ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
またまた、たくさんの感想ありがとうございます。『シュタインズゲート』というタイトルがたくさん来ていて、私が知らなかった作品なので調べたんですよ。そしてサブスクで観てみました。
10時間くらい吹っ飛びました。助けて。
あ、それと話数の“0.0”ですが間違いじゃないですヨ。
「ぶふぅおぉ……!?」
ズザザーという音とともに顔面からサラサラとした冷たいもの、というか砂の中に倒れ込む。
「ぺっぺっ! おぇ、飲んじまった……」
身体中が砂まみれになりながら、何が起きたのかもわからずに辺りを見回す。そこは見覚えのあるような砂漠でキョロキョロと視線を動かす。
真っ暗な空には大きな月と星、キヴォトス特有の幾何学模様のようなものが空を覆っている。
どうやらどこかに飛ばされたみたいだけど、外の世界というわけではないようだ。
砂漠、ということは十中八九アビドスの何処かなんだけど、一概にアビドス砂漠といってもここは広大。正確な位置はマップを見なければわからない。
「どこやったっけ……えっと」
ポケットを弄ってもスマホが見つからず足元の砂を払いながら、携帯を探す。
スマホは案外近くにあって、一安心。ホルダーから抜けたハンドガンもすぐに見つかって、元の場所にしまう。
同じく近くにあったあの黒いケースを机代わりにして、あぐらをかいて持ち物を確認する。
「スマホ、武器、あのメモ。それとお金……」
腕を組み、うーんと悩む。
これなら砂漠をなんとか夜のうちに超えて、電車に乗ることはできそう……できるのかな……。
とにかく今は場所を確認したい。すぐにスマホを開いて確認を……?
「なんじゃこりゃ」
携帯のロック画面は本来、日時と時刻が表示されているはず。
でも、画面に出ている数字は訳のわからないものとなっている。なんだ61時って。
アプリとかもアイコンをタップするとすぐに落ちてしまうし、これでは地図が見れないと再起動を試してみる。
電源を落とし、改めて電源を入れ直したとき、少し遠く……風の音くらいしか聞こえていなかった静かな砂漠のどこかから、微かに銃声が聞こえた。
音の方向へと耳を澄ますと、僅かに撃ち合いをしているようなものを聞き取れる。
トラブル、なんだろうけど銃を使った争いごとなんてここでは日常茶飯事。それよりも人が近くにいるなら、様子だけでも見に行きたい。
ハンドガンを抜き出し、弾などを確認する。
「残弾あり、予備の弾倉もある。よし」
スマホをポケットに、広げた荷物を鞄の中に放り込んでロックする。また少しずつ遠くなってきた音を頼りに走り出す。
日中は太陽と砂の反射によって非常に熱いが、夜は一転して一気に冷え込む。結構な運動量になっているはずだが、汗ひとつかかないレベルだ。
砂に足を取られて動きにくいが、少しずつ音が大きくなる。けど違和感も。
「音は大きくなってるのに、数が減っていってる……?」
小さい音だったが、はじめは複数人による同時射撃のものと、その後に少し重たい銃声が数発聞こえる、それが繰り返されていた。
けど今は、数発の銃声と少し重たい銃声の音に変化していた。また、音が近くなるほどに砂しかなかった道にも変化が生まれる。
残骸と言っていいほどに破壊されたドローンや、正確に胸のバッテリーコアパーツがある所のみを破壊された戦闘用のオートマタ、もしくはアンドロイド。しかも、それは。
「これ……黒服のとこにいたやつ、だよな……」
自分がまだあの黒い部屋にいた時、見張りとしてよく俺の部屋に配備されていたAIを使ったロボット。
言葉は話さず、ただ命令されたことだけを実行する機械。全身を黒緑の塗装を施され、赤く点のような視界センサーが特徴のマシーン。
銃撃が聞こえる先に通ずるように、かなりの数の機体が転がっている。鼻につくキツい火薬の匂いと破壊されたドローンなどを辿って道を急ぐと、また変化が生まれた。
今度は白い砂に染みるようにして残る赤い液体。
手にとって赤くなった砂を触れば少しの粘液性が残っているのを確認できた。
「……!」
元から全速力だったがより足に力を入れて砂漠の大地を蹴る。あれは間違いなく血で、戦闘の音を考えるにひとりが襲われている。
そして、襲っているのがこのロボットたち……つまり黒服の可能性があるのなら、絶対にまともな理由じゃない。
いつか先生に聞いた黒服について。アイツは生徒を、子どもを実験材料にしか思っていない悪い大人だと。
あの時の俺は、まだ黒服に対して別のものを思っていたけど、今は違う。あの人が何かを狙っているとき、それは……ろくでもないことを起こす前触れ。
その理由だけでも十分だが、襲われている誰かを放っておくことなんて絶対にできない。そんなことをすれば俺は、先生に顔向けできないし自分自身、このことをずっと後悔するから。
「っ——見えた……!」
距離は100メートルほど先、ここに来るまでよりも多いドローンの残骸の中心。数体の戦闘アンドロイドに銃を向けられて、囲まれている小柄な人影が目に映った。
この距離でははっきりとはわからないけど、片膝をついているように見える。まさに絶対絶命と言える状況だ。
たったひとりでこの量の、小さな軍隊とも言うべき機械兵団とやり合っていたようだが、もう限界を迎えかけている。
急げ、急げ、急げ!
