ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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感想返せてなくて申し訳ないです。ありがたく全て読ませてもらっています!
時間ができた時とかにちょこちょこ返します……!

今回のお話は長くなったので、前後編にわけています。ようやく異変の始まり始まり。


8:俺だけが知らない世界・前編

 

 

 

 ばふん、と顔からベッドの上に倒れ込む。

 

 時刻は21:30。当たり前だが、日は完全に落ちて家周りも静かな時間帯。

 

 アビドスでの一件から小鳥遊先輩の告白。そして、突然現れた黒服からのショックによるコンボは肉体的にも精神的にも、クタクタになるほど疲れさせられた。

 

 これまでの人生の中で一番疲弊した1日になったことは間違いないだろう。

 

 特に精神的な疲れがやばい。まだ飯もろくに食べてないのに、何もやる気が出ないし眠い。

 

 

「……あぁぁぁ〜〜〜」

 

 

 枕に頭を埋めて体を伸ばせば、声が出るほど気持ち良い。決して良い素材が使われていない、少し硬いマットレスと反発枕が癒し。寝具は安っぽいものだが、こっちに来てからずっと使っているせいか、寝心地が良いし安らぐのだ。

 

 ……。

 

 

「……ぁ、まずい。寝落ちするやつだ」

 

 

 遠のきかけた意識を引き戻し、スマホで時間を確認する。23時過ぎ……どうやら、少し意識が飛んでいたようだった。

 

 同時にモモトークからの通知に気づいてスワイプし、中身を確認すると相手は小鳥遊先輩。この名前を見て少しだけ意識が覚醒した。

 

 

ホシノ『今日はいろいろ迷惑かけてごめんね』

 

ホシノ『でも、話せてよかったよ』

 

ホシノ『明後日、15時にここで会いたいな』

 

 

 3件のメッセージの後に、ピン留めされた地図のURLリンクが貼られている。タップして確認すると、アビドス郊外・砂漠の近くにある小さな公園だった。

 

 

ホシノ『それじゃ、おやすみ』

 

 

 最後にスタンプと一言が添えられてトークは終了していた。送られた時間は2時間ほど前で、ちょうど意識が落ちていた時間。

 

 申し訳ないと思いつつ、『俺も楽しかったですよ。先輩ともっと遊びたいです』『場所も了解です、おやすみなさい』とメッセージを打ち込んでスマホを閉じた。

 

 ごろん、と寝返りをうって天井を見上げる。まだちょっとだけぼーっとするなかで、ふと視線を横にある机の上に向ける。

 

 昨日までの自室になかった黒い鞄と時計のような機械。結局、何もしないまま放置しているが、どうしたものか。鞄の中身とか気になるけど。

 

 

「……動くの、めんどくさいな」

 

 

 今は何もしたくない。それが勝ってしまい、起き上がって取りに行く必要のある鞄は放置。だから手前にあって、このまま取れる黒い機械……(まぁ、黒時計でいいか。黒服から渡されたものだし)を手にとって眺める。

 

 本来、時計がある場所は小型の液晶パネル。ベルトはガッチリとした金属? で出来ているようだが、驚くほど軽い。

 

 左右にはボタンのようなものはなく、電源の付け方も不明。なんなのだろうか、これ。

 

 

「俺の、研究成果……ねぇ?」

 

 

 黒服は確かにそう言っていた。四方八方を観察しても碌に何も書かれていないし、振ったら“ちゃぷ”という水のような音がするだけのもの。

 

 ふと、自分の左手首に着けてみる。意識してやったようなことではなく、時計みたいな見た目だし装着できるな、なんて思ったから着けてみただけ。

 

 

「お」

 

 

 するとまるで俺が着けることを想定していたかのように、ピッタリとくっつく。ガチャン、という音とともにしっかりと固定された。

 

 これがトリガーとなったのか、まったく反応しなかった小型の液晶が点滅し、画面に何かが映し出された。そこにはただの数字、それから記号が表示されていた。

 

 

「“00.00.00=0+0*00.00.00”……なんだこれ」

 

 

 働かない頭で見覚えのない羅列を見ても、そりゃ何も思いつくはずもなく。また考えもなしに画面をスワイプする。すると、画面の数字が変動した。

 

 適当にかちゃかちゃ弄ってみると、デタラメでなんの意味もない数字が横にならぶ。そして、画面下に“OK?”と表示された。

 

 

「?」

 

 

 なんだこれ、と反射的にOKを押す。

 

 …………?

