ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
ながーーーーいプロローグはここで終わり。次回からようやく本筋に。
「私で童貞、捨てたくせに……」
「俺は童貞だぁぁぁぁぁ!!!!」
まさに、魂の奥底から出た叫び。
16年と何ヶ月か。俺がこれまでに歩んで来た人生の中で、1番の咆哮ともいっても過言ではない叫び声が、小さな部室で響き渡る。
くっそ暑い真夏の砂漠にある学校で、俺だけが極寒に立たされている現状。
それをどうにかするには、根本から否定するしかないと"""男の恥"""をバカでかい声で叫ぶ。
これに呆気を取られてポカンとした先生たちを見て、なんとかさっきまでの空気が消えたことに安堵し……。
「キス、したくせに」
「ダメって言っても、首に跡つけたくせに」
「壊れるくらい、私のこと抱きしめてきたくせに……!」
自分の身体を守るようにギュッと抱きしめて、より顔を赤くして、視線を完全に逸らし、ちょっぴりの涙目。
……蚊の鳴くような小さな声なのに、言われたもの全てがさっきの自分の魂の叫びよりも強く響いていた。
……………………………………。
「「「「「……うわ」」」」」
「ちがぁぁぁぁぁぁう!!!!!!」
みんなからの女の敵を見るような視線と、逃げるように一歩下がった姿に、全身を震わせながら否定する言葉を発する。
俺は何もしていない、それを堂々と宣言した。そう、俺は何もしていないと。
あまりにも必死過ぎる俺(童貞)の叫びに、少し疑問を浮かべるみんな。そしてその視線は俺から小鳥遊先輩に移る。
それは“確かにコイツ(俺)と先輩が?”とか、“流石にそこまでの仲じゃないよね”みたいなものを感じ取れる。
やはり、絶叫。絶叫による主張が正義。
「俺は! 童貞! だ! そもそも証拠とか……ない!!」
でも、それが効くのは先生たちだけのようで、視線を外していた小鳥遊先輩が俺の発言を聞いて、再び真っ赤な顔をより赤くしてキッとこちらを睨み口を開く。
「シュウ……くんは耳が弱い! 責めるより私に責められる方が好き! でも……私が余裕なくなると大きくなる!」
「おいおいおい、まてまって、ちょっと!? なんてこと言うんだ!!??」
「どうなの⁉︎」
「……………み、耳は弱いですが」
「……舐められるのも、好きじゃん」
「まって、一回待って、ステイ。いやホントに。……なんでそんなに俺の癖に詳しいの!?」
「それはっ……その……いっぱい、シたし……」
「複数回⁉︎ 俺、そんなにいっぱいシたんですか⁉︎」
「……1回で、たくさんシた……よ?」
「絶倫!! 俺凄い!!!???」
マズイ、すっごくマズイよこれ。
身に覚えのないはずなのに、俺は否定しているはずなのに、小鳥遊先輩の言葉はイヤに説得感がある。
だって、俺も“確かに……”ってなってるんだもん。
ここに来て1回も話したことのない俺の体のこと知ってるし、それこそ隠しておきたい癖……ちょっとだけMなこととか知ってるし!
え、ええ? 俺、ホントに小鳥遊先輩のこと抱いたの??
いや、そんなはずないよな? だって俺は童貞だもんな!?
「は、ははは、砂埃がパーって光ってる……砂金かな? いや違う、違うな! 砂金はもっとビカビカにきらめくもんな!」
「シュウ先輩、おかしくなってません?」
「ん、キャパオーバー。目が正気じゃない」
「対してホシノは……」
「ぅ……うぅぅぅ……うぁぁあああぁ……っ」
「ホシノ先輩もキャパオーバーですねっ! お顔真っ赤で目がぐるぐるしてます〜」
「外野の私たちからすると、聞きたいことたくさんあるんだけど、1回休憩させた方が良さそうね……」
あはは、暑苦しいですねぇ、ここ! ちょっと出してくださいよぉ!!