ハンドガンを構えて力いっぱい砂を蹴り上げる。道中で転がっていた戦闘アンドロイドの装備、手榴弾とサバイバルナイフをひったくるようにして拾い上げ、距離を詰める。
「——で——す——?」
『————が————』
耳に僅かに入るのは、囲まれている子とアンドロイドの声。
アイツ、しゃべれたのかよ! と、この状況で思うべきではない的外れなことを考えながら、ハンドガンの照準を5体いる敵の中央へと向ける。
残り50メートルを切る。狙いの場所をこのハンドガンで正確に当てるには、もう少し距離を縮めなければいけない。
でも、視界に映ったのは数体のアンドロイドが銃をリロードし、照準を合わせようとするところ。そして俺の足音に気づき、周囲を見渡そうとする動作。
自信はないが、やるしかない。一発勝負で“やり直しは効かない”。
ハンドガンのセーフティを親指で弾き、トリガーにあてた人差し指に力を込める。
風は強く、走っている都合で激しく体は揺れているせいで標準がブレるが、そこも計算して狙いを定める。
撃つのは2発。
1発目の弾丸は、どこでもいいからあの機械の体に当てる。
聞き慣れた乾いた音とともに少しの衝撃が手のひらから伝わる。……ヒット。
鉄と鉄がぶつかり合った重い音が響く。
“————!”
“————?”
電子音とともに慌てて周囲を確認しだすアンドロイドたち。けれど、俺に撃たれた1体だけは正確にこちらへと振り向き、銃を構えようとする。
けど、一歩遅い。アイツらは人に似せた高性能のAIだが、あくまで機械は機械。敵を見定め、それに対して発砲していいかどうかの判断、狙うべき場所を計算する仕組みを持っているはず。
時間にすればコンマにも満たないものだが、すでに照準を定めてトリガーに指をかけている俺の方が早い!
2回目の乾いた音と衝撃が走る。
けど、今回は金属がぶつかる音ではなく。高いパリン! という音と、ガシャンと倒れるもの。
うまく胸の中心にあるコアを破壊できた。なら、次だ。
こればかりは信じるしかない。いや、あの囲まれている子が“俺の言葉を信じてくれる”かだ。
今の狙撃で完全に俺のことがバレ、アンドロイドたちに銃を向けられるまで数秒しかない。
残り15メートル。
大きく息を吸ってなるべく大きく、俺に注目が来るように大声を上げる。叫ぶと同じタイミングで銃を捨てて手榴弾を取り出し、ピンを引っこ抜く。
「大きく後ろに飛べッ!!!!」
「!? っ……!」
一瞬だけ驚いたような仕草をしたが、瞬時に後方へと飛ぶように逃げてくれたのが見えて安心する。
これでなんの問題もない。いや、爆風が強いと困るけど!
4体のアンドロイドは固まって行動していてくれたおかげで、狙い所はわかりやすく投げやすい。
力の限り狙いの中心点へ投げ込む。背中を向けられていては手榴弾程度じゃ、ろくなダメージを与えることはできない。けど、全員がこっちを向いてるなら話は別だ。
唯一の弱点、強固に作られているとは言え、弾丸でも射抜けるコアなら少なくとも数体は破壊できる。
自分の手から離れた小さな爆弾。それが1体のオートマタにぶつかった瞬間、大きな爆発を起こした。
「く、ぅ……!」
大きく舞う砂埃で視界が悪くなる。真っ暗な夜の闇も合わせて敵の位置は本来は見えない。
——サバイバルナイフを片手に“目標”へと一気に突っ込む。自分の視界に入る目印は1つ。
アイツらの視線は赤い光。砂埃が反射する光と暗闇の中じゃ、それは狙ってくれと言ってるのと同じだ!
「はぁぁああッ!!」
『——、————……』
サバイバルナイフを力の限りでコアへと突き刺し、肘でより奥へ押し込むように殴りつける。
一瞬だけ動いたが、点のような赤い目の光が点滅した後に完全に消え、壊れた玩具のように膝から崩れ落ちる姿を見て、気が抜ける。
尻餅をついて、大きく息を吐こうと顔を上に上げようとして……。
『——』
「ぁ」
砂の中から起き上がる、もう1体のアンドロイドの赤い光と俺の視線がぶつかった。
約4メートル。
手元に武器はなく、完全に無防備となった俺へ短機関銃、サブマシンガンが向けられて。
ドン、という重い銃声が1発、闇夜に響いた。
……。
…………?
「あ、れ?」
恐れ、思わず目を閉じた俺だがすぐに違和感に気づく。
いつまで経っても痛みが襲ってこない。
ゆっくりと片目ずつ目を開く。映るのはうつ伏せで倒れて赤い光が消えていくオートマタの姿。
なんで、という疑問と同時にひとつ気づく。
たった今、聞こえた銃声は決してサブマシンガンのものではない。サブマシンガンは軽く数発の発射音がするはず。
でも、聞こえたのは1発の重い音。自分の知識の中でそれにあたるのは、ショットガンとかで……。
「……大丈夫、ですか」
背中から声をかけられる。
少し低めの女の子の声。アルトボイス、というほどではないが緊張していて自然と低くなったような“聞き覚えのある”声だった。
砂の上に座り込んだまま、顔だけを後ろへと向ける。
「助かり、ました。……ありがとうございます」
セーラー服の上から防弾チョッキを着て、パーカーを羽織った少女の姿が目に映る。
左右で黄と青で違う瞳の色を宿したオッドアイで少しつり目。身長は低く小柄。
短く首元で切り揃えられたピンクのショートカットに、風に揺らされるように動く、跳ねるようにして飛び出た一束の毛。
感謝の言葉とは裏腹に、少しの警戒と困惑を滲ませた表情で、座ったままの俺を見下ろしていた。
「…………先、輩?」
「は、はい……?」
満天の星と月夜の空を背景に、より困惑したように眉を下げた少女・小鳥遊ホシノそのひとが、そこにいた。
——30.22.15.25