 

 

「何も起きないな、おい」

 

 

 ピーッという音が鳴っただけ。けれど全く変化がないということもなく、画面には“Error”と出ていた。そして、画面は最初の画面、“00.00.00=0+0*00.00.00”だけが出ていた。

 

その後も何回か色々な数字を入れてみたが全てエラーで何も起きず、無駄に時間を使っただけ。ガラクタか、これ?

 

 

「はぁ……なんなんだよ、まったく……?」

 

 

 無駄にした時間にため息をつきながら、手についた黒時計を外そうとする。でも、外れない。

 

 手首の裏側、俺の腕に時計を固定しているであろう場所を確認すると、綺麗にかっちりとロックされていた。まるで最初から繋ぎ目などないかのように、見事にピッタリと繋がっている。

 

 どうにか外せないかと数分ほど格闘したがダメ。また時間を無駄にしたなぁ、とスマホを見ればもうすぐで日付が変わる時刻になっていた。

 

 

「……寝よ」

 

 

 怪しい装置をつけっぱなしにして寝るとか、普段の正常な俺だったら絶対にしないが今はとにかく眠い。睡魔からの誘惑に負けて、電気をつけたまま目を閉じる。

 

 目を閉じた瞬間、一気に体の力が抜けて意識が遠くなっていくのがわかった。むちゃくちゃ疲れた時とかにある、すぐに寝ちゃうあの現象。

 

 あ、まじで疲れてたんだな俺。とか思った時にはもう、意識は落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

 

…………ピ。

 

………………ピピピ。

 

 

「……んぁ?」

 

 

 微かなバイブレーションと電子音に、深く落ちていた自分の意識が呼び覚まされた。まだちゃんと開かない瞼を、片目だけ無理やり開いて音の場所へと手を伸ばすと、その音の元が自分の携帯であると気づく。

 

 目をしばらく閉じていた、というか寝起き直後に見るスマホの明るい液晶に顔を歪めながら、アラームでなく着信と気づいてパッと電話に出る。

 

 

「もしもし……」

 

「ちょっと!!」

 

「うお!?」

 

 

 寝ぼけた声のまま電話に出てみると、怒ったように大きな声がスピーカーから流れて驚いてしまった。同時に一気に意識が覚醒する。

 

 

「その声、今の今まで寝てたわね?」

 

「あ、えっと……」

 

 

 完全に怒った声になった電話先の主にしどろもどろな返答をしてしまう。意識は完全に覚醒し、ベッドの上で正座しなんて言えばいいのかと考えていると、自宅の扉の鍵がガチャ、と開く音がした。

 

 

「言い訳無用よ! もう、これで何度目の寝坊かしら……迎えに来て正解だったわね」

 

「え? え?」

 

 

 電話のスピーカーと部屋の前から同じ声が聞こえて、情けない声が出る。何が起きているかなど、まだ寝起きのポンコツな頭では理解できるはずない。

 

 そんな、固まったままベッドに正座する俺の前に、扉を開いて入ってきたのは。

 

 

「やっぱりまだパジャマのままね、シュウ!」

 

「……早瀬、さん?」

 

 

 きっちりとネクタイを締めて、シワなく綺麗なままの制服姿。腰まで伸びる綺麗な菫色の髪をツーサイドにまとめたしっかりものの少女……早瀬ユウカさんがおでこに怒りマークをつけ、スマホを片手に現れた。

 

 なんで彼女が俺の家に……? と思っていた俺はポカンとした顔でもしていたのか、よりムッとした顔となった早瀬さんにばっと立たされる。

 