数十分後。水を飲まされ、落ち着きを取り戻した? 俺と小鳥遊先輩は椅子に座らさせられていた。
いや、正確に言うと俺だけ椅子の上で正座なんだけど。
その対面には、他の対策委員の子たちと先生が座り、こちらをじっと見つめていた。
なんだろ、本当に心当たりないのに“あれ、俺ヤっちまったのか?”と感じ始めている今日この頃。皆様はどうお過ごしですか?
頭を抱えて消えた記憶が無いかを必死に思い返していると、こほんという咳払いと共に先生が口を開く。
どうやら、みんなを代表して先生が喋るようだ。
「落ち着いたかな、シュウ。ホシノも」
「は、はい」
「……うん」
落ち着いたとは言え、先ほどまでの取り乱しと叫んだ内容に恥ずかしさを覚えている様子の小鳥遊先輩の顔はまだ赤い。
俺? 俺は全身に氷水を浸してるんじゃないかってくらいに真っ青よ、ははは。
「何笑ってるの、シュウ」
「いえ、ちょっと辞世の句を考えていまして。ははは」
「はぁ……」
びっくりするぐらい大きなため息をしながら、手を頭に当てて呆れた顔をする先生。
そりゃ生徒が不純異性交遊してたかもだから、頭も抱えるか! ガハハ!
「いい加減、現実に戻ってくる」
「はい」
「……むぅ」
「ホシノもこっち見て」
「……うん」
本当の意味で、ようやく場が静まる。そこからは1個ずつ、先生が質問して俺と先輩が答える形に。
「まずは確認だけど、ふたりはお付き合いしてるの?」
「してないです……してないよな、してないはず……」
「……してないよ」
あ、そこに認識の違いはないのね。
「私の、一方的な想い、だから……っ!」
「わ、恥ずかしそうに“顔プイッ”ってしたわよ……!」
「ん、今まで見たことのない先輩の姿」
キャッキャしてる外野の声に、チラリと俺も先輩の姿を隠れて見る。
こちらからでは顔は見えないけど、耳が真っ赤になっているのが見えて、こっちの方まで恥ずかしくなる。
経緯とか、ここまでのことは一旦置いて、今の言葉から、小鳥遊先輩は俺のこと、その……。
「ホシノ、シュウのこと好きなの?」
「俺が聞き辛いことを的確に質問するぅッ!?」
「お黙り」
「はい」
俺は、弱い……と打ちひしがれている中で、小さく頷く小鳥遊先輩の姿に、より照れてしまったのはナイショ。
「ならシュウは?」
「はぇ?」
「はぇ、じゃなくて。ホシノのこと、好きなの?」
「そりゃ好きですが」
「っ……っっ! ぅう……」
「友だちで先輩としてね!?」
俺が言った“好き”と言う言葉を、あまりにも嬉しそうに、噛み締めるようにする小鳥遊先輩の声と表情を見て、自分でも驚くくらいの速度で補足を入れた。
外野からのブーブーとか、勘違いさせるなー! なんて言葉は全く聞こえない。……聞こえない!
「なら、本題だけどさ。ふたりは、その……シちゃったの?」
「ノー!」
「…………うん」
「そっかぁ……」
「ノー!! ノー!!!」
「シちゃったものはしょうがないけど」
「あれ先生、俺の声聞こえてません?」
「それは最近? ホシノ、シュウと出会ったばっかりだよね」
「もしもーし! ノックして、もしもーし!!」
「うるさいよ」
「はい」
ゴンゴンと机を叩いて自己主張すると、真面目な顔で怒られてしまった。俺に味方はいないのか?
「シュウの言い分も聞くけど、今はホシノに聞いてるから。私も、シュウのことは信頼してるし、信じて……うん、信じてるよ」
「今の間について詳しく聞きたいんですが」
「で、ホシノ。どうなの?」
無視ですか、そうですか。
俺の相手をしていたら、らちが明かないと判断されたようで、完全に視線を小鳥遊先輩のみにして、話を進行される。
とは言え、今先生が聞いていることは俺もすごく気になる。仮に俺が卒業していたとして、それが自分の知らないところなんて嫌すぎる。一生に一度だぞ、童貞卒業。
小鳥遊先輩がなんと答えるか、それはみんなも気になるようで、キャーキャーしてた外野もシーンとして、先輩を見ていた。
その中で、小鳥遊先輩は……え? ん? なんで、そんな泣きそうな顔してるんです?
