、ヒフミちゃんのこと呼び捨てですね〜?」

 

「シュウ、最初は距離感が遠くて苗字呼びするのに、名前を呼び捨てはめずらしい」

 

 

 ノノミさんのそんな一言に追撃するかの如く、余計なことを言ってくれやがったな、シロコさんや。

 

 

「確かにシュウ先輩、頑なに敬称を外しませんよね。私たちのこともずっと“さん”付けですし」

 

 

 みんなの視線が一気に俺に集まる。その瞳にはすっごく見覚えがあった。中でも、好奇心がキラキラと宿った目で興奮したように俺を見るセリカさんと視線がぶつかる。

 

 あ、なんか嫌な予感。

 

 

「え、なに、そういうこと!?」

 

「ないない。ただの友だちだよ」

 

「でも、ヒフミに膝枕されてたよね」

 

「「「わぁー!」」」

 

「ん、青春」

 

「…………」

 

「みんなもそう思うよね!」

 

「先生? ねぇ、なんで火に油注いだの??」

 

 

 女の子がたくさん集まればなんとやら。今日イチの盛り上がりを見せる目の前の5人にふと違和感。そう言えば、小鳥遊先輩だけ静かだな、と様子を見ると。

 

 

「………………」

 

「!?」

 

 

 真顔。感情を全て消し去ったかように、能面のような顔でじっと俺のことを見つめていた。でもわかるぞ、あれは真顔じゃなくて、ものすっごく不機嫌で怒っているときの顔だ。でも、何をそんなに……?

 

 中心にいる小鳥遊先輩以外の5人はもうキャッキャしてるのに、ひとりだけあんなにどんよりしていたら、逆に視線が行ってしまう。てか、みんな気づいてないの? と内心でヒヤヒヤしているとセリカさんから声がかけられる。

 

 

「で、どうなのよ!」

 

「へ? えっと……何が?」

 

「おふたりの関係です!」

 

「友だちだけど」

 

「でもそれだけじゃない。そんな匂いがする」

 

「シロコさん?」

 

「普通、ただのお友だちなら膝枕なんてしませんよね〜」

 

「ノノミさん、先輩に結構してない?」

 

「それは同性だからでしょ?」

 

「すっごく簡単に逃げ道潰しますね、先生」

 

「あ! 逃げ道って言った!」

 

「言葉のあや!」

 

 

 あー、この空気感。外の世界でもあったなぁ……。誰と誰が付き合ってるーみたいな。聞いてる側は楽しいから、すごい気持ちわかるけど。うーん、小鳥遊先輩のことは気になるけど、まずはこっちをどうにかしなきゃか。

 

 ひとまず、やたら聞かれたヒフミとの話をしていく。出会いから呼び捨てになった経緯までを簡単に。それを話せば話すほど、楽しそうにしてくれるのは構わないが、誤解は解かないといけない。

 

 

「ヒフミ、可愛いもんね」

 

「ペロログッズが関わってなければ、普通に美少女だな」

 

「……」

 

「グッズのためとはいえ、カップル専門のメニューまで頼んだんですよね?」

 

「それはグッズ目的だからさ」

 

「…………」

 

「何も知らない人が見たらカップルですよ〜?」

 

「気をつけます……」

 

「でも、ヒフミに呼ばれたら飛んでいくでしょ、シュウは」

 

「? そりゃ行きますよ、また何かに巻き込まれてるでしょうし」

 

「すっごく仲良しじゃない」

 

「ま、まぁ。ヒフミとはこっちで最初に会った子だし」

 

「…………っ」

 

 

 あれ、口を開くほど誤解が広がってないか。というか、当たり前のように委員会メンバーに紛れて、先生まで質問しているのはなぜ。女の子なら気になるもの? なるほど。

 

 一通り、彼女たちが聞きたかったことには応えられたようで、少し落ち着いた様子に。これにホッとした瞬間、“あ”と声をあげて小鳥遊先輩の方へ声をかける者あり。

 

 

「あれ、ホシノ先輩は聞きたいことないの?」

 

「ちょ! セリカさん!?」

 

「何よ?」

 

 

 時すでに遅し。話題を振られた小鳥遊先輩の方を恐る恐る見ると。

 

 

「んー……」

 

「あれ?」

 

 

 いつもの表情に戻り、机に肘を置き、頬に手を当てて何かを考えるように視線を上に上げていた。さっきまでのは俺の見間違い?

 

 

「そうだねぇ。……なら1個だけ」

 

「?」

 

「ヒフミちゃんのこと、好き?」

 

「わ、ストレート」

 

「直球ですね……!」

 

 

 なんか変な野次馬も増えたが、どうなの? とただ静かに答えを待つ小鳥遊先輩に、当たり前のことを答える。そりゃ、仲良い友だちだし。

 

 

「そりゃ好きですけど」

 

「……そっか」

 

「やっぱりそうなのね!」

 

「アオハルだね〜、若い子はいいなぁ」

 

「いや、だから——」

 

 

 友だちとして、そう俺の口から言葉が出るよりも早く、カタンと椅子が後ろに倒れる音がした。俺を含め、みんながなんだなんだと視線を音の方向に向けると、そこには“私は不機嫌です”と顔に書いたような表情をした小鳥遊先輩の姿が。

 

 

「ホシノ?」

 

「ホシノ先輩、どうしたの」

 

 

 普段は全く見せないような表情をした先輩の姿に驚くみんな。もちろん、俺もそこに含まれていて咄嗟に声をかけようとする……が先に小鳥遊先輩の口が開く。

 

 その時の俺の胸の内は、ただどうしたのだろうか? という疑問だけ。そんな俺に対して。

 

 

「私で童貞捨てたくせに……!」

 

 

 真っ直ぐとこちらを見て、とんでもない爆弾を投下するとは夢にも思わないじゃんね。

 

 え? 俺、小鳥遊先輩で童貞捨ててたの?

 

 

 

 

 

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