 

「まだ寝ぼけてるわね? 寝癖も酷いし……ほら、ちゃっちゃと着替えなさい」

 

「あ、え……」

 

「制服、ここだったわよね。えっと……」

 

 

 何もわかっていない俺を寝ぼけていると思ったのか、まるで全てを把握しているかのようにタンスを開け始める。

 

 ここまできて、ようやく呆然としていた俺も動くことができた。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!? なんで早瀬さんが俺の家に、というか鍵は……」

 

「今日はいつにも増して酷いわね。しかも“早瀬さん”って、なんでそんな他人行儀なのよ」

 

「他人行儀も何も、前と変わらないですけど……?」

 

「……本当に大丈夫? あ、これね」

 

 

 心配そうな顔で振り返りつつ、俺のタンスから畳まれた服を手渡される。え、どうも……?

 

 そう返すと呆れたように”変なの”と言われ、“着替えたら呼んで”と言葉を残して部屋から出ていってしまう。

 

 

「な、なんだ? 何が起きてんだ……?」

 

 

 突然の訪問から妙に親しい雰囲気で接してくる早瀬さん。シャーレにいたときは、先生のお手伝いでそこそこ顔を合わせていたけど、ここまで距離は近くなかった。

 

 まだ夢の中にでもいるのかな、と思いながら手渡された制服へ着替えようとして。

 

 

「あれ……これ、アビドスの制服じゃない?」

 

 

 

 

 

「あの……」

 

「もう時間かけ過ぎよ!」

 

 

 ぷりぷりと怒り手振り身振りで“私は今怒っています!”と表現する早瀬さん。普段ならばちょっとふざけたりするのだが、今の俺にはそんな余裕がなかった。

 

 原因は自分が着ている、そして自分の家にあるはずがないこの制服のせい。

 

 

「これ、ミレニアムの制服ですよね……?」

 

 

 青いネクタイに黒いブレザー。そしてホワイトカラーに青の装飾が施されたパーカー。着た事がない制服に手間取ったのもあるが、自分の体にフィットすることと、これを着るように指示した早瀬さんの意図がわからず、より混乱している。

 

 俺の質問に目をぱちくりとして、変なものでも食べたのかな、と呟く早瀬さん。

 

 

「そりゃ“自分の学校に行く”のに、私服なわけないでしょ」

 

「——は、え?」

 

 

 常識でしょう、と言葉を続ける早瀬さんだけど、その言葉は全く耳に入ってこない。

 

 自分の学校に行く、そのために制服を着る。確かに当たり前のことだ。

 

 けど、俺はミレニアムサイエンススクールの生徒じゃなくて……。

 

 

「あ、また学生証をかけてないわね。もう!」

 

「え、ちょ……」

 

 

 ため息とともに俺のブレザーにある内ポケットへと手を入れる早瀬さん。まるで手のかかる子どもの面倒を見るかのように、俺のアクションを待たずにぱっぱと物事を進めるところは、俺の知っている彼女そのもの。

 

 けど、それ以外が俺の認識とブレている。

 

 

「しっかり首にかけておきなさい。はい」

 

「えと、ありがとう……?」

 

「ん。じゃあ行くわよ、もう遅刻ギリギリだし」

 

 

 手渡されたものを自然と受け取るが、目線は前を向いて歩いていく早瀬さんの背中に向けたまま、動かせない。

 

 それに気づいた早瀬さんに早く! と急かされてとりあえず、彼女のあとを追う。同時に首にかけろと言われた何かのカードが入ったものを見る。

 

 

「…………は、はは」

 

 

 乾いた笑いが出た。これはドッキリなのか、そう思って自分が出てきた家を振り返る。目に入るのは“知らない家”。

 

 そして、手元にあるカード。

 

 

ミレニアムサイエンススクール

学年:2年生

氏名:由九咲シュウ

 

 

 

「やっぱり、夢……だよな」

 

 

 頬を撫でる風と周囲の人々による生活音。早瀬さんからの俺を呼ぶ声がやけに遠く聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

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