「……言いたく、ない」
「それは、なんでかな」
「……」
顔を伏せて、完全に黙り込んでしまう先輩の姿に、先生たちもどうしよう、と困った顔になっている。
もちろん、それは俺も同じで先生たちと先輩を交互に見るしかなかった。
そんな時、パッと先生と視線がぶつかる。
「シュウは身に覚えないんだよね」
「え? あ、あぁ。はい」
「うーん……でも、さっきホシノが言ってたことに身に覚えはあるんでしょ」
「言ったこと?」
「キミの体の傷とか、度し難い性癖とか」
「度し難い……?」
「真面目な話」
「俺も真面目なんですが……まぁ、癖とかは置いておくとして、確かに先輩が言ってた傷とかは、あります」
「それは、その……あの時の?」
「概ねは。でも、ほくろとかは生まれつきです」
少し怒ったように、それでいて聞きづらそうにする先生に少し苦笑い。まだ黒服にされた実験の傷跡のこと、気にしてるのかな。
その俺の答えを聞いて、そっか、と言葉をひとつおき。
「うん、ちょっとこれはムリかな」
「放り投げました?」
「そうじゃなくてね。まだシュウとホシノがしっかりと話し合えてないから、いくら私たちを交えても、何も結論がでないなって」
「そりゃ、まぁ」
俺も突然言われたことですし。
「だから、シュウからホシノに聞きたいこととかない? 本当に心当たりがないなら、色々と疑問があるじゃないかな」
「えっと」
「…………」
ちらり、と横を見れば同じくこちらを見ていたのであろう先輩と視線がぶつかった。
……聞きたいこと、聞きたいことはたくさんある。
いつシちゃったのかー、とかそもそもなんで俺のこと好きなのーとか。
たくさんの疑問がある中で、ひとまず最初に気になったことは確か。
「なんで急に、あんなこと……その、”私で捨てた“って言ったんです?」
「ぅ……」
そもそもの発端である、小鳥遊先輩の発言。俺からすれば、唐突すぎるあの言葉が出た理由。
他にも聞きたいことはいっぱいあるけど、中でも、俺はそれがすごく気になっていた。
気まずそうに、そして恥ずかしそうにまた目線をずらされてしまう。
でも答えてくれる気はあるようで、チラチラとこちらを見てから、ゆっくりと口を開いた。
「その……シュウ、くんがさ。ヒフミちゃんのこと……好きっていった、から」
「……………?」
「私と……とか……とかしたのに。他の子に好きっていったから、その」
「え?……んん?」
言葉をひとつ呟くたびに、落ち着かないように、スカートを握りしめたり、胸に手を当てたりしながら、顔を赤くしていく小鳥遊先輩。
言いづらそうに、ひとつずつ聞いた言葉を噛み砕くと。
俺とヒフミが仲良さそう。
俺とヒフミが付き合ってるかも。
男女の仲なのかもしれない。
その言葉を聞いて、カッとなり言ってしまったということでして。
とどのつまり。
「え、と。勘違いだったり、思い上がりだったらすっごい恥ずかしいんですけど」
「ぅ……うぅ……」
「し、嫉妬、的な……?」
「うぅぅぅぅ……!!!」
ぽかん、とあまりにも優しすぎる猫パンチを繰り出してきた小鳥遊先輩。
その姿に呆気に取られて、思わずデリカシー皆無で俺自身、この瞬間に言うべきではないとわかる言葉を発してしまう。
「独占欲、でちゃいました、ってこと?」
「っ……!! ばかぁぁぁ!!!」
これ以上に赤くなるのか、そう思わせるほどに顔を真っ赤にして、叫ぶ小鳥遊先輩の姿に。
「……え、俺のこと好き過ぎませんか?」
と、言ってしまった俺は悪くない。絶対に。